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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
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81話 勇敢であり向こう見ずであり

本日二度目の投稿ですがよろしくお願いします。


 暖かくなり始め、陽気な一日も多くなってきたころ。

 わたしがボビィとサムに相談してから暫く経ったある日。

 あの時はわたしが囮になることを伝えたけど二人に却下された。

 理由は


 「俺みたいな騎士が活躍する時だぜ、冒険者に任せてられるか!」


 「ポーラが危ない目に遭う必要なんてないから。僕達に任せてよ!」


 だった。

 その後は二人がそれぞれの組織に伝えることだし、主導権は向こうにある。

 確かにわたしの出る幕じゃない、そう思って引き下がった。

 夕方に戻れたのは良かった、夜だと相乗りさせてくれる商人によっては途中で野宿もあり得たから。

 馬車で数日かかる場所へ薬草採取とモンスター討伐を終えてから冒険者ギルドで報告を終えて報酬を貰うと別の受付嬢に声を掛けられた。


 「あなたがポーラさんでしょうか?」


 「はい、そうですが。」


 「少しお話があります。」


 そう言われて冒険者ギルドの階段を登った。

 彼女に連れてこられたのは三階のギルドマスターの部屋だった。

 受付嬢がドアをノックして中から入るように促された。


 「ギルドマスター、ポーラさんをお連れしました。」


 「ご苦労、君は職務に戻りなさい。」


 「失礼します。」


 受付嬢は部屋を出て、わたしとギルドマスターの二人だけになった。


 「そこに座りなさい。」


 木製のソファに腰掛けるとギルドマスターも反対側に腰を掛けた。


 「君に話があって呼んだのだが、まさか騎士団と魔法士団にコネがあるとはな。」


 「コネ?」


 「それよりも話と言うのは彼らの作戦に君を参加させるようにと言う通達だった。」


 「作戦……。」


 恐らく通り魔を捕まえる話。

 何をさせる?

 囮には使わないと二人は言っていたけど?


 「詳しくは聞いていないがとにかく君が戻り次第直ぐに騎士団へ向かわせろと言われてね。」


 「そうですか。」


 騎士団、魔法士団は直接管理している帝国の大きな組織。

 冒険者ギルドも各国で管理や援助をしている点で言えば大差はないと思えるけど、力関係はあるのかもしれない。

 今回は自発的に参加するつもりだったからごねるつもりはない。


 「分かりました、このあと向かいますね。」


 「頼んだぞ。」


 部屋を後にして階段を降りるとマイルズと見慣れない人達に出くわした。


 「おぉ、ポーラじゃないか!」


 「こんにちわ、仕事終わりですか?」


 「あぁ、久々に仲間と冒険してな。ポーラもそうだったのか?」


 「えぇ、先程帰って来たばかりです。」


 「それなら俺達と一緒に夕食を食べないか?」


 「彼らはマイルズの仲間ですか?」


 「その通りだ、そう言えば会うのは初めてだったか?」


 「そうですね。」


 「それなら飯を食べながら紹介するぞ!」


 「あ、実はこのあと用事があるのでそちらに向かわないといけないからまた別の機会に。」


 「残念だ、また機会があれば一緒に食べるぞ!」


 「その時はお願いします。」


 鍔の広い帽子を被りローブを羽織った妙齢の女性、頭に布を巻いた軽装の男性、金属製の鎧を纏った体の大きな男性、尖った耳が印象に残るローブを纏った男性、羽毛を纏っているように見える女性。

