79話 ある冒険者達の穏やかな日
本日二本目の投稿ですがよろしくお願いします。
わたしがボビィとサムに相談してから数日後。
二人が私の提案を受け入れたのは良いけど、それぞれの組織に協力を仰げるのかは分からない。
あくまでボビィとサムの提案として通して貰いたいから。
それは一度置いて、今日は冒険者ギルドの九階に住んでいるマルテとお茶をしていた。
「これはすぅっとした風味が広がって爽快感がありますね!」
「ハーブティーの一種です。喜んでもらえたなら何よりです。」
「いつも色々なお茶をありがとう!こんなにお茶に種類があるなんて知りませんでした!」
「一般には流通していない薬草を煎じているので。」
事前に知っていたり野山で見知った植物を口にしているから帰りに摘み取って偶に飲んだりする。
それをマルテに提供すると好評で何時も喜んでくれる。
ただ、今日のマルテは何処か様子がおかしい。
偶に俯いて顔を赤らめている。
「何か相談したいことがあるなら遠慮なく言ってください。」
「そ、それは!どうして……。」
「何となくそんな気がしました。」
「ポーラは凄いね。」
「皆さんに比べたら全然ですよ。」
「そんなことないと思いますけど。」
「それで相談は……もしかしてマティアスのことですか?」
「えっ!?何で知っているのですか!?」
次は驚きの声を上げた。
「多分わたしだけでなくドリスやエルケも知っています。」
両手で口を塞いで目を見開く彼女の姿は可愛らしい。
「な、何だか恥ずかしいです。」
「そんなことはありません。気になる相手がいるのは良い事ですよ。」
「という事はポーラも?」
「わたしは……そう言うのはいません。」
「そっかぁ。もし出来たら教えてね!」
「その時があれば。それでマティアスの事はどれくらい前から気になりだしたのですか?」
話題をマティアスに戻すと再び顔を赤くしながら偶に手で顔を仰ぎだした。
「最初の頃です。私達がパーティーを組んで初めての依頼を受けた時、背後からモンスターに襲われたことがあったのですが前で戦っていたマティアスが急いで駆けつけて守ってくれました。」
「直ぐに想像できますね。」
「はい、あの時の私は死を覚悟しましたが彼のお陰でこうして今も生きています。」
「他にもありそうですね。」
「食事の時はクラウスやゲルトは騒ぐのですが彼は常に落ち着いています。馬車へ乗る時はよく私の手を取って乗り降りを手伝ってくれます。」
多分マティアスは気遣いの出来る男だと思う。
それは出自が貴族の関係の可能性があるかもしれない。
「それに故郷で作ったネックレスを褒めてくれましたし……。」
最初にわたしが会った時は外していたけど今は木枠に小さな青い翡翠の石が埋め込まれたネックレスをしていた。
何でも小さなころに故郷の川で拾ってお父さんに頼んで作ってもらったらしい。
両親は村の出身でお父さんは細工師だったらしい。
マルテはその村で生活している時に魔法使いの冒険者に魔法の手解きを受けたと言う。
こういう話は偶に訊くけど、旅する魔法使いは皆気まぐれらしい。
喜んでマティアスの事を話していたマルテだけど彼女は浮かない顔になった。
「ただ、今の私はモンスターの毒に侵された人間で曖昧な存在です。そんな私がマティアスを好きになって良いのか……。」
以前は普通の人間だったマルテはニクテプロキデと言うモンスターの毒に侵されてモンスターの特徴を持ってしまった。
体型は以前よりも丸みを帯びていると聞いたけど、それ以外に耳は頭の上にあり鼻は前よりも前に突き出ている。
髪の毛や背中は緑色になり、なかった尻尾は太腿まである。
足も親指が下がって踵が長くなったことで四本の指でつま先立ちしている状態になっている。
手の方は以前と変わっていないから物は掴めると言う。
外見が大きく変わってしまい一番戸惑い苦しんでいるのはマルテ本人である。
だからこそ人を好きになるという事に億劫になっている。
「あなたの痛みや苦しみは同じ境遇の人間にしか分からないと思います。だけどマルテの仲間達はあなたが以前と変わらないことを知っています。わたしは付き合いは短いけれどマルテが純粋で人を思いやれる優しい人だって知っています。」
「ポーラ……。」
「わたしやあなたの仲間は誰に何と言われようともマルテは一人の人間であり女性だと言います。あなたを想っている事だけは信じてください。」
