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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
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77話 小さな疑念

本日もよろしくお願いします。

 わたしは再会したボビィとサムに連れられボビィの行きつけの店へ足を運んだ。

 その店は騎士団の区画からほど近い一般区画の飲食店だった。

 店の規模は大きく、人が結構入っているけどまだ空席もあってその一つに案内された。

 忙しなく動く従業員の数も多く、かなり繁盛しているように思えた。

 それにボビィ以外の騎士らしき人は何人も居て、騎士様御用達の店かも知れない。

 席に着いたわたし達は近くの従業員に声を掛けて注文を取った。


 「お前ら、それだけで良いのかよ?」


 「僕はこんなものだよ。」


 「わたしもボビィほどは食べない。」


 サムは昔から食べる方ではなく、逆にボビィは人一倍食べていたからこういうところは今も変わらないみたい。

 わたしの場合は単純に金銭的な問題が大きいけど。


 「それで二人は騎士と魔法士になったんだよね?」


 早速話を振るとボビィから話し始めた。


 「そうだぜ、念願の騎士になったんだ!凄いだろ!?」


 「そうだね、凄いね。」


 「はっはっは!もっと褒めてくれよ!」


 胸を張って高らかに自慢された。


 「ぼ、僕も魔法士になったんだ!ボビィみたいな騎士とかそう言う階級はないんだけどね。」


 「そうだったんだ、それでも魔法士は誰にも成れるものじゃないから凄いと思うよ?」


 「うん、ありがとう!」


 サムは満更でもない様子。


 「ところで二人はどうやって騎士や魔法士になったの?」


 わたしが訊くとサムの動きが一瞬止まった。


 「そ、それは……。」


 サムが何かを言う前にボビィが代わりに教えてくれた。


 「ダルメッサって言うおっさんが後見人になってくれたんだ。それで俺達を推薦してくれたんだ、だよな?」


 楽しそうに話すボビィにうんと返すサム。


 「僕達が魔法士や騎士になって活躍することを期待するって言って。」


 「そうだったんだ。」


 「もしアルファンの元にいたら推薦してもらなかったかもしれないから早く魔法士団に入れて良かったよ。」


 「そうだよな!あの執事に騎士として活躍するのはまだ早いとか言われたしよ!」


 二人の言葉に何か違うものを感じた。

 わたしと彼らの認識のズレ。

 もしかしたら疑って耳を傾けたから都合の悪い言葉に聞こえただけかもしれない。


 「ところでポーラは」


 サムがわたしの事を聞き出そうとする前に別の事を挟んだ。


 「ダルメッサって人は聞いたところによると凄い貴族の人って聞いたけど二人はどういうきっかけでその人と知り合ったの?」


 不安そうな目をするサムと自信たっぷりなボビィの目が一瞬合った。


 「俺達、アルファンの屋敷が焼かれた時にあの人の使用人達が助けに来てくれたんだ。建物から出ようとした時に周りは燃えてて困ってたからあの時は本当に助かったぜ!」


 「そうなんだよ!それで僕らは助けてもらったんだけどね。ただ、ポーラがいなかったら死んじゃったと今までずっと思っていたけど。」


 「お前、無事だったんだな。」


 「どうやって助かったの?実はダルメッサ様の使用人達に助けられたとか?」


 「わたしは……自力で逃げ出したよ。」


 「そっか、本当に良かったよぉ。」


 自力で逃げ出したのは嘘、ケイティに助けられたからこうして今も生きている。

 サムの表情は心の底から安堵した、と言う感じに思えた。


 「でも、ダルメッサ様が死んだって聞いた時はショックだったなぁ。」


 「確かにな、俺達を推薦してくれたダルメッサ様が火事で死ぬなんて思わなかったぜ。」


 「一家全員火事で亡くなったって聞いたけど、二人はその人の家族に会ったの?」


 「いや、俺もサムもないぜ。ダルメッサ様や使用人しか見てないな。」


 「うん。屋敷で話してからその場で養子に入れてくれたんだ。それと僕達が要望を言ったら直ぐに帝都に向かって推薦してくれたってわけ。」


 「へぇ。」


 屋敷は邸宅なのか別宅なのかは分からないけど、あの時見た紙に二人の事が書かれていたのはそう言うことだったんだ。


