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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
傲慢と欲深な者達
63/131

63話 帝都

大変遅くなっています。

本日もよろしくお願いします。


今更ですが少し前に章タイトルを追加しました。

センスがないのは大目に見てくださいお願いします。(汗




前回までのポーラのあらすじ

奴隷だったポーラを引き取り教養を学ばせた貴族のアルファンが暗殺されたために彼女は暗殺をした存在を突き止めた。

ベイグラッド領の当主ダルメッサの元へメイドとして忍び込み、見事アルファン達の無念を晴らす。

ポーラは身を隠しながら次の目的地に帝都を選んだ。

 フレイメス帝国は周辺諸国の中では一番国土も国力も大きい国である。

 それは一部を他国へ取り囲まれた過去があっても今なお健在であることから証明されている。

 わたしはアルファン様の暗殺を指示したダルメッサや家族を根絶やしにしたあと、ベイグラッド領を離れて帝都に向かった。

 理由は屋敷が焼失したときに死んだと思っていたボビィとサムが帝都にいるかもしれない情報を得たからだ。

 もし生存しているなら彼らの真意を問いたい。

 そんな思いが募っていた。

 現在帝都の検問所の列に並んでいるけど結構人が居る。

 今は寒い時期だけど並ぶ人達には関係ないらしい。

 行商人は勿論のこと冒険者や旅人らしき風貌の人、村や町から商品を売りに来た人達まで様々だ。

 黄色のワンピースに焦げ茶色のローブを頭から被った格好のわたしは御者台で手綱を握っている行商人の横に座っている。

 時間はあるから一緒に乗せてもらった行商人のおじさんと話でもしようかな。

 行商人のおじさんは口髭を蓄えて丸くなったお腹を自慢する人だ。


 「おじさん、帝都は一番大きな街で人口も多いと聞いていますがいつもこれだけの人数が並ぶのでしょうか?」


 「恐らく戦争の影響だろうな。」


 「戦争ってサンデル王国との?」


 「そうだ、帝国はあまり良い結果を出せなかったみたいだし何かしらの要求を飲まされたはずだ。」


 「要求……。」


 「賠償金とか、物品とかな。」


 「商人は品を出して冒険者は珍しいモンスターの部位を取って来る。それらをサンデル王国に渡すとかでしょうか?」


 「そういう話も出回っているな。」


 「ではフレイメス帝国は何を求めたのでしょうか?」


 「食料関係で動きがあるようだから恐らくそれだろうな。」


 「食べ物……。」


 国境付近で被害に遭った国民への援助なのだろうか?

 並んでいる人達も時間があるからなのか雑談をして暇を潰している。

 

