61話 邪神の徒(中編) ―シンゴ・ヒラモト―
本日もよろしくお願いします。
「俺達が!?」
邪神が生み出すモンスター達と戦い続けて早一月。
シンゴ達のパーティーは誰一人欠けることなく戦果を挙げ続けた。
勿論シンゴ達以外にも何組ものパーティーが戦果を挙げているが中には早々に脱落したもの、還らない者もいた。
命懸けの戦いに身を投じるシンゴ達は合間を縫って休憩している最中、中年男性の騎士に呼ばれて話を聞いているようだ。
要約すると最近前線に現れるモンスターの中で一際異様な存在が暴れていると言う。
そのモンスターには兵士は勿論騎士達も手を焼いていると言う。
騎士達は単体でも戦える強さを持っているが前線の指揮も任されているため、戦線を崩されないように指揮に集中したいそうだ。
そのため最近騎士達の間で戦果を挙げて名前が知れ渡り始めたシンゴ達に白羽の矢が立ったと言うわけだ。
それを聞いてシンゴ達は少し離れて仲間内で相談を始めた。
「強い奴がいるんだろ?俺は賛成だ、最悪一人でも行くぜ。」
ローディーは何時でも強気だ。
一方グレアムは声を潜ませる。
「俺達は目安にされるのかもしれないな。」
「目安?」
キャロルが不思議そうに訊く。
「今回の志願者の中には俺達以上に等級の高い冒険者達が要るはずだ。だが、この話は俺達が初めてらしい。」
「つまり中堅どころの冒険者に戦ってもらうことで相手の戦力を測ると言うことですか?」
エディックの言葉にグレアムは頷いた。
「俺達で倒せるなら良し、そうじゃないなら相手に見合う冒険者を充てる。いきなり最大戦力をぶつけて倒せてもその冒険者達の疲れは残る。そのあとで同じ強さかそれ以上のモンスターが現れた時に残りの冒険者で対応できるか分からないはずだ。だから俺達を最初の基準として戦わせる。俺達は良くも悪くも中堅どころのパーティーとして名を馳せているからな。今回の戦いで俺達の運命も変わるかもしれないな。」
これを聞いたジェーンが不満そうだ。
「私達、別に弱くないのに。」
「だからでしょう。弱いと力量を測れない、けれど強すぎても測れない。私達は集まった冒険者の中では中間に位置していると思われているのでしょう。」
メイディスの言うことにグレアムやエディックも頷く。
「ある意味評価はされているのかも。」
キャロルがそう言うとシンゴは全員を見回した。
「理由は何であれ大物を相手にできるなら俺は賛成だ。勿論命が第一だから誰かがやられる前に危険だと判断すれば全員で引く。それで問題なければ行こうと思うけど皆はどう思う?」
「私はシンゴが行くなら何処へでもついて行くよ!」
「俺もそうだな。お前達を守るのが俺の役目だ。」
「逃げると報酬がなくなると思いますが…僕達は冒険者、命あっての物種ですからね。逃げて報酬がなくても問題ありません。」
「私も逃げる選択肢があるならそれでいいよ。ただ、やるなら生きて戦果を挙げたいけど。」
「分かっているじゃないかキャロル!挑むなら絶対に倒す、その意気だな!」
「ローディーらしいですね。私も冒険者です、皆さんについて行きます。」
全員の意見がまとまったことでシンゴは騎士に行く事を伝えた。
「そうか!それは良かったぞ!」
ご機嫌な騎士は直ぐに出立の準備を兵士に指示してシンゴ達を最前線へ送り込んだ。
馬車に乗って進んで数日。
目的の場所に着いた頃にはムンドラ王国の騎士団がモンスターの軍勢と戦っている光景が広がっている。
様々なモンスターが統制のない中で暴れ回っている。
それでも騎士団は統制を取って対処していた。
しかし、モンスターの軍勢の後方はかなり土地が荒れた跡がある。
それは数日前には戦場だった場所。
少しずつ押されている証左でもあった。
シンゴ達が辿り着くと兵士の何十人もが治癒魔法で治されては戦場に戻る。
魔法でも治せない兵士は隅で大人しく寝ている。
兵士やモンスターの怒号が響く中、モンスターの軍勢の中央には一匹のモンスターが静かに立っている。
白と茶色の斑模様の毛並み。
二つの耳は上に伸びている。
赤い瞳に口から出ている白い前歯。
腰の辺りには鳥の羽をイメージした紋様が宙に向けて浮かび上がっている。
全体の容姿はウサギに見えるが大きさは二メートル近い。
しかも二足歩行だ。
「あれが?」
グレアムが聞くと一緒に来た兵士がそうだと答えた。
野山に住むウサギと比べたら大分大きく、紋様が見える辺り普通でないのはわかる。
ただ、あれの脅威は見た目では分かりづらいのだろう。
シンゴやエディックは困惑する中、ジェーンは違った。
「可愛いね!あれがモンスターには見えないよね!?」
「まぁ、そうかも。確かに可愛い。」
ジェーンに同意を求められたキャロルも頬を染めながら同じように感想を口にした。
「ですが可愛い見た目と裏腹に恐ろしい攻撃を放つかもしれません。」
メイディスは二人に注意をして場を引き締めさせた。
「あいつだけを相手にすればいいんだよな?」
ローディーに訊かれた兵士は頷き、他のモンスターを近づかせないように既に伝令はしてあるとも言った。
「シンゴ、最初に俺が近づく。後ろの布陣は任せた。」
「わかった。気を付けろよ?」
「誰に言っているんだ?」
ニカッと笑うローディーは戦場の脇から走り出して件のモンスターへ近づき始めた。
シンゴ達も駆け足で近づきながら確認する。
