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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
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64話 中堅の冒険者

本日もよろしくお願いします。

 冒険者ギルドの受付は未だに多くの人が並んでいる。

 帝都は広範囲に土地を確保していることからモンスターのような脅威はあまりいないと思えるけど、逆に脅威を常に排するために冒険者に見回りに言って貰っているなんて考えることもできそうだ。

 掲示板には討伐依頼が多くを占めているけど護衛依頼や薬草採取、都内の個人のお使いやお手伝いなど千差万別にある。

 マイルズは多くある依頼の中から一枚の依頼書を手に取った。


 「ポーラ、これなんてどうだ?」


 「えっと実は……。」


 断ろうとしたけど依頼書が目に入った。

 紹介された依頼内容はハレウディテスと言うモンスターの討伐だった。

 ハレウディテスは頭が鳥のように白く黄色い(くちばし)を持ち、首から腰までは猿のようで下半身は昆虫のような六足の特徴を持っている。

 上半身は黒の体毛に覆われているけど下半身の背中の部分は深い緑の光沢に覆われているらしい。

 わたしが言う前にマイルズは間髪入れずに言葉を続ける。


 「今まで戦ったことはあるのか?」


 「いえ、少し話で聞いた程度です。」


 「それならちょうどいいかもな!」


 「ちょうど良いですか?これって等級が三番目の緑じゃないですか、私は受けられませんよ?」


 これで断る流れが出来そう。


 「俺と一緒に受ければ大丈夫だ!それにポーラが討伐する数は一匹でいいからな!」


 流れはあっても常にマイルズの流れだった。

 面倒見は良さそうな人だけどいい加減な部分もある。

 それとマイペースな人。 

 さっきからグイグイ笑顔で詰め寄られている。

 内心溜息を吐きながら諦めて従うことにした。


 「では、これでお願いします……。」


 「任せておけ!」


 眩しい笑顔に遮りたい気持ちになった。

 二人で列に並ぶけどまだ人が多く、後ろへ並ぶ人もまだいる。

 そしてローブを被っているとは言え周囲の人達から視線を向けられていると思う。


 「マイルズ、また新人の面倒を見ているのか?」


 近くの列に並んでいる三十代の男性から声を掛けられる。


 「あぁ、と言ってもこの子は前から冒険者だけど帝都には初めて来たらしいからな。」


 「坊や、このおじさんが変な事をしたら遠慮なく抵抗しろよ?」


 「そんなことはしないからな!」


 「知ってるよ、揶揄(からか)っただけだ!」


 「お前なぁ。」


 前を並んでいる体の大きな男性も会話に混ざって来た。


 「こいつは無理をさせないから安心しとけ。何かあれば身を挺して逃がしてくれるからな!」


 「そうだな、相応の責任は負うさ。」


 暫くの間、彼らの会話が続いたけど気兼ねなく話す彼らの様子から仲が良く信頼し合っているように見えた。

 他の人も彼らの会話を聞いて笑うこともあった。

 列が進むとマイルズの番になった。


 「ジェニファー、今回はこの子と依頼を受ける。手続きをよろしく頼んだ。」


 「おはようございます、マイルズ。それでは二人ともタグを出してください。」


 わたし達は冒険者ギルドが発行したタグを見せる。

 ジェニファーと呼ばれた受付の女性は一度席を立って奥へ向かった。

 奥は様々な棚があり、扉が幾つもあった。

 一つの扉に入って少し時間が経った頃にジェニファーが戻って来たけど書類を持っている。


 「ポーラ、調べたところによるとあなたは昇格審査を受けることができます。そこに居るマイルズを試験の証人として今回の討伐依頼を達成すれば緑の等級へ昇格できます。」


 「へ、へぇ~。」


 自覚はなかったけど昇格できるだけの実績を積んでいたらしい。

 前の町でその話がなかったけど過去の実績の情報を共有されていなかったのかもしれない。


 「そうだったのか!なら丁度いいじゃないか、受けるべきだ!」


 横で話を聞いたマイルズが背中を叩いてくる。

 そこそこの報酬を貰えるなら昇格の必要を感じないけど、断る理由が思いつかない。

 流石に最高等級になると国のしがらみが発生するから嫌だとはっきり言うと思うけど真ん中じゃ言い辛い。

 ちょっと悩んでから受けると返事をする。


