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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
異世界と言う現実
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7話 歴史の1ページ

皆様こんばんわ。

本日もよろしくお願いします。

 魔鉱石の壁を退けて一眠りすれば眠気も飛んで疲れも無くなっていた。

 体の動きを確かめてから青い剣が手元にあることを確認して先へ進んだ。

 この通路も魔鉱石が所々顔を出しているから思ったほど暗く感じない。

 変わらない風景を暫く進むと朽ちた木製のドアが見えた。


 「こんなところにドア?」


 ここまで洞穴はあっても人の手で作り出したドアは見かけなかった。

 人工物と言えばコボルドやゴブリン達が持っていた武器や防具くらいのものだ。

 疑問に思いつつ、俺は扉を静かに開けた。

 朽ちているとは言え崩れたり、そもそも開かないと言うことはなかった。

 扉の向こう側は真っ暗だった。

 ここには魔鉱石が出ていないようだ。

 俺は通路へ戻って手頃な魔鉱石を拾って再び中を探索した。

 手元の魔鉱石だけでは空間全体を灯せないが光を全周囲へ当てる限り、小さな平屋の中に見えた。

 水道がなく釜土がある調理場、ボロボロのベッド、机、小さな本棚、四角いテーブルに椅子が四つと簡素な作りだった。


 「誰か住んでいたのか?」


 朽ちているとはいっても形が崩れているわけではなく、埃が積もってそのままになっている。


 「何かあるのか?」


 俺は本棚に目を付けて何冊か本を手に取った。


 「そう言えば文字は読めるんだっけ?」


 この世界に来てから現地人との会話は出来たが文字は見なかった。

 座学もあったがあれはイラストを用いて説明していたため文字を目にすることは・・・。


 「そう言えばサンデル王国と周辺国の名前が書かれた地図を見たな。」


 座学の中で一度地図を見る機会があった。

 と言っても短い時間でそれ以外で文字を見た機会もない。

 王城の蔵書はあの時は見ることはなかったのもある。

 取り敢えず手に取った本を開けば文字が書いてあった。

 そして読み方は分からないが意味はなんとなくだが分かった。


 「召喚魔法に付与された効果に読術もあったのか・・・。」


 異世界の言葉を話せるのも今みたいに文字を認識できるのも召喚魔法に付与された効果だと思えば納得できた。

 ただ、アニー達からそう言った説明は受けていないから想像の域を出ない。

 それよりもこの本の内容は・・・料理の本だった。

 郷土料理からお手軽料理まで色々と書かれていた。

 他の本は森の生態系の調査やら他国の風土調査とかだった。

 どれも今後の役に立つかもしれないが全ては持っていけない。

 一度本棚に戻したが、ふと机に引き出しがあるの気づいた。


 「何があるやら。」


 引き出しの中を見れば一冊の本が眠っていた。


 「どれどれ・・・。」


 俺はその本の最初のページを開いた。




 ―この記録は嘗て栄えたエイブラス王国の最後と英雄ジャック・キャロトンを残す―

 著者 コーディ・ランバーグ




 一通り目を通して大まかに把握するとこういうことなのか・・・。




 エイブラス王国は大陸歴三百十二年から五百四十年までは栄えていた国である。

 エイブラス王国はモンスターの調査が盛んな国で冒険者という職業と組織を作って広めた歴史を持っている。

 周辺諸国との仲も良く、百年くらいは他国との戦争をしていなかった。

 しかし、エイブラス王国と周辺諸国を脅かす敵が現れた。

 それが『邪神カタストゥ』である。

 どこから出現したのかは不明だったが見たこともない軍勢を率いて侵略を始めた。

 これには周辺諸国と協力して撃退に当たったが『邪神カタストゥ』の勢いは止められなかった。

 その時、後の英雄と言われるジャック・キャロトンとその仲間が邪神退治に向かい、見事討ち果たした。

 その時の仲間の一人がこの著者でもあるコーディだと言う。

 彼は俗にいう賢者で魔法への探求心が強かった。

 そんな彼がジャック達と共に邪神を討ち果たしたのだから実力は折り紙付きだろう。

 その時のジャックの愛用した剣が『ジャクバウン』と言う青くシンプルな剣だった。

