78話 不穏な話
本日もよろしくお願いします。
※20220701一部修正しました。
ボビィとサムに再会してから七日が経った。
今日であれば騎士団の方へ行けば彼らと会えるはず。
他にも聞けることがあれば聞きたいし、ダルメッサの事を伝えようと思った。
昼食を食べ終えて幾つか店を回ってから騎士団の区画へ向かった。
しかし、その道中にコウタと遭遇してしまった。
「あ、ポーラちゃん!」
今日は会おうと思っていなかっただけに逃げ出したい気分だけど仕方がなくコウタに挨拶した。
「こんにちわ、コウタ……。」
「こんにちわ!これからどこ行くの?」
「ちょっとぶらりと。」
「じゃあ、俺も一緒に行くね!」
そこは聞くところじゃないの?
「いえ、一人になりたいので。」
「え~!女の子が一人でいると危ないよ?」
「何度も歩いている場所なので大丈夫ですよ。」
「そう言って気が緩むと襲われそうで心配だよ!」
どちらかと言えば目の前の男に襲われそうな気がしてきた。
いくら言ってもコウタは一歩も引いてくれなかった。
思った以上に強情な彼にこれ以上言うことなく立ち去ったけど彼は気にせず付いてきた。
強硬するコウタをどうやって撒こうか考えたけど何も浮かばない。
結局、目的地の騎士団の区画まで来てしまった……。
「あそこって騎士団の区画だよね?」
「そうですね。」
「あそこへ行くの?」
「わたしはあそこへ行きます。」
「それなら俺も一緒に行くよ!」
「何故?」
「ポーラちゃんに万が一のことがあったら困るから!」
「いえ、そこまで気にしなくても大丈夫です。」
「お願い、お願い、お願いします!俺、この前君と一緒に依頼を手伝ったじゃん!いいでしょ!?せっかく帝都の騎士団を拝めるんでしょ!?」
大声で頼み込むコウタにドン引きしてしまう。
そこまでして行きたいの?
しかも前にマルテの薬の材料を採取した時の事を引き合いに出してくるなんて。
それに周囲には人がいて彼らはこちらを見ている。
これで逃げればこの場はやり過ごせそうだけどあることない事言いふらされる可能性がある。
あとはコウタが常に付きまとう可能性。
ここまで言うともしかしたら何か目的があるかもしれない。
サンデル王国の利になることに協力したくないけどわたしも目的がある。
それを邪魔されるのが一番嫌だ。
先にコウタをどうにかすべきだけど今はまだ動けない。
「門番に止められたら諦めてくださいよ?」
「分かった!ありがとう!」
これまた大声で返事をするコウタにウンザリしながらも騎士団の門番達に通行許可証と冒険者証を見せるとすんなり通してくれた。
しかも完全な部外者付きで。
「いやぁ、良かった!」
「そうですね。」
「それで何処に行くの?」
「人を尋ねに来たので誰かを捕まえて聞いてみます。」
区画内の情報はまだ覚えきれていないから出歩いている人に行くしかなかった。
合同訓練を受けている騎士や魔法士に会うにはどうしたらいいのか?
訓練場は危ないからと言われて騎士団本部に行けば良いという事だったので前回同様に本部へ向かった。
「この前の人、またボビィに会いに来たのか?」
「えぇ、また話したくなったので。」
受付の従士は前回と同じ男性だった。
わたしの格好は珍しい方だから覚えていたと言う。
「ねぇ、俺は他の所も見て回りたいんだけど良いかな?」
「それはこの人に聞いてください。」
コウタは受付の従士に訊くと訓練場と従士と騎士の宿舎、武器庫、留置所と監獄などに立ち入らなければ良いと言われた。
「じゃあ、見学に行こう!」
てっきり一人で行くのかと思えばそうではないらしい。
一人にするよりはマシだと思って受付の従士に断ってから二人で区画を見て回った。
道行く場所に立て看板があり、区画内でも更に区分けされていた。
それに従士達がいるから通って良い場所かどうかも直ぐに分かった。
「偶に親族が来るからな。俺達従士は道案内をするようにも言われているんだ。」
と彼らの言。
魔法士団の建屋に比べて簡素な造りが多いけど遠目から見た宿舎は一般区画の住宅地と同じようにかなり密集していた。
夕方までに回ったけど結構広く感じた。
体感でしかないけど行けない場所を含めるともっと広いのかもしれない。
それとコウタは会う人全員に挨拶をしていた。
「初めまして!あなたがこの国の騎士様ですね!いやぁ、実際に拝見すると騎士のオーラが凄いですね!かっこいいです!是非ともお名前を聞かせてください!将来、騎士様が帝国に名を遺すときに自慢できますからね!」
などと調子の良いことを言っていた。
しかも従士相手にも似たような事を言っていたけど話した全員は満更でもなさそうだった。
因みに女性の騎士や従士もそれなりにいて、彼女達を見たコウタは鼻息を荒くしていた。
かなり目立つ男になったコウタと本部に戻ると合同訓練が終わったのか騎士や従士、魔法士達がぞろぞろと歩く光景を見た。
そしてわたしに気づいたボビィとサムは人の波を割って来てくれた。
「今日も来てくれたんだね、ありがとう!」
「やっぱり俺のカッコよさに惹かれているんだろ?」
と言われて適当に流すと二人はコウタに気づいた。
「誰だこいつ?」
ボビィに訊かれてわたしは紹介した。
「彼はコウタ、帝都で冒険者をやっている。今日はどうしても騎士団を見たいって聞かなかったから連れて来た……。」
不本意だけど。
「俺はコウタ、よろしく!えっと君達は?」
「ボビィは騎士、サムは魔法士。二人は昔馴染みです。」
「そっか!俺はポーラと冒険者をやってるから!」
確かにわたし達は冒険者をやっているけど一緒に行動はしていない。
わざわざ強調する必要ないよね?
