51話 焦り
本日も投稿させていただきます、よろしくお願いします。
先日も投稿していますのでそちらも見ていただければと思います。
本格的に寒くなった時期。
少し前に開戦されたらしいサンデル王国との戦争。
ベイグラッド卿ことダルメッサはフレイメス帝国軍の士気を上げるため、派兵した私兵団がいる方面へ行くために前日までに準備していた。
わたし達使用人は基本的には変わらず仕事を続けていたし、ダルメッサの様子を見る限り危機感はあまりなさそうで本当に戦争をしているのかと思ってしまった。
本妻のブレンダや孫達は心配していたけど彼らの前では笑顔でいた。
家族を不安にさせないように振舞っていると言えば聞こえは良さそう。
使用人たちの話によるとダルメッサは武術は嗜み程度で戦争の采配が出来る才能もないとか。
ここまでの地位は先代までが積み上げてきたものに過ぎないのだと言う。
「ダルメッサ……様のような方が前線近くに行く事なんて普通はないのでしょ?」
「今回はダレル様が進言されたそうよ。なんでもサンデル王国には勇者達がいて一人で何百人もの兵士を倒すとか。」
「それで侯爵家が前線に赴けば士気が上がり、戦争に貢献できると。そんな風に言っていたらしいわ。」
ベテラン使用人達がそんな話をしていたので耳にしたけど、そう言うこともあるんだ。
サンデル王国の勇者。
ここ数年で魔王や邪神を倒したと言う存在。
以前の知識が殆ど欠落している中、何となく今でも覚えている。
絶対に許せない存在の一つ。
広がりそうな黒い想いを抑えつつ、ダルメッサの出立の襲撃の準備を隠れながら過ごした。
そしてダルメッサが戦地へ赴く当日。
多くの使用人は見送りに出ていたけど、わたしは体調が優れないから使用人の宿舎で休んでいた。
と言うことにして誰にも見つからないように外に出る。
夜中に回収した衣服一式と十本のナイフにショートソードを回収。
久しぶりに来た服は正直ボロボロでサイズもかなりキツイけどそのまま着てローブを頭から羽織り人目につかないように走る。
屋敷の周辺は一般家屋なく私兵団の宿舎があるくらいだけど、殆どは戦争で出払っており少数の兵士達は街の治安を維持するために見回りに出ている。
片や馬車、片や人の足。
同時に出発しても追いつける道理はない。
だから、事前に郊外の道に仕掛けた。
落とし穴。
この世界には魔法がある。
何でもできるわけじゃないけど地面の土を移動させることは出来る。
前日までにダルメッサが通る経路を割り出して昨日の夜中に作った。
表面上は何でもない道でも馬車が通ればその重みに耐えられずに落ちる。
念のため候補になりそうな経路にそれぞれ作った。
正直魔力は消費したけど、取りこぼしや他の馬車が落ちて迂回されても良いようにした。
これで嵌ってくれればと願う。
暫く走って街の外に出ると一台の馬車の屋根が少し見える程度の光景を確認。
周辺には兵士達が慌ただしく動いていたり警戒している。
十中八九ダルメッサの馬車だ!
警戒されるのは当たり前、護衛を潜り抜けられるかは分からない。
だけどここでチャンスを逃せば次はいつある?
近づくわたしに二人の兵士が声を上げる。
「貴様!何者だ!?」
「怪しい奴め!」
剣を抜いて馬で距離を詰めてくる。
剣の間合いまでまだある。
だけど。
ナイフを二人の兵士に向かって投擲。
真っ直ぐ飛んだナイフはそれぞれ馬の目に当たり、馬が暴れ出す。
制御できずに落ちた兵士達。
その隙は逃さない!
駆けながらショートソードを抜いて首を切る。
二人目は動揺しながらも立ち上がった。
「貴様!」
剣を水平に構えて突っ込んでくる。
ショートソードを左手に持ち、相手の剣に当てて滑らせる。
右手でナイフを掴んで相手の喉を掻っ切る。
「!?」
二人目の兵士は目を大きくしながら倒れるけど見送る暇はない。
異変に気付いた残りの兵士達の内、二人が突撃してくる。
残りの兵士達と用心棒のタバサ、ゴードン達使用人は落とし穴から引き上げたダルメッサの周辺を固めている。
用心棒と兵士をどうにか出来れば……。
兵士達は誰もが兜のバイザーを上げている。
普通は下げるものでは?
そう思いつつ掴んだナイフを一投。
一人の兵士の顔に吸い込まれていき、眉間に刺さった。
隣の兵士がそれに驚くけど、止まってはいけない。
そのまま驚く兵士に向かってショートソードで相手の剣を弾いて首に一撃。
これで相手の戦力は三人。
「あたしにやらせてもらおうか!」
タバサがダルメッサの傍を離れる。
「バカ者!主人の傍にいろ!」
「さっさと倒した方が安全だ!」
タバサはかなり好戦的なのか、或いは主人に実力を見せる機会がなかったから喜んでいるのか。
相手の実力が分からないけどどうにかしないと!
