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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
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69話 ままならず

本日もよろしくお願いします。

 コウタ=タケダと出会ってから数日後。

 帝国直轄の騎士団の情報は期待できるものではなかった。

 例えば騎士団の団長はフォルクマーと言う男性で一人でモンスターの大群を討伐した功績もあり今でも強いと言われる人。

 それとシュターレンと呼ばれる騎士団の中でも実力派の十二人がいる。

 サンデル王国との戦争へ参戦して活躍したらしいけど何人か亡くなったと言われている。

 帝国から発表がない以上は新しくシュターレンに選ばれた騎士はいないと都民達は口を揃えて言った。

 あとは騎士や従士の居住区と訓練場が帝都内にあると言うけどどちらも関係者以外立ち入り禁止。

 つまり堂々と入れない。

 それと騎士団とは別に帝国直轄の魔法士団も帝都内に区画があるけど騎士団区画同様に一般人が入ることは許されていない。

 その証拠としてそれぞれの区画の幾つかある出入り口には常に見張りがいて検問されると言う。

 不法侵入をすれば見つかり次第即座に逮捕、場合によっては極刑もあったらしい。

 貴族専用区画と帝城の敷地内も同様である。

 つまりわたしがどの場所へ行っても門前払いを受けるのは必須。

 どうしよう……。

 ただ、悩んで手を拱いても進展しないから一先ず騎士団と魔法士団の区画へ足を運んでみようかな。

 昼前、様々な人が行きかう通りを抜けて目的へ向かった。

 最初は魔法士団区画へ向かう。

 貴族街と隣接していると聞いたけど進むごとに一般市民の数は減っている。

 しかも通り抜けるのは人じゃなくて高価な馬車。

 黒塗りの馬車もあれば金の装飾を施した物もある。

 あとはわたしと似たようなローブを羽織っている人が歩いている。

 魔法士として入ることが出来るかな?

 いやいや、それでバレたら元も子もない。

 正直でいよう。

 暫く歩くと壁で仕切られた光景が見える。

 木製の大きな門があり、その前に従士が四人いる。

 彼らは全員革の鎧を身に着けて、ブロードソードを腰に吊るしていた。

 彼らは騎士団所属の従士だけど魔法士団の検問も仕事の一つらしい。

 わたしはそのまま彼らに話しかけた。


 「すみません、一つよろしいでしょうか?」


 わたしを見て全員が訝しんだ。


 「何の用だ?」


 「知り合いが魔法士団に所属していると聞いて会わせていただきたいのですが会うことはできますか?」


 「申し訳ないが名前と身分を明かしてくれないか?」


 従士に言われて懐から冒険者のタグを取り出した。


 「ポーラ、冒険者です。」


 タグを見て確かめる従士達。


 「確かにタグは本物だが…どの道通すことは出来ない。」


 「理由を聞かせて頂いても?」


 「魔法士団の大半は貴族の関係者が所属する組織だ。彼らの関係者であれば相応の身分の者しかいないはず。ましてや冒険者で知り合いがいると言うのはほぼないだろう。」


 ほぼ、という事は誰かいたりする?


