70話 条件
本日もよろしくお願いします。
※20220701
ナラカルカスの自生地の場所を変更しました。
南西→北
サブタイトル 71話 人助けのために 72話 見過ごすものと見過ごせないもの に関わる村の場所が設定と違ったために変更させて頂きました。
既に読んでくださった皆様、大変申し訳ございませんでした。
夜に通り魔と遭遇した次の日。
今日は冒険者ギルドへ行こう。
日課の鍛錬を済ませて身支度をしたら、多くの人達で賑わう外へ出た。
そう言えば朝から出かける人達の中には一般区域内に作られている畑作地帯で農作業をしていると言う。
その規模は分からないけど結構な人達が動員されているからある程度は作られているのかな。
彼らとは違う方向へ向かうと武器を携えた同業者達も冒険者ギルドへ歩いている。
大抵の冒険者ギルドは依頼の取り合いだったり日帰りで仕事をしたい人達にとっては朝と言う時間帯は重要なのかもしれない。
帝国で一番大きな冒険者ギルドの門を潜ると多くの人達で賑わっていた。
既に列も出来ていて依頼の受付処理が順次行われている。
わたしも受けられる依頼を探さないと。
多くの人達で群がる掲示板を眺めると後ろから声をかけられた。
「おはようポーラ、今日は仕事か?」
男性の声、振り返ると初日に面倒を見てくれたマイルズが笑顔を向けていた。
朝から元気な人、なんて思った。
「日銭を稼がないと食べていけないので。」
「確かに冒険者は常に働かないとな!と言っても休みも必要だから適度に仕事をするのが一番だな!」
確かに彼の言う通り、毎日動いていたら疲労が溜まって咄嗟のときに動けなくなるかもしれない。
「その通りかと。」
「それで何を受けるんだ?」
「何にしようかな……。」
特にこれと言うのがないから余計に迷ってしまう。
昨日は魔法士団や騎士団の区画には許可が下りなかったし帰りに通り魔に襲われて剣で戦ったから日帰りできそうな場所の依頼が良いかなぁ。
と思いつつ決心がつかない。
「あの、マイルズ。少しお話をしたいけど良い?」
「ああ、勿論良いとも。」
わたしとマイルズは掲示板から離れて空いているスペースに移った。
「それで話っていうのはなんだ?」
「ちょっとした雑談を。」
昨日までに聞いた騎士団と魔法士団の情報の再確認をした。
マイルズからもそんな感じだなと言われたので簡単に敷地を跨げないことに落胆した。
騎士団に関して構成員には貴族出身者もいるけど大半が庶民から募っており、実力主義で成り上がることがよくあると言う。
貴族出身者の場合は騎士から始まり、庶民は従士(兵士)から始まると言う。
従士から騎士になるのは出来るけど爵位を貰うことは基本的にはない、と言うのは今の時代の話らしい。
また、貴族出身者の騎士は功績を挙げれば親とは異なる爵位を貰うことができて場合によっては皇帝を守る近衛騎士団に所属することができるらしい。
一方の魔法士団は逆に構成員の殆どが貴族出身者で庶民は少数らしい。
また魔法士団を束ねる代表を団長、その補佐を副団長、それ以外は魔法士と呼ばれている。
その魔法士の中で何かしらの派閥や部門があるらしいけど市井には伝わらないとか。
「騎士団の出身者の元の身分を考えると反乱もあり得そうですけど実際はどうなの?」
「それは危惧されていないな。偏に皇帝と団長への忠誠や信頼が厚いからな。今回はサンデル王国との戦争は引き分けに終わって鬱憤の溜まっている団員もいると聞いたがそれでも団長が宥めたから表立っての不満の声は上がっていないとか。」
「そうなんだ、魔法士団も同じなの?」
「あっちも被害はあったが貴族ばかりだからか同じように不満の声は表に出ていないとか。」
「なるほど……。実は知り合いが騎士団と魔法士団に所属しているらしくて、彼らに会うために昨日それぞれを訪れたら門前払いで。」
「そうだったのか!まぁ、帝都内でも不穏な動きがあるかもって噂があったから余計に気を引き締めているのかもな。従士相手なら家族が会えるかもしれないが知り合いだと巡回しているところへ出くわさないと難しいかもな。」
「はぁ、ダメそう……。」
「二人とも村の出身か?」
「元はそうですね、多分貴族に引き取られたと思うのでもしかしたら一人は騎士になっているかもしれない。」
「うーん……。」
マイルズは何やら唸っている。
何かある?
わたしとマイルズでは身長差があるため、相手の顔を見る時は上を見ないといけない。
そう言えば今のわたしの背丈ってこの国だと平均なのかな?