 「では、このまま依頼の受理手続きを行います。」


 ジェニファーの事務手続きが進み、今から昇格試験を兼ねた依頼の遂行が始まってしまった。

 列を離れ、外に出る。

 本日も晴れ模様、冒険日和である。


 「冒険者たるもの、準備は常に怠るな!ポーラ、今から道具屋へ向かうぞ!」


 マイルズに案内されて道具屋へ向かう。

 人の流れは多いけど逸れることはなく目的地へ着いた。

 案内された道具屋はそこまで多くないけど店長とマイルズは顔なじみらしい。


 「ようマイルズ!今日は冒険しに行くのか?」


 「その通りだ!それで今日は昇格試験も兼ねている。この子がポーラ、昇格試験を受ける子だ。」


 片をポンポン叩かれ店主に紹介された。


 「ポーラです、よろしくお願いします。」


 「俺はホレス、ここの店主だ!」


 頭が薄くなった鼻が丸い恰幅の良いおじさんと握手を交わす。


 「それでマイルズ、どこまで行くんだ?」


 「西の方だな、歩くと数日は掛かるな。」


 「それなら食料も準備しないといけないな。」


 「保存食だな、あとはポーションと傷薬に―――」


 マイルズが幾つか挙げた物が手元にどれだけあるかを確認する。

 布やロープも言われたけど前の町で揃えたから大丈夫。

 手持ちのお金と相談しながら買い足して店を後にした。

 帝都だから全体的に物価が高いように思えたけど、ホレスの店ではマイルズの紹介という事で他の町と同じくらいの値段で買わせて貰えた。


 「良かったんですか?初めての人間相手に値引きして。」


 「大丈夫だろう、ホレスも冒険者相手の仕事だから商売相手がいないと困るだろうし。ただ、この事は秘密だな。」


 誰に対しても値引きしている訳ではないそうで、マイルズや一部の冒険者を贔屓(ひいき)にしているらしい。

 マイルズがホレスの信頼を勝ち得た結果とも言える。

 帝都の西側へ行くと馬車を出す商人を見かけた。

 マイルズが彼に声を掛けて交渉すると快く乗せてくれることになった。

 乗せてもらう代わりに護衛する、いつものこと。

 これで体力や時間を節約できる。

 わたしとマイルズは西の方角へ出発した。

 帝都の外側の壁を越えるまでは安全で越えてからも特に危険はなかった。

 二人で警戒していたけどモンスターに襲われることなく目的地の最寄りの村へ着いた。


 「助かったよ、ありがとう。」


 「いえ、こちらこそ乗せていただきありがとう。」


 「私もこの村に数日滞在しますのでもしそちらの仕事が終わればまたお乗せします。」


 「お気遣いありがとうございます、その時は改めてお願いします。」


 わたし達は商人と別れて村長に話を聞きに行った。

 ここ暫く畑が荒らされていて様子を見たら鳥の頭に虫の体を持つモンスター達がいたと言う。

 ハレウディテスの事で確定かな。

 と言っても油断をしてはいけない。

 それとハレウディテスは家族単位で動くモンスターで数も四匹居たことから間違いなさそう。

 二匹で居る時は新婚か子離れした夫婦という事になる。

 毎年子を設けるモンスターと言えど繁殖力は強くない。

 だけど人を食べたら何匹も産むと言う話があるから村が犠牲になると大変なことになってしまう。

 実際、この村でも何人か犠牲になったと言う。

 一通り話を聞いたけどもう直ぐ日が落ちるため、村で一晩過ごすことにした。

 ハレウディテスも夜は活動しないらしいから見つけるのは困難と判断。


 「今はポーラの判断を尊重するぞ。」


 一応試験の一環という事でマイルズは一歩引くみたい。

 わたし達は村の好意に甘んじて食事を頂き宿も提供してもらった。

 そして翌日。

 依頼書やマイルズや村人達の話を元に村周辺の探索を進める。

 近くは小高い丘や数時間で登り切れそうな山、鬱蒼と広がる森。

 西側は山岳地帯で屈強なモンスターが蔓延っているらしい。

 それもあって村人は勿論、殆どの冒険者も近づかないと言う。

 真っ直ぐ山岳地帯を進めばサンデル王国に近いけどこの段階で死にたくはない。

 尤もサンデル王国へ直接行くなら南側が平原になっているらしいから行くならそこになるのか、或いは……。

 今は関係ない思考を退かさなきゃ。

 目撃された畑は広範囲に広がっている。

 その場所から暫く歩けば小高い丘。

 畑周辺を歩いていると何かに見られている気がする。

 マイルズも感じたのかその方角、小高い丘を見た。

 鳥?

 白い頭と黄色い嘴、人のような腕に下半身は六足の虫。

 ハレウディテス!