 「それにここ暫くは帝都内も物騒だ。見ず知らずの人間を入れるわけにもいかない。もし入ろうとするならお前を今すぐ拘束させてもらうが?」


 強行すれば捕まる、それは見ればわかる事。

 ここで駄々を捏ねても仕方がない、ここは諦めよう。


 「わかりました、それでは失礼します。」


 四人の従士達から離れて引き返す。

 次は騎士団の区画に行きましょうか。

 空を見ると太陽が傾いている。

 明るいうちに会えると良いんだけど。

 善は急げと歩き始めたけど魔法士団と離れているためそこそこ時間が掛かった。

 騎士団の区画へ向かうとこちらは従士の往来が多く感じた。

 偶に従士とは違う格好の人がいる、その人達の格好は軽装みたい。

 同じ従士なのか騎士なのか、見分けは付かない。

 そして騎士団の区画の傍まで行くとこちらも従士の方達が四人、門番として構えていた。

 出入りをする従士達に対しては笑ったり小突いたり、肩を叩かれたりもしている。

 和気あいあいとしているのが容易に分かる。

 一方、わたしの傍を通り過ぎる従士達はわたしを見て訝しんでいる。

 魔法士団とは違ってこの格好は浮いているみたい。

 門番をしている従士達に話しかける。


 「あの、一つ宜しいでしょうか?」


 「あん?なんだ?」


 「ここに知り合いが所属していると聞いたので会いに来たのですが、会うことは出来ますか?」


 「知り合い?あんたは誰だ?どいつに会いたいんだ?」


 「わたしはポーラ、冒険者です。会いたいのはボビィと言う名前の男です。」


 ここでも同じようにタグを見せる。


 「ほぉ、確かに冒険者みたいだな。ボビィ……あのお調子者か。」


 「あんな男に会いたいなんて物好きだな。家族か何かか?」


 ボビィはここにいると確定した。

 あとはわたしの知る人間かどうか。

 それにしてもそのボビィはあまり好かれていないらしい。


 「いえ、知り合いです。」


 「そうか、だけど悪いな。あの男、あれでも騎士だから簡単に会わせられないんだ。俺達も悪いと思うけど分かってくれよ?」


 「そうですか……わかりました。忙しいところ対応していただきありがとうございます。」


 「おう、あんたは意外と礼儀正しいんだな。」


 「そうでもありませんよ、それでは失礼します。」


 後ろへ振り返りこの場を離れる。

 騎士団の殆どは庶民から成り立っていると聞いたけど外部の人間が会うのは厳しいみたい。

 少なくとも騎士と呼ばれる立場になるとおいそれと会わせられないとか?

 従士であればまだ会えるチャンスもあったと思うけどそうじゃないらしい。

 改めて空を見ると既に夕日は沈んで空は殆ど暗い。

 帝都の敷地はそれなりに広く、もしも一般人の立ち入り禁止区域も含めたら一日で歩き回ることは出来ないんじゃないかと思えるほど広い。

 昼ご飯は食べてないし、帰りに何処かの飲食店に寄ろうかな。

 何を食べようか考えながら人通りが少ない道を歩く。

 場所によっては冒険者や労働者達が飲食店の集まる通りで賑やかにしているけどわたしが通るこの道はそう言った場所から外れているためとても静かだ。

 そうだ、近道をしよう。

 建物が所狭しと並ぶ場所の隙間に道はある。

 日中はあまり日が当たらず、陰鬱した印象を受けたり悪い人達が居座ったりするけど今は大丈夫なはず。

 右へ行き左へ行き、上に登ったり下へ降ったりとまるで迷宮へ迷い込んだような気分。

 帝都の滞在期間は一月以上は経っているけど全ての場所に足を運んでいないから初めての場所や光景には目を見張る。

 それに帝都でも夜空を見上げれば星がたくさん見える。

 いつか三人で見た星空を思い出してしまうくらいに……。

 大分歩いたみたいで気づけば住宅街へ足を踏み込んでいた。

 この通りは人がいない。

 今頃家の中でご飯を食べているのかもしれない。

 そんな風に思った時、正面から一人の女性が歩いていた。

 身なりを綺麗にした二十代の女性、チェスナットブラウンのロングヘアーを赤いスカーフで纏めて前に流している。

 夜に働く人のなのかもしれない。

 そう思っていたら彼女の頭上から何かが降って来た。

 黒い影になっていて何かは直ぐに分からなかった。

 気づいた女性は驚いた表情をする。

 わたしは咄嗟に右太腿に付けたグリップのないナイフを抜き出して投げた。

 ナイフは真っすぐ女性に覆いかぶさった黒い影に刺さる、ことはなかった。

 黒い影は気づいたのか即座に反応して手にしていたショートソードでナイフを弾いた。

 わたしはそれを見越して距離を詰めた。

 それは相手も分かっているようで女性から退いて私の前に迫って来た。

 ショートソードを抜いてわたしは斬りかかる。

 相手も同じように振り抜いた。

 金属同士がぶつかり合う!