身軽なタバサは数秒もしない内に駆けて来た。
タバサの剣が素早く振り抜かれる。
「!!」
わたしの体に届く前に剣を割りこませて何とか防ぐ。
でも、膂力は相手が上。
鍔迫り合いでは不利。
「良く反応で来たな!そこらの兵士じゃ死んでいたぞ!」
目を大きく見開き笑みを浮かべるタバサ。
「何処の誰かは知らないけど少しは楽しませてくれるんだろっ!?」
誰が楽しませるか!
相手の膂力を利用して左へ跳ぶ。
距離を置いて行きを整えようと。
「隙なんて与えるかっ!」
する暇もなく追撃される。
反応は出来る。
だけどタバサの方が速い!
このショートソードが思った以上に頑丈なのが救いなのか。
それに急所を狙っているのが分かるからどうにか反応が出来ていると思う。
だけど攻勢に出られない。
「おらっ!」
なっ!?
足払いをされて態勢が崩れる。
乱暴な剣筋からみても正規の兵士の訓練は受けていなさそう。
寧ろ我流。
いや、それはどうでもいい。
体が地面に叩きつけられる。
「大したことないな!」
タバサが剣を振り下ろす。
咄嗟にショートソードを投げ捨て、ナイフを掴んで軌道をずらす。
同時に体の向きを変えて体を跳ね上げて回転しながらショートソードを拾う。
「やるじゃん!」
恍惚とした表情のタバサを見て感じることは一つ。
逃げる!
乗り手のいない馬が二頭いる。
それぞれ近くにいるならどちらかには乗れるはず!
タバサから見て奥にいる馬に乗って直ぐに走らせた。
後ろを向くと剣を逆手に持って投げようとしている。
嘘でしょ!?
剣が届くときは即ちわたしが貫かれている。
そう思ったけど、タバサは投げる素振りを解いて見送った。
多分タバサの膂力では届かないと判断した、そう思いたい。
街に向かわず、人気のない森に向かった。
馬が疲れるのも気にせず全速力で走らせた。
ケイティ達が教えてくれた馬術。
ここで役立つとは思わなかった。
何度か後ろを見たけど追っては来ない。
森に入って悪路になれば馬は辛い。
途中で降りて馬には適当に離れてもらう。
ゆっくりと森の外へ向かう馬を見送りわたしは街の方面へ走り出す。
森と街の間の平原。
そこを流れる幾つもの川。
大小あるけど深い場所でも膝下までの深さしかない。
何処かの主流から街で利用するために水を引いてきたのがそれらだとレイラが言っていた。
凍えるほど寒い川の流されないようにしつつ渡り、近くの茂みに魔法で穴を作って装備品一式を埋める。
ローブ姿のまま急いで街に入り、宿舎に戻った。
幸いなことに帰り道も誰かに見られなかった。
屋敷の敷地内でも庭師や丁稚達が仕事をしているけど今の時間帯にいないであろう場所を選んだから万が一がないと信じたい。
それにわたしの部屋は一階にあるから人一人が通れる吹き抜けの窓から入り、服装を変え身なりを整えてベッドに入る。
白くなった荒い息を落ち着けながら考える。
明らかな失敗。
前提として今日までのわたしは焦っていた。
護衛が何人もいるのだから簡単に届くわけがない。
しかも、用心棒の実力は未知数だった。
初めから全てが失敗。
成功するわけがない。
現状、最悪なのはわたしが襲撃者だとバレること。
ローブで隠していたけどこの宿舎にいないことが分かれば疑われる。
走り続けて疲れたからなのかこの日は殆どを寝てしまった。
それが逆に良かったのか使用人達から外に出ていたなんて思われなかったと知ったのは翌日のこと。
ダルメッサが賊に襲われて予定していた遠征を急遽取りやめて屋敷に戻ったことも知った。
あとから聞いた噂では息子のダレルが一人の時に悔しそうな顔をしていたと言っていた。
「やっぱりベイグラッドの功績を作れないからじゃない?」
と言う意見が大半だった。
一方、用心棒のタバサは屋敷の周辺を見回ったりしていたがこれと言った収穫もなかったそうで相変わらずダルメッサに付き従っている。
ダルメッサ達に正体を感づかれなかったのは幸い。
自分の愚かさと復讐に燃やす気持ちを抑えつつ次の機会を待つことにした……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
本日の18時ごろにもう1話分投稿すると思います、ご了承ください。
そして、時間のある時に見ていただけるだけでも幸いです。