 この人達がマイルズの仲間らしい。

 それぞれの年齢はマイルズと近しいか少し下に見えた。


 「あれが最近面倒を見ている子か?」


 「頭からローブを被っているからどんな子かしら?」


 「名前からすると女の子?いえ、もしかしたら男の子かも?」


 「階段を下りてたのは」


 なんて会話が少しだけ聞こえた。

 冒険者ギルドは戻って来た冒険者でごった返していた。

 喧騒が激しくなり、個々人の会話が聞き取りずらくなっているほどだ。

 そんな明るく騒ぐ彼らをあとにして街灯が灯された大通りを歩いた。

 ここも人の通りが多かった。




 月が顔を出して暫く経った頃に騎士団へ辿り着いた。

 見張りの従士達に許可証と冒険者証を見せると中に通してくれた。

 詰所へ行くと奥の階段へと案内された。

 それぞれの部屋の前に従士が立って見張りをしているらしい。

 部屋数は全部で六部屋。

 ある一室に案内されると騎士と思しき人が男性二人、それぞれのテーブルに向かって事務作業をしていた。

 それぞれの傍には装備一式があった。


 「失礼します、冒険者ポーラが到着しました。」


 「そうか、助かった。」


 「いえ、失礼します。」


 案内してくれた従士が部屋を出て暫くすると正面の五十代に見える男性騎士が顔を上げた。


 「君がポーラか?」


 「はい、冒険者のポーラです。」


 「そうか、もう少しだけ待ってくれ。この書類の束を片づけないといけないからな。」


 わたしの左側で作業している四十代の男性騎士は羊皮紙のインクが渇いたのを確認して、それらを全て正面にいる男性騎士に渡した。


 「ボクの分は終わったからあとはお願いします。」


 「おまえ、オレはまだ残っているのに追加しやがって!」


 「最終確認は団長であるフォルクマー、あなたがやるのです。これが決まりなので。」


 「ぐぬぬ!オレが終わらないと話が出来ないじゃないか!」


 「それはボクから話しますので。」


 「いや、それは団長であるオレの役目だ!」


 「団長は忙しいのでボクから話させて頂きますね。」


 「オレは書類が苦手なんだよー!」


 「煩いから静かにしてくださいね。」


 左側にいた男性騎士はわたしに向き直り、隅に設置された椅子へ促した。

 お互いに椅子に座ると彼は名乗った。


 「ボクは帝国直属の騎士団に所属する副団長のザシャです。どうぞよろしくお願いします。」


 「改めて、わたしは冒険者のポーラです。こちらこそお願いします。」


 「ポーラさんは冒険者ですが礼儀が良いですね、貴族の出身者でしょうか?」


 「いえ、村の出身です。」


 「そうでしたか、ボクらも村の出身でね。気づいたら今の地位に着ちゃいました。」


 「そうなのですね。」


 「それで、一つ確認ですがあなたは騎士団に所属している騎士ボビィと親しいと聞いたのですが?」


 「数年間は一緒に過ごした仲です。」


 「そうだったのですか!あれ、彼はベイグラッド侯爵の養子ですがあなたは?」


 「彼と一緒だったのは彼が養子に行く前のことで。」


 「……そうでしたか。いやはや、ボクも年頃の子供がいるのでつい気になってしまいました。」


 「いえ。それで用件は?」


 話を変えるとザシャは咳ばらいをしてから佇まいを正した。


 「実はボビィが魔法士団のサム君と提案した作戦についてですが。」


 わたしが関わっているから作戦自体を疑っているとか?

 得体の知れない人間の発想だからわたしが容疑者の一人か関わっている人間だと思われたとか?

 それは困る、と言うより実行犯とは何も関係ない。

 しかも襲われた側である。

 不安が渦巻き始めたけどザシャははっきりと言った。


 「あなたにも作戦へ参加してください!」


 「どうしてまた?」


 不安は杞憂に終わった。


 「最初は囮にする組は全員が女性騎士にしようと思ったのですが、それだと相手も警戒して近寄って来ない可能性もありまして。次に女性の騎士と従士のペアにしようと思ったのですが、この場合は相手の実力がそれなりにあると従士には荷が重いかも知れません。勿論従士も訓練はしていますが被害者の中に我らの仲間も出てしまった以上は足止めも出来るか怪しいところ。挙句の果てに女性騎士も従士に扮する案も出ましたが誰もやりたくないと言って棄却されました。」


