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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
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66話 衣替え

本日もよろしくお願いします。


また前話の誤字報告、感謝いたします。

 ハレウディテスを討伐した後は村へ報告して一泊。

 そこから送り届けてくれた行商人と合流できたため同行させてもらった。

 帝都の冒険者ギルドへ依頼達成の報告をすると受付嬢はマイルズを見て納得していた。


 「マイルズさんはこの冒険者ギルドでは大ベテランですからね!教えてもらった人達は皆等級を上げていますよ!」


 「俺が凄いんじゃない、彼らが凄いだけだ。ただ、俺にとっては今も生きて貰っていることが一番の誇りだ。」


 ベテランになれば顔が広いだけでなく実力もあるんだ。

 最初の町でのベテランとは大違い。


 「それにしてもあなたが二体も倒すなんて凄いですね。」


 「マイルズが他を引き受けてくれたので助かりました。本当ならもっと安全な作戦を考えるべきでしたけど。」


 正直、ベテラン冒険者と言えど二匹を相手取るのは大変だったはず。

 今回はかなり当てにしていたけどそもそもわたしの服を買うタイミングを逃がしたのはマイルズだから大目に見て欲しい。

 服に関してはマイルズに言っていない自分も悪いけど。


 「ポーラ、謙遜する必要はないぞ。帝都で初めてのハレウディテスを二匹も討伐したんだ。十分すぎる。」


 「ありがとう。」


 報酬を貰い、空いているスペースに向かった。


 「それにしてもあれは凄かったな!」


 マイルズが興奮しているが何を指しているのか分からない。


 「あれって?」


 「剣で魔法を斬っていただろう!しかも風の魔法!」


 「見ていたのですか。」


 「早く倒せたからな。あ、本当は隠したいことか?」


 申し訳なさそうな顔をするマイルズに悩む。


 「出来れば秘密にして欲しいです、確証はないので。因みにマイルズは武器で魔法を斬った冒険者を他に知っていますか?」


 帝都であれば腕の立つ冒険者が多いはず。

 それにわたしに出来るなら他の冒険者でも出来ると思う。


 「見たことも聞いたこともないな。初めて見たのはポーラの時だな!」


 「そうですか、それと体に魔力を帯びて戦う人はいますか?」


 人によってはこれで方法が分かる質問になってしまった。

 だからと言っても知っている人は知っているはず。


 「魔法使い達じゃないよな?」


 「彼等でも出来る人がいるかもしれませんが、素手かマイルズみたいに武器で戦う人達です。」


 「魔力……俺は魔法を習っていないからからっきしだから使っている奴がいても分からないんだよな。」


 「変な質問をしたけど気にしないように。」


 「もしかしてポーラは魔法も使えるのか?」


 「山に住んでいた人から齧った程度です。」


 「そんな場所に魔法使いがいるのか……。」


 唖然とするマイルズ。


 「まぁ、これは秘密にするから。」


 「お願いしますよ?」


 お人好しなマイルズだけどうっかり口を滑らせたりしないだろうか?

