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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
異世界と言う現実
6/131

6話 一度限りのボス戦

皆様こんばんわ。

本日もよろしくお願いします。

 コボルドの戦いから暫く。

 あの空間を抜けるにもモンスターが次から次へと襲い掛かってきた。

 例えば人間大の蚊トンボ。

 あの口の針に刺されたら確実に死にそうだ。

 しかも空から奇襲を仕掛けてくる。

 それでも羽音が聞こえたので能力を使ってぎりぎりで回避できた。

 その直後に巨大な蛙が出てきて、その蚊トンボへ舌を飛ばして食べた瞬間を目撃。

 ゾッとした俺は岩場の影を利用しながら即座に逃げた。

 次の階層へ行くまでにコウモリ、カマキリ、蚊トンボ、蛙を見かけたがどれも体格が大きく相手をすることなく逃げた。

 大きいモンスター相手に今の俺では歯が立たずやられる未来しか見えなかったのが大きな理由だ。

 それと運がいいのはあるモンスターが俺を襲い掛かるタイミングを見計らって別の種類のモンスターが襲ってくることだ。

 二匹以上が同時に襲い掛かってきたらひとたまりもないが、奴らの一方は弱そうな俺を狙うも別の奴がそいつの隙を狙っているのが明白だ。

 小さな獲物より大きな獲物を食べた方が腹を満たせるんだろうな。

 俺を狙うやつは目先の獲物しか見えていないと思われるが。

 そんな状況を何度も利用して次の階層へ進んだが、同じような空間に大小様々な岩場が目立った。

 階層の照明も光を放つ天然の魔鉱石だから認識できた。

 コウモリは同じだがここでは巨大な蛇も出てきた。

 蛇の体長は十メートルを超えていそうで頭の形状が丸に見えたので毒なしだと思えた。

 一方でピット器官によって隠れた俺を直ぐに感知しているようで素早く距離を詰められた。

 俺は能力を使いつつ敢えて口へ飛び込み、コボルドの剣で斬りつけながら蛇を倒した。

 外は鱗で覆われているが内は柔らかかったことで功を成した。

 倒した蛇の血肉を頬張って腹を満たす中、こんな事をしている時点で俺もモンスターの仲間入りだと自嘲気味になった。

 それでも生き残るのに必要なことだと割り切って次に進んだ。

 他には中層フロアに現れた別個体であろうイビルモルを見かけたことだ。

 別個体だと思えたのは体格が一回り大きく見えたからだ。

 偶々、一際大きな穴を見かけて奥を眺めたらイビルモルが穴を掘っている光景を目撃した。

 一方のイビルモルは俺に気づくことなくそのまま掘り進んでいった。

 居住や餌を探して掘り進んでいるかもしれないがダンジョンが生み出したモンスターであるならば掘り進ませることでダンジョンの拡張を図っている可能性もありそうだ。

 イビルモルの通った跡には青い巨大ミミズが何匹も現れて焦ったが、俺に構うことなく各々が好き勝手に掘り進んでいく様は生物学の一環で地中生物の生態を間近で見ている気になった。