 「ベイグラッド領は当主がなくなったらしいな。」


 「当主どころか家族もだろ?」


 「あまり良い噂は聞かなかったからな、当然の報いってやつかもな。」


 「夜中に屋敷ごと焼かれたのは恐ろしい。」


 「そんな死に方はしたくないな。」


 「平穏無事に過ごせるのが一番だろう。」


 「それで別の場所にいた息子二人のどちらかが当主になるって言ってたがな。」


 「そうなのか、それでどっちが次の当主になったんだ?」


 「いや、そこまでは知らないな。恐らく結果は出てるがまだ聞いていない。」


 別の会話では。


 「最近はまた灰色の血を出すモンスターが増えたらしいな。」


 「ここら辺はそんな奴らを見てはいないけど。辺境とかだろ?」


 「灰色の血の持つモンスターって言っても血の色以外はよく見るモンスターなのでしょう?」


 「いや、同じ種族でも少し強いらしい。」


 「強化された状態なのか。」


 「それって確か魔王や邪神が出て来た時期にもいなかったか?」 


 「そうだな。だから魔王や邪神のモンスターの生き残りって説もある。」


 「まさかまた邪神が出てくるとか?おっかないぜ。」


 はたまたこんな会話も。


 「ここより北を治める領主達が新しい事業を始めるらしいが何か聞いてないか?」


 「初めて聞いたな。」


 「やはり地元の商人達だけなのか。何かが分かれば一儲け出来そうなのにな。」


 「あまり首を突っ込むと痛い目を見るから気を付けろよ。」


 ベイグラッドの話はある程度広がっているけど、その話で持ち切りと言うわけでも無くて一安心。

 更に長い時間を掛けて列は進み、漸く私達が通れたのは既に夕暮れだった。

 この検問所を通れたとしてもここら辺はまだ人が殆どいない。

 広い範囲で石垣が積まれて魔法で補強されており、皇帝の住む城を中心に囲われていると言う。

 その囲われた内側の多くは草原だったり農業地帯だったりする。

 ベイグラッド領も街の近隣を石垣の防壁で囲んであったけど途中からなかったりもした。

 この帝都に比べると歴代のベイグラッド家は杜撰(ずさん)な家系だと思わざるを得ない。

 結局、私達や他の来訪者達は広い草原に腰を下ろして一夜を過ごすことになった。

 これに関しては普通らしく、今から街の方へ行っても大半の宿は受付時間外になるらしい。

 厳密に言えば辿り着く時間が夜空の天辺に月が辿り着きそうなくらいだと。

 行商人のおじさんと食事を共にして一日を終えた。

 翌日。

 早朝から動く人、まだゆっくりする人と草原で野宿した人達の動きも様々。

 行商人のおじさんは早めに行きたいという事で早速出発した。

 進むほどに草原だけだった風景はやがて畑が多く見られ、既に作業が始まっている。

 ある程度進むと再び左右に延びる壁と道を塞ぐ検問所が見えた。

 少なくとも二段階で見るらしい。

 検問とは言っても一度目の検問で貰った証書を見せて確認をしてもらうと直ぐに通れた。

 帝都内に住む人達は専用の札を持っているからそれで通して貰えるみたい。

 更に民家も増えて行くほどに正面に見える巨大な城の姿が分かるようになってきた。

 それに伴い住宅は勿論店や作業場の数々が一気に増えだした。

 民家とお店、どちらも同じ建築様式で二階から三階の高さの木造建築が多い。

 外周部にはお店は殆どないけど板に文字を彫った看板があるところは多分そうだと思えた。

 そして隣同士の建物に隙間はなく一見すると完全にくっついているように見える。

 建物の幅も様々で人が三人並んだ横幅のあれば十人以上並んでも足りないくらい大きい幅を取っていたりする。

 他の町や村は民家同士は離れているけどここは違うらしい。

 建物がずらりと奥まで続いていることからかなりの人達が住んでいるのがわかる。

 ベイグラッド領デルマイユの街の比ではないのが一目瞭然。

 建物から人が出てくる時間帯だったために、この道も人の密度が多くなっていた。

 一般人は勿論華やかな服装の人達も多く行き来している。

 辺境の村では想像もできないくらい喧騒が街中に響く。

 奥の方では煙が上がっているけど特に誰も気にしていない。


 「あれは鍛冶工房とかの煙だな。」


 行商人のおじさんに訊くとそう答えてくれた。

 帝都内にもあるんだぁ。

 以前訪れた村や町にも武器や防具の製造専門の鍛冶工房があったけど武器はお店で買えるからと思って当時はあまり知ろうとは思わなかった。

 目的の場所へ着いたようで行商人のおじさんの馬車から降りて荷物運びを手伝った。

 この場所はおじさんの知り合いが経営しているお店らしく、雑貨と言われる色々な商品を扱っているとか。

 全て運び終えるとここで依頼は終了。

 わたしは行商人のおじさんと挨拶を交わした。


 「お前さん、今までありがとうな!お陰で助かったよ。」


 「いえ、こちらこそ乗せていただきありがとうございました。」


 「礼儀正しくて良いね。うちの息子達は全然だから見習ってほしいものだ。」


 「大丈夫ですよ、時が経てば息子さん達もしっかりしますよ。」


 「はははっ、そうだと良いな。」


 「では、これで失礼します。」


 「おっと、ちょっと待ってくれ。」


 「?」


 呼び止められると行商人のおじさんは懐から紐のついた丸い板を取り出した。


 「それは?」


 「鏡というやつだ。ドワーフの国から回って来たやつだがあまり数はないらしい。それにこれは試作品だとか。俺は別の奴から貰ったが中々使い道が思いつかなくてな、だから依頼料代わりだと思って受け取ってくれ。」


