80話 潜入調査 ―武田康太―
本日もよろしくお願いします。
前半は一人称、後半は三人称になっています。
ご了承ください。
※20220702
以前に投稿しました70話、71話、72話に関して
サブタイトル 70話 条件 にてフォエネルムとナラカルカスの自生地が帝国の南西にある
と書きましたが内容に矛盾が生じていたため一部変更させて頂きました。
変更後
フォエネルムの自生地は南西
ナラカルカスの自生地は北
サブタイトル 71話 人助けのために 72話 見過ごすものと見過ごせないもの にも注意書きを記しました。
ストーリーの根幹に大きく関わるわけではありませんが読んでくださっている皆様を混乱に招いてしまい申し訳ありませんでした。
※フォエネルム(ハーブ)とナラカルカス(樹木)のモデルはありますが実際の特徴などとは一切関係ありません。
異世界にあるサンデル王国に召喚されて約八年。
俺達は勇者として数々の武勇伝を残してきた。
憧れの異世界で無双してチヤホヤされる、そんな夢を見ていたのは俺以外の桑原や鈴木も同じだった。
だけどそんな現実はなかった、ただ非常だった。
最初に鈴木が死んだときは嘘だと思ったし、治癒や回復魔法を使えるクラスメイト達に蘇生魔法を使って貰えないか頼んだけど使って貰えなかった。
そもそも彼女達は蘇生魔法を使えない、なんて言われて断られた。
俺みたいなオタクを邪険にしているようにも見えたから本当は使えるけど嫌っているから使わないんだと憤慨もした。
鈴木がいなくなっても桑原がいたから話も出来て良かったが現実は甘くなかった。
この前のフレイメス帝国との戦争で桑原も死んだ。
直接死んだところを見てはいないがあいつが血と土に塗れて動かないのを見たら信じざる終えなかった。
少し前に話していた友達が死ぬなんておかしいじゃないか。
そして俺は一人になった。
今までで一番寂しいとさえ思っている。
それ以降あまり話さなかった奴と話すようになってからは気が紛れたけど、同じ趣味じゃないからやっぱり十全に楽しめなかった。
そんな俺にサンデル王国は任務を言い渡した。
フレイメス帝国へ潜入して内情を調べること
囚われた勇者達を奪還すること
他にも潜入工作員がいて、彼らと一緒に行動するようになった。
ただ、フレイメス帝国へ向かうには二つの国の間にある大きな山脈を越えなければならなかった。
話に聞いていた以上にきつくて挫けそうになった。
だけど、フレイメス帝国には蘇生させる魔法があるかもしれない。
そう言われて希望が湧いた。
だからそれを持ち帰れば鈴木や桑原を生き返らせることが出来る、そう思って頑張った。
山脈は予想以上にモンスターの巣窟で命懸けだったけど他のクラスメイト達の協力もあってなんとかフレイメス帝国へ足を踏み入れた。
潜入工作員のお陰で帝都に足を踏み入れた俺達は数か月はここで生活していた。
俺は冒険者をしながら街や郊外の村や町で情報収集をした。
サンデル王国ではなれなかった冒険者になって内心嬉しかった。
これもまた定番だったから。
出来れば桑原や鈴木と一緒に活動したかったな。
そう思いながら冒険者ギルドで依頼を受けるがどれもチープな内容しか受けさせてくれなかった。
俺は他の新人とは比べるまでもなく実力はある。
だけど等級に沿ってしか依頼を受けさせないなんてこいつらは見る目がないと思った。
そんなある日、俺は街中で声を掛けられた。
街の人間と話したことはあれど話しかけられるなんて経験は全然なかった。
振り向くとフードを被った怪しい奴。
最初はそう思ったけど俺が凄い人間だと思ったから声を掛けたと言ってフードを外した。
その人は女性で可愛かった。
街ではもっと可愛い子はいるけど俺の凄さを肌で感じられる女の子に俺は心を奪われた。
だって誰も評価しなかったのにこの子は違った。
にやけ顔になりそうだったが我慢してカッコよく見せるために振舞った。
お茶をして話せばより親密になった気がした。
ここは敵国だけどそんなシチュエーションで恋をするのも悪くない、俺はそう思った。
定期的に潜入工作員達と連絡を取っていたけど彼女の事は話さなかった。
俺の彼女になるかもしれない人をあいつらに話す義理はない。
何かあれば彼女をサンデル王国へ連れて行けば良いだけさ。
そう思いながら任務に励んだ。
偶々彼女が依頼を受ける時について行けば猛獣と何度か戦ったけど俺の敵じゃなかった。
やっぱり俺は強いし、それを感じた彼女の見せることが出来た。
偶に素っ気ない態度を取ることもあったけどそれが照れ隠しであることは一目瞭然だった。
他には彼女が騎士団へ行くときに一緒に向かった時も人相の怖い奴らが多かったから俺がボディガードとしてついて行ったのは正解だったな。
それに騎士団の中を見ることが出来てラッキーだった。
一般区画と騎士団区画は壁で仕切られていて中をしっかりとは把握できなかったからある程度とは言え拝見できたのは大きい。
それもこれも彼女のお陰だ。
できれば他の区画も見たいけど彼女はそこへ向かわなかったから断念した。
ただ、見られる範囲で言えばあいつらは直ぐに助けられる訳じゃなさそうだ。
次に哨戒任務の従士達の巡回路を把握して、その内の一人を捕まえて気絶させた。
序に次の巡回路まで眠ってくれる薬を投与したから起きない限りは大丈夫だ。
俺は睡眠薬や毒薬を飲んだことはないけど飲んで良い事はないだろう。
それに毒を飲んだら死ぬか死にそうな痛みを伴うだろ?