マイルズみたいな男性はわたしより背が高いから判断基準として難しい気がする。
一方で、街で見かける女性達の中にも背の高い人は居る。
そう言う人の割合は多くない気がするから女性だけなら平均よりも少し高いかも。
それでも平本慎吾……よりは低いかな。
かなりどうでもいいことを考えていたらマイルズは困った顔をした後に意を決した表情になる。
「ダメ元で話を振ってみるか。」
「?」
「知っている人が帝都にいるなら会っておかないと寂しいだろ?ちょっとついて来い。」
マイルズは冒険者ギルドの脇の階段を登り始めた。
確か普通の冒険者は入ることが出来ない場所じゃなかったっけ?
そう思いながら二階、三階と上がる。
三階に入ると幾つもの扉が並んでいる。
予想以上に長い廊下、その中央の一際豪奢な扉の前に来るとマイルズはノックをした。
「マイルズだ。」
「入れ。」
部屋の中から渋い声のおじさんの声が聞こえた。
「失礼する。」
「お前が来るなんて珍しいじゃないか。」
「まぁ、用があれば誰だって来るだろう?」
部屋の奥には書類が積み上げられた机があり、その隙間から顎髭を生やした四十代のおじさんが居た。
服装は厚い生地に整った刺繍が施された衣装。
外で動ける服装ではなく、貴族が外を出歩くときの服装に思えた。
「この冒険者はポーラ、少し前に帝都に来た中堅冒険者だ。」
「初めまして、ポーラと言います。」
「それでそこのおじさんがここの冒険者ギルドのマスター、フーベルトだ。」
マイルズがお互いを紹介した。
え、この人がギルドのマスター!?
部屋の中はシンプルながら調度品が置いてあり、庶民の家にはなさそうな細工の良い物が並んでいる。
「それで用件はなんだ?」
「上の階にいるマティアスに用があるんだが、今いるか?」
「あいつか、ギルドから依頼を出していないからいるはずだ。」
「そうか、序に訪問許可をくれ。」
「お前なぁ……。最高等級の青になれば出入り出来るからさっさと申請しろよ!」
「俺はこれくらいが丁度いいんだよ。」
「何が丁度いいんだ!毎回許可証を渡す身にもなれ!」
フーベルトは引き出しから一枚の羊皮紙を出して何かを書き出し、印を押した。
「こっちに来い!」
半分投げやりなフーベルトから羊皮紙を受け取るマイルズ。
「それが許可証?」
「そうだ、普通は一階の受付で申請してからじゃないと許可が下りないが今回は特別だ。」
「何が特別だ!毎回俺に書かせやがって!」
「いいだろうこれくらい、持つべきものは友だな!」
「俺は便利屋じゃないぞ!」
「毎回俺の我儘を聞いてくれてありがとうな。」
「ふん!そう思うならさっさと最高等級を申請しろよ!」
「俺よりも若い奴らに期待してくれ。」
「そうなると良いな!」
これで彼らの会話に一区切りつき、部屋をあとにした。
「マイルズって凄い人だったんだ。」
「凄い、かどうかは分からないな。偶々友達がギルドマスターになったってだけだから凄いのはあいつの方だ。」
「確かにそれもそうだけど。それに申請するだけで最高等級の青になれるって聞いたけどならないの?」
「あぁ、それは大した理由じゃないが性分じゃないんだ。」
「性分?」
「青になると確かに依頼報酬は上がったり、指名依頼もあるから生活費を稼ぐならなるべきかもな。だけど、その分縛りも多くなるからそれが好きになれなくてな。今くらいが自由に動けるから進級の必要も感じていないってわけだ。」
「そうだったんだ……。」
マイルズみたいのは冒険者の中では珍しい方なのかもしれない。
別に彼は他人のことを見下していることはなく、飽く迄自分の理想を求めているだけ。
そして、多分後世の育成とかに力を入れたいのかもしれない。
「あ、これはあまり言わないでくれよ。面倒事の種になるから。」
「分かった。」
わたし達は改めて階段を上がった。
