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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
異世界と言う現実
8/131

8話 初の実戦、初のチーム戦 ―異界の勇者達―

本日もよろしくお願いします。

今回は少し時間を戻した別の視点での話です。


※あとがきの一部を修正しました。

※20220625 終盤近くの文章を若干修正しました。殴りにかかった少年を明確にしました。

※20220714 大官寺亮典がイビルモルを殴るシーン 前身→全身 に修正しました。

      英雄人が若山智里と北山洋成へ呼びかけた時の返事 「やるかっ!」→「任せておけっ!」 に変更しました。

 サンデル王国に召喚された少年達が初めてダンジョンへ行った日。

 中層フロアに大量のモンスターと巨大なモグラ『イビルモル』が彼らを襲った。




 召喚された高校生達の中心人物、英雄人が声を上げて指示を飛ばした。


 「攻撃魔法を使える人は奴の額にある水晶を狙って!武器で戦う人は奴の攻撃を防いでくれ!」


 それを聞いて最初に動いたのは海賀亨。


 「こういうのは得意じゃないんだけどなぁ。」


 彼が右手を翳すと中空に赤、青、緑、茶、黄、白の小さな光が現れた。

 その内の青に右の人差し指を当てて呪文を唱えた。


 「ウォーターボール!」


 水の球が形成されてイビルモルの額目掛けて飛んでいく。

 しかし、イビルモルの触覚の一本がウォーターボールを叩いた。


 「くっ!」


 即座に叩かれるとは思っていなかったのか海賀亨は悔しい顔をしていた。


 「未梨亜!智里!田辺君!源間!小倉さん!橘川君!土屋さん!村田さん!稲垣さん!氷室さん!とにかく魔法を撃ってくれ!」


 「何でもいいの?」


 「先ずは下級魔法から!」


 菊池未梨亜は【マジック・ボマー】で炎の球を形成して撃ち飛ばした。


 「フレイムボール!」


 若山智里は【ゲイルナイト】でウィンドカッター、田辺啓一(たなべけいいち)は【メイガスエクセス】でファイアボール、小倉柚希(こくらゆずき)は【マジック・アクオス】でウォーターボール、橘川明之(きっかわあきゆき)は【マジック・フレイム】でフレイムボール、土屋香純(つちやかすみ)は【マジック・アース】でストーンバレッド、村田(むらた)めぐるは【サイクルローラー】で役職を魔法使いにしてファイアボール、稲垣真緒(いながきまお)は【マジック・サンダー】でサンダーアロー、氷室凛(ひむろりん)は【マジック・フリーズ】でアイスバレッド、英雄人も【シャイニングオーラ】でライトガンをそれぞれ放った。