 意外と女性の意見を聞き入れる集団だと思い、感心してしまった。

 それよりも当初の案自体がダメになったらしい。


 「それで改めて考え直したのですが、女性騎士と女性従士のペアは作るとしてその内の一つに穴を作るのです。」


 「穴?」


 「要は通り魔が食いつきやすい状況を作って特定のペアに向かう様に仕向けるのです。」


 「なるほど。」


 相手を誘導して捕まえる。

 街も広いから特定の場所に現れれば巡回中の従士達も集まりやすいという事。


 「ご理解いただけて何よりです。つまりその最重要の囮役にあなたを指名します!」


 「え?」


 手伝えるならと思ったけどまさか重要な役を任されるなんて。


 「どうしてですか?」


 わたしの疑問に書類仕事を終えたのか団長のフォルクマーが近づいてきた。


 「簡単な話だ!ポーラ、お前が以前通り魔と交戦したのを知っているからだ!生き残っただけの実力があれば騎士と連携を取れなくてもお互いに生き残るのは不可能ではない!」


 力強く言い切るフォルクマーだけど、わたしは別に強くない。

 寧ろあのまま殺されていた可能性もある。


 「わたしはあなた達が思うほど強くはありません。日々訓練を積んでいる従士の皆さんの方が強いと思います。」


 「そうか、そう思ってくれるのは俺達も嬉しいな!だが、ここはオレ達の帝都を守るためにも協力してくれないか?」


 確かに被害に遭って欲しくない人達がいるから提案したけどまさかわたしに振るなんて。

 だからそんな風に言われると弱ってしまう。


 「わかりました、こんなわたしで良ければ協力しましょう。」


 「助かる!君が善良な冒険者で良かった!」


 善良な冒険者、ね。

 何を以て善良なのか、分からないけどそれは置いておこう。

 それ以前に最初から囮をする前提で彼らに提案したけど、念のため確認もしたかった。


 「それでは明日の夜に決行しましょうか?」


 ザシャが提案するとフォルクマーも即決して外にいる従士に声を掛けた。


 「明日の早朝に全員集めろ!例の作戦を改めて説明するからな!」


 「わ、分かりました!」


 慌てて通達しに行った従士を見送ったけど全員に話すほど大規模に行うって事?

 それと作戦について少し変えたいことを思いついた。


 「あの、一つ提案があるのですが。」


 わたしは二人に話すと納得してくれたようで、明日になったら担当の女性騎士にも教えることになった。

 そしてわたしはいつもの宿に戻ろうとしたけど作戦実行まではここに居るよう言われて空いている部屋を借りることになった。




 翌日。

 朝起きると見知らぬ部屋にいたけど昨日は騎士団の宿舎に泊まっていたのを思い出した。

 簡素な木造住宅でベッドとテーブル、椅子、バケツ以外はなかった。

 暫くすると女性従士が朝ご飯を持ってきてくれた。

 昨日は全然食べていなかったから簡素なご飯ながら美味しく食べた。

 それからその女性従士に別の宿舎の一室を案内された。

 失礼します、と言って部屋の中の女性が許可を出してわたし達は中に入った。

 部屋の調度品はわたしが泊まった部屋の物より少し派手だ。

 色があって可愛らしい。


 「お前がポーラか?」


 「はい、冒険者のポーラです。」


 「今回の作戦に参加する騎士ユリアナだ。」


 「よろしくお願いいたします。」


 騎士ユリアナを名乗った女性は二十代に見える。

 既にシャツやパンツを履いており、何時でも甲冑を身に着けられる状態だった。

 それと体つきは思ったよりも女性らしい括れがあり、線が細くてあまり筋肉質には見えない。


 「それでお前が作戦で私と行動するらしいが、お前はそれで良いのか?」


 「それは、ちゃんと考えて決めたことなので。」


 「本来なら私達騎士団だけで作戦を実行したかったのだがな。」


 「因みに魔法士団の方でも作戦に協力するのでは?」


 「そんなことも知っているのか。そうだな、厳密に言えば魔法士団は支援になる。だから街の巡回には参加するが私達には付かない。」


 「そうなのですね。」


 「それでお前から提案された件だが。」


 「お気に召しませんでしたか?」


 「正直言えば戦闘を考えると甲冑を纏っていた方が良いと思う。」


 「確かにそうかもしれません。ですが犯人を誘き出すなら厳つい装備はいけないと思うのです。だから最小限の装備で挑むべきだと思います。騎士のあなたであれば倒されることはないと信じています。」