「そんなに正面からはっきり言われると私は……。」
「大丈夫、なんて簡単に言えませんけどマルテが自分の気持ちに正直になれば結果を掴むことが出来るはずです。」
「うん、直ぐに自信を持てるわけじゃないけど元気が出ました。ありがとう、ポーラ。」
「それなら次の休みにマティアスと二人だけで出かけませんか?」
「えっ!?そんな、お出かけなんて……。」
せっかく新しい服を買ったのにもったいない。
それにマルテだけが気になっている訳ではないはず。
「そう言えば特注の帽子が届くそうですね。それが届いて問題なければ、でどうですか?」
「うーん、それなら……。」
やっぱり知らない人達に顔を見られるのは気になるはず。
それなら顔を隠せば一目は気にせず歩ける。
いつかは顔を見せて出歩いて欲しいとは思うけどそればかりは高望み。
そして普段からローブを被っているわたしが言えたことじゃない。
夕食時になるころにマティアス達は帰って来た。
一階で依頼の報告をしたり併設されている飲食店から料理を運んできて貰い、全員で食べた。
わたしもご相伴させてもらった。
昼と夜はマティアス達に出して貰っているから食費が浮いている。
彼らが外にいる間、わたしがマルテに付き添っているためである。
これにプラスして仕事が出来ない分のお金を出すと言われたけど友達とお茶をしているだけなのでそれに関しては丁重に断った。
食事を終えてからわたしはマティアスとエルケを通路へ呼び出した。
九階はマティアス達以外は使っていないと言うから聞き耳を立てられることはないらしい。
「それで話と言うのは?」
マティアスに聞かれてわたしは確認する。
「マティアスはマルテの事をどう思いますか?」
「マルテ?彼女は普段から気配りが出来て、物事に対して一生懸命になれる良い女性だ。最近は元気な姿を見せてくれるが不安そうな顔を見せているのが気になるな。」
これを聞いてエルケはわたしと声を潜めて話し合う。
「ポーラ、あんたまさか。」
「はい。」
「大丈夫かい?あたしはまだ早いと思うけど。」
「何れは乗り越えなければいけない壁です。確かに部外者のわたしが促すのはどうかと思いますけど。」
「いや、あんたは部外者じゃないよ。あの子に寄り添ってくれる大事な仲間さ。」
「そう言って貰えると嬉しいですね。」
わたし達はマティアスに向き直るけど当人は気にした風がない。
「実はマティアスにお願いがあるのですが、次の休みに彼女と街へ出かけて貰えませんか?」
「なっ!?それはどういう意味だ?」
「そのままの意味です。」
「だけど彼女はまだ外に出ることを怖がっているんじゃ?」
マティアスが心配するのは尤もだ。
「それは彼女が一人の場合です。ただ、次の休みまでに特注の帽子が届くらしいのでそれの機能が問題なければお願いします。」
「そうなのか、帽子が届くのか。だが、なんでまた?」
「彼女が不安がっているとあなたは言いましたね?」
「あぁ。」
「それはあなたが正直な気持ちにならないからですよ?」
「えっ!?な、なんでそれを!?」
ここでマティアスの顔が赤くなり、エルケも驚いた。
「何時までも不安を抱えさせると病気になりやすいものです。大分古い異国の地の言葉ですけど。」
「つまり俺がダメだからその内マルテが弱っていくと?」
「十分にあり得ます。」
「それと俺の気持ちがどう関わるんだ?」
マティアスの初めて愕然とした顔を見ながらも続けた。
「マティアスにとってマルテがどういう女性なのか、それを次の休みに一緒に行動することで見えてくるはずです。」
「そ、そうなのか。」
「早急に答えは出さなくても良いですけど中途半端なことは言わないでくださいね?」
「あぁ。」
「それと彼女の言動などを見逃さないこと。絶対ですから!」
「わ、分かった。」
「それでは早速マルテを誘ってください!」
「そうだよマティアス、あんたも男なら堂々と誘いなさいよ!」
「あぁ!」
わたし達は部屋に戻り、マティアスがマルテを誘うと彼女は喜んで応じた。
少なくとも好きではない相手が誘ってくることはあまりない。
マルテには多分バレていると思うけどマティアスの事はわたし以上に知っている。
他の三人も空気を読んでくれたのか二人っきりで出かけることが決まった。
