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53話 手掛かりと糸口

本日もよろしくお願いします。

明日と明後日も投稿予定です。

 各所で多くの作物を育て始める時期になっているある日のこと。

 朝早くからダルメッサの書斎の掃除を任された。

 何度か書斎に入っているが必ずレイラがいるから簡単に書類を見ることが出来ない。

 鍵はゴードンかレイラが管理しているため掃除以外で入ることは出来ず、夜は他の使用人達が近くにいるため侵入も容易ではない。


 「アシュリー、新しい布巾を取りに行くけどそのまま掃除してね。」


 レイラは珍しく掃除用具を取りに出て行った。

 これがチャンスだと思い、外に誰もいないことを確認してから書斎の中を手早く探した。

 以前見つけた引き出し以外にも二重底の引き出しがあり、その中の書類を見ると一瞬訳が分からなかった。


 「何、これ?」


 書類の中にはボビィとサムのことが書かれた内容があった。

 何でもベイグラッド家に縁のある親戚関係の証明書。

 更に彼らは現在帝国の軍に所属しているらしい。

 少なくとも彼らから以前聞いた身の上話では貴族なんて触れられていない。

 いや、そもそも彼らは生きていた?

 てっきり死んでいたものだと思っていた。

 もし生きていたならケイティ達が逃がしている可能性もありそうだけどもしそうであれば同じルートで逃がすはず。

 だけどあの時、後から二人が追いかけてくることもなかった……。

 彼らが生きていたことは衝撃的で嬉しい反面、アルファン様の暗殺に関わっている貴族と関係を持っているなんておかしい。

 偶々あの屋敷で二人が眼鏡にかなったから連れていかれた?

 或いは自分達の意思でついて行った?

 二人とダルメッサの関係は分からず仕舞い。

 レイラが戻って来る気配を感じ、書類は全部仕舞って掃除の続きをした。


 「あら、そこを掃除しているの?」


 「すみません、丁寧に掃除しようと思いまして……。」


 「そうよね。しっかりやらないと旦那様がお怒りになるものね。」


 バレることなくやり過ごせたみたい。

 書斎の掃除を終えてから他の掃除へ移った。






 別の日のこと。

 雲が薄くかかっているけど雨は降らなさそうだ。

 わたしはレイラと外へ買い物に出かけた。

 これも仕事の一環で直ぐに屋敷へ入荷されない物や急ぎの物はよく買い出しに出ている。

 仕事中の外出は一人で行かされることはなく最低でも二人で行動させられる。

 それと休日の外出は特定の時間までしか許可されず、戻って来れなかった場合はクビになるらしい。

 それが怖くて休日に個人で外出しようとする人はいないみたい。

 一方で、家主達に見つからなければ仕事中でも個人の買い物は暗黙の了解で見逃されている。

 かくいうレイラも偶にしている。

 こういう時は大抵皆へのお土産だったりするわけだけど。


 「アシュリーはこのベイグラッド領で自慢できる産物って何か知っていますか?」


 「麦ですかね?」


 「それもあるけど最近は燃える石です。」


 「燃える石?」


 「この街では炎爆石って言われてます。ダルメッサ様が主導で原料を採掘して加工の指示を出したそうです。」


 「ダルメッサ様は凄いんですね。」


 「それでその炎爆石が今回の戦争で使われたらしいです。」


 「成果があれば帝国からも称賛されそうですね。」


 「ただ、まだ大量に生産できないから帝国には本格的に卸していないらしいですよ。」


 炎爆石、黒い塊に見える代物は戦争の兵器になっている物。

 一方で一般市民の生活の支えにもなるとの見方もある。

 と言うのも魔法で火を起こせる世界だけど大半の人間は魔法の使い方を学んでいない。

 そのため火を起こすのは一苦労。

 しかし、(くだん)の代物は魔法がなくても火を起こせるのではないかと一部の人達が噂している。

 ただ、現在利用されている方法は魔力を通して起爆させるらしいからそんな簡単には普及しなさそう。

 小さな塊でも凄い爆発を起こせるとダルメッサの私兵達が自慢していたこともあり噂に尾ひれがついたみたい。

 それからレイラと歩いていると暗い路地に見知った人が居た。

 あれはゴードン?

 ダルメッサの執事をしている男性使用人。

 何をしている?

 建物のドアが開くと黒いローブを纏った人がゴードンを招き寄せた。

 彼らの姿が見えなくなるとレイラに肩を叩かれた。


 「そろそろ行きましょうか?」


 「あ、はい。」


 そのまま何事もなく人混みの中を歩き続けた。

 周辺に気を配ってみたけどわたし達のあとを追う者達はいないみたい。

 ホッとしつつも気を引き締めて仕事に努めた。






 数日後。

 ベイグラッド家の主であるダルメッサとその息子であるダレルが近くに設立しているベイグラッド家の私兵団を訪れた。

 ダルメッサの使用人であるゴードンを始め、何人かの使用人達も付き従っている。

 わたしもその中の一人、何度か足を運んだけど豪奢な建物に広い敷地ではあるけれど兵員が少ない。

 未だサンデル王国との戦争が終わっていないことを証明しているように思える。

 仮に終わっていたとしても全員が生きて帰って来られるかは別。

 この街に残っている兵員は街の巡回、屋敷の警護、残りは兵舎で事務仕事か訓練らしい。

 屋敷の警護はもっぱら正門に二人程度で暇を持て余しているように見える。

 兵舎の外で活動する兵員も少なく、正直見て回っても直ぐに誰かを見かけることはなさそう。

 そんな私兵団を視察する目的は単純にベイグラッド領の為に真面目に仕事をしているかどうか、ベイグラッド家の威光を兵団にも示すためとレイラがこっそりと教えてくれた。

 さて、集団行動しているけど少し外させてもらう。

 聞いた話によると敷地内には炎爆石を保管している倉庫があるらしい。

 それが本当であれば利用しない手はない。

 誰にも遭遇しないように走り回ると一際大きな倉庫が見つかった。

 それ以前に兵舎から大分離れている。

 近くの木に登って窓(壁の石を繰り抜いた状態の穴)から覗くと、中は暗くてよく分からない。

 ただ、木箱に入っているように見える。

 周囲に人が居ないことを確認して適当に走り回る。

 偶々兵舎の外に出た兵士に声を掛ける。


 「すみません、主様と逸れてしまいました。何処にいるかご存じでしょうか?」


 「ダルメッサ様なら兵舎の二階に居るはずだ。怒られないことを祈るぜ。」


 「ありがとうございます。」


 一礼して直ぐに兵舎に向かった。

 静かに階段を登るとちょうど最後尾の後ろ姿が見えた。

 一番後ろに並んで澄ました顔をする。


 「あれ、アシュリー。いつの間に後ろに居たの?」


 同期の一人が気づいて小声を掛けてくる。


 「逸れてしまいました。内緒にしてくださいね?」


 「まぁ、あんたにはお世話になっているから良いわよ。」


 ひそひそ話は誰にも聞かれず、怒られることもなかった。

 一通り見回った後、敷地内の説明を近くにいた兵士に訊いてみると先ほど見た倉庫は炎爆石の保管庫で間違いなさそう。

 ダルメッサ達と一緒に屋敷に戻ったけど、もう少し情報が欲しいかな。

 ここから数か月間は街を見回りながら炎爆石の調達に勤しんだ……。 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

明日と明後日も投稿予定です、ご了承ください。

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