60話 邪神の徒(前編) ―シンゴ・ヒラモト―
本日もよろしくお願いします。
前回のあらすじ
ムンドラ王国の街の一つ、ミールドでシンゴとジェーンは冒険者のローディーとメイディスに出会う。街に住む少年を通して街に被害を出すモンスターの討伐と薬の原料を採取したことで脅威が去った。その仕事をきっかけにシンゴはローディー達を仲間に加えるのであった。
シンゴがローディー達を仲間に加える数か月前。
サンデル王国を中心に再び脅威が訪れていた。
数年前の魔王を超える存在、「邪神カタストゥ」。
一般国民はおろか各国の騎士団の大半も聞きなれない名称だったがそれでもモンスターを使役して人々に仇なす存在として知れ渡っていた。
ただ邪神自身が直接暴れまわっているわけではなく、モンスターの軍勢がサンデル王国の北部を中心に全方位へ広がり始めていたが各国が迅速に対応したことで防衛ラインを維持し続けている。
それによって国民たちは目に見える脅威に晒されることなく数か月間、穏やかに過ごしていた。
実際にシンゴ達も邪神の情報は殆ど耳に入ってくることがなく、いつもと変わらない日常を過ごしていたほどだ。
しかし、その日常も段々と脅かされ始めていた。
最初は邪神の顕現が噂された。
それらは日を追うごとに徐々に大きくなり、防衛ライン近隣に住んでいた村や町の人達を中心に危機が迫っている事への信憑性を増させることになった。
危機感を煽る様な話が広がる一方でムンドラ王国は自国の冒険者に一つの依頼を出した。
邪神の軍勢に立ち向かう戦士達を募る
これを知った冒険者の反応は様々だった。
「邪神の軍勢ってそんなに強いのか?」
「俺達が良く相手にするモンスターだろ?余裕だろう。」
「邪神を相手にするとかだったらどうしよう?」
「その時は逃げればいいだろう?そこまでの義務はないぜ。」
「いくら貰えるんだ?」
「ムンドラ王国は他の国よりは保証するだろう。前金は多くないだろうが戦果次第では報奨金とかくれるだろ?」
「やっぱ男としては英雄に憧れるからな!ここで凄い奴を倒せば一躍有名になるだろ!それで城のお姫様と!」
「夢見すぎだろ?まぁ分からないでもないな。」
そんな会話は冒険者ギルドの外でも飛び交っており、シンゴ達も例外ではなかった。
シンゴ以外の仲間達も色々と他の冒険者達から聞いた話を元に思案する。
「前に現れた魔王の時は招集なんてなかったのに。結構危ないってことかな?」
ジェーンは不安そうな顔をしている。
「以前より手を焼いているのは間違いないでしょう。もしかしたら露払い程度かも知れませんが。」
エディックは手を顎に当てて思案する。
「危ない橋なら避けた方が良いと思うけどね。他の冒険者達がこぞって参加すると思うし。」
キャロルは安全な道を勧めるようだ。
「俺は参加すべきだな!こんな機会は滅多にない!逆に他の冒険者に国を任せるくらいなら俺は出向くぜ!」
ローディーは始まる前から既に好戦的だ。
「相手の脅威は未知数ですがローディーの言い分には賛成です。自身の国を守れるために力添えが出来るなら。」
メイディスもローディーに同意する。
皆の意見を聞いたシンゴは唸ったがゆっくりと深呼吸をして全員を見回した。
「俺は参加したい。今の国の状況は人伝にしか伝わってこない。しかも何日も経ってからだ。この街に居続けて最新の情報を知った時には既に軍勢が迫っていると言うのは嫌だな。だからこそ自分達の居場所を守れる力が少しでもあるなら出来る限りのことをしたい。俺はこの国でどのくらい強いかは分からないがそれでも強くなっている実感はある。勿論今回は行きたい人だけで行くべきだ。行きたくない人には強制をするべきではない。だから国も依頼として出していると思う。だけど俺達ならどんな困難も乗り越えられると確信している!」
力強い目をするシンゴに全員は見続ける。
その中で最初に声を上げたのはジェーンだ。
「私はシンゴが一緒ならどうにかできるよ!今までだってどうにかなったんだから一緒に行くよ!」
ジェーンの言葉に嬉しそうな笑顔になるシンゴ。
続いてグレアム達も口にする。
「俺はシンゴ達について行くと決めたからな。何処へでも行くさ。」
「僕はこのパーティーの居心地が良いと思っています。援護は任せてください!」
「私は……一人になるのは辛い。一緒に行ってまた裏切られるのは嫌だけどそれ以上に私が行かなかったことで皆を失うのが怖い、だから私も一緒に行くよ。」
「勿論俺も行くぜ!お前達、頼りにしてるからな!」
「私も出来る限りですが協力させていただきます。」
全員が行く事を表明したことでジェーンの目が潤む。
「みんなぁ~。」
「皆の事は俺が守るから俺の事も皆が守ってくれよ!」
ニカッと笑うシンゴに全員が笑いあった。
周囲では参加するかしないかと議論がされている中、シンゴ達は冒険者ギルドに堂々と入って必要な手続きをした。
それから直ぐに準備をして出発。
一月ほど掛けて戦地へ赴き、騎士団と協力。
押され始めていた戦線を徐々に押し戻す結果となった。