 「良いんですか?」


 「実際助かったから遠慮するな。」


 「ありがとうございます。」


 おじさんから受け取ると掌サイズで中央を覗くとわたしの顔が映って見える。

 水よりもはっきりと見える。

 それに光も反射する。

 縁の部分は銅かそれに準ずるもので少し重い。

 けどわたしのような人間にとってはかなり貴重で高価なものだと言わざるを得ない代物。

 実際貴族の家では見たことがなかった。

 強いて言えば壁に付けられた透明なガラスはこれに近い価値を持っていそう。 


 「それではお元気で。」


 「お前さんもな!」


 それから暫くの間は街を散策。

 どこにどんな店があるのか、一日では回り切れない。

 服を新調したかったけど服飾店は見つけられなかった。

 今日は諦めよう。

 日が暮れる前には安宿を見つけて何とか一泊することができた。

 お金はあるけど暫くは依頼を受けないと直ぐに底を突きそう。

 帝都の安宿でもバカにはできない金額だった。




 翌日。

 朝日が昇る前に起きてから黄色のワンピースを着てショートソードを握る。

 暫く前から朝にする訓練の一つに、体内で精製する魔力の流れを意識的に操作することを設けた。

 きっかけは辺境の町で戦ったインフェリアマイリスが魔法の球を斬った光景。

 あれが今でも鮮明に覚えている。

 思い返すと一瞬だったけど魔力を帯びていたように思えた。

 あの時は命懸けだったから考察の余裕もなかったけど。

 オリバー達から教えてもらっていない技術、それをモンスターが使っていた。

 彼らが知っていて教えなかったのかそもそも知らなかったのか。

 今では確認できないけど現実に出来る存在がいた以上は再現できるはず。

 少なくともわたしの手元にあるショートソードと似たような剣だったから猶更だ。

 普段は魔法を使うとき以外に精製しない魔力を作り、それを体に巡らせることから始めた。

 最初は上手くいかなかったけどダルメッサの屋敷で働いていた間に少しずつ出来るようになった。

 ただ、実戦には間に合わなかったけど。

 それから武器を体の一部と捉えて流す事、これも一筋縄ではいかなかった。

 最初はショートソードでやったけど中々回せず、丈の短いナイフで訓練してコツを掴めたのが大きい。

 そして今日、やっとショートソードでも魔力を流せるようになった。

 あとは持続時間や流す量を調整できれば魔法攻撃も斬れるはず。

 一区切りついてから持ち物を確認してローブを被り、街の散策序に帝都の冒険者ギルドへ向かった。

 一先ず冒険者ギルドは何処にあるのかを知っておきたいから。

 今日はまだ依頼を受けなくてもいいかな。

 宿を出れば既に何にもの人達が出歩いている。

 そこから少し歩いて小さい路地を出ると喧騒が一気に耳に届く。

 朝から大通りに人々は出ており市場を中心に賑わっている。

 それぞれの店では客を引き入れるために大声で呼びかけたり、商品を見せて説明したりと活気が凄い。

 客も千差万別、一般都民から貴族に仕える使用人達もここで買い物をしている。

 それに只人以外の種族もいて、最低限の装備を身に着けた猫人や重装備の犬人もいた。

 彼らが何処の出身なのかは分からないけど流石帝都なだけに様々な人が居ると感心しちゃう。

 市場の喧騒を抜け、道を歩くと冒険者と思しき人達が一つの方向へ足を運んでいるのが良く分かる。

 彼らについて行くと目的地である冒険者ギルドに辿り着いた。

 辺境の町は勿論ベイグラッド領のデルマイユの街の冒険者ギルドよりも大きい。

 恐らくオーガやトロルよりも大きい建物だ。

 呆気に取られていると背後から男性に声を掛けられた。


 「おう、お前さんはここに来るのが初めてなのか?」


 「はい。」


 後ろを振り向くと三十代の無精ひげを生やした細身の男性。

 ダークブラウンの髪は少し後退しているけど、笑顔は明るく見える。

 金属製の鎧を身に纏っているけど、重さを感じていなさそう。

 武器は左腰に吊るした剣みたい。


 「そうか、ここは国で一番大きい冒険者ギルドだからな。」


 「そうなのですね。」


 「これから冒険者になるって言うなら色々教えてやるがどうだ?」


 「えっと、一応冒険者なので基本的な事はわかっています。」


 「そうだったのか!悪いな、それならさっさと中へ入ろうぜ!」 


 おじさんに促されて中へ入ると既にいる冒険者達の喧騒がドッと押し寄せて来た。

 朝から元気の良い人達だ。

 圧倒されながらもおじさんが空いているスペースに誘導する。