「陣形はいつもと同じで。エディックとメイディスは射程範囲ギリギリで距離を取ってくれ。全体を見るのと退却の判断はメイディスに任せる。ジェーンは二人の補佐と周辺の警戒を。グレアムは後衛の守りに専念。俺とキャロルでローディーのカバーをする。」
特に異論もないようで全員が走りながら陣形を組んだ。
戦いの無い箇所を通り抜けると件のモンスターとローディーが既に戦っていた。
「オラッ!」
ローディーは二振りの肉切り包丁を振りながら件のモンスターに仕掛ける。
「イキナリ コウゲキ トハ ヒト ハ ヤバン デスネ。」
「!?」
件のモンスターが喋ったことに全員が驚く。
「マァ イイ デ ショウ。ワガナ ハ シルフアビット。ワレラ ガ カミ カタストゥ ノ シント ノ ヒトツ。カミ ノ メイ ヲ モッテ ヒト ヲ ハイジョ スル。」
手が停まったローディーに向かってシルフアビットは距離を詰める。
「なっ!?」
意表を突かれたローディーは咄嗟に肉切り包丁を前に構えてボディブローを防ぐが吹き飛ばされる。
「ローディー!?」
メイディスが慌てて声を掛けるが大声で応える。
「問題ねぇ!」
ローディーは器用に体を捻って地面を蹴りながらバック宙をして体勢を直して直ぐに走り出す。
「俺達も仕掛けるぞ!」
「分かった!」
シンゴとキャロルは急いでシルフアビットに仕掛ける。
その間にメイディス達は陣形を組んで守りを固めつつシンゴ達を援護できるように距離を調節する。
最初に切り込んだローディーが肉切り包丁を振り回す。
「その顔を斬り落としてやる!」
「ヤバン。」
シルフアビットはギリギリで後ろに飛んで距離を取る。
「お前も似たようなもんだろ!」
ローディーが再び距離を詰めようと前進したがその途中でシルフアビットの姿が消えた。
「なっ!?」
驚くローディーの右側に現れたシルフアビットの回し蹴りがローディーの後頭部を捉えた。
「がっ!?」
地面に何度も転がるローディーに驚くシンゴ達は漸くシルフアビットに追いつく。
「キャロル、行くぞ!」
「分かってる!」
キャロルは細剣の切っ先をシルフアビットに向けて火の玉を飛ばす。
「ファイアボール!」
火の玉はシルフアビットに迫るが軽々と避けられる。
それでもキャロルは二発、三発と続けて放つ。
「オソイ。」
「くっ!?」
焦るキャロルは四発目を放とうとしたが先にシルフアビットが近づいてきた。
シルフアビットの右手に渦巻く風が発生する。
「やばっ!?」
構えを解いて回避に移るキャロルだがその前にシルフアビットの右手が動き出す。
「!?」
しかし、シルフアビットは攻撃の直前でその場を離れた。
その直後にシンゴがジャクバウンで斬り込んでいた。
「助かった。」
「お互い様だ。」
その間にシルフアビットにエディックの矢が何射も襲い掛かるが悠々と避け続けている。
「ウットウシイ。」
それでもしつこいと感じたのかシルフアビットの次の狙いはエディックに定められ、少ないステップで彼に迫る。
狙われていると分かっていてもエディックは矢を放ちながらも動かない。
彼らの距離が縮まるところへグレアムが割り込んだ。
「やらせるかよ!」
グレアムの構える大盾に正面から蹴りを入れるシルフアビット。
衝撃を体で感じたグレアムだが少し押された程度で耐えきる。
一瞬の硬直の中、剣を振ったグレアムだが彼の目の前には既にシルフアビットの姿はなかった。
グレアムが左を見ると彼の少し後ろで錫杖を構えていたメイディスにシルフアビットが殴りかかろうとしていた。
身構えるメイディスをジェーンが飛び込んで彼女を抱え込みながら地面に転がる。
空を殴ったシルフアビットは二人が下にいるのを認めるとそのまま踏み潰そうとした。
メイディスを庇うジェーンは目を瞑って歯を食いしばる。
だが、踏み潰される前にエディックの矢がシルフアビットの胴体を狙う。
「チッ!」
片足を上げていることでバランスが悪いはずだが、それさえも感じさせずにシルフアビットは右へ避ける。
「ファイアボール!」
キャロルの放つ火の玉が続けてシルフアビットの頭を狙うも大きく仰け反って回避される。
グレアムがシルフアビットに近づき体当たりをするもその場から消えてしまう。
「何処だ!?」
周囲を見回すグレアムにシンゴは叫ぶ。
「上だ!」
グレアムは上に向かって咄嗟に盾を構えた。
それが功を成したのか直後にシルフアビットはグレアムの盾に着地、モンスターの体重がそのままグレアムにのし掛かる。
「ぐおっ!?」
エディックの拘束の矢が射られるも盾の上で身軽に跳躍したシルフアビットは手近な場所へ着地する。
「速い!」
それでも二射目、三射目と次々に放つがウサギのような怪物を捉えることができない。
狙いを定めようとすれば瞬時に距離を詰めて殴りかかって来るだろう。
逆に連射をして動き回らせているが少しでも動きを止めれば一網打尽にされかねない。
矢は大分あるものの近接戦闘が不得手なエディックは敵を近寄らせたくないために必死に射続ける。
シルフアビットがエディックの射撃に気を取られている内にシンゴとキャロルは立ち上がったジェーンとメイディスの傍に駆け寄った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