 火や炎、水、土、氷、光の球、風の刃、雷の矢が一斉にイビルもゲルの顔に向けて飛んでいく。

 様々な属性の攻撃魔法がイビルモルに迫る中、またしても十本の触覚によって防がれた。


 「マジかよ!?」


 田辺啓一は防がれた光景を見て唖然とした。

 他の面々も似たような顔をしていた。


 「源間も協力してくれ!」


 英は源間連に声を掛けるが当人は首を振って拒否をした。


 「俺の能力はお前らより遅いんだ!足並み揃えられねぇんだよ!」


 「そうか・・・。」


 英雄人はそれ以上を言わず、周囲の状況を確認した。

 後方ではCランク以下のクラスメイト達が奮戦していてた。

 そんな彼らのお陰で英雄人達の所にモンスターが雪崩れ込んでは来ないようだ。


 「はっ!とろい奴はそこに居ろ!俺が仕留めてくるぜ!」


 大官寺亮典が自身に親指を向けて全員に注目させた。


 「行くぜ!」


 彼の体表は鋼色のオーラに包まれた。


 「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 雄たけびを上げてイビルモルの正面から走り出した。

 大官寺亮典の能力【メタルガン】は有体に言えば体を鋼のように丈夫にする能力。

 それでいて柔軟性や俊敏性は損なわれない状態になっており耐久も高い。

 基礎身体能力と召喚時に授かった能力で評価されるは『異界の勇者(A)』である。

 馬鹿正直に突っ込む大官寺亮典だが、イビルモルは左手の鋭い爪で彼を薙ぎ払った。


 「うおっ!?」


 直前まで気づかなかった大官寺亮典は正面右へ吹き飛ばされてしまった。

 それを見ていた英雄人達は唖然とした。


 「あいつバカなの?」


 菊池未梨亜がそう零せば。


 「見ての通りだ。」


 海賀亨も同じように感じていた。


 「あいつの膂力は今見た通りだ!絶対に奴を近づけさせるな!洋成と智里は俺と一緒に奴の注意を引き付ける!船戸や田辺君は未梨亜達の防衛に努めて!みのり達は随時回復を!SクラスとAクラスの魔法は威力が高いやつの準備を!残りは下級魔法で牽制を!」


 英雄人は再度号令を掛けて行動した。


 「二人とも兎に角、あいつの攻撃を避け続けてくれ!」


 「わかった!」


 英雄人の命令を若山智里は素直に頷いた。


 「雄人、それはいいが未梨亜達の魔法で倒すプランで良いんだよな?」


 「あぁ、その通りだ。」


 「今使える魔法って中級魔法に分類されるやつだろ?特に未梨亜達の場合は本領の魔法は不安定みたいだしよ。」


 「流石に本人も分かっているさ。イビルモルの額の水晶は中級魔法を何回か当てれば割れるそうだ。」


 先程兵士から聞いたのだろう、英雄人は北山洋成に伝えた。


 「後は隙を作るだけか・・・。」


 「それなら兵士の人達が準備をしているらしい。」


 「準備?」


 「だから、俺達は奴の気を引き付けて後方に被害を出さないようにすることだ!」


 「そうか、それなら俺達も行こうか!」


 英雄人と北山洋成の話が終わり、三人でイビルモルに突激した。


 「こっちだよ~!」


 若山智里は声を震わせながらも挑発した。

 それに対してイビルモルは表情一つ変えず魔法を使う集団に顔を向けていた。


 「ウィンドカッター!」


 彼女は走りながら風の刃をイビルモルに放った。

 顔に直撃する前に触覚の一本がウィンドカッターを弾いて防いだ。


 「あの触覚は厄介だね!」


 苦い顔をする若山智里とは別の方向から北山洋成が駆け足で近づく。

 イビルモルは近づく存在を察知したのか右の爪でゆっくりと払い除けた。


 「よっと!」


 事前に見ていたこともあり北山洋成は急停止して後ろへ跳んで回避した。


 「動きは大したことないが大官寺が飛ばされるパワーは持っているんだよな・・・。」


 バスケットボール部で活躍するだけに相手の動きを読んで分析する北山洋成はイビルモルに近づいては避けるを繰り返した。

 英雄人と若山智里も北山洋成に合わせて攻撃魔法を放ってイビルモルの気を散らそうとした。

 しかし、イビルモルは彼らの攻撃を無視し始めて十本の触覚を後衛の魔法を使おうとする面々に向かって放った。

 高所から操る触覚は伸縮自在のようで百メートル以上も離れた場所へ一気に迫った。


 「おぉぉぉぉぉ!」


 二メートルもある大剣を振り回すのは【イビルバスター】の能力を持つ船戸玄だ。

 迫りくる触覚の一本を剣の一振りで弾き返した。


 「重い!?」


 触覚の威力が予想以上にあると感じた船戸玄は冷や汗を流した。

 他の触覚も分散しており各自防衛に専念する者達が防いでいく。


 「危ない・・・。」


 呟いたのは近野樹梨。

 彼女は背後にいる中園利香の前に立って【オーバープレッシャー】で前面に圧力を生み出して迫りくる触覚を無理やり地面にたたき落としたが、自分の一歩手前まで勢いが落ちなかったことに不安を隠せないでいた。


