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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
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68話 初めての再会

本日もよろしくお願いします。

 カイと言う少年を飲食店で住み込み従業員として働かせた。

 その日にわたしは客として夕ご飯を食べたけど、この店は普通のメニューで普通の味だった。

 だけどその普通が好評でお店は常に満員だった。

 忙しく駆け回る従業員の一人を捕まえて店長に伝言を頼んだ。

 絶対に包丁を持ち出させないこと。

 それと優しくしてあげて欲しいとも付け加えた。

 首を傾げられて理解はされていないけど、多分これで大丈夫なはず。

 もし何かをきっかけに復讐心に掻きたてられて探しに行かれたらどうしようもない。

 そんなことを想いながら夕食を食べて席を立った。

 どの客も楽しく騒いでいるだけに店も忙しそうだ。

 この忙しさで辛い気持ちが少しでも薄まると良いかな……。




 それから数日後。

 街行く人や露店、冒険者から情報を集めてみた。

 何でもサンデル王国との戦争前後から帝都内で殺人が起きているらしい。

 と言っても一月の件数は少ないようで、そこまで気が立っているわけではないと言う。

 どちらかと言えば他の貴族の当主や家族が事故死や野盗に襲われたと言う方が敏感になると言う。

 国を支えている貴族様が無くなれば領民も困るというからある意味当然かもしれない。

 特に帝国内でも影響力のある貴族であれば商売に大きく響くのだから他人事ではないと言っていたのは商人達。

 だから幾つか耳にしたときは帝都内の殺人に関心を持つ人が少ないのかと思ったけど話を聞き続けると夜に女性が殺される、なんて話を聞いた。

 ただ、一定期間内で女性だけが死んでいる訳ではなく何かの作業のトラブルに巻き込まれての事故死で男性も亡くなっているらしいから帝都内の死亡者数の割合が女性だけで占められている訳じゃない。

 奇怪なのは亡くなっている女性達の殆どは街中の路上で襲われている事。

 ここに注目すれば一人の犯行に思えなくもないけど、現状で犯人を特定できないし次は何処で犯行が行われるか分からない。

 実際に場所は毎回違うそうで、帝国直属の騎士団の兵士達が巡回していると言う。

 それでも捕まらないから犯人は余程の手練れかも知れない。

 結局のところ、夜道には気を付ける以外に出来ることはなさそう。

 今は昼過ぎ、冒険者ギルドへ行って街の中で済ませられる依頼を受けようかな。

 そう考えて大通りを歩く。

 毎日色々な人がいるけど何をしている人達なのか、と思ってしまうこともある。

 反対側へ行く人達を眺めていると一人の男を見た。

 男と言ってもわたしと似たような年齢、もう少し下かもしれない。

 この国では多くない顔立ちだから余計に目に留まった。

 それだけじゃない。

 彼を見た瞬間、記憶が甦った。

 最後に見たのは八年近く前、他にも似たような奴と体の大きい男の三人組。

 皆で笑い合っている記憶が浮かんで来たけど直ぐに後ろめたいような、蔑み、憐みの目で見てくる。

 その時のわたしは苦しかった、悲しかった。

 手を伸ばしても取り合ってくれない、彼等とは一瞬で離れた気がした。

 名前は分からない、だけどわたしに残っている想いが知っている。


 復讐すべき相手


 胸の奥が黒くなった気がする。

 衝動に駆られそう!

 いや、こんなところで愚を犯すべきじゃない!