 一匹だけがこちらを見ていたけどわたし達が気づくと向こうは(きびす)を返して逃げ出した。


 「どうする?」


 「追いかける!」


 直ぐに駆け出す。

 ここ数月はスカートで走っているから慣れて来たけど走りやすいわけではない。

 早く着替えたいと思いつつモンスターを追いかける。

 小高い丘の奥は森が広がっている。

 ガサガサと茂みを鳴らして逃げる音が聞こえる。

 晴れているから森の中でもある程度見渡せる。

 人間大の生物が前後左右へ揺れることなく動く。


 「一匹倒せば試験のノルマは達成だ、適度な緊張を維持すれば勝てるだろう。」


 つまりは油断はしないように、それでいて気張らないように。

 森へ入る。

 耳を澄ませながら周辺を見回し、逃げた一匹の姿を追い続ける。

 正直、ハレウディテスの方が速いはずだけど適度な距離を維持されていることには間違いない。

 わたし達を誘い込んでいる?

 マイルズは特に表情も変えず言う事もない。

 経験しているだけに予想は出来ていそう。

 周辺を見回した時に、低い位置に物影が見えたと同時に。


 「kweeeee!」


 逃げている一匹が真上を向いて鳴いた。

 木々に留まっていた小鳥は逃げ出し、茂みに隠れていた小動物たちは驚く。

 それを合図に潜んでいた他のハレウディテス達が姿を現した。

 正面には逃げていた一匹、それが反転して向かってくる。

 左に二匹、右は一匹。

 どれが親でどれが子なのかは分からない。

 分かっているのはこの四匹で一つの家族。

 親子で協力して生きるモンスターでもわたし達も生活が懸かっている、容赦はしない。


 「マイルズは左側の二匹をお願い!」


 「残りはどうするんだ!?」


 「わたしが引き受けます!そちらが済んだら援護してください!」


 わたしの指示に驚くマイルズだけど直ぐに動いてくれた。

 向こうとはまだ距離がある。

 急いで背嚢からロープを出し、両端に一本ずつナイフを括りつけた。

 右から一匹、正面から一匹が迫りくる。

 正直、同時に二匹相手出来るとは思っていない。

 幸いなことに、四匹とも武器を持っていないのが救いだ。

 実際、二匹がそのまま取り押さえに来るけど鋭い嘴で突かれでもしたら死にそう。

 捕まる前に大きくステップを踏んで回避。

 人間相手なら振り向いて動くのに隙があるけど、多脚の足なだけに直ぐに向きを変えてくる。

 何度も距離を取っては回避。

 残りの一匹は常に私の背後を取ろうとしているから、足を取られた瞬間捕まえられてしまう。

 前後の相手に意識を向けながらフェイントを入れつつ回避。

 その動きにストレスが溜まって来たのかうち一匹は低い声で鳴きながら足並みを崩して襲ってきた。

 間伐しているお陰で一定の空間が確保されているし、木々の位置が把握しやすい。


 「ここ!」


 私を追いかけて来た一匹の突進を避けつつ近くの木の枝にナイフを飛ばして固定する。

 突進したハレウディテスが木に激突したときに急いで地面と平行な相手の背中に足を掛けながら反対側へ飛び越えてその木を一周する。


 「gwa!?」


 首元を木に固定されたハレウディテスが悲鳴を上げる。

 それを無視してロープの片端も離れた木の枝に飛ばして固定する。

 ピンと張ったロープによって首元を木に固定されたハレウディテスは動けないことに気づいて両手でロープを引きちぎろうとする。

 しかし、首を中心に引っ張るからかより苦しそうな表情をしている。

 力は人間よりありそうだから少しの時間でロープを引きちぎるはず。

 それまでにはもう一匹を倒さなきゃ。

 もう一匹も既に接近していたけど解放される訳にはいかない。

 ショートソードを抜いた時には握りこぶしが迫っていた。

 慌てて相手の左へ転がり回避。

 目標を見失ったハレウディテスは左右を見ている。

 その隙に下腹を斬る。

 振り上げた一閃で斬ることに成功したけどあまり深くない。


 「kyyyyyyyyy!?」


 痛みに驚く相手だが直ぐに反転する。

 急いで抜いて構える。

 振り向きざまに裏拳が飛んで来た。

 ショートソードで弾くけど直ぐにもう一つの拳が飛んで来た。

 上から下へ向かってくる軌道に合わせて右足で蹴る。

 序に左足も浮かせて距離を取る。

 空中で相手の状態を確認すると下腹と弾いた左手の指から灰色の血が流れている。

 ただ、どちらも致命傷にはならない。

 体を捻ってもう一匹を見ると既にロープから脱出していた。

 ロープをちらりと見れば鋭利な刃物で切断された跡がある。

 引きちぎったなら断面は荒いはず。

 そして道具は持っていない。

 振り向いたもう一匹が怒った顔をしている。

 更に開かれた両手の空間が揺れている。

 恐らく風の魔法。

 その状態から右手、左手の順に振り上げられた。

 手元を離れた風の魔法はまるで刃のよう。

 揺れているからなんとか視認は出来るけど速い!

