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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
72/131

72話 見過ごすものと見過ごせないもの

本日もよろしくお願いします。

午前中にも投稿しましたのでそちらもご覧ください。


※20220701

70話 71話にも変更点を書かせて頂きました。

ナラカルカスの自生地の場所を変更しました。

南西→北

サブタイトル 71話 人助けのために 72話 見過ごすものと見過ごせないもの に関わる村の場所が設定と違ったために変更させて頂きました。

既に読んでくださった皆様、大変申し訳ございませんでした。

また、補足・蛇足も一部変更しました。

 帝都から馬車で数日、目的地付近の村に着いた。


 「明後日にはここを出発するからな。」


 「分かりました、間に合う様に行動します。」


 商人のおじさんは二泊三日でこの村に滞在してくれると言うから直ぐに行動に移さないと。

 彼は村長の所へ挨拶に行ったけどわたし達は村を抜けて山に向かう。

 正直、この村にあまり滞在したくなかった。

 何故なら湖を囲う様に畑や民家を立てて暮らす場所、ベーグル村だったから。

 こんな形でこんな場所を訪れるとは思いもしなかった。

 ポーラが嘗て生まれ育った村。

 わたしは一日しかいなかったから村そのものには思い入れがない。

 どちらかと言えば家族に対して複雑な思いを抱いていた。

 家族を売ったことへの失望感と復讐の道筋を付けてくれた事への感謝。

 ただ、よく知りもしない家族だったけどポーラへの接し方が違えばそもそも復讐はもっと早くに済んだのかもしれないのに。

 そんな感情を隅へ追いやり、山を登る。

 常に勾配があるわけじゃなく平たんな場所もある。

 場所によっては間伐している。

 足元の落ち葉を見ながら進むとナラカルカスの群生地に辿り着いた。


 「ここら辺が?」


 コウタが周辺を眺める。

 わたしは地面に落ちている茶色くて堅い小さな木の実を摘まみ上げる。


 「これがナラカルカスの実、これが落ちている木がそうだと言う証。」


 「これってどんぐり?」


 「どんぐり?」


 「いや、何でもない!じゃあ、そこの木を傷付ければ良いんだね?」


 「単に傷を付ければ良いわけじゃありません。出来るだけ筒が入る穴にして欲しいです。」


 「丸い穴にするってことか、結構難しいな。」


 「出来ないならわたしがやります。」


 「いやいや、俺できるから!任せて!」


 両手をブンブン振ったコウタは腰に吊るしたナイフの内、かなり細い刃を取り出した。

 コウタの腰と同じ高さにナイフを使って掘り出すように穴を作る。

 時間はあまり掛からず、必要な深さになった。


 「これでどうかな?」


 「良いと思います。」


 筒を差し込み木製の容器を地面に固定した。

 暫く待つと樹木に挿した筒から白い液体が流れ始めた。

 それが一滴、木製の容器の中に落ちた。


 「やった!やったよ!これが樹液が取れる瞬間かー!」


 「良かったです、今日はここで野営しましょう。」


 「え、これって今日中に取れるんじゃないの?」


 予想と違っていると言う顔をしたコウタだけど簡単に取れるものじゃない。


 「時間が経てばもう少し多く流れると思いますが、それでも多くないと思います。それにカップに一杯じゃ足りないかもしれませんし。」


 「そ、そうか。」


 「コウタだけでも村に戻って貰っても構いませんよ?」


 そちらの方が気が楽と言うもの。


 「おや、女の子一人を残すわけにはいかないよ。俺も残る!」


 「それは頼もしいです。」


 「へへっ!任せておいて!」


 張り切る彼だけど何もないことを祈りたい。

 わたし達は野営の準備をして交代で寝ずの番をした。

 寝る時は警戒したけど、コウタはわたしに手を出すことはなかった。

 ただ、挙動はかなり不振だったけど。

 夜が明けて樹液の採取量を見ると半分近く溜まっていた。

 出来ればギリギリまで欲しいけどまだ取れるかな?