 先に振り抜いたのに相手の方が力があるのか押せない。

 そんな相手を見ると黒いローブを被った人間だと分かった。


 「まさか邪魔が入るなんて。」


 男の声が聞こえた。

 同時にわたしの剣が弾かれる。


 「クッ!?」


 「せっかくだから殺そうか?」


 何がせっかくだから、だ!

 それで殺されようなんて思わない!

 後ろへ一歩飛ぶけど相手も付いて来る。

 正面左斬り上げに対して上半身を後ろへ倒す。

 次に斬り上げた剣が真下へ振り下ろされる。

 それは避けられない。

 咄嗟にショートソードの刃を右側にして割り込ませる。

 正直目と鼻の先。

 斬られずに済んだけど体勢が悪い。

 それは相手も分かっているからどんどん力を込めてくる。

 そのまま相手の刃を右へ滑らせながらわたしは左へ逃げる。


 「がら空き!」


 相手に背中を蹴られた!?


 「ガハッ!?」


 中空に蹴り上げられ地面に転がる。

 受け身を取って構えると相手は直ぐに向かってきた。

 速い!

 右へ左、上から下からと素早く斬りこんできた。

 わたしも追いながら相手の攻撃を防ぐけど力もあるから押し返せない。

 金属同士の甲高い音が響き渡る。


 「こんなに防がれるなんて久しぶりだな!」


 相手は興奮しているらしいけどそんな事情はどうでもいい。

 少しずつ後ろに追いやられている。

 このままだと民家に阻まれて逃げ場を失う。

 どうすればいい?

 悩んでも答えは出ない。

 靴裏に魔法陣を仕込んでいないから奇襲も出来ない。


 「おい!そこで何をしている!?」


 別の方角から声が聞こえた。

 それに気づいた黒いローブの男は舌打ちをする。


 「今あいつらを殺しても損しかないか……。」


 攻撃の手を止めた相手は直ぐにその場から逃げた。

 相手の振り返りざまに一瞬月明かりに照らされた刺繍を見た。

 それは横向きにした馬の頭蓋骨に鎌を添えたデザイン。

 とても不吉なものに思えた。

 デザインに目を奪われ、そのまま走り去る相手を見送るしかできなかった。


 「そこの女性、大丈夫か?」


 声の方向を見ると革鎧を着た二人組の従士が駆け寄っていた。

 一人は腰を抜かした女性の元へ、もう一人はわたしの所へ来た。


 「抵抗せずにこちらの言うことに従ってもらうぞ。」


 疑いの目で見る従士、わたしは女性を襲っていませんよ。


 「はい……。」


 抵抗する理由はないから両手を挙げて従う意思を見せると従士はその場で事情聴取を始めた。

 周辺の民家の窓から何人かが顔を出してこちらの様子を見ていた。

 最初は恐怖で震えていた女性も少しずつ落ち着いてきて今回の出来事を話した。

 それによってわたしは無実だと証明された。


 「ご協力感謝いたします。」


 わたしも事情を話すと従士達に理解されて一安心。


 「あの、本当にありがとうございました!」


 「いえ、お互いに命があって良かったです。」


 女性は二人の従士に連れられて何処かへ向かった。

 二人が如何わしい気持ちを持っていなければ職場へ連れて行ったと思いたい。

 それにしても、帝都で噂の通り魔に出くわすとは思わなかった。

 もしかしたら別にいるかもしれないけど、今回は逃げてくれて良かった。

 あのまま戦っていたら殺されていたかもしれない。

 路上に落ちていたナイフを拾って仕舞う。

 はぁ、今日は疲れた。

 さっさと夕食を済ませよう。

 静かな住宅街を抜けて賑やかな大通りに向かった……。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

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