 気持ちを抑えながらも絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。

 直ぐに反対側へ歩みを変える。

 ゆっくりと近づく。

 冷静に、冷静に。

 でも、頭に血が上る。

 彼が道を曲がったタイミングで声を掛けた。


 「あの、すいません。」


 「?」


 声を掛けると男は振り向いた。

 見たことがある顔。

 八年も経っているのに変わっていない。

 きょとんとした顔。


 「あ、あなたはもしかして凄腕の冒険者ですか!?」


 「え?そう見える?」


 「は、はい。」


 「そうかぁ!照れるなぁ!」


 男は顔を赤くして頭を掻く。

 正直苦しい話の切り出し方。

 怪しいと思われても不思議じゃないと思うけど。


 「でも、俺は最近冒険者になった初心者だよ、ごめんねぇ。」


 「そうだったのですね。」


 「ところで君も冒険者なの?」


 「はい、一応は。」


 「等級は!?」


 「少し前に緑の等級になりました。」


 「そうなの!凄いじゃん!」


 「ありがとうございます。」


 「いいなぁ、俺も早く進級したいなぁ。」


 「あなたならきっとなれますよ!」


 「そうかなぁ!」


 かなりご機嫌になっている。

 単純な人。


 「そう言えば君の名前は?」


 偽名を使いたいけど正直に名乗るしかない。


 「ポーラ、です。」


 「ポーラ。えっともしかして女の子だったりする?」


 普通なら失礼とか言いそうだけど頭からローブを被っているから簡単に判別できないから聞かれている。


 「えぇ、そうですね。」


 「そっかぁ!うんうん!」


 何に納得しているかよくわからない。

 わたしが女だと分かって明らかに興奮している。

 鼻の下が伸びているのが良く分かる。


 「あなたの名前を訊かせて頂いても宜しいでしょうか?」


 「俺?俺の名前は武田康太!じゃなくてコウタ・タケダ!コウタって呼んでくれ!」


 人の名前は殆どなくなっていたけどタケダコウタと聞いて記憶の人間と繋がった気がした。

 目の前に記憶と同じ人間がいるとは言え、それが本名だと何となく思えた。

 背中に衝撃が走ったけど取り乱してはいけない。


 「わかりました、コウタ。」


 「あっ!そうだ、これから時間ある?」


 「ありますけど。」


 「だったらお茶しない?俺、君の事をもっと知りたいんだよねぇ!」


 「お茶ですか?」


 「どうかな!?」


 かなり食い気味に聞いてくる。

 何かあるかもしれないけど声を掛けた以上は付き合うしかないかな。


 「良いですよ。」


 「よっし!じゃあ行こうか!」


 ガッツポーズを取った彼は早速近くの飲食店に入った。

 木造と石造を組み合わせたお店で客は疎ら。

 全員冒険者で男性と女性の二人一組ばかり。


 「いらっしゃいませ!」


 店員に空いている席へ誘導され、コウタと席に着く。

 わたしはお茶だけを頼んだが、コウタは自分の分のお茶とわたしにケーキを注文した。

 是非とも今日は奢らせて欲しいと言われた。

 まぁ相手が持ってくれるならそれでいいけどこれを理由に言い寄られるのは嫌だなぁ。


 「そうだ!何で俺が凄腕の冒険者だと思ったわけ?」


 あぁ、正直失敗した。

 別のアプローチでも良かった気がするのに……。

 少し前のわたしに後悔しながら適当に答える。


 「なんと言えばよいのか、何となくあなたから発する強者の気を感じたんですよね。」


 自分で言うのも何だけど、強者の気って何!?


 「そうなんだ!そっか、俺ってそんなに強い気を発しているのかぁ~。そっかぁ~。」


 近くにいた冒険者達は何を言っているんだ、みたいな目で見てくる。

 自分で言っておいて正直恥ずかしい。


 「俺、言っちゃなんだけどそこら辺の人よりは強いと思うよ?勿論最高等級の冒険者と比べたら分からないけどね!」


 かなり自慢げに話してくる。


 「どうしてそう思えるのですか?何か秘密がありそうですね?」


 「おっ!ポーラちゃんわかる?うんうん、ポーラちゃんは俺の魅力に気づいているって事だね!」


 いえ、全然わかりません。

 コウタは急に声を潜めた。


 「いやね、俺って他の人とは違う特別な力を持っているんだよ!」


 「そうなのですね!それでどういう事が出来るのですか?」


 「あ~、そうだねぇ……。」


 急に勢いが弱まり言い淀む。


 「まさか悪い事でも……?」


 「違う違う!そんなことはないって!」


 「それは良かった、安心です。」


 にっこり微笑むとコウタは再び顔を赤くした。

 視線をちょくちょく下に向けるコウタは意を決して小声で話し続ける。


 「実はさ、俺って。」


 「はい。」


 「人より早く動けるんだよね。」


 ……。

 どういうこと?

 そのままの意味?