 「ありがとう樹梨ちゃん!」


 「利香を守るくらいどうってことないよ。」


 中園利香も近くまで迫ってきた触覚を見て不安と安心を含んだ顔で見守っていた。

 【メイガスエクエス】の能力で剣と魔法の適性を持つ田辺啓一、【ビーストウォーマー】の能力で虎の獣人に変身した秋野宗重、【ブレイクアウト】の能力を持つ音羽甲斐もそれぞれ近くへ迫ってきた触覚を弾いて護衛対象の仲間達を守っていた。

 Bクラスの橘川明之、稲垣真緒、土屋香純、氷室凛がそれぞれの魔法で応戦する中、それでも一人一本を対処するのが精一杯のようで残りの五本の触覚が迫ってくる。


 「ジン様!持って参りました!」


 後方で控えていた小久保仁(こくぼじん)の元に五人の兵士が大量の武器を抱えて集まってきた。


 「遅い!」


 「申し訳ありません。」


 「全部地面に置いて!」


 「はいっ!」


 小久保仁に言われて兵士達は大量の武器をその場に落として距離を置いた。

 武器の種類は様々でナイフや剣、斧、槍、盾など損傷している状態が多かった。


 「行けっ!」


 小久保仁が気合を入れると集められた武器が宙に浮いてイビルモルの触覚に勢いよく向かった。

 一本の触覚に対して十何本の武器が密集して勢いを削いで方向転換させていく。

 それを同時に五本の触覚に対して行っていた。


 「流石【ウェポンズコントローラー】・・・。」


 兵士の一人がぼそりと言った。

 小久保仁の能力【ウェポンズコントローラー】は一定範囲内にある武器を意のままに操作できる能力だ。

 今回使われた武器の数々は全て中層フロアへ雪崩れ込んできたモンスター達が持っていた武器である。

 それを兵士達が必死に集めて小久保仁の所へ運んできた。

 それらの武器の質はあまり良くない物ばかりだが能力で操作している間は能力者の魔力で強度や切れ味を調整できるようでイビルモルの触覚に対して壊れることがないようだ。

 何度か触覚による攻防が続くと後方にいる菊池未梨亜達が順次、攻撃魔法を放っていく。


 「ボムチェイサー!」


 菊池未梨亜が放ったのは先程のフレイムボールよりも少し暗い色をしている。

 そのボムチェイサーは触覚を潜り抜けながらイビルモルの額の水晶へ辿り着いた。

 その瞬間、小規模の爆発が生じた。

 空気を震わせたその攻撃に煙が立ち上がる。


 「ウォーターガン!」


 小倉柚希の周囲に六つの水の球が浮いていた。


 「行って!」


 右手で指さした途端、目の前の水の球が細長い形状になって素早く飛んで行った。

 その直後に周囲を囲んでいる残りの球達が右回りに動いて小倉柚希の前に来て同じように射出された。

 その先は、煙が晴れたイビルモルの額の水晶だった。

 一つ目は外れたが二つ目以降は標準を修正しながら水晶に近づき、五発目六発目は見事に的中した。

 当たった水魔法は弾けて威力があったのかはイビルモルの変わらぬ顔からでは判別できない。


 「小倉の魔法って大丈夫?」


 心配そうに言う菊池未梨亜に小倉柚希は顔を赤くした。


 「大丈夫だよ!あれでも強いんだから!」


 その直後に雷鳴が轟いた。


 「エレキキャノン・・・。」


 海賀亨が使った魔法は雷属性の『エレキキャノン』。

 電気の魔力を集束させた大砲のようだ。

 稲光と共にイビルモルの額の水晶に当たり、イビルモルが体を震わせた。


 「やっと効いたみたいだな!」


 「そうだな。」


 北山洋成が拳をぐっと握り、近くにいた英雄人も同じ様に感じたのだろう。

 イビルモルが体勢を直そうとしたところでもう一度体を震わせて前のめりに倒れ始めた。


 「全員、後ろへ下がれ!」

 英雄人は急いで全員に後退を指示した。