マティアス達が休日にした日。
冒険者ギルドの九階からマティアスとマルテが現れた。
マティアスは武装を外して白と黒を基調にしたラフな格好をしていた。
マルテは白と青を基調にしたウエストが高い位置にスカートの裾に掛けてふんわりしたデザインの服を着ている。
鍔の広い帽子は目の部分だけを切り出して全体を布で覆っている。
耳は突き抜けているけど大きなリボンでデザインの一部に見えるようにしてある。
一見すれば貴婦人に思える様相であった。
彼らの外出は冒険者ギルドにも教えてあるみたいで見張りや受付の人達には騒がないように言ってあるらしい。
彼らが一階へ出ると注目され、ざわつく。
それでもマティアスは彼女の手を繋いで外へ出た。
久しぶりに外へ出たマルテの表情は分からないけど嫌がる素振りは見せていない。
どちらかと言えば気恥ずかしさが垣間見えた。
彼らは最初は大通りの人混みを気にしつつ、人の少ない道を選んで歩きはじめた。
今のマルテは足の形状が人とは違うため特注の靴も注文したけど履きなれていないため足どりはたどたどしかった。
だけど、マティアスはそんな彼女を気にして一人で先に進むことなく歩調を合わせていた。
「足が遅くてごめんなさい。」
「そんなことはない、久しぶりの外を歩くのだから気にしなくて良いさ。少しずつ慣れて行こう。」
「はい。」
そんな会話をしながら最初に彼らが訪れたのはホレスの道具屋だった。
男女で行く場所がそこなの!?
とクラウスやゲルトはあれこれ言っているみたい。
多分馴染みの店に行くのがマルテにとってリハビリになると判断したと思う。
あとはせっかくだから冒険に使う道具類を揃えようとか考えているに違いない。
暫くすると彼らが外に出てきて歩き出した。
昼食までは外を出歩くみたいでその間に決まった目的地はなかった。
時々足を止めて街の風景を見ては微笑み合っていた。
彼女の顔は隠れているけど多分そうだと思いたい。
帝都は大きな用水路も通しているため、そこを小舟が通ることもあった。
偶に子供達が遊んで駆け抜けた。
そのとき偶々子供の一人がマルテとぶつかりそうになり回避したものの、彼女が地面に倒れそうになったところをマティアスが体ごと支えて難を逃れた。
怪我もなく、帽子もとれずに無事だった。
「あ、ありがとうございます……。」
「いや、俺も気を付ければ良かった……。」
「そんなことはありません。こうして怪我もなかったのですから。」
「それなら良かった。」
偶に道行く先で知り合いの冒険者達とすれ違い、マティアス達と挨拶を交わした。
誰もが顔を隠した女性が気になったみたいで、彼女の断りを入れてから名前を伝えていた。
詳細は伝えなかったけど、彼らも一定の理解を示しているみたいで深入りしなかった。
そして昼頃になり彼らは昼食を食べにある飲食店へ入った。
そこはカイが働いている飲食店だった。
もっとおしゃれな場所へ行くかと思ったけどそうではなかった。
わたしが以前、話をしたお店だから二人は興味を持ってくれたのかもしれない。
ゆっくりと昼食と会話を楽しんだようで、外へ出てきたときには昼間の中で最後の客になっていた。
楽しんだのかどうかはマルテの足取りが軽くなっている気がしたからそう思えた。
それから武器屋へ行ったり服飾店を回ったりしていた。
夕暮れ近くになるころには一般区画と農業地帯の間にある小高い丘に居た。
流石にその場所からでは街を一望できないけど帝都内の長閑な場所であることに違いはなかった。
夕日が沈むまで彼らはその場所で黄昏ていた。
少し離れたところでは農夫達が帰宅中だったけど特に騒がれなかった。
一般区画で飲食店を中心にした場所は賑やかだけどそれ以外はとても静か。
ここでも穏やかな時間を過ごした二人は暗くなる頃に人通りが減った大通りへ戻った。
夜に営業している店は騒がしく、例に漏れず冒険者ギルドに併設されている飲食店もまた冒険者達で騒がしかったのは言うまでもない。
そんな彼らを横目にマティアス達は静かに階段を登って自室に帰っただろう。
そのあと、彼らがどうなったのかは……。
なお、わたしやクラウス達が帰りの冒険者ギルドまで隠れて見ていたのは内緒である。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