 かけっこで速いとか?

 まぁ、戦闘でなら役立つけど……。


 「凄いのですね!速く動けるなら相手の攻撃も避けられますよね!」


 「そうなんだよね!相手の攻撃を受けずに俺だけ攻撃当てちゃうんだよね!」


 小声だけど自慢げに話している。


 「それとか森の中でも周辺の気配を探知できるし!」


 「へぇ!それも凄いですね!モンスターに不意打ちされずに済んでますよね!多くの冒険者が欲しがりそうな力です!」


 「そうでしょそうでしょ!いやぁ、これのお陰でどこでも安全に歩けるんだよね!」


 探知能力、正直凄いけど厄介。

 何処までの範囲をどれくらいの精度で知ることが出来るのか?


 「あとは暗い場所でもちゃんと見えるんだよね!凄いと思わない?」


 「確かに凄いですね!」


 これも冒険者なら便利な力だと思う。


 「他にはありますか?」


 「他?え~と、寧ろこれだけあれば十分!普通の人なら持っていない能力だからね!これ以上持っていると女神様にしか愛されなくなっちゃうよぉ!」


 女神様がこの世界にいるかは知らないけどかなりの自信家に思える。

 実際、幾つも力を持っていると脅威に感じてしまう。

 フレイメス帝国の戦争の理由が異界の勇者を召喚したサンデル王国を脅威と感じて攻め込んだと言われているくらい。

 異界の勇者の一人、コウタ・タケダ。

 この男は他の勇者に比べて強い印象はないけどこの世界の人間に比べたら脅威かもしれない。

 用心しないと。


 「そう言えばポーラちゃんはさぁ、冒険者やっているって言ったけどどれくらいやっているの?」


 「わたしですか?そうですね、大体二年くらいですかね。」


 「そうなんだ!やっぱり異世界だと女の子も武器を持って戦うんだねぇ!」


 言わない方が良い単語が聞こえたけど無視する。

 下手に指摘して情報を隠されるのは困る。


 「人それぞれだと思いますがわたしの場合は身寄りもなかったので生きるために冒険者になりました。」


 職業自体は幾つもあるから冒険者でないと生きていけないわけじゃない。


 「へぇ~、大変だねぇ。でも、ポーラちゃんみたいな冒険者が仲間に居たらさぞかし楽しいだろうな!」


 「そうでしょうか?コウタさんも自信に満ち溢れていて凄い力もありますから信頼されていそうです!」


 「いやぁ、照れるね!って言っても俺はソロで活動しているんだけどね。」


 「そうだったのですか。てっきり一緒に冒険している方達がいると思いました。」


 コウタは一人で冒険者をしている?

 サンデル王国の勇者が帝都で冒険者をやるなんて。

 しかも仲間はいない。

 こいつの友達はいない?

 別の任務についているかもしれない。


 「はは、俺も友達と冒険できたら嬉しかったんだけどなぁ。」


 ちょっとしんみりした表情になった。

 それでもこいつの視線は変わらず下を向いている。

 だけど直ぐに表情が変わった。


 「ポーラちゃんは一人で冒険しているの?」


 「わたしは、まぁ……。」


 「そっかぁ!俺達同じだね!」


 共通点を見出したことでコウタのテンションが上がった。

 正直同じでありたくない。

 お茶とケーキが来てからもコウタはわたしと話し続けた。

 それこそ一緒に冒険しないかと誘われた。

 今すぐは嫌だと思い、断るけど食い下がって来る。

 今日一日で有益な情報は得られたけど正直疲れた。

 唯一の救いは白いクリームが乗ったスポンジのケーキが甘くて美味しかったこと。

 記憶の中にあるケーキと比べるとスポンジはまだ改良の余地がありそうだと思ったのは秘密。

 夜も一緒にいようと言われたけどそこは拒否して別れた。

 ただ、また会いましょうと伝えて喜んだ顔をしたから避けられることはないと思う。

 彼がこの場所にいる理由とか。

 まさか、ボビィとサムを探しに来たらあんな奴にも会えるなんて思いもしなかった。

 なんとか笑顔で乗り切ったと思うけど終始怒りの感情が湧いていたのが事実。

 絶対に……。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

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