52話 子供達の日常
本日2本目の投稿です、よろしくお願いします。
前話をご覧になっていない方はそちらも見てください。
ダルメッサの暗殺失敗から二月。
寒い時期から暖かくなり始める頃。
彼らの動向を観察しながら仕事に従事しているけど屋敷自体はいつもと変わらない。
ダルメッサは屋敷で仕事をすることが多くなった一方で息子のダレルは外へ出るようになった。
それからダレルの弟達もダルメッサが襲撃された件を聞いて一度だけ顔を出したがそれっきり。
心配しに来たと言っていた割には口の端が吊り上がっていた。
わたし達新人に関して言えばダルメッサの孫達と仲良くなったことが大きな変化かもしれない。
その理由はこの屋敷独自のローテーションによるもの。
以前ケイティ達が教えてくれた貴族に仕える場合、緊急時を除いて一人に対して付き従うものと聞いた。
当のケイティ達はアルファン様が懇意にしていた貴族の交流時にそこの使用人達から話を聞いたらしい。
今のわたしの立場はレイラと一緒に仕事をする場合が多いものの、この屋敷は使用人達に定期的に休暇を出すから他の人が代わりに仕事を任されることも多い。
衣食住と給金に加えて休暇もあるなんて働きやすい職場。
あんなに人が来るのも頷ける。
そんな狭き門を潜り抜けた今日のわたしは二階の窓拭きの最中。
この屋敷内にある窓はガラスと言う透き通った板を窓の扉に取り付けている。
ガラスはまだ大量に生産出来ないらしいからこの世界では高価な代物。
割らないように綺麗に布巾で磨いていると近くから気配を感じる。
絨毯の上をゆっくり歩いているけど足音が聞こえる。
適当なところで振り向く。
「何か御用でしょうか、ドルー坊ちゃま?」
「えっ!?なんで毎回分かるんだ!?」
驚くドルーだけど、森の動物たちの方が上手く近づいてくるよ。
長男のドル―はやんちゃで喧嘩っ早い性格で女性使用人によく悪戯をする。
それに今年で八歳だけど態度は貴族の家の子らしく大きく、言う事を聞かないと辞めさせるなんて言う始末。
実際に辞めさせられた人達がいるから出来るだけ従う様にと最初にレイラが念押ししていた。
「何となくです。」
「くぅ。アシュリーだけ上手くいかない……。」
「出来れば女性のスカートを捲らないようにしていただけると嬉しいのですが?」
「嫌だ!楽しいんだ!捲らせてくれないとクビにするぞ!」
「それは困ります。」
「だったら!」
「坊ちゃま。坊ちゃまはこのベイグラッド家に生まれた由緒正しき御方です。才能も力もある坊ちゃまなら自力で成し遂げることが出来ると思います。今まで出来たのがその証拠です。」
「でもアシュリーには出来てないぞ!」
「これは坊ちゃまが大人になるための試練であります。それを乗り越えた時、父上や御爺様のように素晴らしい殿方になると思います。」
「そ、そうか!そうなのか!」
「そうです。坊ちゃま、わたしは仕事を続けますので失礼します。」
「わかった!」
ドルーは元気よく返事をして一階に降りて行った。
何を言っていたんだわたしは?
意味が分からない理屈で追い立てたけど、結局ドルーはこれからも仕掛けてくるだろう。
それを考えるともっと良い説得の方法はないのか?