 出来るだけ魔法を使えることは隠したい。

 何かあった時には出来るだけ視界から外れたいから。


 「それでは指導してもらいありがとうございました。」


 「あぁ、危険な目に遭わせたが生き残れて良かった!また、仕事するときは声を掛けてくれ!分からないことがあったら教えるし同行もするからな!」


 「その時はまたお願いします。」


 社交辞令の挨拶をしてマイルズと別れた。




 冒険者ギルドを後にして街を歩き始めて今は昼過ぎ。

 お腹が空いたけど、どの店もまだ混んでいて待たされそうだ。

 露店の通りで散策しいると美味しそうな匂いに釣られて串焼きを買った。

 兎肉とナスが挟まっている。

 味付けはしてなかったけど美味しい。

 それから再び歩き続けると小さな服飾店を見つけた。

 村だと各自で布を手に入れて自分で作る風習がある。

 だから人によっては布を巻いただけの格好になることも珍しくない。

 この帝都で一般人も同じように自前で着替えを用意するのかこういった店で作ってもらうのは定かじゃないけど。

 覗くと地味な色の布が幾つも干し竿に掛かっている。

 店番をしているのは中年の男性だ。

 あまり光が差し込んでいない建物だから暗い雰囲気だけど気にしていられない。

 早めに着替えが欲しい。


 「あの、窺っても?」


 「なんだ?」


 「ここで服を作ってもらうことは出来ますか?」


 「出来るが金はあるのか?」


 「どれくらい必要かによります。」


 「材料や手間によって変わる、一概には言えないな。」


 そう言われ近くに干してある布を指して来てみた。


 「例えば、これで女性の普段着一着作ってもらう場合はどうでしょうか?わたしのサイズで。」


 男はわたしの体をまじまじ見ながら布を見た。


 「それなら銀貨四枚だな。さっきの条件で作ればいいんだな?」


 「先程のは例えばの話です。」


 「あぁん!?冷やかしか!だったら帰れ!」


 これから材料やデザインを話そうとしたのにいきなり怒鳴られた。


 「冷やかしじゃありません!最後まで話を聞いてください!」


 「聞いたじゃないか!」


 「だから!」


 つい大声を上げてしまった。

 それを自覚すると冷静になって来た。

 わざわざここで依頼する必要もない。

 別の場所を探そう。


 「帰れと言うなら帰ります。失礼し」


 振り向いて帰ろうとしたら出入り口にふくよかな中年女性がいた。


 「ちょっと待った!お客さん、少しだけ待ってなよ。」


 言うや否や女性は店番をしていた男性にずかずかと向かった。


 「あんたお客様を追い払おうとはどういうことだい!?」


 「こいつは冷やかしに来た奴だ!だから追い返そうとしたんだろ!」


 「そんなわけないだろう!あんたが勝手に勘違いしているだけでしょうに!」


 女性は男性の頭をひっぱたいた。

 叩かれた男性は涙目になって女性を睨むが女性も睨み返すと何も言わなくなった。


 「お待たせお客さん。ここには服を買いに来たんだろう?」


 「そうです。動きやすい服が欲しいのでここで作ってもらえないかと。」


 「動きやすい服……あんたは冒険者なのかい?」


 「はい、体を動かすことが殆どなのでどうしても欲しくて。」


 「それならどんなデザインの服が欲しいか教えなさいな。」


 女性に言われて口頭で説明した。

 と言っても上下で分かれている、袖の長いシャツと丈の短いパンツを注文した。

 あとは丈夫な生地だと嬉しい。

 パンツも長い方が寒い時期は長い方が良かったけど出費を抑えたいために妥協した。

 異世界の日本で見た服装も多くは男性用で女性に合う服装とか殆ど思い出せない。

 それにこの世界の技術で何処まで再現できるかもよく分からないし。

 正直センスが良いとは思えないけど安易に貫頭衣だと足元が心許ない。


 「あんた、良いところの出なのかい?」


 「いえ、わたしは村の出身ですよ。」


 「そうかい、貴族が着るようなデザインに近いからてっきり……。」


 「?」


 これ以上は聞かれることなく次に移った。


 「分かったよ!あとは採寸させて頂戴!」


 「分かりました。」


 頭に被ったフードを外して素顔を晒すと二人とも固まった。


 「どうかしましたか?」


 「いや、てっきり男だと思ってねぇ。」


 「可愛い顔しているな、女で冒険者しているのか?」


 二人とも驚いているみたい。

 声で分かりそうなものだと最近思うけど頭からローブを被れば案外分らないものだと改めて分かった。

 店の奥で女性と二人きりになりローブを取り払うと女性はまた驚く。


 「そんな恰好でモンスターと戦っていたのかい!?」


 「そうですね、なので新しい服が欲しくて。」


 「そういう事なら任せな!きっちり作ってあげるからね!」