 昼過ぎまで待ち続けると半分を超えた量に達したけどそこから樹液が出るペースが遅くなっていた。

 寧ろどれくらい待てば出るのかと思えるほど出なくなった。


 「これってもう出ない?」


 「そうですね……次の樹木に変えましょう。」


 コウタには手近なナラカルカスの樹木に穴を掘って貰っている間に筒を抜いた後の穴を埋める作業をした。

 と言っても適当な枝をナイフで加工して出来るだけ隙間を埋め、傷薬を塗った。

 傷薬自体は樹木に効果があるのかは定かじゃないけど隙間を埋めるには丁度いいはず。


 「そんなことをしなくてもいいんじゃないの?」


 「そのままにすると樹液が漏れ続けたり、虫に食われたりして木が痛みます。完全には防げませんが最低限の礼儀として補修はすべきです。」


 「へぇー。」


 興味を無くしたコウタは再び作業に打ち込んだ。

 二度目の挑戦も成功して樹液が出始めた。

 一本目の木と同じ量を採取出来れば丁度良い。

 昼食を摂り、暇な時間が来る。


 「そう言えば帝国には騎士団と魔法士団があるって聞いたけどポーラは知ってる?」


 「聞いたことはあります。」


 「やっぱり騎士とかカッコいんだろうなって思って。従士は街で見かけるけど鎧兜を身に纏った騎士は見たことがないから見たいなぁ。」


 「見に行けばいいのでは?」


 「実際に尋ねたら門前払いされちゃったよ。」


 「それは残念でした。」


 「でしょ!それと魔法士団も憧れていてさ。俺なんて魔法は使えないから実際に魔法を使えるところを見たいしどうせなら教えて欲しいなって思ってて!」


 「志願すればいいのでは?」


 「あはは、残念ながら俺は魔法が使えない体質らしいから多分ダメだよ。」


 「そうなのですね。」


 この世界に来たあと、彼らと夜に魔法を見て驚いた光景があった。

 わたし以外の三人の内、一人しか魔法を使っていないことから彼が言うのは本当のことかもしれない。

 何故使えないのかは全然分からないけど。

 わたしは鍛錬をしながら話しかけてくるコウタの話を適当に流した。

 そして夕暮れ。

 今日も野営、そのことに疲れた表情をするコウタだったけど不平不満を口にしなかった。

 そんな時。

 森の奥から何かの足音が聞こえた。

 それも複数。

 コウタも気づいたみたいで腰のナイフを取り出した。


 「ポーラちゃん、キャニプスが来てるみたい。それも六体。」


 姿は見えないのにどんな相手か、それと数も把握している。

 これが異界の勇者の力?