絶対に飲まないようにしないとな。
手元の毒薬を確認しながら誓った。
それから俺は一人で巡回していた従士の装備を着こんで成りすまして騎士団区画へ入り込んだ。
新人であまり人に覚えられなさそうな奴を選んだけど見事に嵌った。
そのおかげで誰にも疑われずに宿舎にも足を運んだ。
彼女と一緒に来た時は堂々と顔を晒したのに誰も覚えていないなんてな。
偶々捕まえた奴がぼっち臭を漂わせていたのが功を成して誰も俺を見てはいなかったのだろう。
次の哨戒まで俺は時間があれば騎士団区画を探りまくった。
そして、遂に見つけた。
あいつらが収容された場所を!
この騎士団区画は幾つか立ち入り禁止区域があり、その内の一つに監獄がある。
監獄自体は帝都内に幾つかあるが、ここが一番厳重だった。
だけど、他の従士や騎士の話を聞いたりしたことでここに居るのは間違いなかった。
あとは見張りの時間や周辺の巡回関係、逃走路も探さないといけない。
やることが多く、次の巡回路まで間に合うかどうか心配だった……。
だけど運は味方してくれた。
実は数日前からある通り魔を捕まえるための作戦が動いていて、当日はいつもより多く動員されるらしい。
通り魔のお陰で潜入しやすくなる!
そしてその当日になり、実際に人が少なくなっていたから今まで以上に動きやすかった。
監獄に関してはやはりガードが堅いものの牢屋以外は入らせてくれてお酒を土産に飲ませれば全員が酔った。
そのおかげで宿直室で監獄の見取り図や鍵の場所を確認できた。
彼らの話でスケジュールを知ったのも大きい。
大きな収穫を得た俺は気分よく騎士団区画を出て、眠らせた従士に服を返してその場を去った。
翌日に潜入工作員達に情報を伝えるとあいつらの脱獄の作戦や決行日は後日考えることになった。
これであとは蘇生魔法が手に入ると良いんだけどなぁ……。
話し終えてからは持ち回りで俺と密偵四人は貧困街を出入りしていた。
フレイメス帝国で一番華やかな場所である帝都とは言え、輝かしい一面もあれば暗い一面もある。
一般区画と言われる中でも貧しい人達が住んでいるとされる区域である。
街で仕事のない人は農業地帯へ出稼ぎに行くが住む場所に対して家賃を払えない人達が自然に集まり出した場所。
そんな場所へは普通は用事がないから行かない。
ただ、フィクションだと悪い奴らの巣窟だったり裏の業界人達が店を構えている場合があるけど実際にあるらしい。
俺達は彼らに関わっていないから詳しくは知らないけど、不用意に近づいちゃいけない。
最低限の目的を果たすために俺はボロボロの建物に入った。
貧困街なのに建物が乱立しているのは過去に帝都を整備するのに一般人達の一時的に住む場所を提供するために建てられたとか。
つまり仮設住宅。
その名残らしい。
そんな建物の一つに入るが中は暗い。
屋内は埃っぽくて嫌になるが、我慢して床板を外して地下に進んだ。
予め持ってきた荷物の中身は食料。
暗い地下を進めば何十人とも分からない人達がロープで拘束されていた。
光がないから暗くてどんな容姿か分からないけど、出来れば見たくない。
今にも飛び掛かって来そうな雰囲気で体を前後左右へと動かして拘束を解こうとしていた。
だけど今はまだそれを解くわけにはいかない。
俺は地下室に転がっている丈夫で長い棒を二本使って袋の中の食料を乗せて彼らの頭上に乗せてから落とした。
器用な事に食料を落とした時には彼らは上手く咥えて美味しそうに食べている気がした。
それを全員分やってから部屋を退出した。
一応空気の換気や小さいけど空気の通り道は作ってあるから彼らが窒息死することはないと思う。
階段を登ってから床を閉じて建物を出た。
他の建物も回らないといけないんだよなぁ。
人の面倒を見るのは大変だ……。
― 騎士団区画・監獄 ―
フレイメス帝国、帝都の騎士団区画の監獄にて。
地上は三階建ての石造りの建物で騎士と従士で監視など最低限の仕事をしていた。
その監獄には誰がいるのかは従士の殆どは知られておらず、騎士も全員には知らされていなかった。
監獄の中を覗けば地上一階は騎士や従士の宿直室が設けられており、二階と三階が牢屋になっていた。
ただしその監獄は地下にも続いており、一般に知られていない極悪人はこの地下に閉じ込めていると言う話が噂されていた。
噂の出所は監獄勤めの従士の友人が中途半端な情報を知って想像したことが原因であるが、それを知っている物は誰もいない。
その噂も強ち出鱈目ではなく、実際に勤めている者達からすれば困った話だった。
その地下の監獄に幽閉されている人間は現在三人。
それぞれの牢屋は距離が空いており一定間隔で分厚い扉が設置されている。
蝋燭の灯で灯された薄暗い場所は風の魔法で空気を巡回させるが酸素不足で死なないのか心配になる。
それでもそこに閉じ込められた人間達は人より生命力があるのかそんなことで死にはしなかった。
何故なら彼ら三人はサンデル王国によって喚び出された勇者なのだから。
出入り口の手前から小田切翼、大官寺亮典、橘川明之であった。
三人とも共通しているのは上半身は裸で下半身はボロボロのパンツの姿、大きな鎖で体中を雁字搦めにされている事。
また、口にも金属製の轡がされておりまともにしゃべることが出来ない。
暗い地下で彼らはどのような境遇に晒されるのか、誰にも分からなかった……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