 また別の階層にはコボルドの集団を目撃して襲われたが、最初に戦ったコボルドに比べて弱く感じた。

 集中して能力を駆使したり、集団と言っても五匹が相手だったことを踏まえれば幸運だった。

 十何匹も相手だったら流石に生き残れなかっただろう。

 それ以前にあのコボルドが強かったからこそ複数匹相手でも生き残れたのであって、最初に十数匹のコボルドが相手だったら終わっていたかもしれない。

 結局、あのコボルドが一匹で行動していた理由は分からないがあんなのがたくさん居たらダンジョンの生態系は変わっているかも知れない。

 こうして大広間の階層や迷路を通りながら安全圏の空間を探しては休んで先へ進んだ。

 睡眠回数は五、六回だが日数はもっと経っていそうな気がした。

 気づけば傷も癒え、最初のコボルドと戦った階層から数えて十二番目の階層へ足を踏み入れた。

 そこは天井や壁が魔鉱石で覆いつくされていた。

 土が出ている場所は床くらいでその床も魔鉱石が飛び出ていた。

 俺は一口大の魔鉱石を探して口に放り込んだ。

 何度口にしても味がない。

 それでも当初と違い、腹を下すことがなくなった。

 それ以前に何度も魔鉱石を口にしているが腹に溜まっている気配がなく重さも感じない。

 不思議なことがあるもんだ。

 犬も歩けば棒に当たる、ではないがこの階層では二、三匹のゴブリンのパーティーが何回も現れて襲い掛かってきた。

 ゴブリンだけではないがここにいるモンスターは魔鉱石の光が当たっているせいなのか元の色なのかどれも青く見える。

 それでいて上の階層で出くわした普通のダンジョンモンスターよりも強い。

 襲い掛かってくるゴブリンは距離があるうちに適当に拾った魔鉱石を投げて注意を引き付けている間に一匹目を倒し、残りの二匹目は蹴り飛ばして三匹目を切り捨てる。

 蹴り飛ばした二匹目も最後に止めを刺す。

 と、出来れば苦労しないがほとんどはゴブリンのナイフでも鍔迫り合いを起こされるくらいには膂力があった。

 それでいてナイフも丈夫なようでコボルドの剣を相手にしても引けを取らなかった。

 ここでも能力を使って何度も打ち合って倒す。 

 しかも、複数匹同時に相手するのだからこれが大変だ。

 集団戦を何度も味わいながら奥へ進むと一際大きな洞窟が見えた。


 「ここはなんだ?」


 今までと違うのは何か大きな気配があると言うこと。

 それに大きい魔鉱石がかなり見られることから奥には進行中のイビルモルが居なさそうであること。

 別の階層で見かけたイビルモルの通り道には土しかなく、魔鉱石は掘り返されたのか一つも表に見えなかった。

 俺は気になって周囲を気にしながら奥へと進んだ。




 魔鉱石の明かりで洞窟の先へ進むのに不便はない。

 しかし、途中で曲がったり登りと下り坂、脇道を行けばかなり進んだと思えば手前に戻ったりとかなりの時間を要した。

 魔鉱石の階層は全てが入り組んでいるのか方向感覚を狂わされる。

 それでも時間はあるから何とか進むことができた。

 ここの洞窟に関して言えばモンスターに遭遇していないのが幸いだろう。

 警戒しつつも戦闘がないのは体力の消費を抑えるのに良かった。

 と、思ったところで。


 「なんだ、これは・・・。」


 目の前には魔鉱石があった。

 床、壁、天井の至る所から競り上がっていた。

 しかも、今まで見てきた魔鉱石よりも一つ一つがかなり大きい。

 洞窟も何十メートルの高さがある。

 その空間を埋め尽くすほどに幾つもの魔鉱石が折り重なっていた。

 そして、その奥から大きな気配がひしひしと伝わってきた。


 「何処も出入り口がなさそうだ。となると、ここも見なきゃいけないな・・・。」


 最初の階層とかも後回しにした区画が幾つもあるがそこまで戻る気も無い。

 それに復讐を遂げるならある程度の力を身に付けたい。

 逃げてでも生き残りたい思いと外に出て復讐を遂げたい思いがせめぎ合いながらも魔鉱石の壁を調べた。

 魔鉱石の出ている向きはバラバラだ。

 その向きによっては足を掛けたり足場になる場所があった。

 また、どれもが巨大だが規則正しく密着している訳ではない。

 入り組んではいるものの複数の魔鉱石がぶつかったりして所々に隙間が出来ている。

 隙間の大きさも様々で人間でも通れそうな箇所が表面とはいえ幾つも見えた。

 一先ず登ろうと思い、近場の足場へ飛び移った。


 「うおっ!?」


 俺は自分の跳躍力に驚いた。

 少なくとも真面に運動していない男子高校生が五、六メートルの高さを飛べるわけがない。