 菊池未梨亜達が後方へ距離を取る中、イビルモルが後ろの右足を前に出して踏ん張った。

 直後、イビルモルの後方から土煙が噴き出た。


 「えっ?」


 その光景を見た全員が呆気にとられた。

 体を震わせて後ろから土煙が出る。

 どういうことだと思っている中、更に爆風も発生して全員がその場で飛ばされないように姿勢を低くした。

 爆風は一瞬だったが土煙はまだ漂っており、イビルモルを含めて誰がどこにいるか分からない状態だ。


 「ウィンドピラー!」


 海賀亨の声が響くと同時に五つの風の柱が現れ、土煙を拡散させていく。


 「どうなってる!?」


 英雄人は声を上げて状況を確認しようとした。

 前方に見える巨体は未だに怯んでいるのか右足を前に出した状態で動きを止めたままだ。


 「今なら。杉本君、頼んだ!」


 「やっと出番か。」


 後方の魔法使い組に混じっていた後方へ尖らせた黒髪の好青年、杉本成文は手を翳した。


 「スタミナダウン!」


 イビルモルの周囲を黒いオーラが包み込んだ。


 「パワーダウン!」


 更にイビルモルに別の魔法をかけた。

 杉本成文の能力は【バッドブラッカー】。

 対象のステータスを下げる能力で一定時間、体力を削り筋力の低下を促せることができる。

 ただし、力量差があると一回では掛けることができなかったりするため怯んだり弱ったりしている時、今を狙ったのだろう。


 「おりゃあああああ!」


 怯んでいるイビルモルに挑むのは一度弾かれた大官寺亮典だった。

 雄叫びを上げた彼の全身は鋼色のオーラを纏っていた。

 その彼がイビルモルの右足へ近づき思いっきり殴った。

 体に響く衝撃波が発生した。

 攻撃されたイビルモルの口が始めた開いた。


 「ウンウォォォォォ!?」


 明確にイビルモルに対して攻撃が効いた瞬間だろうか。

 それを見た英雄人は再び号令を掛けた。


 「全員攻撃体勢!額の水晶を壊しやすいようにするためにあいつの足を崩して前のめりにさせる!」


 それを聞いて後ろに下がっていた田辺啓一が各自に指示を出した。


 「はっ!先ずは俺がやってやるぜ!」


 大官寺亮典も英雄人の声が聞こえているようだが目の前の対象を殴るのに必死だった。

 その彼に向かってイビルモルの左手が迫っていた。

 大官寺亮典の攻撃で動けるようになったイビルモルの攻撃。

 速くない動きだが人よりも大きな手や爪は脅威である。

 彼に迫る直前、大きな大剣が両者の間に割って入った。


 「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 大剣を思いっきり振り下ろしたのは船戸玄だ。

 大官寺亮典よりも大きい体躯で振り下ろした大剣は見事にイビルモルの爪を両断した。


 「ウァウァァァッァァァァッァアア!?」


 イビルモルの悲鳴に爪にも神経が通っているのが窺える。

 爪の軌道もずらせたことで二人に被害は出なかった。


 「危なかったな。」


 船戸玄は大官寺亮典の姿に一安心したようだ。

 一方の大官寺亮典はかなり不機嫌だった。


 「お前の手助けなんていらねえんだよ!」


 「そうか、それは悪かったな。」


 落ち着いて答える船戸玄の姿を見て更に怒りを露わにした大官寺亮典だが、その矛先を目の前のイビルモルの足に変えて殴り続けた。


 「じゃあ、俺は後ろへ下がる。」


 そう言って船戸玄は周囲を確認しながら後方へ下がった。

 一連の流れを見た後、二人の無事を確認できた田辺啓一は橘川明之、稲垣真緒に合図を送った。

 三人はそれぞれフレイムボール、サンダーアローを何度も撃ち始めた。 

 彼らの的はイビルモルの頭だった。

 しかし、水晶に当てる気はないのか兎に角、顔のどこかに当て続けている。