 体に巻いた紐に糸を縛って記録した後、使う材料を確認して硬貨を払った。

 全部で銀貨十枚になった。

 わたしは迷わず懐から銀貨十枚を出した。


 「ちょうど頂くよ!」


 「本当に金を持っていたんだな……。」


 女性は満面の笑みを浮かべ、男性は目を丸くしていた。


 「七日後にまた来ておくれ。」


 「分かりました、ではお願いします。」


 多分材料で高くなったと思い、必要経費だと納得して店を後にした。

 この国では一般の町人村人は何着も服を持っていない人が多い。

 服が小さくなれば新しく買う人もいるけど継ぎ接ぎして着る人もいる。

 そして布や糸は安くないからそれなりにお金も掛かる。

 先程のたとえ話で女性服一着で銀貨四枚と言われたけど偶々選んだ布が高かったと思いたい。

 あとはここが帝都だから物価が高いのかもしれないけど。

 実際に着るだけの服を買おうとするなら銅貨の単位でどうにか出来そうだし場合によっては布だけ買って自分で着られるように作る。

 村なら間違いなくそうだ。

 残りのお金を計算すると靴も変えたいからそれを考えると暫く依頼を受けないといけない。

 この日は早めに宿へ戻り、鍛錬をしてから就寝した。




 それから一週間、依頼した服飾店に行くと女性が顔を上げた。


 「待たせたね!あんたの服が出来たよ!」


 白のシャツは手首まであり少しでも寒さを和らげてくれそう。

 襟やシャツの細部に刺繍が施されていた。


 「この部分はあなたが?」


 「そうなの!ただ切っただけじゃ可愛くないと思ってね。せっかくだから縫ってみたんだけど、どうだい?」


 「わたしも可愛いと思います。」


 「それは良かった!」


 言われて見せてもらった衣服の細部は荒いけど思ったほど悪くはなかった。

 異世界に比べたら全体の技術レベルは違うと思うけど何も知らないところから閃いて形にしたこの女性は素直に凄いと思う。

 襟首は胸元に向けて少し鋭角になっていた。

 頭を通しやすくしているのかな?

 それともこの女性の趣味?

 シャツの次はパンツ。

 黒い革の材質に思えるような色のパンツだったけど予想以上に丈が短かった。

 股下が手の半分くらいの長さに思える。

 腰回りの内側に通した紐で落ちないように止められる造りになっている。

 寒い時期だから丈は長い方が良いと思うけど動きやすさを重視するならこの長さの方がまだ良い。


 「これはハレウディテスの皮を嘗めて作った材料も使っていてね。これを表面に縫い付けて裏地も付けたのよ!革よりも軽くて薄いし少し伸びるから普通の服よりは丈夫で動きやすいはずだよ!」


 女性の言葉にいつか倒したモンスターを思い出した。

 あれの皮を使うとこんな感じになるんだ。

 多分モンスターの中では薄い皮かもしれないけど衣服に流用できるだけの評価がされている。

 改めて冒険者が持ち帰った素材が使われているのを実感する。

 それであの値段なら納得かな。

 早速店の奥で着替えさせてもらった。

 着替え終えた姿を女性と暇を弄んでいる男性に見てもらう。


 「いいじゃないか!流石あたしが作っただけあるわね!」


 「そうだな、いでっ!」


 女性に背中をバシバシ叩かれる男性だったけど女性の言う通り、寸法より少し大きめだけど動かしやすい。

 わたしの胸は大きくはないけどそれに合わせた形状になっているみたいで窮屈には感じない。


 「作っていただきありがとうございます!」


 「あたしも作り甲斐があったし楽しかったよ!あっ、そうだ!これも持っていきなさいな!」


 女性は店の奥からコルセットを持ってきた。


 「これは?」


 「コルセットって言う貴族の女性が良く付けるらしいのよ。これを付けると体が引き締まって綺麗に見えるんだから凄いわよねぇ!」


 「お前は付けられないがな、いでっ!?」


 男性はまた女性に殴られていた。

 余計な事を言うから……。


 「でも、頂いちゃっても良いのですか?」


 「これは特別だからね!あんたがまた店に来てくれたり他の人達に宣伝するならそれでいいのよ!」


 「分かりました。また何かあれば来ますし、他の方にも紹介しますね。」


 「よろしく頼んだよ!」


 「良くして頂きありがとうございます。」


 ローブを羽織り顔を隠して店を後にした。

 これで前よりも動きやすくなった。

 ただ、必要な物はまだまだあるから出費が嵩みそう。

 ボビィやサムの情報を探りつつ暫くは冒険者ギルドへ通い続けることになった。

 余談として宿に戻ってコルセットを着けたら体に丁度良く、少しだけお腹周りの防御力が上がった気がした。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

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