 勿論、ここはファンタジーの世界だから他の人間が出来ても有り得なくはないが能力の低評価を踏まえればあまり肉体の強化もされていないと思ったがとんでもなかった。

 ここまでモンスターと戦ってきたが大半は逃げていただけで走るときも無我夢中だから速く走れていることに意識をしていなかった。

 戦いの方は敵によっては相手を攻撃することで実感を得られていたがあくまで能力とコボルドの剣のお陰だと思っていた。

 兎に角、身体能力が向上しているなら多少はマシだろう。

 それでも俺は低評価だったのだから過信してはいけない。

 自己分析をしつつ、魔鉱石の壁を登って通り道を探せば人が通れそうな隙間を見つけて入ってみた。

 途中で塞がっていたら引き返して別の隙間を探した。

 入り組んだ巨大な魔鉱石の壁は奥行きもあり、中を通るも迷路のようで予想以上に苦労した。

 それでも時間を掛けて漸く向こう側へ辿り着けた。


 「やっと抜けた・・・。」


 抜けた先は大きな通路があり、数百メートル先には広い空間に巨大な何かが鎮座していた。


 「ゲームとかならボスだろうな・・・。」


 ゆっくり進んで鎮座している何かを観察してみた。

 そいつは人型、胡座を欠いて俯いている。

 頭には二本の角を生やしており髪は青色、体色は燃えるような赤色だ。

 深緑の腰巻き以外に装備はなさそうだ。

 武器はなさそうだが爪が鋭そうで切り裂かれたら俺なんて死んでしまうだろ。

 そして、そいつを見て気配をより強く感じたのは言うまでも無い。


 「最悪、倒さなくても出口があれば。」


 倒せるなら倒したいがそれに固執して死ぬことはしたくない。

 俺は更に近づき、残り五十メートルになってところで。

 奴は動いた。


 「・・・。」


 「・・・。」


 互いに目が合い、俺は直ぐに動けるように構えた。


 「ウォォォォォ!!」


 相手が吼えたことで俺は両手で耳を塞いだ。

 鼓膜が潰れそうだ。

 奴の咆哮は凄まじく、数秒は続いた。

 咆哮が終わった奴はゆっくりと立ち上がった。

 立ち上がった姿は相手を恐怖へ陥れるのに充分だった。


 「こいつは、オーガ・・・。」


 空想上の生物で一番類似しているのはオーガだと思った。

 青い目が俺を睨みつける。

 体長二十メートルもありそうな存在は俺との距離を一瞬で詰めてきそうだ。

 俺の後ろは通路だが、オーガも通れるほど広い通路は先程の魔鉱石の壁だけ。

 正門の虎、後門の狼ではないが後ろは後がない。

 改めて腹を括った。

 ここで一生を終えるつもりはない!

 俺はコボルドの剣を構えて勝負を仕掛けた。




 俺はオーガとの距離を詰めながら【フォーチュンダイアグラム】を使った。


 >>俺が正面から斬り掛かる。

 >>オーガは俺を払い除ける。

 >>払い除けられた俺は壁に激突して意識を失う。


 のっけから死亡だった。

 この可能性を頭に入れて再度挑戦した。


 >>俺が正面から斬り掛かる。

 >>オーガは俺を払い除けようと右手を振る。

 >>俺は手前で止まって回避する。

 >>オーガの手は振りかぶられたまま。

 >>俺はその隙に前進して、オーガの左足へ斬り掛かる。

 >>切り傷をつけた直後にその足が内側へ動いて俺を蹴り飛ばした。

 

 蹴り飛ばされて死亡フラグへ突入した。

 少なくともオーガの膂力は馬鹿に出来ない。

 ぺんしゃんこにされないが一撃で動けなくなるのだから攻撃を回避することを前提にしないといけない。

 最初は攻撃の回避に専念することにした。

 兎に角、能力を駆使する。

 俺はそのまま正面へ走った。

 オーガは大きく右手を上げて振り払った。

 能力で見えたので手前で止まって振り払いを回避、直後に前進。

 足元まで来て斬り掛かる振りをして直ぐに後方へ駆け抜けた。

 後ろを振り向けばオーガの左足が内側へ動いていたが空振りに終わった。

 俺はオーガが鎮座していた空間をさっと見回した。

 すると正面左側に人が通れそうな道が続いていた。

 彼処(あそこ)が出口かもしれない。

 それともう一つ気になる場所があった。

 この空間も魔鉱石に覆われているが一つ一つが大きい。

 先程見た左側通路もある意味不自然だが、正面の壁の一部も怪しかった。

 一部分の壁を覆っている魔鉱石は他の魔鉱石に比べて小さい。

 そう、元々は人が通れるほどの大きさだと推定できる、通路の入口を魔鉱石が塞いでいるようにも思えた。

 