「お前みたいのが冒険者ぁ?結構ひょろいじゃないか?」
「まぁね。騎士のように剣で戦うことは出来ないから、そう意味では君が羨ましいよ。」
「そうか!お前は見る目があるな!」
直ぐに掌を返したような態度にボビィは分かりやすいと思った。
「君がポーラと一緒?」
一人顔を青くして震えているサムだけど何を考えているのやら。
「サム、わたしと彼は普段から一緒に行動してないから。」
「そ、そうなんだ。良かったぁ。」
直ぐに安堵するサムだけどそこまで安心すること?
などと思っていたら今日は四人で夕食を食べることになった。
本当は三人だけが良かったけどボビィがコウタを気に入ったのが理由。
前回と同じ店に行き、それぞれ料理を頼んだ。
周囲の話に耳を傾けると一つの話題が上がっていた。
「また被害者が出たらしいな。」
「しかも従士だろ?今までは一般人だってのに。」
「犯人は別?」
「同じじゃないのか。」
「模倣犯かもしれないぜ!」
「どっちにしても騎士団としては黙っている訳にはいかないな。」
「今までよりも巡回の人数を増やすんじゃないのか?」
「まだ話が下りてないから分からないぜ。」
「噂だと貧困街だと行方不明者がそこそこいるらしいぜ?」
「と言ってもな。あっちは俺達が巡回していない間に喧嘩や殺し合いが日常茶飯事だから今更って感じだな。結局行方不明って言っても死体を何処に遺棄したか分からない状態ってだけな気もするな。」
「それもそうか。何でもかんでも殺人鬼が関わってるわけじゃないもんな!」
と言った内容。
この店の大半が騎士や従士なため、そこかしこに話が飛び交っていた。
コウタも耳に入っていたのかボビィ達に話を振った。
「君達も巡回任務に行くの?」
「俺みたいな騎士はそんなに出て行かないぞ?そう言うのは従士の仕事だからな!」
「僕達魔法士団も何かの作戦がないと動かないかな。」
「そうなんだ。」
従士を襲った通り魔が今までの通り魔と同じか分からないけど狙う対象が増えたことは厄介に感じた。
戦える女性を相手にするという事は冒険者も入るかもしれないからわたしも狙われる可能性はなくはない。
そうなったらマティアスのパーティに所属する三人の女性達も狙われる可能性がある。
マルテはまだ外出していないけどいずれ彼女は勇気を出して外に出る時が来る。
その時に彼女が狙われることがあれば彼らは悲しむかもしれない。
勿論、今まで犠牲になった人達や彼女達を想う人達もまた傷付く。
彼らと食事が終わり、解散する間際。
「コウタは先に帰って。二人にちょっと聞きたいことがあるから。」
「だったら。」
「いいから先に帰ってください。」
「わ、わかった。じゃあ、皆。今日はありがとう!」
手を振ってコウタは暗い夜道を歩いた。
わたし達はそれを見届けると二人に向き直った。
「それで話って?」
「さっきの通り魔のことで相談があるんだけど。通り魔を捕まえるために騎士団と魔法士団に協力をしてもらいたくて。」
確実な作戦は思いつけなかった。
だけど動かなければ何も変わらない。
「端的に言えばわたしが囮になる。」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。
本日は18時に二本目も投稿予定です、ご了承ください。




