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57話 復讐の炎

本日もよろしくお願いします。

今更ですが平和的な描写はありませんのでご了承ください。

 これで用心棒は片付いた。

 単純な人で良かった。

 屋敷で見る彼女は何処か退屈そうだった。

 詳しい出自は知らないけど親に育てられながら楽しく過ごした風には見えない。

 そして前回の襲撃の時に見た彼女の顔。

 あれは待望していた、期待していたって感じ。

 つまりは戦いを欲していた可能性がある。

 だから奇襲をかけずに話しかけた。

 適当に言ってしまったけど応じてくれて良かった。

 もし、応じずにあの場で始まりそうならある程度は誘導しつつ脅威として見てもらうしかなかったかな。

 あとは手を抜いて弱い奴と思わせつつ隙を作って相手を川に漬ける。

 仮に川に浸からなくても水を撒いたから水伝いに魔方陣を発動できたけど上手くいった。

 川に浸からせるか水浸しにしたところで地面に撒いた水を通して靴裏に刻んだ凍らせる魔方陣を発動した。

 伝導して彼女を中心に数人分の範囲で凍らせたから直ぐに復帰することはないはず。

 凍った場所は水流や夜明けで溶けるけどその頃には既に息は止まっている。

 これで心置きなく出来る。

 その場を後にして屋敷に向かった。






 屋敷は静かだ。

 全員が寝静まっているはず。

 最初に調理場へ侵入して朝食用に作ったパン生地を器ごと持っていく。

 それからベイグラッド家の主達の部屋へ侵入。

 ゆっくりとドアを開けたけど部屋の主達は眠ったまま。

 それぞれのベッドの傍に千切ったパン生地を土台にして手作りのお香を挿す。

 魔法でお香の先端に火をつけて煙を発生させる。

 これをダルメッサ以外の部屋に仕掛けた。

 毒性の強い薬草で作ったお香は匂いは弱いけど、一定量を摂取すると死に至る。

 少量の摂取でも体に負荷が係り、普段と同じように体を動かせなくなるけど短時間で水を大量に飲んで排出すれば解毒できる。

 わざわざこんな事をするのは念のためだ。

 万が一に逃れられては困る。

 わたしがまさにそうだから……。

 最後にダルメッサの部屋へ入る。

 中には部屋の主以外誰もいない。

 この屋敷のベッドは豪奢な天幕に包まれているがダルメッサの天幕はかなり刺繍が凝っている。

 その中で煩い鼾を立てながら気持ち良く寝ているこの男。

 アルファン様達を殺すように命じておきながら自身は安全な場所でのうのうと生きている。

 どうしてこんな奴にあの人達は殺されなきゃいけなかったんだ!?

 今更ながら正しい方法じゃないとは思う。

 寧ろ正しいって何?

 それに黒く渦巻くこの気持ちを抑えられない。

 あぁ、もう直ぐ、もう直ぐだ!

 天幕の布を引き裂いて両足を結ぶ。

 一本じゃ心許ない、足だけで何本も巻き付けてから更に天幕を裂く。

 腕を結ぶために無理やり巨体を転がしてうつ伏せにするがまだ起きない。

 両手も何重にして結んでから猿轡(さるぐつわ)をつけた。

 流石に息苦しいからかうなされ始めた。

 時間があれば見ていても良かったけどそうもいかない。

 天幕を裂くのに使ったナイフをダルメッサの右肩に刺した。


 「んぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉおぉっぉぉぉおぉぉ!?」


 痛みに目を覚ます男。

 涙を浮かべている。

 目を見開き暗闇の中、わたしを視認した。


 「んあ゛あ゛!?んぁんあ゛おえあ!」


 恐慌している、いきなり刺されて拘束されているんだから。


 「目が覚めましたか、ご主人様?」


 「んぉんおぉっぉおあ!」


 「どういうことか?簡単なことです。」


 一拍置いて心から伝える。


 「復讐です。」


 「うくふぅ!?」


 「あなたは自分の野望の為に様々な人を不幸にしました。時にぶつかり合うのが人間ですから一概に悪いとは言えないでしょう。だけど大事な人達を奪われる苦しみをあなたは知っていますか?あなたに殺された人達があなたに何をしたのですか!?アルファン様達はお前達に危害を加えていないのにどうして死ななければならなかったの!?」


 「あうふぁんあお!?」


 更に左肩へナイフを立てる。


 「んごぉおおおお!?」


 「彼らは帝国全土のために尽くしていただけなのに!帝国の未来を案じていただけなのに!それを邪魔したお前が今も幸せに生きているだけで腹立たしい!素知らぬ顔して家族と幸せに暮らすお前達が憎らしい!優しいあの人達を殺したお前は死んでほしい!わたしから多くを奪ったお前を!絶対に!許さない!家族諸共死んでも苦しみ続けろ!人間のクズがああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 「んがっ!がああ!?ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