 キャニプスと言えば、オオカミ型のモンスターで上半分は黄色で下半分は茶色の毛並み。

 後ろの二本足は蹄で前脚の後ろには爪があり獲物を捕らえる時に伸びる。

 大群で迫られると負けるけど数匹ならどうにか潜り抜けられるはず。


 「それなら三匹ずつ相手にすれば」


 「いや、俺が全部相手をするよ。ポーラちゃんはここを守ってよ。」


 「無理をする必要は」


 「大丈夫だって!キャニプス相手なら俺で十分だ!」


 意気込むコウタはここから離れた場所で戦うために颯爽と駆けた。

 姿が見えなくなって暫くするとキャニプスの鳴き声が聞こえた。

 時間が経ってもキャニプスが来ないという事はコウタがちゃんと相手をしてくれているはず。

 向こうを気にしつつ周辺からもモンスターが来ないか警戒し続けた。

 更に時間が経つ。

 火を起こして枝を加工しながら待っていると向こう側から人影が見えた。

 既に夜になって長い。

 右手を振って笑顔を見せるのはコウタ。

 所々血にまみれているけど五体満足みたい。

 左手には何枚もの毛皮を引きずっていた。


 「ごめんごめん。毛皮を剥いでいたら時間が掛かって。」


 「いえ、寧ろ無事で良かったです。」


 「え!そう!いやぁ~えへへ!」


 顔を赤くして照れた顔をするコウタは毛皮を地面に置いてポケットから六本の爪を取り出した。


 「キャニプスを倒したらこれが討伐証明になるんだよね?」


 「毛皮もあるので十分だと思います。」


 「よし!」


 もしかしたらコウタは今回の討伐で進級できるのかもしれない。


 「血を拭ってからご飯にしましょう。」


 ご飯を食べたら既に月が天辺を過ぎていた。

 そんな時、コウタは何かを感じたのかキャニプスを倒した方角を見ていた。


 「あれ、あいつってあんなに大きかったっけ?」


 独り言を言うコウタにわたしは首を傾げる。

 直後、地面が小さく揺れた。


 「何か、来てる?」


 あまり良い予感はしなかった。

 それを確かなものにしたのはコウタの言葉だ。


 「ウルサクだっけ?クマみたいなモンスターが来てるんだけど普通の奴より体が大きくて。」


 コウタを信じるなら向こう側にはウルサクがいるらしい。

 ウルサク、クマ型モンスターで通常は体長二メートルほど。

 緑と茶色の斑になった体毛が特徴的。

 瞬発力はある方だからしっかり見て避けないと致命傷を負いかねない。

 地面の振動が少しずつ大きくなる。

 それは地震には程遠いけど木々に留まって眠っていた鳥達が飛び去っているのは分かった。

 もしかしたら他の小動物たちも逃げているかもしれない。

 ポーラの知識でも巨大なウルサクが生息していない。

 もしかしたら山奥に住んでいた個体が成長して大きくなった、と言うのが妥当かも。


 「それならここを離れないと!」


 急いで樹液の溜まった木製の容器に蓋をして筒を取り外す。

 穴は事前に加工した枝を入れて傷薬を塗る。

 荷物を急いでまとめて火を消す。

 ただ、コウタはわたしと違って緊迫した様子じゃない。


 「何をしているんですか?ここから離れないと!」


 「え?あいつも倒せばいいんじゃないの?」


 「倒せるならそうしますけどあなたには出来るのですか!?」


 わたし一人じゃ大きな個体相手は倒せない。

 前に倒した時は命からがらだった。

 今回はコウタがいると言ってもお互いに一撃の威力は大きくないはず。

 下手に傷つけて怒らせるよりはここを離れてやり過ごした方が良い。

 それに村の方へ行くともしかしたらウルサクも匂いを辿って追いかけてくるかもしれない。


 「多分勝てるんじゃない?」


 多分って。


 「じゃあ、行ってくるよ!」


 間髪入れずにコウタは再び向こう側へ走った。

 自信に裏打ちされた実力はあるのかもしれない。

 そう思ってその場で待機していると数分後、慌ててこちらへ走って来るコウタが見えた。

 同時に地面が揺れていた。

 そして彼の後ろを見ると暗がりだけど月明かりで緑と茶色の斑模様の体毛の巨体だと言うのは分かった。

 つまりウルサクを引き連れていた。


 「ごめん!やっぱりダメだった!」


 「はぁ!?」


 ダメって!

 自信満々に挑んだのに直ぐに引き返しただけでなくモンスターまで引き連れて来た。

 引き返したことは別に良かったけどモンスターを引き連れてくるなんてどういうこと?

 頭を抱えたくなるけどこの事態をどうにかしないと。

 樹液の容器を入れた背嚢を持って村との距離も取れる方向へ駆け出した。

 コウタもわたしのあとを追いかけてくる。

 どうせならそのままウルサクの餌になればいいのに。

 そう思っていても流石異界の勇者、逃げ続けるだけの身体能力は持っているみたい。

 わたしとの距離があったにもかかわらず彼は追いつき、話しかけてきた。


 「意外と体が硬くてね!全然ナイフが通らなかったよ!」


 「そうですか。」


 先手必勝と言わんばかりに攻撃を仕掛けたらしいけど傷をつけられず、直ぐに引き返したらしい。


 「ところでウルサクがこの場所に来た原因は分かりましたか?」


 何となくで聞いてみると驚きの返答だった。


 「キャニプスの死骸を食べていたからお腹が減って匂いを辿ってここまで来たんだと思うよ?」


 ……。


 「死骸を処理しなかったのですか?」


 「え?そのまま放置していいんでしょ?」


 「良くないですよ!こうして他のモンスターや動物が匂いを辿って近寄って来るから!」


 「へー、そうだったんだぁ。」


 かなり暢気にしているけど、危険な事態を招いたことに自覚はないらしい。

 それに話している間にウルサクが追い付いてきた。

 振り向いて見るとコウタが言った通り、普通のウルサクの二倍は大きい。

 ウルサクが接近するタイミングを見る。

 …。

 ……。

 今!