 「そこまで評価してくれるのか。確かに作戦の都合上、それで犯人をおびき寄せられる可能性を上げられるなら装備も割り切らないといけないな。」


 「無理に、とは言いません。ユリアナさんの命も大事ですから。」


 「いや、お前がやるなら私もやらないとな。騎士であるからこそ帝国の民を守るために出来ることをしなければ。」


 「その心意気は素晴らしいですね!それから少しだけ付き合ってください。」


 私達は外に出てある動きを何度か確認した。

 確かな連携は出来ないけど一つくらいは決まった動きを出来るようにしたい。

 それを行っていた間に女性従士達に必要な物を用意してもらった。

 それはユリアナ自身も用意してもらい、作戦の時間になるまで殆ど準備に費やしていた。

 お互いに意見を交わすうちに彼女は貴族の令嬢であることがわかった。

 彼女が騎士になっているのは姉が何人もいる中で両親が自由に動くことを許可されたことで人々を守ることに興味を持ち、騎士団へ入団したと言う。

 気づけば空が暗くなり、わたし達も準備をし始めた。

 わたしとユリアナは着替えや装備を整えると上からローブを羽織り、二人で騎士団区画を後にした。

 ユリアナが貴族のお嬢様、わたしがその付き人でお嬢様がお忍びで市井に足を運ぶと言う設定での格好である。

 実際にユリアナはお嬢様だから設定も何もないのだけれど。

 一般区画をゆっくり歩くと人は疎らだけどまだ出歩いている。

 彼らの動きを見つつ私達は近くの裏路地に入り、歩きながら被っていたローブを剥いだ。

 そしてそのまま表の道へ躍り出る。

 わたし達は庶民風の格好になった。

 履いている靴もいつもとは違うため、歩きづらい。

 靴裏が削れないか心配でもあった。

 特にユリアナはぎこちなく歩いているのが良く分かる。

 明らかに怪しい。

 通行人に見られながらもわたし達は適当な飲食店に入った。


 「立ち席なんだな。」


 ユリアナが興味深そうに見回した。

 この店はテーブルやカウンターはあれど全て椅子はなく、立って飲食する。

 だから他の店よりは少し安く設定されている。

 わたし達が空いているカウンターの前に立ち、店主に一品料理を注文した。

 店主は髪の毛がない、上唇の上に髭を蓄えた厳つい男性だ。


 「ここは初めてか?」


 「あ、あぁーはい。」


 「夜は危ないから気を付けろよ。」


 顔に似合わず結構優しい人だった。

 鶏肉とキャベツとニンジンのソテー。

 それを食べるとユリアナは驚いていた。


 「これは……美味いな、じゃなくて美味しいわ。」


 「お気に召して良かったです。」


 「これの味が分かるとはお嬢さん達は理解のある家の出だな?」


 「いえ、そんな。」


 「また来てくれるなら今度はサービスするからな。」


 「ありがとうございます。」


 わたし達は食べ終えるまで他の客から視線を集めていたけど店主が睨みを効かせてくれたおかげで無用なトラブルを避けられた。

 まだ夕食の時間帯で店の出入りはあれど、通りに出ている人達は大分少なくなっていた。

 ここから貴族区画まで行く。

 出来るだけ人通りの少ない場所を通って歩く。


 「こうして歩いていると静かな場所も多いのだな。」


 ユリアナが街を見ながらそっと零した。


 「大半の大衆食堂では寧ろ騒がしいですけどね。」


 「それはこの帝都が平和な証だと思いたいな。」


 「そうですね。」


 「この街に通り魔がいること自体、嘘だと思いたいな。」


 「犠牲者は増え続けていると聞きました。」


 「そうだ、彼女達がどうして狙われたのか未だに分からない。特に共通点もないと言うのだから。」


 「だからこそ、今日で終止符を打ちましょう。」


 「そうだな、絶対に成し遂げよう。」


 わたし達が歩き進むほど人はいなくなり、暗闇と静けさに覆われた街の景色に変わっていくのであった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

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