 邪神が消滅し後の数年は何事もなかったがドゥーマンエイジ五百四十年に突如各地でモンスターの大量発生が確認された。

 しかも各国の主要都市を狙っていたという。

 各国は総動員して事に当たったがどの国も連絡が途絶えてどうなったか分からない。

 英雄ジャックも国を守るために奮闘したが戦闘中に致命傷を負ってコーディにジャクバウンを託したそうだ。

 コーディは命からがらに森の中にあった隠し小屋へ逃げ込んだが直後に地面が揺れて地中へ埋まったらしい。

 魔法で地上への洞穴を作って外を見たが都の方は既に陥落していたようだ。

 一方で地中の中で魔力反応を感じたコーディはその方向へ何日もかけて魔法で穴を掘ってみれば魔鉱石が大量に発生した大空間が広がっていた。

 数日間の調査をしてダンジョンだとわかり、ジャックから預かったジャクバウンの保管場所を選定した。

 その過程で近くにいたオーガを捕獲して傀儡にしたようだ。

 ジャクバウンはオーガを見つけた空間の隅に造った小空間の中で眠らせてオーガに守護させていた。

 小屋が形を保っていたのはコーディが編み出した保存の魔法が働き続けているようだ。

 小屋を残したのは手記を残すため。

 そうしてコーディは手記を纏めてこの世を去った。




 ジャックについてはお人好しで仲間想い、決めたことは最後までやりと通すという男だった。

 彼が数々の依頼をこなして竜を討伐した功績。

 当時、周辺国をも脅かした『魔王』の討伐の手助けをしたり貧困に瀕した村々へ食料を運んだりしていたことも英雄としての評価された要因だったとか。

 多くの仲間もおり、どんな困難も打ち破った男でも物量には勝てなかった。



 

 エイブラス王国、座学の中では名前は出ていなかった。

 既にほろんだ国だから教えなかったのか、元々知らなかったのか。

 英雄ジャックも出てきていない。

 それとコーディはモンスターの大量発生を『厄災』と表記していたが座学でも教わらなかったな。

 都合が悪いのか資料が残っていないのか。

 結局この時代の事はここに記されていることが真実なのだろう。

 少なくともジャクバウンとオーガは存在している。

 これが何よりの証拠だった。

 コーディの無念を思いつつ俺は手元の青い剣、ジャクバウンを眺めて別のページを探した。




 ジャクバウンは特殊な剣でこの世界の金属『バウン』と呼ばれる加工の難しい素材を使って作り上げた武器らしい。

 持ち主のジャックと主原料のバウンでジャクバウンと言う・・・。

 特殊な金属は大体がドワーフが加工できる技術を持っておりジャクバウンも同様だった。

 それとあるドラゴンの一部も材料にしたことでメタリックブルーになったとか。

 しかし、見た目だけではなく放置すれば周辺のモンスターどころか草木や地面にも影響を与える強大な剣になってしまったため常に持ち主が魔力で抑え込む必要が出てきた。

 その後に特殊な秘術を継承している人族の力を借りて剣刃に紋様を刻んだことで持ち主の負担がほとんどなくなったが持ち主の手から離れると途端に周囲へ魔力をまき散らす厄介者であることに変わりはなかった。

 だから、死ぬ直前まではジャックが持っており、その後はコーディによって地下に封印された。

 と言う経緯らしい。

 持ち主の認識ってやつはどうなっているのか分からないが少なくともそこのダンジョンのモンスターはこのジャクバウンの影響を受けていた、と言うことになる。

 あのオーガも操り人形と言えど近くに居たのだからその影響は受けているはずだ。

 だから奴らは上層のモンスター達よりも強かったのか・・・。

 それに魔鉱石はダンジョン内に既に存在していたようだが青い輝きを発しているとなるとこれもジャクバウンの影響なのかもしれない。

 ジャクバウン自体はシンプルなもので魔力を与えることで剣刃に纏わせたり魔力の刃を大きく出せたりする、そんな機能らしい。

 その分攻撃力は高いらしく巨大なモンスターすらも一撃で屠ったとか。

 その代わり持ち主の魔力を与えるから魔力の枯渇がデメリットになるのだとか。

 さっきのオーガの戦いで疲れたのはそう言う訳なのか。

 他に気を付ける点は、持ち主から離れると近くにいるだけでジャクバウンが発する波動で気分が悪くなったり昏睡状態になるらしい。

 コーディの場合は魔力で無理やり抑え込んだからここまで影響を受けずに運び込み、封印も周辺の魔鉱石の魔力を借りていたため上層までは影響が及んでいないと考えられる。




 俺はどうなのか?