 着地する。

 だけど予備動作を起こさないと足を動かせない。

 この場にいたら斬り刻まれる。


 「kwaaaaaaa!」


 「cwaaaaaaa!」


 前後で二匹が鳴く。

 興奮しているのかな、結構不味い。

 ショートソードを交差した風の刃に向ける。

 ここでやらなきゃ死んでしまう!

 魔力を精製、体中に巡らせ、ショートソードにも帯びさせる。

 体はそのまま沈み込ませながら、迫って来た風の刃に向けて振り下ろす!

 空気何て普通は斬れない。

 だけどこの風の刃は空気を斬っているのかもしれない。

 魔法だから何でもありと言えばそれまでだけど。

 でもそれが魔法による攻撃なら斬れる!そう信じた結果。

 特に音もなかったけど、斬った気がした。

 それは左右へ別れて飛んでいく。

 斬ることが出来た!

 だけど喜んでばかりはいられない。

 何となく、だけど振り向かずに足を少し曲げてしゃがんだ状態から右へ飛ぶ!

 左右に別れた風の刃は通り過ぎているからそれだけは安心して避けられる。

 避けた直後に何かが通り過ぎた。

 それを気にする前に受け身を取りながら転がって立ち上がる。

 背後に居たハレウディテスを見ると驚愕の顔をしているのか口を大きく開けていた。

 その視線の先には最初に風の魔法を放った一匹がいた。

 但し、胴体に大きく交差した切傷が出来ていた。

 吹き出す灰色の血が威力を物語っていた。


 「「kyaaaaaa!?」」


 斬られた方もそれを目の当たりにした方も叫んでいる。

 多分、背後に居たハレウディテスもタイミングをずらして風の刃を放ったと思う。

 だけど、私が避けたことで射線上に居たもう一匹が正面から攻撃を受けてしまった。

 私の事しか視界に入っていなかったからなのか避けることもしなければ家族に当ててしまうことも考えていなかったのかな。

 それでも同情はしないけど。

 風の刃を受けた一匹はゆっくりと倒れる。

 攻撃を放った一匹は恐怖と困惑の色を浮かべている。

 その状態を逃さない!

 全力で駆ける。

 こちらの動きに気づいたハレウディテスは歯を食いしばって怒りの形相に変えていく。

 相手の両手は上に持ち上げられてから空間の揺らぎが見える。

 短い溜めから両手を交差させながら振り下ろした。

 再び風の刃を飛ばしてきた。

 一直線で向かってくるそれを振り上げて斬る。

 先程と同じ手応え!

 そのまま真っすぐ走って交差した相手の両腕に左足を掛ける。


 「はあああああ!」


 踏み込みと同時に上に上げたショートソードを斜め右から左へ振り下ろす。

 怒りと驚愕の表情をするハレウディテスの首を刎ねた。

 切断面に右足を掛けて飛び越える。

 中空で体を捻って着地。

 数秒後に灰色の血が盛大に噴き出た。

 頭は地面に転がり血の雨を浴びている。

 その奥でもう一匹倒れているけど念のため近づく。

 息はまだあるけど体に力が入らないみたい。

 油断をすれば私の命が取られる。

 ショートソードを逆さに持ってからハレウディテスの首に突き立てた。


 「!?!?!?」


 灰色の血を噴かせた喉から声を出すことなく痙攣して、やがて動かなくなった。

 あとはマイルズの援護だけ。

 そう思ってマイルズを見ると既に二匹を討伐していた。

 彼の足元には両腕と首がない二体が横たわっている。

 ベテラン冒険者は伊達じゃないらしい。


 「ポーラも終わったみたいだな!」


 「マイルズよりも手こずったけど。」


 「初めてのハレウディテス討伐だろ?凄いじゃないか!」


 「偶々。」


 私のショートソードを見ると最初の二回の攻防の返り血以外は掛かっていない。

 魔力を帯びると返り血も弾くとか?

 魔力操作を終えるとドッと疲れが押し寄せて来た。

 自主訓練したとはいえ本番は初めて。

 まだ慣れないからこうして疲れが現れるのかな……。

 それに後始末が残っているし警戒もしなきゃ。

 マイルズに指示されながら討伐部位の採取と血抜きや死骸処理と大分時間を使うことになった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




補足・蛇足

マイルズ

フレイメス帝国の冒険者で30代の男性。家庭を持っている。人当たりは良く、面倒見は良い方。彼を知る冒険者は多く、親しまれている。パーティーは組んでいるがここ暫くは頻度は少ない。

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