 >>俺は魔鉱石の壁を剣で叩く。

 >>魔鉱石はビクともしない。

 >>背後からオーガのフレイムボールが飛んできて俺を焼き尽くす。


 >>俺は魔鉱石の前に立つ。

 >>オーガはフレイムボールを投げる。

 >>オーガの攻撃魔法を避けるが魔鉱石は熱で溶けたり衝撃で壊れたりしない。

 

 >>俺は魔鉱石の前に立つ。

 >>オーガはフレイムボールを投げる。

 >>オーガの攻撃魔法を避けるが魔鉱石は熱で溶けたり衝撃で壊れたりしない。

 >>俺は魔鉱石の前に立つ。

 >>オーガは二投目のフレイムボールを投げる。

 >>オーガの攻撃魔法を避けるが魔鉱石は相変わらずビクともしない。

 >>以下ループ。


 剣で叩いても効果なし、フレイムボールを受けても効果なし。

 少なくともオーガを倒した後に壊すことは不可能だと思えた。

 一方でオーガの力を利用した場合、今のところ確認できるのはフレイムボールのみ。

 これはオーガは一種類しか使えないのか状況次第なのか・・・。

 俺は気になる魔鉱石の壁から離れてオーガにフェイントを掛けながら攻撃を開始した。

 近づけば蹴ったり殴ったりする、距離がある程度離れれば攻撃魔法を使うみたいだ。

 ひたすらちょっかいを掛けて回避するうちに周囲の魔鉱石が地面から剝がれたり途中で折れたりして散らばっていく。

 俺は小さな欠片は拾い食いしてお腹に入れた。

 余り深い意味はないが最近は食べるとなんだか体内の何かの流れを感じるようになっていた。

 しかし、食べることに気を取られた一瞬でオーガの拳が迫っていた。

 間一髪でそれを避けたが余波で吹き飛んでしまった。


 「わっ!?」


 魔鉱石が散らばる地面を何メートルも転がり俺は直ぐに体勢を立て直した。


 「散らばっている魔鉱石のお陰で余計に痛い!」


 自業自得かもしれないがとにかく痛い。

 しかし、寝転んでいれば即座に襲い掛かってくるはずだった。


 「・・・?」


 オーガは自身の拳を開いたり閉じたりしていた。

 何をやっているのかと訝しんでいたらオーガの拳がバチバチと光始めた。

 稲光を発しているようにも思えた。


 「あれは雷の魔法か?」


 クラスメイトの一人の能力が【マジック・サンダー】と言われていたのを思い出した。

 最初の頃は、手こずっていたらしいがある日偶々近くで訓練していたときに特定の場所へ小規模の雷を落としている姿を思い出した。

 俺達召喚された人間は一部の能力を覗いて【マジック】がないと魔法を使えないと言われた。

 俺も魔法を使えない能力なので今もこうして悪戦苦闘をしている。

 一方でこの世界の人間や生物は大半が魔法を使えるようで俺達のような魔法の適性は関係なく努力すれば幾つもの属性の魔法を使えるとか。

 目の前のオーガも例外ではないようで炎属性の魔法を使ったあとで雷属性の魔法も使っていることから明白だった。


 「どいつもこいつも魔法を使いやがって!」


 悪態を突けど相手は魔法を使う。

 オーガは雷を纏った拳で俺に殴りかかってきた。

 俺は即座に能力で確認した。

 

 >>俺は剣でオーガの拳に合わせて降る。

 >>オーガの拳は剣ごと俺を殴り飛ばす。

 >>俺は壁に激突して目の前が真っ暗になった。

 

 やはり俺はそんなに強くなかった。


 >>俺はオーガの拳に合わせて回避する。

 >>オーガの拳が俺のいた場所を通過する。

 >>ギリギリで避けた俺は攻撃の余波でダメージを受ける。


 余裕をもって回避する必要がある。

 と言うか余裕をもって回避できるのか?