最高等級の青を持つ冒険者達が住むと言われる六階まで来ると受付嬢と見張りの冒険者がいた。
「マイルズさん、珍しいですね。」
中堅の男性冒険者がマイルズを見て声を掛ける。
「ちょっと上に用があってな。これ、許可証だ。」
「ちょっと待ってくださいね。」
中堅の男性冒険者は受付嬢に渡す。
「問題ありません、どうぞ上がってください。」
「ありがとう。」
わたしもお辞儀をしてマイルズについて行く。
七階、八階を通り過ぎて九階で足を止めた。
一本の廊下の幅は三階よりも大きく、部屋数は少ない。
片側四部屋ずつで一階層八部屋。
その内の一室でマイルズがドアをノックする。
「俺だ、マイルズだ。マティアスいるか?」
暫くするとドアが開く。
「マイルズさん、どうされましたか?」
汗だくになった上半身裸の男性が現れた。
プラチナブロンドのミディアムヘアーを頂点に紐で結んでポニーテールにしている。
顔は整っている方で細い顔つきが女性受けしそう。
体つきも程よく筋肉が付いていて日々鍛えているのが分かる。
「あぁ、ちょっと頼みごとを聞いてもらいたくてな?」
「頼み事、ですか……ちょっと待って貰っていいですか?汗を拭きますので。」
「ああ、問題ない。」
二人で待っていると白を基調とした服のマティアスがドアを開けて招いた。
部屋に備え付けられた左右に開いた小さな窓を開け放っている。
風が流れており、鍛錬をしていたマティアスの汗の匂いが薄まっている。
ベッドとテーブル、チェア以外に三段の引き出しと大きなクローゼット、床には練習用の木剣に仕事で使う武器と防具が置いてある。
チェアは五席あり来客も想定しているみたい。
「そこに掛けてください。」
マイルズに倣ってわたしも座らせてもらった。
「それで頼み事、とは?」
「実はな―――」
わたしの話をするとマティアスは複雑な表情をした。
「まさかそういうことで頼られるとは思いませんでした……。」
想定していた事と違うようでわたしも申し訳ない気持ちになる。
「俺が頼める相手は他にいないんだ、頼むよ!」
拝むマイルズに席を立ってわたしも頭を下げる。
「お願いします。彼らの安否が気になりますので……。」
それでも悩むマティアス、大きな息を吐いて顔を上げた。
「出来ればマイルズさんのお願いにも協力したいのですが本当は家の名前を使いたくないのです。」
「そうかぁ……。」
それを聞いてマイルズは肩を下げて落胆する。
赤の他人の為に心情を曲げさせる訳にはいかない。
寧ろ話を聞いてくれただけでも感謝しなければ。
そうなると魔法士団や騎士団の区画に侵入するしかない?
だけど彼らの真意が分からないから侵入して即殺す、なんて訳にはいかない。
それに逃走ルートも確認しないと。
でも仮に彼らが黒で命を奪うとしてもどちらも距離があるから追手に追いつかれる可能性は大きい。
例の通り魔が逃げ切っているから帝都の包囲網は案外荒いのかも?
或いは通り魔にはノウハウや伝手があるからどうにかなっているとか、それならわたしは真似できない。
それにコウタ・タケダもいるから慎重にことを進めないとサンデル王国への復讐も果たせない。
地道に情報を集め直して機会を窺うしかないのかなぁ。
あまり時間を掛けたくないけど諦めたり自暴自棄になって良いわけじゃない。
「マイルズさん、一つ聞かせてください。」
悩んでいるわたしを他所にマティアスはマイルズに訊く。
「あなたはこの子を気に掛けているみたいですけど、何かあるのですか?」
どうやらわたしの事らしい。
マイルズの顔は一瞬で戻る。
「本人を前に言うのは良くないけど、多分マティアス達ほど戦う才能はないと思う。」
確かに本人を前に酷評をするとは、良くも悪くも裏表がない人だと思える。
「だけど、人一倍頑張っているのは分かる。実際に俺も驚くことがあったからな。」
「それは?」
いや、この人あれを言うの?