 「俺はマイルズ、しがない冒険者だ。」


 「わたしは……ポーラです。」


 偽名を使おうかと思ったけど冒険者のタグにはポーラと記載されている以上は嘘を吐くとややこしくなる。

 素直に教えても大きな問題にはならないはず。


 「よろしく、ポーラ。」


 「こちらこそ。」


 「冒険者をしているなら殆ど知っていると思うが説明させてくれ。」


 「分かりました。」


 「では。他と同じように大体一階のエントランスで仕事の受注から完了までは完結する。」


 出入り口の左側に大きな掲示板とたくさんの依頼表が張られている。

 そこを過ぎると飲食店が併設されているけどかなり広い。

 千人は収容できそう。

 正面は受付で男性も女性も並んでいる冒険者の手続きを捌いている。

 受付の人数も十人以上いるからここで活動する冒険者の数も多そう。

 右奥は豪奢で大きい階段がある。

 その階段と受付の間には大きな扉もある。


 「ここって何階建てなんですか?」


 「確か十階はあったな。」


 他に比べて飛び抜けて大きい。

 しかも商店でその半分くらいの高さがあれば良さそうだと思う。


 「部屋はひと階層で四つあるが十人は寝泊まり出来る広さらしい。実際に六階から十階は最高等級の冒険者達が住んでいるぞ。」


 帝城を除いて都内で高い場所にある部屋で過ごせることを一つのステータスに出来る、って感じかな。

 この都内で最高等級が何人もいるため序列をつけていて、その序列に沿って部屋分けしていると言う。

 確かに全員同じだからどの部屋で寝泊まりするかで喧嘩しそう。


 「皆さんは最高等級の青に憧れて切磋琢磨しているんですね。」


 「全員ではないが大半はそうだろうな、戦えば戦うだけ報酬が得られるし、ここの宿泊費はギルドが負担するらしいからな。」


 他の階層は作業室や客間になっていて一般の冒険者は立ち入り禁止だそうだ。

 あとは扉の奥は訓練場や武器庫、地下室もあると言う。

 地下室は避難区域に設定されていて有事にはここへ一般民を収容すると言う。

 過去にもここを利用したことがあるそうで現在でも手入れをして強固に保っているらしい。

 これらが他の冒険者ギルドと違う施設があると言う説明だった。

 どこもわたしには縁もないけど善意の説明はしっかり聞いたつもり。

 次は初めて出会う冒険者の良く出す話題。


 「マイルズの等級はどれくらいなのですか?」


 「俺は上から二番目の赤だな、ポーラはどうなんだ?」


 「わたしはまだ黄の等級ですね。」


 「そうか……それなら俺と一緒に討伐依頼を受けないか?」


 何となく話を振ってから適当に別れようと思っていたらまさかのお誘い。

 出来れば一人で活動したいけど眩しい程の笑顔に圧される。

 今の段階では一人でも二人でも変わりはない気がする。

 色々説明をしてもらうならありか?

 でも、あの町では嫌な思い出もあるからなぁ。


 「嫌なら無理はしなくて良いぞ!自分のやり方ってものがあるからな。ただ、慣れない土地で活動するなら色々教えたいと思ってな。」


 周辺の人達を盗み見る。

 彼らの大半は仲間内で会話している、単独の人達はこちらを見てはいない。

 あとはこちらを見ている人達の表情は……少なくとも嫌な感情は表に出ていない。

 一部は呆れているか安心しているような笑顔。

 多分マイルズは初心者をカモにするタイプじゃないのかな。

 ここはマイルズの提案に乗ろうと思ったけど。


 「いえ、実際に土地勘はないので教えていただけると嬉しいのですが……。」


 「そっか、なら早速依頼を受けようか!」


 人が少なくなった掲示板に向かうマイルズの後ろをわたしは追った。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。


今後、最初の方で投稿した話の一部を加筆修正するかもしれません。

もし読み返す場合はご了承ください。

(時期は未定、大筋に変更はありません)




補足・蛇足

帝都

フレイメス帝国の中心地。

帝城は小高い丘の上に建造されていて城から城下町を含む周辺を一望できる。

また、帝城を中心に一般国民(一般人)が住居を構えたり店を営む一般区画、貴族が帝都で泊まる別宅が集まる貴族区画、騎士団の住居や訓練場などがある騎士団区画、魔法士団の住居や施設がある魔法士団区画、畑作や畜産を行っている農業地帯などある程度区切られている。

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