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62話 邪神の徒(後編) ―シンゴ・ヒラモト―

本日もよろしくお願いします。

 「二人とも無事かっ!?」


 心配そうな顔をするシンゴに二人は大丈夫だと答える。

 少し離れたところにはローディーがまだ倒れている。

 ゆっくりと体を持ち上げているように見えるが直ぐには動けなさそうだ。


 「ジェーンも弓矢で援護してくれ。」


 「わかった!」


 ジェーンも小さな弓を取り出し、エディックと同じように矢を射る。

 ただ、エディックの様に鋭く飛ぶでもなく、やや緩慢な印象を持ってしまう。

 それでも彼女は一生懸命に放っている。

 それが功を成しているのかシルフアビットは直ぐに近づいて来ない。 


 「あのモンスター、とにかく速いな。」


 「そうね。一応目に見える速さだけど瞬間的な加速もするから厄介ね。」


 「遠目で見えましたけど、風の魔法を使っているみたいですね。」


 「腕に風の魔法を纏わせていたな。」


 「あとは走る時も風の魔法で加速していると思います。」


 「魔力が枯渇すればどうにかなるってこと?」


 「長期的に見ればそうかもしれません。ただ、その時には私達が全滅しているかもしれませんし相手は撤退するでしょう。」


 「足が止まれば一撃を狙えるのにな。」


 手早く情報を交換して打開策を考える中、メイディスが提案する。


 「キャロルは火の魔法を使いますよね?」


 「そうよ、それが?」


 「火の壁を作ることはできますか?」


 「一応できるけど。」


 「そうか、逃げ道を塞いで移動範囲を限定すれば!」


 シンゴもメイディスの狙いに気づく。


 「そうするとそれに集中しないといけないから援護できないわよ?」


 「寧ろお願いします。エディックとジェーンがいますし。」


 「俺が囮になる。」


 「気を付けてくださいね?」


 「二人もな。」


 シンゴは避け続けるシルフアビットに向かって走り出す。

 その間にメイディスとキャロルは簡単に打ち合わせてからエディックとジェーンの元に合流。

 援護射撃しながら作戦概要を聞いた二人は顔色を変えずにそのまま矢を射続ける。

 グレアムも合流して彼らの護衛に就く。


 「俺もシンゴに合流すべきか?」


 迷うグレアムだがメイディスは大丈夫だと微笑む。

 彼らはシルフアビットへの距離を保ちながらゆっくりと移動して援護する。

 メイディスはキャロルと話しながら錫杖を引きずる。

 その間にもシンゴはシルフアビットに叫ぶ。


 「俺と勝負しろ!」


 「ショウブ?」


 「戦え!」


 「イマ モ シテイル ダロ?」


 そう言いつつシルフアビットは向かってくるシンゴに急接近。

 それでもシンゴは怯むことなくタイミングを合わせてジャクバウンを振る。


 「オソイ ナ。」


 「悪かったな!」


 挑発されつつもシンゴは果敢に挑む。

 シルフアビットがシンゴの中段斬りを右に避けると同時に左拳でボディブロウを狙う。

 シンゴもシンゴで紙一重で躱す。

 ジャクバウンが首や腹を狙う一方、シルフアビットは前後左右にステップを踏みながら拳や蹴りで応戦する。

 シンゴの攻撃が入らない一方でシルフアビットの攻撃は偶に入る。

 だが、その攻撃は致命傷にならずシンゴは耐え続けながら剣を振る。


 「イガイ ト タフ ダナ。」


 「それはどうも。」


 普通の兵士であれば一発でも喰らえば瀕死になる攻撃。

 それをシンゴは何発も耐えている。

 シンゴに限らないが魔力を扱える人間達は無意識でも体内を巡る魔力を操作して肉体強度を上げているとされている。

 人によっては意識的に上げられるがシンゴのように誰にも教えられずに魔力を使える人間は大体意図せずに体を守るのに使っていることが多い。

 一方で意識的に使える冒険者がこの場にいる。


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 少し離れた場所から雄叫びを上げる者が一人。

 ローディーは立ち上がり、気合を入れる。

 そして二振りの肉切り包丁を構えて一気に走り出した。

 ローディーの体中に纏っている白いオーラが見える。

 シンゴとは別に見えるまでに放出して身体能力を上げている証左だろう。


 「俺を置いて楽しんでいるじゃねえか!」


 「寝ている奴が悪いだろ!」


 「良いのを一発貰ったんだ!仕方がないだろ!?」


 軽口を叩く二人は交互にシルフアビットに斬りかかる。


 「コイツラ!?」


 先程よりも身体能力が上がったことに驚くシルフアビットだがそれでも距離を置くことはなく、斬りかかって来る二人に応戦する。

 ローディーが左の肉切り包丁で斬れば少し後ろへ避ける。

 直ぐに左足で踏み込みながら右回転で肉切り包丁を振り回して追撃する。

 振り回された肉切り包丁の腹をシルフアビットの右拳が突き上げて威力を逃がしながら避ける。

 そこへ左脚が飛びだそうとしていたがシンゴが間髪入れずに上段斬りで割り込む。

 軸足でそのまま後ろへ跳ぶシルフアビット。

 ローディーは回転を止めてシルフアビットの右側から背後へ回る。

 回られたシルフアビットは挟み撃ちになるのを嫌ったのか左へステップを踏んで距離を置こうとする。