「それは秘密だ。」
「そうですか。」
確かにあれは秘密にするほどじゃないと思うけど正直心臓に悪かった。
「それに何か強い意志も感じる。俺達は冒険者だから他人の事情に足を踏み入れないから俺も分からないが。それでもなんでかな、放っておけなくて。」
明確じゃないけど見抜かれている。
やっぱりこの人は他のベテラン冒険者とは違う気がする。
真剣な目でわたしを評価しているマイルズを見てマティアスは小さく息を吐く。
「あなたに面倒を見られて等級を上げた人達は多く居ます。俺もその一人です。そして感謝しています、あなたがいなかったらここまで上り詰めていなかったと。」
「俺はそこまで大層な人間じゃない。皆が優秀だった、それだけなんだ。」
「そんなことはありません、あなたの功績は計り知れないと俺達は思っています。そんなあなたが評した冒険者であるなら。」
わたしを見るマティアス。
「その冒険者に条件を出したい、それならあなた達の依頼を受けましょう。」
わたしとマイルズは見合って、彼は嬉しそうな顔をした。
「それで、どんな条件なんだ?」
「マイルズさんも御存じだと思いますが、先日俺達は指名依頼を受けて北西に出現したモンスター、メディウムマイリスの群れを討伐しに行きました。」
「そう言えば他の冒険者達も噂していたな。十体以上現れたって。」
「そうですね、実際に討伐した数は二十体でした……。」
「そんなにいたのか!?」
「何処から湧いて出て来たのか結局分からず仕舞いでした。」
「それでもマティアスのパーティーは六人だから凄い成果じゃないか!」
「そう言って頂けると嬉しいです。」
「まさかメディウムマイリスが何処から来たのかを調べるってことか?」
メディウムマイリス、似たような響きのモンスターを聞いたことがあるような。
全然イメージできないわたしを置いて話は進む。
「いえ、それはどうしようもないので気にしないでください。」
「そうか。」
「メディウムマイリスを討伐した直後の話になりますが、俺達はあの時油断していました。強敵を倒しきったからと言っても森の中、もっと気を付けるべきでした。」
「何かあったのか?」
本題はここからみたい。
「奴らを討伐した直後、ニクテプロキデに襲われました。」
またまた知らないモンスターの登場。
何も知らないわたしに気が付いたマイルズが教えてくれた。
「最初のメディウムマイリスって奴は赤いスライムみたいなモンスターが人間やモンスターの骨に取り付いて動く凶悪なモンスターのことだ。それより緑の弱い奴をインフェリアマイリスって呼んでいるな。」
あぁ、最初の町で襲撃してきたあれの親戚なんだ。
緑や赤の等級の冒険者が束になってなんとか勝てた相手、それより強くて数も揃っていた上位体を青の等級の冒険者六人で討伐。
メディウムマイリスがどれくらい強いのかは分からないけど青の等級を持つ冒険者が凄いという事はわかった気がする。
「次に出て来たニクテプロキデってモンスターは四足歩行で体毛が草に覆われている。それと尻尾は丸みを帯びていたり耳は小さな三角形が特徴だな。普段は人前に出てこない奴らなんだが。」
ぱっと見は犬に近いらしいけど丸みを帯びている体型と付け加えられた。
マイルズがわたしに説明を終えるとマティアスは続けた。
「そのニクテプロキデは撃退しましたが、仲間の一人が攻撃を受けて毒に侵されました……。」
それを聞いたマイルズが驚く。
「あまり人を襲うって話を聞いたことはないがまさか襲撃を受けるなんて……。」
「ええ、不甲斐無いばかりです。」
「それでその仲間の容態は?」
「今は部屋で安静にしていますが毒の影響で少しずつ症状が進行していますね。」
「早く直さないと危険じゃないのか!?」
「そうなのですが、街の薬師に材料は教えて貰えたのですが在庫がないと言われて他の仲間と手分けして調べました。それらはフォエネルムとナラカルカスと言います。フォエネルムは南西の平野でナラカルカスは北の山岳部に分布していることまでは分かりました。」
「南西部と北部、細かい場所にもよるが国境に近いな。それでも直ぐにでも採りに行かないと!」
「ですが、昨日指名依頼が来まして。またもメディウムマイリスが出たと……。」
「依頼より仲間を助けないと!」
「分かってはいます!だけど指名依頼を断ると等級を剥奪されます。しかも他の青の等級は全員出払っていると言われました!奴らを放っておくと村や町が壊滅させられます……。」
悲痛な表情を受かべるマティアスにマイルズは直ぐに言えなかった。
彼は仲間と村や町の人々を天秤に掛けている。
或いは双方から板挟みにあっている。
しかも指名依頼と薬の材料の場所は違うために、どちらにしても時間が掛かってしまうと言う。
「それで条件ってやつか。」
ここまで話を聞いて得心したマイルズは落ち着いて耳を傾けた。
「はい、条件と言いましたが実際はこちらからのお願いです。どうか、マイルズさんの力を貸して頂けないでしょうか?」
頭を下げるマティアスにマイルズは即答した。
「何を言うかと思えば。困ったらお互い様、だろ?俺とお前の中だ。助けるのは当然だ。」
「あ、ありがとうございます!」
余ほど嬉しかったのか、それに加えて少し肩の荷が下りたのかマティアスは涙を浮かべていた。
「それなら俺とポーラで取りに行く。他にも持っている情報があれば直ぐに教えてくれ、早急に準備をして向かわないとな!」
「はい!」
「ポーラもそれで構わないな?」
「ええ、マイルズが大丈夫と言うのであれば。」
マイルズを完全に信頼しているわけではないけど、彼の性格上出来ないことはさせないとは思う。
「では、部屋を移します。」
わたし達は別の部屋に向かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