 前脚を伸ばして引っ掻けようとしたところでわたしは横へ飛んだ。

 コウタも同じように避けていた。

 俊敏性、持久力、気配感知が優れているらしい。

 暗殺を仕掛けても避けられて返り討ちにされるかも。

 地面に転がりながら受け身を取ってショートソードを構える。

 コウタも同様にナイフを構えた。

 あまり手の内は晒したくないけど死んでは元も子もない。

 ウルサクは首を振ってどちらを攻撃しようか迷っている。

 そこへコウタが踏み込んだ。


 「おりゃ!」


 ナイフを顔に向けて振りかざそうとしたけどウルサクが気づいて左前脚で振り払う。

 ナイフと爪が触れたのか硬いもの同士の音が響く。

 仰け反ったコウタに襲い掛かるウルサクだけどバランスを崩した相手はそれを気にすることなく片足だけで大きく後方へ飛んで回避した。

 その隙に左手にショートソードを持ち替えて、右手に魔力で風を作り出す。


 「ウィンドカッター!」


 詠唱と共に右手を振り上げて風の刃を放った。

 それは真っすぐウルサクの背中に飛んでぶつかった。


 「!?」


 直撃したけど風の刃が霧散した。

 見た目からでは大した傷を負わせていない。

 やっぱり体毛の一本一本が太いし覆いかぶさるように生えているから簡単に皮膚には届かない。

 実体剣にしても表面の脂があるかぎり上手く斬りこむことが出来ない。

 狙うなら体毛が薄い腹か口の中。

 どちらも簡単に攻撃させてはくれなさそう。

 ウィンドカッターを放ったわたしが気になったのか次はわたしに向かってきた。

 短い距離を一瞬で詰めるウルサク。

 体格が大きくて迫力があるけど!

 ウルサクの目の前で体勢を崩して下へ潜り込む。

 タイミングが遅かったら咬まれたか引っ掛かれたかもしれない。

 でも運がいい。

 そのまま仰向けになってショートソードで腹に斬り込む!

 ウルサクがそのまま通り過ぎる勢いに任せて剣を立てたけど手応えはあまりない。

 完全に空が見えたと同時に立ち上がるけど体に衝撃が走った!

 右側から何かにぶつけられた?

 風景がぐるぐる回る、全身が地面にぶつかっている!

 転がる勢いは別の何かによって受け止められて収まった。

 ただ受け止めてくれたのはナラカルカスの樹木みたいでぶつかった衝撃を身に受けた。


 「がふっ!?」


 早く体勢を直さないと転がって来た方向を見るとウルサクが追撃をしかけてこようとした。

 だけどそれよりも早くコウタが割り込み注意を引いてくれていた。


 「ポーラちゃん大丈夫!?」


 大声で声を掛けてくれるけど体中に受けた衝撃が痛い。

 よく見るとローブが引き裂かれていた。

 着ているコルセットや服も破けていた。

 多分後ろ脚か前脚で攻撃されたらしい。

 後ろ脚ならかなり器用な個体だ。

 幸い、背嚢と中身の木製容器は無事。

 それにしても痛みを耐えるために蹲りたいけどそんな場合じゃない。

 呼吸を意識して整え、何度も繰り返すうちに落ち着いてきた。

 だけど痛みはある。

 ふらっとしちゃうけど気力を振り絞れ!

 攻撃魔法は背中から仕掛けても体毛で防がれる。

 剣やナイフも同様。

 火を見せても臆さない。

 より強力な一撃、質量か勢いがあれば倒せそうだけどわたしもコウタも持ち合わせていない。

 いや、持っているけどあれは使いたくない。

 場所が場所だから山火事に繋がりかねない。

 あとは試せることは魔力操作だけ……。

 コウタが何か持っていると良いんだけど。


 「コウタ!あなたは何か道具を持っていませんか!?」


 声を張って聞いてみるとコウタを狙うウルサクの攻撃を捌きながらも答えてくれた。


 「えっと!ナイフとロープ!ポーションに水筒!それから携行食!」


 ダメだった。

 覚悟を決めるしかない。

 ゆっくり彼らに近づくけど、コウタは余裕の笑みになっていた。

 さっきから時々、ウルサクの口の中に何かを放り込んでいるように見える。

 手先が器用なのか見ている限り全て納めている。

 あれって……?

 暫くするとウルサクの動きが鈍っていた。

 勿論、未だに力はあるし動いているためコウタは避け続けていた。

 更に時間が経過。

 既に夜が明けようとしていた。

 その頃になるとウルサクが苦しそうにしていた。

 口から唾液が出ているけど、とても食欲が湧いているようには見えない。

 そもそも最初のような力強い動きは感じられない。

 自身の状態を理解したのかウルサクはその場から離れようとした。


 「逃がすか!」


 コウタは腰のポーチからハンマーを取り出した。

 以前鍛冶工房で見かけた片手で扱うハンマーと同じくらいの大きさ。

 見た目も鉄と木材で出来ているように見えた。

 逃げる相手の背中に飛び乗り、上から頭に目掛けてハンマーを振り下ろした。


 「おおおおおおお!」


 ハンマーが命中したのか硬いものが陥没したような音が聞こえた。

 だけどコウタは何度も叩いた。

 ウルサクは最初に叩かれて直ぐに体から力を無くして巨体を地面に卸していたけどそんな状態でも彼は暫く叩き続けた。

 わたしは黙ってその様子を見ると彼は跨ったウルサクが動かないことに気づいて漸く手を止めた。


 「あ、動かなくなった。」


 彼は灰色の血を顔に飛び散らせながらわたしに向かって笑った。


 「案外どうにかなるものだね!」


 そう言って彼は降りて死骸を蹴り飛ばした。


 「人間様に楯突くからこうなるんだぞ!」


 何度蹴られても動くことはない。

 ウルサクに対して不憫だと思わないけど笑っている彼の顔が不気味に感じた。

 昔からこんな風に笑う男だった?