 その攻撃の最中、菊池未梨亜はボムチェイサーで何度もイビルモルの左足の周辺を攻撃していた。

 爆炎や土煙はお構いなしに一定間隔で撃ち続ける彼女の顔にはうっすらと汗が流れていた。


 「土屋さん!地面をクリームにするイメージで!」


 「わ、わかった!」


 田辺啓一は土屋香純に声を掛けて二人で地面に手を突いた。

 ボムチェイサーの連射が止まり土煙が晴れた時、イビルモルの左足が爆炎で出来上がった溝に足を突っ込ませるところだった。

 そのタイミングで出来た溝が更に深くなった。


 「小倉さん、村田さん、今だ!」


 「「ウォーターボール!」」


 短い間隔で何度も同じ水の攻撃魔法を出来た溝に撃ち続けた。

 その中に水は中々たまらないようだが表面の土が少しずつ水を含んでいく。

 その間にイビルモルへ近づいた影が二つ、氷室凛と秋野宗重だ。


 「パーマフロスト!」


 近づいた氷室凛の足元から氷の床が広がり始めた。

 その先はイビルモルの足元であり、ウォーターボールが撃ちこまれたクレーター。

 凍った直後のクレーターへ足を置いたイビルモルだが急に凍った地面に上手く踏ん張りが効かなかったのか足を後ろへ滑らせた。


 「ッ!?」


 イビルモルはバランスを崩し、その巨体を大きく傾かせた。


 「全員、退避ー!」


 英雄人が再び全員を後ろへ下がらせた。

 しかし、号令を聞かず残り続けた少年が一人。

 鋼色のオーラを纏って突撃するのは大官寺亮典。


 「おりゃああああ!」


 イビルモルの浮き始めた右足へ追い打ちをかけるように思いっきり殴り上げた。

 撃たれた右足は少し上に加速したように見えた。


 「はっはー!クソモグラが!手こずらせやがってよ!」


 完全にバランスを崩したイビルモルが前方へ倒れ込み、うつ伏せになった。

 倒れた巨体から風圧が起きて全員がその場で飛ばされないように屈みこんだ。

 風が収まり、全員が体勢を直そうとしたところで。


 「モグラ野郎が、ようやく無様を晒したな!」


 源間連が両手を翳すと彼とイビルモルの間の空間から六つの魔方陣が現れた。

 直後、それぞれの魔方陣から炎、水、風、土、雷、氷が勢いよく放射された。

 光線のように放たれた攻撃魔法は全てイビルモルの額の水晶へ命中した。

 一際大きな音を立てて空間を振動させた。


 「やったか!?」


 秋野宗重が口に漏らす。

 煙が晴れてイビルモルの額を見ると大きく(ひび)が入っていた。

 大半の人達が安堵する中、中園利香だけは違った。


 「まだ!そいつはまだ生きてる!」


 言われた直後にイビルモルの両手が少しずつ動き始めた。


 「ちっ!まだ動けるのか!?」


 源間連が舌打ちしながら距離を取った。

 別の方角から英雄人、北山洋成、若山智里が走る。


 「畳みかけるぞ!智里、洋成、俺の順で行くぞ!」


 「わかった!」


 「任せておけっ!」


 若山智里が飛び上がり風を纏わせた剣を上段で構えてイビルモルの額の水晶へ振り下ろした。

 金属と石がぶつかる音が響く。

 先程よりも皹は広がった。


 「次は俺だ!」


 北山洋成も同じ部分へ目掛けて剣を振り下ろした。

 更に皹が広がった。


 「おおおおおおおおおっ!」


 英雄人が雄叫びを上げて光のオーラを纏って飛び上がった。

 英雄人の剣が一際光を放った。


 「シャイニングスラッシュ!」


 水晶へ向かって一瞬で振り抜かれた剣の光が誰の目にも映った。

 光の軌跡が描かれた直後、イビルモルの額の水晶が乾いた音を放って額から外れて地面に落ちた衝撃で粉々になった。

 イビルモルの小さな瞳から光がなくなり、身動き一つなくなった。