 俺は幾つものパターンを見ていくがどこかで躓いたりギリギリの回避で余波を受けてしまう場面があった。

 それでも俺は可能性を探ったがあることに気づいた。


 「やるしかない・・・。」


 現状を好転させる訳ではないが何もしないよりはマシなはず。

 それにこれがご都合主義だったとしても俺の命が掛かっているからなりふり構っていられない。

 俺は見えた可能性を基に行動を開始した。

 と言っても基本は回避の一択。

 攻撃は通じないのだから当然だ。

 オーガが思いっきり拳を振ってきた。

 俺は速めに動いて回避した。

 途中で拳の向きを変えてこないのは都合が良い。

 兎に角、動き回ってひたすら避ける。

 時に走り、時に跳び、時に前転して。

 最初はオーガはその場に立ったまま攻撃していたが拳が少しだけ届かない位置にいると一歩を踏み出して殴ってきた。


 「よしっ!」


 それでも俺はひたすら回避した。

 オーガが少しづつ動いてきた。

 俺は後ろの方へ徐々に下がっていく。

 しかし、俺の逃げ場がなくなり始めていた。

 汗が頬を伝う。

 動き回って大分熱くなってきた。

 相手のオーガは汗一つ掻かず疲れている様子も見えない。

 疲労しているのは俺だけのようだ。


 「体格が違うから体力も違うのか・・・。」


 背後は魔鉱石の壁。

 オーガは最初の一から大分動いて俺を追い詰めた。

 俺は最初から開いている横穴を一瞥したが直ぐに視線をオーガへ戻す。

 無言で威圧するオーガに俺は睨み返す。

 オーガの拳に纏う雷の魔力が先程よりも強くなっていた。


 「マジかよ!」


 オーガがその拳を構えて突き出した。

 それを見て直ぐに横へ跳んだ。


 「っ!」


 バンッ

 オーガが殴った魔鉱石の壁が粉々に砕け散った。

 強大な雷の拳は魔鉱石の壁をいともたやすく砕いたのだ。

 先程も地面に散らかった魔鉱石を雷の拳で砕いていたが今の拳はそれよりも強かった。

 そして、強力になった拳の余波は俺の所にも届く、はずだった。


 「意外となんとかなるのか・・・。」


 俺は回避しながら地面に浮き出ていた大きな魔鉱石の塊を壁にしたことで余波で動けなくなることはなかった。

 しかし、壁にした魔鉱石の塊は見事に砕かれていた。


 「今の余波で俺も死ぬのか・・・。」


 それよりもオーガの殴った場所を確認した。

 そこには横穴が出来ていた。

 そう、先程確認した魔鉱石で閉じられていた横穴だ。

 拳を引いたオーガを見て俺は即座に駆け出した。

 横穴の大きさはオーガの拳は入らない。

 それを見越して俺は件の横穴に突入した。

 同時にオーガが殴ってきたので穴に向かって飛び込んだ、というのが正しいのだろう。

 しかし、余波が来たのか俺はその影響でうまく受け身を取れずに地面に転がるだけになった。


 「ぶはっ!?」


 何かにぶつかったようだ。

 俺は無理やり体を捻りながらその方向を見た。

 そこには鞘に収まった青い長剣が地面に突き刺さっていた。


 「剣・・・なのか。」


 【フォーチュンダイアグラム】で確認できたかもしれないが作戦決行をしたときに見たのはオーガがこの穴を塞いでいた魔鉱石を壊すまでとその直後に咄嗟に飛び込めば生き残れる部分までしか見なかったのでここに何があるかは分かっていなかった。

 もしかしたら、能力でこの光景を見ることが出来たかもしれないが慌てていたこともありここまで確認することが出来なかった。

 これが謎のモンスターで即座に食われるとかだったら完全に詰んでいただろう。

 この剣を手に取ろうとしたが体が中々言うことを聞いてくれない。

 さっきからこの空間全体が揺れているが大丈夫だろうか?