 少なくとも気分は悪くない、さっきのは純粋に疲れていたから・・・。

 だと思いたい。


 「まぁ、大丈夫だよな。これからも頼むぜ相棒。」


 俺はジャクバウンの柄頭を撫でた。


 「魔力。俺自身、魔法は使えなくても魔力は持っているんだな。」


 他のクラスメイト達も持っているかもしれないが今は気にする必要はない。


 「あそこの穴から出られるのか。」


 ドアとは反対方向にぶち抜かれた穴が見えた。

 俺はコーディの手記を机にしまった。


 「持っていく必要はないな。」


 国の最後を伝えて欲しいような感じだが、この手記にはジャクバウンに関する情報も書かれている。

 手の内を明かすようなものを持ち運びたくはなかった。

 それに手記の内容は大まかに覚えているからいつか誰かに伝えられれば・・・。


 「復讐したい奴が未来を考えるのかよ。」


 俺は内心希望を持っていたことを自覚してしまいそれを吐き捨てたかった。

 思考を変えて部屋を再捜索。

 ベッドを視れば人間の白骨体が眠っていた。

 もしかしたらコーディかもしれない。

 白骨体が身に付けているのは古びたシャツにロングパンツ、上に掛けられているのはフード付きのロングコート。

 コーディの着ていた衣類は時間が経っていてもまだ着られそうで俺は一瞬躊躇したものの思い切って剥ぎ取り衣服を取り換えた。

 流石に血だらけの衣服を着続ける気はなかった。

 血が固まれば動きづらくなるし匂いも付く。

 ただ、頭から足先まで血だらけだが今は妥協しよう。

 いや、さっきの本棚の中に魔法の本があったはずだ。

 再び本棚を漁って目的の本を開いた。


 「あった。水の魔法・・・。」


 確かに魔法の本だったがかなり上級で規模も大きい。

 そんなものを出せばこの場において死んでしまう。

 俺は直ぐにあきらめた。

 俺は着替えて装備を整え、魔鉱石を握り洞穴へ潜った。




 オーガを倒すまでに【フォーチュンダイアグラム】のことが分かった気がする。

 少なくとも一挙動に対する結果を見て終わる能力じゃない。

 一瞬のうちに複数の挙動とそれらから展開される未来を把握できる。

 その未来は数秒先なんてものじゃない、自分の死後まで見られる可能性だってある。

 そんな何十年後何百年後の未来を見るだけの体力や魔力は足りず、脳みそが壊れそうだ。

 複数の起点と各分岐点まで視ようとしても肉体の限界が来そうだ。

 今の俺は同時に視ようとすると、三つの起点と三つの分岐に十の展開が限界だろう。

 一つの起点に分岐なしで十の展開を区切って見るには何度か出来そうだが能力に頼りすぎると小さなミスで違う展開になる可能性がある。

 この能力自体、使いこなせないと大した恩恵は受けられないが使いこなせれば未来視以上のことが出来るはずだ。

 それにジャクバウンを手に入れたことで火力不足が補えたのも大きい。

 【フォーチュンダイアグラム】に攻撃能力がなく使い道もないからサンデル王国での評価は最底辺だったが邪神をも倒したこの武器なら負けることはない。


 「俺を呼んでおいて排除したサンデル王国は勿論、一緒に召喚されたクラスメイト達を滅ぼすことが出来る!」


 理由もなく毎日暴行した大官寺。

 途中から憂さ晴らしのために罵詈雑言と暴力の谷川。

 彼らの行為を看過するだけでなく自らも訓練に託けて暴行した国の兵士達。

 そんな俺の状況を見ているのに誰も止めなかった元友人達やクラスの連中。

 ダンジョンでも庇うことがなかった英雄人。

 思い出しただけで腹が立つ!

 どうして俺なんだ!?

 俺が何をした?