 「イビルモル、沈黙。生体反応はない・・・。」


 中園利香が言って数秒後、その場でイビルモルに立ち向かったほとんどが喜びの声を上げた。


 「おぉぉぉ!」


 「やったな!」


 「マジかよっ!?」


 「私達生きてる?」


 「生きてるよ!」


 「良かったぁ~。」


 「うん・・・。」


 「どうなるかと思ったよ。」


 「生きた心地がしない・・・。」


 英雄人が北山洋成と若山智里を連れて後衛組と合流した。


 「皆、ありがとう!」


 何人かと言葉を交わした英雄人は、イビルモルとは反対側へ歩いた。

 その先は、今しがた戦闘を終えたCランク以下のクラスメイト達の姿だった。


 「こっちの皆もありがとう!俺達があれを倒せたのは皆がここを引き受けてくれたおかげだ!」


 地面に腰を落としていた面々が「あぁ。」「どういたしまして。」「お互い様だな。」と言葉を交わしていった。

 周辺に居た兵士達が大官寺亮典や疲弊した人を担ぎながら中央へ合流した。

 兵士の一人が英雄人に話しかけた。


 「お疲れ様でした。この後は帰路を確保しながら外へ向かいます。全員で固まって移動しますが動ける人を隊列の前後に分けさせていただきます。」


 「分かりました。俺も余力は残っているので前か後ろで警戒しますよ。」


 「それは助かります。それでは最前列をお願いします。」


  堂本みのり、本村亜美、藤田杏奈(ふじたあんな)の三人は集まって直ぐに怪我人の治癒に専念していた。

 彼女達は戦闘中は直接参加はしていなかったが、後ろへ下がったクラスメイト達を順次回復させていたこともあり疲労の色が濃かった。


 「三人ともありがとう。三人がいなかったらここまで来られなかったよ。」


 「そんなことは・・・なくもないか。あみちゃんとあんなちゃんが居たからだね。」


 堂本みのりの言葉に二人は照れていた。


 「まぁ、流石にSとBじゃ差が出てくるけどね。」


 「それを言ったら私なんてDだし。」


 「ランクよりも持てる力を発揮してもらうことが重要だから。二人とも自信を持って!」


 「ありがとう英君。」


 「流石エースは言うことが違うねぇ。」


 本村亜美と藤田杏奈が感謝したり茶化したりで場が少しだけ和んだ。


 「帰りは俺達で何とかするから三人は緊急時以外は魔法を使わないように。」


 「わかった、ありがとう。」


 堂本みのりが代表して返事をした。

 その後、彼らは兵士達の先導の元、複数ある道の一つを通って帰還した。

 道中はダンジョンのモンスターが現れるものの、見えないステータスが上昇したのか誰もが行きに比べて最小限の攻撃だけで倒していく。

 それに彼らのほとんどは疲労の色が大なり小なりあれど不安や恐怖は感じていないようだ。

 



 「平本君?」


 城へ帰る間、中園利香だけが消えたクラスメイトの存在を気にかけていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが暇つぶしに読んでいただければ幸いです。



今回は主人公以外のクラスメイト達の活躍を書いてみました。

話の中心は上位ランクの人達になります。

巨大な敵に立ち向かうとき、全員が力を合わせて立ち向かえるかという話ですが中々難しいです(描写的にも)。

あまりキャラを掘り下げれなかったのですが一部の癖のあるキャラ達がいることを知ってもらえたらなと思いました。

あと、英雄人はクラスメイトの能力を全員は把握していませんし、クラスメイト達で全員の能力を把握している人は現段階では居ません。


追記 「最後は誰誰に任せた!」→「やっぱり俺がやる!」みたいなプランの変更はよくあると言う事で・・・。


補足としてややネタバレ(順不同)