 俺は能力を使って垣間見た。

 

 >>じっとしている。

 >>部屋は揺れ続けている。

 >>じっとしている。

 >>以下ループ。


 暫くは大丈夫そうだがいつまで持つのか。

 こんな状況だが俺は少しでも体力回復に努めるため眠りについた。

 



 意外に寝てしまった気がする。

 時計もなければ空もないからどの程度時間が経っているのか分からないが体の状態を確認してみればなんとか手足は動かせるまでになった。

 それに先ほどの疲労も少しは抜けている。

 一番なのは未だに揺れているがまだ生き埋めになっていないことだ。

 そして、俺の傍には青い剣が鎮座したままだった。

 この剣がどんなものかは分からないが凄そうなのはわかる。

 ここからでもオーガを倒せるか分からない。

 それなら目の前の剣を使わせてもらう。

 何故、こんなものがあるのか分からないが今の俺の武装では歯が立たない。


 「使わせてもらうぜ。」


 俺はゆっくりと手を伸ばして剣の握りと鞘を掴んだ。

 瞬間、俺の中を何かが流れ込んできたのを感じた。


 「これは・・・。もしかして魔力ってやつか?」


 俺の【フォーチュンダイアグラム】では魔法は一切使えなかった、だから、魔力なんてものを感じたことがなかった。

 他の【マジック】を持つクラスメイトは体内外の魔力を感じ取れたらしい。

 体内を巡る魔力の奔流が治まった後、俺は鞘から剣を抜いてみた。


 「これは・・・。」


 剣刃は従来の鉄や鋼を使っていそうだが両面には青い文字だか紋様だかが刻まれていた。

 仮に紋様だとしておこう、それが仄かに青く光っていた。


 「綺麗だ。」


 俺は暫しその剣を眺めていた。

 ドンッ ドンッ

 それも長くは続けられず、現実に引き戻された。


 「そうだ。こんなことをしている場合じゃ。」


 俺は能力を使って今後の可能性を視た。

 

 >>俺は外へ駆け出す。

 >>出口には拳を構えたオーガがいる。

 >>俺は走ってオーガの足元まで急ぐ。

 >>オーガは拳を振ったが空振り。

 >>俺はオーガの正面右足を青い剣で斬りつける。

 >>すんなり入った剣刃がオーガの皮膚と肉を断つ。

 >>斬られたオーガが痛みを感じたのか後ろへ倒れる。

 >>オーガの後ろへ駆けた俺はオーガの下敷きになる。

 