 「ところで騎士や魔法士ってどんな事をしているの?そう言うのに縁がないから凄く気になって。」


 「仕方がないな、今回は特別に教えてやるよ!」


 適当に話題を変えるとボビィは色々教えてくれた。

 と言っても自慢話が大半を占めていた。

 周辺にいた騎士と思われる人達はボビィの声が聞こえていたのか舌打ちや小言を言っていた。

 彼らが具体的に何を言っていたかは分からないけどあまり良い印象ではないらしい。

 それに気づいているのかいないのか、ボビィの話は料理が配膳されて食べ終わるまで続いた。

 要約すると一日のサイクルはあまり変わらず朝から晩まで訓練が基本らしい。

 騎士の場合は乗馬や礼儀なども学ばされるとか。

 本人曰く、よく剣術の訓練では同期や後輩達には負け知らず、先輩には偶に負けるらしい。

 他には騎士が功績を残すと皇帝陛下や親族の近衛兵団に抜擢されるらしい。

 ボビィはその近衛騎士団に入ってお姫様と結婚したいと言う。

 そんなロマンスを夢見ているのはちょっと意外だった。


 「俺は下っ端でいるつもりはないぜ!」


 上を目指すだけなら志が高い青年になっていた。

 騎士は団内で言えば下っ端ではないと思うけどまぁ良いかな。

 一方、サムも魔法士について教えてくれた。

 事前に聞いていた通り、大半は魔法を習った貴族が多く市井の出身者は少ないらしい。

 やっていることは帝国に残されている書籍を調べて実際にその魔法を使えるようにしたり新しい魔法を作ったりしているらしい。

 人によっては新薬や伝説の物質の開発をしているらしく、帝国の繁栄を見据えた研究も行われている。

 サムの場合は生活に繋がる研究よりは色々な魔法を使いこなして立派な魔法士になる事、将来は帝城の敷地内にある宮廷に仕える宮廷魔法士になりたいと言っていた。

 ダルメッサと繋がりのある貴族の魔法士達で現行の魔法に消費する魔力の量を抑える研究が進めているらしい。

 もし、これが進歩すれば大火力の魔法を多く使えたり、街の街灯などに使っている魔鉱石の消費を抑えられると言う。

 この研究で成果を出せれば出世できるとサムは目を輝かせていた。

 そんな夢見る青年達の姿にわたしは


 「応援しているから。」


 と言えば二人とも照れた顔をした。

 (ついで)に合同訓練の事を訊けば二人は同じタイミングで受けていると言う。

 だから、訓練中に顔を合わせる機会もあるとか。

 基本的には七日のサイクルであるらしい。

 そんな話を聞くとあっと今に時間が過ぎた。

 店内の人が少なくなる頃にわたし達も解散した。


 「またな!」


 「また来てね!」


 二人とは別れてわたしもいつもの宿へ帰った。

 夜になって人通りは減って大通り以外の道や建物に明かりが灯っていないから静けさも相まって寂しく感じた。


 「二人とも生きていた。」


 アルファン様の元で暮らしたあの二人で間違いない。

 ないのだけれど、疑惑が深まった。

 彼らの言っていたことが何処まで本当か、分からない。

 でもボビィとサムは言っていた。

 アルファン、と。

 確かにわたし達は望んで奴隷になった訳ではないから当時の大人達を恨むのは分かる。

 ただ、アルファン様達から酷い仕打ちは受けていない。

 寧ろ好待遇だったと思えた。

 他の奴隷の生活を知らないからそんな風に思えるけど彼らは過去の訓練が嫌だと感じていたからあのように言った?

 或いは単純にそう言う年頃だから?

 一つ言えるのはダルメッサには恩義を感じていたこと。

 アルファン様がわたし達の進路に関して止めるような素振りはなかった。

 アルファン様も私兵団は持っていたからそこにボビィとサムを入団させて経験を積ませたら帝都に薦める予定とも考えられた。

 貴族として位の低いアルファン様だからそう言った手順を踏まないと彼らを向かわせることが出来なかったかもしれない。

 そう言う点を踏まえてダルメッサの方が良かった、なんて言ったのかもしれない。

 だけど、火を放ったのは間違いなくダルメッサの組織の人間なのに彼らはそれに気づいていない?

 彼らが真実を知らないのならそれを知って欲しい。

 胸の奥が締め付けられるのを感じながらそれを何時伝えるべきか、雲が多くなった空を見ながら帰路に着いた……。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

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