Sランク

 英雄人  【シャイニングオーラ】身体能力、魔力、精神が向上。強力な光を纏って戦う。複数のスキルや魔法を使える。


 北山洋成 【パワードライバー】身体能力の向上及び自身に掛かっている任意の状態異常を解除できる。幾つかスキルも使える。


 海賀亨  【カラーヴァリエーション】魔力、精神が向上。制限付きで炎、水、風、土、雷、治癒、結界魔法を使える。また、幾つかスキルもある。 制限付き:下級魔法は5回、中級魔法は4回、上級魔法は3回、超級魔法は2回ずつ使える(各属性毎)。


 菊池未梨亜【マジック・ボマー】魔力、精神が向上。炎属性の魔法を使えたり、任意の場所を爆発させられる。


 堂本みのり【ヒーラー】魔力、精神が向上。治癒魔法を使える。


 若山智里 【ゲイルナイト】身体能力、魔力、精神の向上。剣のスキルや風魔法を使える。また、風を纏ったスキルも使える。


 小久保仁 【ウェポンズコントローラー】魔力、精神が向上。任意の物体を思考で動かすことが出来る。半径一メートル以内なら死角にある物でも操れる。


 船戸玄  【イビルバスター】身体能力の向上。自分よりも強大な敵であるほど瞬間火力が増大する(条件はプレッシャーを受けること、敵意を感じること、当人の気分高揚と意外にあいまい)。


 中園利香 【クリアテイカー】魔力、精神が向上。対象の弱点を見つける能力。また、幾つかのスキルも使える。


Aランク

 大官寺亮典【メタルガン】身体能力の向上及び頑丈になる。関節などは変わらず動かせる。


 源間連  【マジッククラフター】魔力、精神が向上。展開時に目に見えない魔方陣の生成と任意のタイミングでの発動が可能(発動時に魔方陣は第三者にも見える)。


 近野樹梨 【オーバープレッシャー】魔力、精神が向上。圧力を操る能力。


 小倉柚希 【マジック・アクオス】魔力、精神が向上。水属性の魔法を使える。


 杉島成文 【バッドブラッカー】魔力、精神が向上。ゲームで言えばデバフを掛ける役職。任意の対象に体力、筋力、思考、魔力などの低下を与える魔法を使える。


 田辺啓一 【メイガスエクエス】身体能力、魔力、精神が向上。剣士(片手、両手)、魔法使い(火、水、風、土、雷、治癒)のスキルや魔法を使える(ランク相当の種類や精度、魔力消費量は変わらない)。


 村田めぐる【サイクルローラー】身体能力、魔力、精神が向上。複数の役職を扱える能力。剣士(片手、両手)、魔法使い(火、水、風、土、雷、治癒)、野伏、弓術士、騎士(防御能力)、付与術師(バフ、デバフ)。いずれか一つの役職を選んで使う。


Bランク

 秋野宗重 【ビーストウォーマー】身体能力が向上。特定の動物の姿に成れる。


 稲垣真緒 【マジック・サンダー】魔力と精神が向上。雷魔法を使える。


 音羽甲斐 【ブレイクアウト】身体能力が向上。制約付きで破壊が出来る能力。


 橘川明之 【マジック・フレイム】魔力、精神が向上。炎属性の魔法を使える。


 土屋香純 【マジック・アース】魔力、精神が向上。土属性の魔法を使える。


 氷室凛  【マジック・フリーズ】魔力、精神が向上。氷属性の魔法を使える。


 本村亜美 【ヒーラー】魔力、精神が向上。治癒魔法を使える。


大雑把な説明ですがご容赦を。

作中では能力とランクが見合わない人たちが居る設定(能力の名称では一線を画す人達)ですが不遇な判断や対応を描写したくて敢えてそうしています(賛否両論)。

後、ランク付けは能力以外にも当人の資質や初期の身体能力などをサンデル王国の過去のデータを基に考慮されているためです。

なので場合によってはBランクの人がSランクを凌駕する可能性もなくはないです(但し条件付き)。

次の話のあとがきでCランク~Eランクの人達も簡単に紹介したいと思います(変更になる場合があります)。


落書きの設定に目を通していただきありがとうございました。

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