 なんだこれは。

 間抜けな結果を見てしまった。

 とりあえずオーガの攻撃を回避できそうだ。

 それにこの剣で斬ることも出来る。

 後はオーガの倒れる方向を計算して急所を突けられれば・・・。

 再び幾つかのパターンとそれらの分岐の先を視て出口へ駆け出した。

 穴を出ればオーガは拳を後ろへ溜めていた。

 俺は直ぐに正面右側へ回避した。

 その直後に俺のいた場所へ雷の拳が飛んできた。


 「あぶねーっ!」


 雷の拳は強力で余波ですら動けなくなるが大分距離をとっての回避だったから影響はなかった。

 改めてさっきまでの俺の身体能力と今の状態はなんだか違う。

 前よりも体は軽くなっているし、腕力とか脚力とかも上がっている。

 今の回避行動も飛んだ距離が前の倍以上はあったから間違いない。

 これらの恩恵が剣のお陰かもしれない。

 俺は鞘は腰に固定して剣を抜いて構えた。

 再びオーガが拳を突き出したので左側へ回避した。

 そこから直ぐにオーガの足元を駆け抜けた。

 ここで斬ってはオーガの下敷きになる。

 俺は我慢してそのまま距離を取った。

 百メートルほど距離を取るとオーガの拳から雷の魔力が消えた。

 代わりに掌に炎の球を作り出した。

 それを翳して俺の方へ撃ってきた。

 フレイムボールの動きを見極めて即座に避ける。

 オーガの拳から雷の魔力が消えてフレイムボールを撃つのは能力で見えたからわかっていたことだ。

 併用されると攻略が困難になりそうだがどういうわけかオーガは一種類ずつしか魔法を使えないようだ。

 こうやって距離を取れば遠距離からのフレイムボールを撃ってくる、近づけば拳で殴ってくる。

 二発目のフレイムボールが放たれるタイミングで俺はオーガの元へ駆け出した。

 オーガは躊躇うことなくフレイムボールを撃った。

 それを大きく避ける。

 更に三発目の準備がされた。

 その間も俺は距離を詰めた。

 フレイムボール一発当たりの撃つまでの時間は凡そ五秒。

 そして百メートルの距離なら今の俺は十五秒以内で走れる。

 三発目も放たれたがそれも確認済みで右へズレて難なく避けた。

 そして残りの距離が大分縮まったところで。

 オーガは一瞬戸惑いを見せた。

 掌には炎が浮かび上がったが俺が近づいたことで戦法を変えなければと思ったのだろう。

 遠距離と近距離の明確な線引きは分からないがその戸惑いこそが大きな隙へ繋がる。

 一度発生させた炎の球を形成させたときには、俺はオーガの正面左足を斬った。


 「ッ!?」


 オーガは斬られた痛みに反応して足元にフレイムボールを投げ込んだ。

 しかし俺は既にそこから移動して巻き込まれることはなかった。

 それでいて自分で投げたフレイムボールが足に当たったことで熱さや衝撃を感じたのか大声を上げて転げたのだ。


 「ウォオオオオオオオオ!!」


 初めての叫びを聞いたかもしれない。

 巨体なだけに俺には煩いのだが相手にとって関係のないこと。

 背中から転げて正面左足を両手で持ちながら痛みに堪えているようだ。

 俺はジタバタするオーガの動きを掻い潜りながら次々と斬り刻んだ。


 「ッ!ッ!?」


 オーガは足の火傷や体の切傷でパニックを起こす。

 俺は構うことなく斬り続けるがこの世界のオーガもある程度再生能力を持っている様だ、刻んだ傷跡が再生している。

 青い肌から滲み出た血も青くて驚いたがそれよりもそろそろ火傷も回復する頃だろう。

 悶えていたオーガは何秒かじっとした後、ゆっくりとその巨体を起こそうとした。

 俺は視た通りにアキレス腱を狙おうとしたが青い剣の剣刃が最初よりも光っていることに気が付いた。


 「これは・・・。」


 能力では気づかなかったが今の状態なら何かが出来そうな気がした。

 青い剣から流れ込んでくるイメージを受けて、俺は再び能力で可能性を確認した。

 