 目の前の男と記憶にある男は同一人物だけどまるで別人じゃないかと思えた。

 だけど今はここで茫然と立ち尽くす暇はない。


 「時間もないから処理します。」


 コウタに手伝ってもらい毛皮を剥いでそれ以外は予め購入した木製のスコップを使って穴を掘って埋めた。

 ただ、スコップは小さいため広く浅く掘って出来るだけ山にならないように死骸を分解してから土を掛けたと言うのが正しい。

 匂いを辿って他の動物やモンスターが寄って来る可能性はあるけど落ち葉をかければ匂いは抑えられるはず。

 一連の作業が終わるころには既に朝日が昇っていた。

 今日はベーグル村から商人が出発する日、急がないと!

 わたし達は荷物を持って急いで山を下りた。

 太陽が天辺に昇る前に村へ辿り着き、商人の出発にも間に合った。


 「遅かったじゃないかって大丈夫か?」


 「ええ、こちらは大丈夫です。それに村にモンスターが来ることはないと思うので。」


 「それなら構わないが。」


 近くにいた村長も安心した。

 六十代の男性である村長、と思ったのは単に商人の近くに居たから。

 他の人達は少し距離を置いていた。

 村の人間の大半がここで見送りに来たらしい。

 ザっと見回すと見知った顔もいた。

 それはポーラの家族だったお母さんと二人のお兄さんと二人のお姉さん。

 お父さんは多分仕事をしているのかな。

 今のわたしは頭からローブを被っているため顔は見られない状態。

 だから、向こうからポーラだと思われることはない。

 それに会ったところで話をする必要がない。

 たった一日しか過ごさず、翌日にわたしを売った人達と何を話すのか見当もつかない。

 仮に彼らが家族として迎え入れようとしたところで信用できないし、やることがあるから留まるつもりもない。

 偶に家族を考えることがあったけどポーラの家族はわたしにとっては他人であり、過去だった。

 彼等にも不幸を味わってもらおうと思わない。

 そして彼らが今後どんな人生を歩むのか心底どうでも良かった。


 「商人さん、それではお願いします。」


 「ああ、こちらもよろしくな。」


 わたし達は幌馬車の荷台に乗せてもらった。

 荷物が幾つか乗っているけど二人が座る空間は確保されていた。

 だけど討伐部位の毛皮が嵩張(かさば)って匂いが籠る。

 わたし達が乗ったことを教えると商人が馬車を出発させた。


 「あー、疲れちゃったよ。どうせならこの村を見たかったな、ポーラちゃんもそう思うでしょ?」


 「別に……。」


 「そっかぁ。」


 後ろを見ると距離は開いたけどコウタの大きな声が聞こえていたのか村人がざわついたのが分かった。

 余計な事を言って……。

 口止めの必要はないと思ったけどこんなところで言うとは。

 勿論ポーラと言う名前も他にいるはずだから同一人物とは限らない。

 ただ、この村の人間がどう感じるのか。

 ざわつく村人達の中に埋もれた嘗ての家族達はとても気まずそうな顔をしていた。

 それが最後に見る家族の顔だった……。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




補足・蛇足(飛ばしても問題ありません)

※70話~72話時点でベーグル村の位置が過去の話と矛盾していたためここで書いた内容も変更させて頂きました。

 また、ここでも適当な事を書いてしまい申し訳ありませんでした。


ポーラの生まれ故郷であるベーグル村は帝国領のかなり北側に位置しているのですがそもそも帝都もわりと北側にあると言う設定です。また西側にサンデル王国がありますが二国の間に大きな山脈が通っており、強いモンスターがたくさんいるため両国とも気軽に足を踏み入れることはせず、互いの防衛線にもしています。肝心のモンスター達は単純に人里へ下りなくても生活できるために殆どは山で一生を過ごす状態です。ベーグル村の傍の山は大きな山脈の手前にある山でその山も繋がっていますが強い個体は一切いないです(単純に弱い個体が追い立てられた場所でもあり、滅多に村に顔を出さないため当時のポーラが森で遊んでいても襲われる危険性がなかった)。

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