74話 痛みはいつも傍にある
本日もよろしくお願いします。
ポーラ……主人公
マイルズ……ポーラが帝都で初めて会った冒険者、中年男性。
マティアス……帝都で最高等級の青を持つ冒険者の一人、騎士団や魔法士団に顔が利くらしい。
マルテ……マティアスをリーダーとするパーティーの一員。以前の冒険でタヌキみたいなモンスターに襲われた時、毒に侵されてしまった女性。
エルケ……マティアスのパーティーの一員、体格が大きい女性。
クラウス……マティアスのパーティーの一員、槍で戦う男性。
ゲルト……マティアスのパーティーの一員、剣で戦う男性。
ドリス……マティアスのパーティーの一員、斥候の女性。一人だけ十代かつパーティーで最年少。
マイルズと再会してから数日後。
最初は殴られて腫れていた顔も引いてきて以前と変わらないはずの顔に戻っていた。
ただ、顔や体の痣はまだ消えていない。
もう暫く休む必要がありそう。
凍結の魔法を知っているから水を貰って凍らせてから患部を冷やしたことで早くに痛みが引いたのは良かった。
それに引き換え、月ものは痛い。
ケイティ達から教えて貰った対処法でどうにか過ごしているけどわたしは重い方らしい。
マーサの方がもっと重いと言われたこともあったっけ。
そんなことを思い出しながら身支度を整えて冒険者ギルドへ向かった。
今は昼過ぎ、朝と昼を食べ損ねたけどいいかな。
昼過ぎでも大通りは賑わっている。
中にはわたしと同じようにフードを被った人も見かけるけど露店の人と話して値段交渉をしていた。
冒険者ギルドへ入ると人は疎らで受付の人達は別の作業に没頭中。
あのあと、マイルズとは会っていないからマルテがどうなったのかは分からない。
そしてマイルズとの約束もしていないからどうやって会おうか悩んでいた。
何となく掲示板を眺めていたら後ろから歩いてくる人がいた。
「あの、冒険者さん。失礼ですが名前と冒険者証を見せていただいても宜しいでしょうか?」
後ろを振り向くと受付嬢さんが居た。
多分初めて見る人?
或いは一度か二度は手続きしてもらったことはありそうだけど。
「ポーラです。冒険者証は……これです。」
懐から冒険者証を見せると驚きと安心の表情が見て取れた。
「良かったです!マティアスさんとマイルズさんから案内するよう言伝があったので。」
「分かりました、それではお願いします。」
受付嬢が前に立って階段を登り始めた。
一緒に登ってそれぞれの階を横目で見る。
受付人と見張りの冒険者はどの階層にもいるらしい。
例外なのは七階より上。
それと受付嬢と冒険者が待機している位置は階層によって違うため、一見すると部外者が無視して上がって行きそう。
案内してくれる受付嬢さんに訊くと六階は上階を含んだ受付だと教えてくれた。
それと各階の見張りの冒険者達を見たけど数日前に恫喝した二人の冒険者の姿はなかった。
そのまま六階から八階を過ぎて九階へ辿り着いた。
マルテのいるドアの前で受付嬢がノックをした。
「冒険者のポーラさんをお連れしました。」
部屋の内側から鍵が開けられた。
「分かった、入れてくれ。」
「それでは、私は失礼します。」
受付嬢はわたしが入る前にこの場を去った。
「ポーラです、入ります。」
ドアを開けて中に入る。
念のため後ろ手に鍵をかけた。
マティアスとその仲間達、マイルズが既にいた。
「お久しぶりです。」
「ああ、樹液の件は感謝する。本当にありがとう!」
マティアスが喜んだ顔で握手を求めたので握り返した。
他の仲間も次々に挨拶と握手をしてきた。
「それにしてもすまなかった、マイルズさんから聞いたがひどい目に遭わされたと。」
マティアスの表情は一転、悲痛なものになった。
それは他の人達も同じ。
「いえ、あれはわたしが悪かったので皆さんは気にしないでください。」
冷静に行動をしていればあんな目に遭わなかった、だから誰かのせいではない。
既に起こったことだから恨み辛みはあるけどここにいる人達にぶつけるものじゃない。
「ポーラ、あいつらの事は調べが直ぐについた。それで冒険者ギルドが処罰したから安心してくれ。」
マイルズはニカッと笑う。
そこは笑うところなのか?
安心するかどうかは兎も角、冒険者ギルドが対処したなら言わなくても良いのかな。
「分かりました、それでマルテの容態は?」
一番気になる彼女の容態、全員が体で隠すような立ち位置でベッドの主が見えない。
「ああ、彼女なら無事だ。ただ……。」
薬の調合は間に合って服用したけど後遺症があるとか?