 「ン?」


 偶々なのか気づけば大量の矢が地面に突き刺さっている。

 何本かは刺さらずに横に寝ているがパッと見ると無造作に矢が放たれたように思える。

 それでも一瞬だけ気を取られたもののシルフアビットは攻めてくる二人の武器の腹を殴って蹴ってと捌きながら相手の体に一撃を与えてる。


 「二人とも!」


 ジェーンの甲高い声にシンゴとローディーは即座にその場を離れた。

 シルフアビットはどちらを追いかけようか迷ったのか動きが止まった。


 「フレイムサークル!」


 キャロルが詠唱した直後、シンゴとローディーを含む三人は炎の円陣に囲まれた。

 しかも、その炎は天井を覆いつくし安全な逃げ場は見当たらない。

 円陣の中でも一本一本の矢が織りなす線に沿って天高く燃えている。

 まるで炎の迷宮のようだ。


 「コザカシイ!」


 シルフアビットは地面から噴き出た炎を避けはしたが狭い範囲で炎に囲まれてしまっている。

 体毛がチリチリと焦げそうな頃に正面からローディーとシンゴが現れた。


 「デスマッチと行こうじゃねえか!」


 気分が高揚しているローディーが斬りこむ。

 炎の迷宮に閉じ込められたと言っても全く身動きが取れないわけじゃない。


 「ココ ハ アツイ!」


 大体の生物は高温を嫌がる、それはシルフアビットも例外ではないらしい。

 早く抜け出そうとシルフアビットは一つの狭い通路へ走ろうとした。


 「隙だらけだ!」


 ローディーは相手の動きを読んだのか急ブレーキを掛けながら距離を取って逃げようとした相手に接近して右の肉切り包丁で腹を切り裂く。


 「!?」


 「俺が先に斬ったぞ!」


 最初に斬ったことを誇るローディーにシンゴは呆れているがジャクバウンに青いオーラを纏わせて構え直した。


 「そうだな。」


 「もっと悔しがれよ!」


 「こっちが先だ!」


 腹から灰色の血を流すシルフアビットは苦痛に歪んだ顔をした。

 それでも早く脱出したいのか狭い通路目掛けて走り続ける。

 しかし、その前にシンゴが立ち塞がった。


 「これで終わりだ!」


 シンゴは青いオーラの刀身を数メートルに延ばす。

 それを見たシルフアビットは驚愕の顔をしたが迷わずシンゴに突撃する。

 ジャクバウンの間合いにシルフアビットが入って来たと同時にシンゴは振り下ろす。

 シルフアビットもシンゴの攻撃に合わせて正面右へ避ける。

 これでシンゴの攻撃が外れた。

 そのままシンゴの顔面に蹴りを入れながら抜け出そうと考えたシルフアビット。

 しかし。

 振り抜いたと思っていた青いオーラの刀身が途中で軌道を変えた。

 滑らかに変わった剣の軌跡はそのままシルフアビットの体を両断した。


 「!?」


 何が起こったか分からない。

 目を大きく見開くシルフアビットの上体は勢いよく地面に向かって下がった。

 そして地面への衝突を感じたことだろう。


 「ナ ナニ ガ?」


 「ただ斬り払っただけだ。」


 「バ バカ ナ……。」


 そう言いながらも残った両腕に風を纏わせる。


 「逃がすか。」


 「ソウカ…ソノ」


 全てを言い終わる前にシルフアビットは真っ二つに斬られた。

 容赦ないシンゴの両断。


 「良いとこ取りだな。」


 「俺達は仲間だろ?これはあんたを含めた全員の手柄だ。」


 「違いないな。」


 ニカッと笑いながら二人は近づいて拳を突き合わせた。

 それから二人は炎の壁の外周部まで近づき、ジャクバウンの青いオーラを纏わせて炎の壁に突き刺した。

 それから何度か動かすと炎の壁がゆっくりと引いていく。

 二人の前に現れたのは無事な姿の五人だ。


 「シンゴぉ~!」


 ジェーンはシンゴに抱き着き、涙を流す。


 「良かったぁ~!」


 「何時も言っているだろう、大丈夫だって。」


 「今回は心配したんだからねぇ~!」


 ジェーンの頭を撫でるシンゴを見る他の仲間は温かく見守っている。

 泣き止んだ彼女が離れたからエディックが水の魔法でシンゴとローディーに飲み水として飲ませた。


 「熱いな!死ぬかと思ったぜ!」


 「普通は閉じ込めるだけの魔法だからね。仲間も一緒に閉じ込めるなんてしないわよ。」


 「そうだな、流石に何度も取れる作戦じゃないな。」


 「お前達は勇敢なのか蛮行なのか。」


 グレアムの言葉に全員が笑った。

 全員が落ち着いたころ、近くにいた兵士達が駆け寄り、シルフアビットの討伐を確認して遺体を運ぶ作業に取り掛かった。

 シンゴ達はその護衛を兼ねて王都まで付いていく事になった。


 「皆、お疲れ!」


 「「「「「「お疲れ!」」」」」」


 王都のとある飲食店でシンゴ達は慰労会を行った。

 彼らの話を盗み聞ぎしていた冒険者達も一緒になって騒いだのは言うまでもない。

 邪神の徒であるシルフアビットの討伐は瞬く間に王都中に知れ渡っており、シンゴ達の知名度が上がることになる。

 それから朝になるまでシンゴ達の武勇伝が語られ続けるのであった……。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

次回はポーラの話を予定しています。

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