 >>俺は剣に魔力を注いで斬りかかる。

 >>オーガは左腕をついて立ち上がる途中、地面に付いた左腕の手首を狙って斬り払う。

 >>オーガの左腕が切断された。


 まさか剣刃以上もあるオーガの腕を斬るなんて・・・。

 その後の展開も確認して俺は行動に移した。

 狙うはオーガの左腕。

 確認した中で、立ち上がる途中の足を狙おうとしたら地面に付いた左手で掴まれて終わる光景しか見えなかった。

 それを踏まえて俺はオーガの左腕へ駆け出しながら青い剣に魔力を込めた。


 「!」


 今までも感じていた疲労が更に増した。

 頭痛を感じるが気力で堪える。

 全身から大量の汗を流しながら、俺は数メートル手前で跳躍して青い剣を右腰に構えた。

 そこからオーガの左腕に近づいたとき、思いっきり振り抜いた。

 何かしらの抵抗を感じず、思いっきり振り抜けたことでオーガの左腕を斬り落とせた。

 ここまでの爽快感を得たのは初めての事だ。

 腕を斬られたオーガから大きな叫び声と切断面から青い血が勢いよく流れだした。


 「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!?」


 二メートル以上の高さへ跳躍したが上手く足から着地してオーガの正面へ向かった。

 仰向けで右腕で左腕を抑えるオーガの曲げた脚を何度も跳びながら登っていく。

 魔鉱石の壁よりも足場になる箇所はないが数メートルの脛を登るのは思ったほど難しく感じなかった。

 膝まで駆け上がったところへオーガの右腕が抑えていた左腕から俺の方へ向かってきた。

 これも能力で既に視た光景だ。

 敢えて、迫りくる五指を広げた右手へ飛び込んだ。

 オーガの右手は俺との距離が一メートルくらいのところで五指を閉じようとしていたが俺は後ろへ向いて迫りくる中指と人差し指を青い剣で一閃した。

 魔力を帯びた青い剣は剣刃よりも先にある指を綺麗に落とした。

 血が出てくる前に素早く掌の方へ向き直って足を着けて駆け上がった。

 もし、オーガにフレイムボールや雷の拳を使われていたら一瞬で消滅させられていたが腕を斬られたことでそういう判断ができなかったのだろう。

 視えたとはいえ、内心冷や冷やしたがオーガの右手から逃れて再び空中へ躍り出た。

 俺の下には痛みと恐怖を浮かべたオーガの顔がまじまじと見えた。


 「これで最後だ!」


 俺は青い剣に魔力を更に込めた。

 今までよりも青い剣に帯びた魔力は剣刃の切っ先を超えて長く伸びていた。

 青い剣を上段に構えた俺は思いっきり腕に力を込めた。


 「うおおおおおおおおおおおっ!!」


 全力で剣を振り下ろす。

 青い剣に纏った魔力がオーガの頭から股まで一瞬で過ぎ去った。

 オーガの変わらない表情は何が起こったか分からないようだ。

 次の瞬間。

 オーガの体が左右真っ二つに割れた。

 その数秒後に左右の断面から青い血が勢いよく噴き出た。

 俺は空中でその血を浴びながら、出来上がった血だまりの上に着地した。

 思いっきり血が跳ねるも全身血だらけで既にどうしようもなかった。

 それよりも暫くの間は魔鉱石以外を口にしていなかったため、吹き出る血を口にして喉を潤した。

 別にどのモンスターの血も美味しいとは思わないが水がない場所で水分補給をするにはモンスターの血しかなかった。

 暫くの間、液体を飲んでいなかっただけにこの血液は恵みの水に等しい。

 勢いが治まった後も断面から流れる血を啜って腹を満たした。


 「オーガもそんなに美味しくないな・・・。」


 血で在れ肉で在れ、このダンジョンのモンスターは総評としてそんなに美味しいとは思えなかった。

 それとこのオーガだけではないが人型なだけに断面から見ても内部構造は恐らくそんなに変わらないだろう、そんなどうでもいいことを思った。




 「次はあっちか。」


 俺は血だまりから離れて最初に見た左脇の穴へ向かった。

 入って直ぐに魔鉱石の壁が見えた。

 能力で逃げ込んだパターンを視たが、行き止まりになっていて直後にオーガのフレイムボールで焼かれる結果だった。

 一見、続いていそうな見た目だっただけにこうして塞がっていると引っ掛けにも思えた。

 俺は青い剣を構えて能力で確認した。

 そして間髪入れずに魔力を帯びた青い剣を右側へ思いっきり突いた。

 すんなり入った青い剣をそのまま円状に動かして一周させた。

 壁と言っても手前から奥の規模は二、三メートルくらいだろう。

 そこから地道に手前の切れ込みを入れた魔鉱石を退()かし続けた。

 今までにこんな重労働をしたことはないが一メートルもある塊を運び続けた自分に驚いた。

 やはり、ここでの生活が俺の身体能力や目に見えないステータスに影響を与えたのかと思える。

 向こう側へ通じるまでには魔鉱石を退けたがやはりさっきの一戦と今の作業で疲れをより感じてきた。

 頭痛は治まったが体の疲れは溜まったままだ。


 「休むか・・・。」


 俺は向こう側へ渡る前に腰を下ろして近くにあった一口大の魔鉱石を口に放り込んで嚙み砕きながら呑み込んだ。

 そして思考を放棄して大の字で寝転び、意識を手放した。  

ここまで読んでいただきありがとうございました。

不定期更新ですが次回も暇つぶしに読んでいただければ幸いです。




追記

補足・蛇足

平本慎吾は窮地を脱する過程で新たな剣を手に入れました。その時に魔力を感じたような描写ですが、あくまで本人の体感によるものであります。

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