ニクテプロキデの毒がどんな作用をもたらすのかは誰もちゃんとわかっていなかった。
大分昔はニクテプロキデは認知されていたし対処法も研究されて実戦もされていたとか。
だけど、何時からかニクテプロキデは人前に姿を現すことが少なくなり、一時期は絶滅したとさえ思われていた。
そうしてモンスターや薬の情報を残すことなく現代になった。
薬師が知っていたのは代々様々なモンスターや薬の知識を受け継いだから、ただ薬の材料になる植物がどんなものかまでは伝わらなかったらしい。
人は意外といい加減だと思えた瞬間。
そんな事より、彼女の方が気がかり。
「ポーラ、改めて言うがこの事は他言無用だ。いずれは公表して対処法も周知するが今はまだ……。」
「分かってます、誰にも言いません。」
「助かる。」
わたしの言葉を聞いたマティアス達は一斉にベッドの前から動いた。
ベッドに腰掛けている女性、マルテの姿。
以前見た彼女は苦しそうにしていたけど今は落ち着いていた。
最後に見た彼女の髪色は緑がかったダークブラウンだったけど今はダークグリーンに見える。
顔は鼻先がかなり前に出ている、だけど鼻が長いんじゃなくて顔全体がちょっと突き出ているしその鼻も黒にくすんでいた。
耳は横からは見えずに髪が掛かっているだけかと思った、でも頭の上に髪色と同じ小さな三角が動いている。
服の下は見えないから何とも言えないけど、体の輪郭は丸みを帯びている印象。
足を見ると素足だけど親指の位置が人よりもかなり後ろに下がっていた。
それに踵も大分上がって足の甲が長く見えた。
極めつけは後ろから見え隠れしているふさふさした物。
長くはないけど振って見えるくらいには大きい楕円形の尻尾。
ぱっと見、獣人に思えた。
だけど以前の姿を少しだけ知っているから色々合点がいった。
「初めまして、ポーラです。マルテ、ですよね?」
「はい、私がマルテ…です。」
緊張、消沈、羞恥、何かしらの感情が見える彼女の仕草にどう接すればいいか分からない。
わたしは近づいて彼女の両手を手に取った。
「あなたが無事で良かったです。体を張って樹液を持ってきた甲斐がありました。今まで苦しくて辛かったと思いますがよく耐えました。そうそう真似できないことです、頑張りましたね……。」
何が正しくて間違っているのか分からない。
それでもマルテが命を落とすことなく戻って来たことを喜ばしいと思えた。
「あの、私。こんな姿になって嫌で、死にたいと、思ったけど、でも、あなたやマイルズさんが薬の材料を取りに行ってくれたことを聞いて。それにあなたはマティアスとの約束を守るために他の冒険者に傷つけられたと聞きました。こんな私の為に、嫌な思いをしても気遣ってくれるあなたがとても尊くて、自分の事しか考えられない私がとても恥ずかしくて!」
涙を流して上手く言葉にできないマルテをそっと抱いた。
「それでいいんです。色々な気持ちがあって当然です。だからこそあなたは自分の気持ちに正面から向き合ってください。何を感じて思って考えるのかはあなたです。わたし達はあなたが頑張ったことを知っていますから、何があっても味方です。」
「うううぅぅぅあああぁぁぁ……!」
彼女が泣いている間、部屋は彼女の声で満たされていた……。
彼女が落ち着くころにマティアスから話が振られた。
「こうして彼女の症状を止めることが出来たのは二人のお陰です、改めて感謝します。」
「俺とお前達の仲だからな!」
「それで例の件ですがもう一つだけ条件を出させてください。」
「まだ深刻な事態があるのか?」
マイルズも知らない様子。
「いえ、そうではありません。これは個人的なもの、ポーラと一戦交えたいのです。」
これにはわたしを含めて一同が驚く。
「え、わたしですか?」
「マイルズさんが気に掛けた人達は大体は何かしら惹かれるものがある。俺も今回の件でそれを感じた。それに一応騎士団を訪れるなら実力を知っておきたいと言うのもある。」
別に入団しようとは思っていないけど、それが条件なら受けるしかない。
「わたしは構いません。」
「あまりいじめてやるなよ?」
「それは彼女次第ですよ。」
マイルズとマティアスが冗談を言い合う。
マティアスの仲間達は特に異論はないらしい。
ただ、マルテだけは不安そうにしていた。
「ポーラさん、あなたは」
「どの道必要な事なら今すぐでも始めましょう……。」
これを聞いたエルケがわたしの背中をバシッと叩いた。
「意気があるね!気合があるのは良い事だよ!」
「ポーラ、それなら下へ向かうぞ。」
マティアスに先導されて冒険者ギルドの一階へ向かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