 「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 馬乗りになって何度も刺す、何度も何度も何度も。

 暗闇の中、わたしは突き立てる。

 耳障りな男の叫びが響くが関係ない。

 たくさん繰り返し。

 返り血で赤くなっても力強く握りしめ。

 晴れない恨みを込めて刺したナイフをねじ込んだ。


 「”#$%&’‘*!?」


 「さよなら、×××××……。」


 ゆっくりと立ち上がりベッドから降りる。

 未だに意識があるのか喚いているがどの道助からない。

 愚かな家主の部屋を出て最後の仕上げに取り掛かる。

 それにしてもあれだけ騒がしかったのに誰かが起きている気配を感じない。

 ダルメッサの寝室は他の部屋よりも壁が分厚いらしい。

 手元にある炎爆石を屋敷内の主柱を中心に何か所かに撒いていく。

 一階の通路に夜の番をしていたキャシーが寝転がっている。

 色々教わったけど助けようと言う情は湧かなかった。

 同期を含めた使用人達に対しても特に思うことがない。

 それはダルメッサ達の家族に対してもそうだ。

 あの子達も……。

 一瞬笑顔の子供達が浮かび上がったけど直ぐに消える。

 屋敷を回った後に使用人の宿舎と正門にも炎爆石を置いた。

 門番達は今もぐっすり眠っている。

 今日の夕食や差し入れ全てに睡眠薬を入れたから寝てもらわなければ困るというもの。

 更にダメ押しに食後のお茶にも入れたから遅かれ早かれ時間の問題だったと思いたい。

 実際、この屋敷の人達は毒への耐性がなかったからまだ良かった。

 最後の仕上げに屋敷の敷地外に出て被害に遭わない距離を空けた場所で魔方陣に魔力を込めた。

 爆発。

 街中で爆破させた時よりも重く響く音。

 お腹にずっしりと響いて来た。

 空に向かって大きく炎と煙を上げている。

 かなり大きい音だから私兵団は勿論、街の住人は気づくかもしれない。

 でも遅い。

 ここにいる人達は皆助からないのだから。


 「やっぱり。」


 後ろを振り返る。

 一人の女性がいた。

 その女性はレイラ、ダルメッサの使用人代表の一人。


 「起きていたんですね。」


 「そうね、あなたなら何かをやりそうだと思って見ていたら本当にやるなんて。」


 まさか眠っていなかったなんて驚いた。


 「解毒剤でも飲んだのですか?」


 「いいえ、ひたすら水を飲んだわ!」


 「……そうですか。」


 まさか水を飲んで眠気を抑えるとは思わなかった。

 ただ、そういう可能性も考えなければいけないなんて。


 「ただ、今日の夜に仕掛けるなんて思わなかったからこの格好で出てきちゃったけど。」


 彼女は普段の作業着姿だった。


 「わたしがこの家を消そうとしたことに気づいたんですか?」


 「最初は思ってなかった。だけど他の子達と違ってあなたの眼は何か信念のようなものを感じた。これは女の勘だけどね。」


 愛嬌を振りまきながら言われたけどまさか勘で当てられるなんて……。


 「それであなたを私と一緒に仕事させてどう動くのか試させてもらったんだけどね。」


 「ダルメッサの書斎の掃除、街にあるオメキャリングのアジト、炎爆石の話とかですかね。」


 「知っていたの?」


 彼女は驚いているけどわたしが気づいたことも分かっていたんじゃないかって思える。


 「引っ掛かっていました。ここまで都合の良い話が舞い込むなんて。そういう時は大抵あなたがいたなって思いました。」


 「そうだったのね、バレやすいものね。」


 「それであなたの目的は何ですか?」


 ショートソードをレイラに向けると彼女は一瞬たじろいだけど両手をブンブンと横に振った。


 「誤解しないで、あなたと敵対するつもりはないから。」


 「……。」


 もしかしたら不意を突いて襲ってくるかもしれない。

 警戒しなきゃ。


 「本当だって!私もあなたと同じだったのよ!」


 「同じ……。」


 「私は家族をあの男に殺されてね。村の代表として税を一時的に下げて欲しいと訴えただけなのに。それで殺された途端、誰も声を上げなくなった。しかも村の人達は自分達も同じ目に遭いたくないからって残った私を村から追い出して。ふざけるなって思ったわ。村のためにも立ち上がったのにどうしてこんな仕打ちを受けるのかって。でも村の人達に怒りを向けるのは違うと思ったから身寄りもない私はこの街に来てあの男に復讐しようと思った。当時も使用人を募集していたから都合が良いと思って受けたら採用されたわ。だけど復讐する機会が中々なかった。知恵もなければ腕っぷしもない。当時は別の用心棒がいたからどうしようもなかった。挙句の果てに慰み者にされて悔しさだけが募ったわ。それから大分時が経ったけど今、本懐が遂げられた。私が直接下したわけじゃないけどざまぁ見ろってね。あなたのお陰よ、ありがとう。」


 今までの鬱憤を晴らすように全てを吐き出した彼女は静かに微笑む。

 そんな彼女との会話は最後になるけれど、どうでもいい事を口にしてしまう。


 「これからどうするつもりですか?」


 「どうしようかしら。全然考えてないけど、何処かに行こうかしら。アシュリーはどうするの?」


 「わたしにはやることがあるから……。」


 「どの道この街にいると捕まるかもしれないわね、ここでお別れね。」


 「そうですね、今までありがとうござました。」


 「こちらこそありがとう、また何処かで。」


 作業着姿のレイラはこの場を後にした。

 彼女の話がどこまで本当か分からないけど敵対されているならとっくに横やりが入っていたはず。

 だからここで素直に別れることにした。

 ああ、ダルメッサがバカで良かった。

 もし、冷静で用心深い人間であればこうはならなかったかもしれない。

 ただ感謝したいわけではなく当然の帰結だと思いたい。

 それにしても凄く疲れた。

 汗が滝のように流れる、傍で燃えているから熱く感じるのかな。

 心臓がいつも以上に早く鳴っているし頭痛も始まった、何処かで休みたい。

 暗い夜空へ登る煙を見上げながらゆっくりと歩いた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




補足・蛇足

ポーラがタバサに対して使った氷魔法は『パーマフロスト』でした。

第8話でも異界の勇者が使っていましたがポーラの場合は魔方陣を作ることで行使できます。

(前話の後書きでも似たような事を書いていますがご了承ください)

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