 入学してから悪いことなんてしなかった。

 普通に生活していただけ。

 王国はそんな日常から俺達を勝手に呼びだして最底辺のレッテルを貼って邪魔者扱いにして。

 クラスの連中は腫れもの扱いまでする始末。

 あまつさえ殺そうとした。

 絶対に。

 絶対にこの恨みを晴らしてやる。

 ・・・。

 ・・・・・・。

 それでも脳裏にふと幾つかの光景が思い浮かんだ。

 召喚されてから罵詈雑言と暴行の日々の中。

 近野に声を掛けられて満点の夜空の下で中園に助言を貰って。

 ダンジョンへ入る前も中園は船戸と一緒に兵士に向かって何かを言って俺達のパーティーを見て。

 今となってはアクセサリーを配られなかった俺のことで言ってくれていたのかも、と都合のいいことを思ってしまった。

 それに助言を貰う以前にも訓練中に暴行を受けた時にも中園は何か言っていたはず。

 それすらも俺は都合のいい解釈をしているのかも。

 少なくとも中園は不遇の俺をどうにかしたかったんじゃないかと。

 その動機は単純に誰もが笑顔でいられる状態を作りたかっただけかもしれない。

 俺個人はどうでもよくて、飽くまで空気を良くしたかった。

 或いはただの綺麗事を実現したかった、綺麗な自分をアピールしたかった。

 そんな理由かもしれない。

 近野は中園と友達だから付き合っているだけだろうし、船戸もお人好しな部分があったからかもしれない。

 結局、彼らの行動は俺との関係性がなくても俺に対してどうにかしようとしていたんじゃないかと思ってしまう。

 彼らに対しては心が揺らいでしまう。

 どうするべきか、どうしたいんだ?

 ・・・。




 思考の海に漂って現実に戻れば今だに道の先は暗く、行き止まりだったらどうしようかと途中から不安に駆られていた。

 オーガを倒しても俺は小心者らしい。

 それでも歩いて進むうちに壁が見えた。


 「行き止まりか?」


 他に道はなくコーディの小屋には他に穴はなかった。

 取り敢えず近づいてみれば何か魔法陣が書かれていた。


 「これは?」


 不用心かもしれないがコーディがこの穴を掘ったなら、と思った触れてみた。

 しかし何も反応がない。


 「いや、こういうのは魔力を流せば何かありそうだ。でも魔力ってどうやって流すんだ?」


 魔力を外へ流す方法が分からなかったが腰に携えたジャクバウンを見て思い出した。


 「やってみるか。」


 俺は再び魔法陣に触れて心を落ち着けた。

 ジャクバウンで戦った時を思い出す。

 その感覚を再現する。

 俺はジャクバウンへ魔力を流す感覚をイメージすれば自然と体の中を巡り始めた魔力が手の先へ行き、魔法陣へと流れ込んだ。

 その魔法陣が光ったのを確認して俺は直ぐに目を瞑った。

 直ぐに空気が変わった気がした。

 穴倉では感じなかった風の流れを肌で感じる。

 それに木々の匂いもある。

 俺はゆっくりと目を開けた。


 「・・・出られた。」


 目の前には緑豊かな森林、白く柔らかそうな雲がゆっくりと青空を流れ、鳥の(さえず)りが心地よかった。


 「外はこんなにも美しいのか。」


 俺の目から涙が溢れた。


 「ハハッ、アハハハハハッ!」


 思わず笑い声が漏れてしまった。


 「絶対に許さない・・・。」


 綺麗な光景を目にしても俺の復讐心は治まることがなかった・・・。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが暇つぶしに読んでいただければ幸いです。


ジャクバウンという名称は適当に考えました、架空の武器です。

今後も変な名称が出ると思いますが了承ください。


ここまでテンプレ状態でしたが、登場人物や大まかな流れ、背景を書くのが大変だと思いました。

一から書き始めた人達もそうでない方も文字を書く(打つ)ことそのものに尊敬します。




追記

補足・蛇足

ジャクバウンは持ち主の魔力を吸収していた、と言うのはジャックの主観やコーディの予測です。そして、魔力を吸収したジャクバウンが放つ青い魔力という表現もまた彼らの感覚や予想によるものです。


なお、物語の根幹には関係ありません。


※本文の一部を修正しました。

修正前:魔方陣

修正後:魔法陣

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