しかし、そう簡単に事は進まなかった……。
シンゴ達志願した冒険者達がミールドの街を経って数週間。
最初にムンドラ王国の王都であるホワイトランダーに着いた。
首都なだけに人の往来はミールド以上で初めて来た冒険者達は誰もが圧倒されていた。
「ここが王都かぁ。」
シンゴやジェーンも例外ではなく物珍しそうに周囲を見ている。
「キョロキョロしていると田舎者だと馬鹿にされるぜ!」
ベテラン冒険者の一人がそう言うと大体の冒険者達が気を引き締めた。
王都の北側に城があり、その近辺に騎士団の訓練場が設けられている。
訓練場へ集まったシンゴ達だが、国内の冒険者達全員が次々に集ってきた。
その数は千人以上になりそうだ。
一つの街でこんなに多くの冒険者を見る機会はそうそうないだろう。
ミールドの街でも三百人もいるかどうか。
多くの冒険者達が集められた人数に驚く中、中年男性の騎士が冒険者達に前に立って声を張り上げた。
「注目!冒険者達よ!国の依頼を引き受けてくれて感謝する!」
その言葉に集まった冒険者達は照れたり笑ったりと様々な表情を見せる。
「この依頼は国の未来を左右する!それだけ重要な仕事だと認識してくれ!今回の仕事は君達の人生に大きな影響を与えることは言うまでもない!その覚悟を以てここに来たと言う前提で話を進めさせてもらう!怖気付いたものがいるなら即刻帰って貰っても構わない!それだけの仕事であることは言うまでもないからだ!」
これを聞いた冒険者達。
自身を持つ者、不安に思う者。
しかし、誰もがここから出て行かずに騎士に顔を向けている。
「君達冒険者の覚悟、しかと受け止めた!これより依頼の詳細を明かす!我が国はサンデル王国に出現した邪神と言う脅威に晒されている!その脅威に立ち向かった騎士団は今も命と誇りを掛けて戦っている!しかし我々も人間である!ムンドラ王国の騎士団が如何に強くとも邪神がいる限りモンスターの猛攻は続くだろう!そこで冒険者である諸君への依頼だ!我がムンドラ王国騎士団の戦場を抜けて王都へ向かうモンスターが多くなっている。諸君らにはそのモンスターの討伐を依頼したい!我々騎士団も王都へ向かわせないように追力しているが数が多い!モンスター討伐の専門家である冒険者であればモンスターを倒すのは難しくないだろう。国王からは戦時中に戦果を挙げた者達は相応の報酬を渡すと約束された。基本的には冒険者だけで行動してもらうつもりだが場合によっては騎士団と共に戦ってもらうこともある!現在我が騎士団に大きな損害は出ていないが冒険者諸君の力を以て盤石にしたい!そして祖国の秩序と安寧を共に守ろうではないか!」
冒険者達はこの話を聞いて大いに盛り上がった。
彼らの歓声を聞いて満足した騎士は他の兵士達に指示を出して冒険者に列を作らせ、手続きを行った。
兵士達が一枚の羊皮紙に冒険者の人相と名前、冒険者ギルドが発行しているタグの情報を書き記した。
複数の列を作らせて何人もの兵士が大量の羊皮紙に書きこんでいるが全ての冒険者の情報を纏めるのに随分と時間が掛かった。
それから冒険者達は首都内の宿屋へ一泊。
最低限の費用は国が賄うらしい。
人によっては喜んだりもした。
そうしてこの日の王都は冒険者達を中心に遅くまで盛り上がっていた。
冒険者達を中心に大いに盛り上がって騒いだ翌日のこと。
天候は晴れ、外を歩くには問題なさそうな天気。
冒険者達は再び騎士団の訓練場に集まってから目的地まで徒歩で移動することになった。
一部の冒険者は雇った荷馬車に乗って移動する者もいてそれを見た一部の冒険者達は羨ましそうにしていた。
ジェーンも荷馬車に乗る冒険者に羨ましそうに見ているがシンゴ達は徒歩だ。
シンゴ達の場合はパーティーのお金を今回の旅の準備に投資したため馬車を雇う余裕はなくてやめたらしい。
そんな彼らはムンドラ王国の西部に向かうこと数週間。
途中からどんよりとした雲が空を覆い始めていた。
雨こそ降っていないが不吉な光景に思えてしまう。
冒険者達が辿り着いた場所。
そこは何もない平原。
剥き出しの土が見える場所。
ここに同行した兵士達が一本の旗を立てた。
青と緑に真ん中が白い丸で描かれている国旗。
「ここを拠点とする!モンスターをこれより後方へ通さないこと!これは絶対だ!」
更に言えばどんな理由であれ許可なく後方へ行った場合は報酬は支払われないとも言われている。
兵士達が運んできた野営用の資材が展開されて次々とテントが建てられる。
冒険者達も手伝ったことで早い段階で野営地が確保された。
「これで雨風は凌げそうだな。」
「そうだね!」
シンゴとジェーンは勿論他の面々も安心している。
一つのテントに何十人も入ることになるがそれは仕方がないだろう。
それにローテーションを組むことで夜でも動くパーティーがいることである程度テントの中に人を入れられるようになっている。
こうしてシンゴ達の国を挙げての防衛戦が始まった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