一先ず問題を先送りにして仕事に従事した。
別の日。
本日はエヴァンのお世話を任された。
ダルメッサの孫に一人である次男のエヴァンは六歳の大人しい性格でドルーと反対にあまり自身の想いを伝えることはないように思える。
それから妹のサリーが母親のルースに甘えている時は羨ましそうに指を咥えている癖がある。
彼の一日は剣術以外で外に出ることはあまりない。
時間があれば屋敷内の書物を読み漁っている、そんな少年だ。
兄のドルーは逆に屋敷の内外を動き回っていることもあり彼らは正反対の性格だと使用人達は言っていた。
そんなエヴァンは専任教師と勉強をしている時、問題を解くと必ずこちらに顔を向ける。
専任教師から正解と言われると特に期待の眼差しを向けられる。
「流石です、エヴァン坊ちゃま!」
この一言でエヴァンは、にんまりとする。
褒められることが嬉しいみたい。
最初にエヴァンのお世話をした時の話を他の使用人達にすればかなり驚かれた。
「いつも澄ました顔のエヴァン坊ちゃまが!?」
彼専属の使用人達も初耳だったそうでわたしの話を聞いて以降、同じように褒めると喜んだ顔をすると言う。
それ以来、エヴァンは使用人に対して良く話しかけるようになった。
話す内容は読んだ本の事でそれを知っているかどうか、自身がどう思ったかを口にする。
ただ、話に付いていけない使用人は曖昧に返事してしまうけど、それで機嫌を損ねることはないらしい。
彼にとっては話し相手がいてくれるだけでも良いと思える。
わたしも同じように傍にいると本を読んでいるエヴァンが話しかけてくる。
「こんな植物があるなんて本当かな?」
フレイメス帝国で作られた植物図鑑らしい。
本は量産されないから貴族でもあらゆる書物を保有するのが難しい世界だと言うけれど、屋敷内に蔵書を多く抱えるベイグラッド家は凄い財力や伝手があることが分かる。
その植物図鑑に記されているのはいつか採取したことがあるクラヤミ草だった。
「本当ですよ。暗い場所でも水があれば育つ植物です。」
「アシュリーは見たことがあるの?」
「以前見かけたことがあります。」
「凄い!何処にでも生えているわけじゃないのに見つけられるなんて!」
「偶々です。」
「いつか見て見たいなぁ。」
「エヴァン坊ちゃまなら見つけられると思いますよ?」
「そうかな?」
「きっと見つけられます。」
目を輝かせながら他のページの植物についてもあれこれと話しかけられた。
ドルーもそうだけどエヴァンも煽てられやすい、と言っても子供だから普通かな。
目を輝かせながら楽しそうにしているエヴァンの話に耳を傾けた。
更に別の日。
サリーのお世話をする日だけど、ドルーと違う意味で大変。
三人目の五歳になるサリーはドルーよりも正直者で素直な性格なのか、我儘は言うけど叱られれば素直に言うことを聞く。
その代わり、泣くときは必ず母親に慰めてもらう。
貴族社会は幼少の頃から教養を身に着けるようでサリーも例外ではない。
だけど子供故にあまり長い時間続けると駄々を捏ねることがある。
「やぁだぁ!」
「お嬢様!?」
専任教師の女性も困った顔をしてどうしようか考えてしまう。
ここで叱ると泣いてしまい、泣き止ませるのに一苦労。
「サリーお嬢様、差し出がましい事ですが失礼します。これが終わればお茶の時間になります。その時はルース奥様と一緒に美味しいお菓子を食べることが出来ますよ。」
「今すぐ食べたい!」
「もう空腹の時間ですね。でも、ここでサリーお嬢様が頑張ればルース奥様は笑顔になると思いますが
どうでしょうか?ルース奥様が笑顔だとサリーお嬢様も嬉しいと思いませんか?」
「んー、思う……。」
「それではあとちょっとだけ頑張ってみましょう!」
「わかった!」
留飲を下げたサリーは専任教師の教えに従って本日の学習範囲を覚えることが出来た。
「おわった!お母さまのところへいこっ!」
「お供いたします。」
天気も良く、外でお茶を楽しめるため別の使用人達が既に準備をしていた。
先に座っている婦人はダレルの正妻であるルース。
サリー達の母親であるルースは子供達には愛情を注いでいるように思えるが旦那のダレルが子供を怒鳴る時は何も言わずにいる。
それも貴族社会では当然の光景なのかもしれない。
そんな彼女はダークブラウンでセミロングの髪を後ろで編んでいる、細身で素朴な印象。
こちらに気づいた彼女はサリーを見ると微笑んで迎え入れた。
「サリー、お勉強は大変だったかしら?」
「うん!でも、さいごまでがんばったんだよ!」
「そう!それは凄いわ!お母さんも嬉しい!」
「ほんとう!?」
「ほんとうよ。」
ニカッと笑うサリーにルースも笑顔で答えた。
「アシュリーもありがとう。この子の相手は大変でしょう?」
「いえ、サリーお嬢様は頑張り屋さんです。それに笑顔も素敵で可愛いですよ。」
「それは良かったわ。最近はこの子が泣くことも減ったと聞くけどあなたのお陰ね?」
「恐縮です。しかし、一番の理由はサリーお嬢様が成長していることだと思いますのでこれからも見守ってください。」
「ふふっ、そうね。この子達のこれからが楽しみだわ。」
ルースとサリーはお茶を楽しみ、サリーは職人が作ったお菓子を食べると満面の笑みを浮かべた。
私達使用人は待機するかお茶やお菓子の配膳をして親子の団欒を円滑にする。
一流の使用人であれば如何なる状況や仕事でも心労は同じものに感じるかもしれないけど、大半はこういった状況でヘマをしないように気を張っているのは言うまでもなかった……。
毎日主人に尽くす使用人は大変だと再認識する。
その点、この屋敷では良くも悪くもわたしは誰かの付き人である必要がないからマシである。
ダルメッサやダレル達大人は固定の使用人達がいるけど、子供達はそうではないらしい。
何れは決めるらしいけどまだ先であると言う。
個人的には裏方で働いていた方が嬉しいけど、申請して通るとは思えないから静かに従事する他なかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




