49話 使用人として
本日もよろしくお願いします。
先日も投稿しています、まだ読んでいない方はそちらも覗いてみてください。
また、もう一話を本日の18時に投稿予定です。
前回までのあらすじ
一人屋敷を脱出したポーラは一年間の山暮らしの後、ある町で冒険者として活動する。
紆余曲折あり、冒険者として成長したポーラはアルファン達を暗殺した存在を突き止めるため幾つもの町村を渡った。
わたしが幾つもの村や町を経て数か月。
今はまだ暑い時期だけれどもう暫くすると涼しくなる頃。
フレイメス帝国内のベイグラッド領で一番の街、デルマイユに来た。
領内で栄えている場所であり、ベイグラッド侯爵が住んでいる場所でもある。
ここに来るまで他の冒険者達と馬車で相乗りしながら情報を集めた。
アルファン様を暗殺した奴らや依頼を出した人間がここにいるのではないかと思えたからだ。
とは言え、確信できるほどの情報は集められなかったし明確な証拠は恐らくないと思う。
仮に証拠があったとしてそれを他の貴族に渡しても大した打撃にならない気がする。
どちらにせよ、わたしは黒だと思えば躊躇なく行動に移す。
心に決めてわたしはデルマイユの門を潜る。
今の格好は普通のローブを被っている、どこにでもいそうな旅人だと思う。
簡単な受け答えをして街に入ると今までで一番活気づいている。
正面から先へ伸びる道が大通りだろう。
軒先に並ぶ建物は常に人が出入りしているように思える。
わたしも人の波に乗りつつ、街を巡る。
大きな街であれば光あるところに闇もある。
脇道によっては暗い場所もあるが中には、浮浪者達が集まっている。
用がない時は近づかない方が良さそう。
主に出店や通りすがりの人達にベイグラッド領の現当主であるダルメッサについて聞いて回った。
当たり前かもしれないけど、多くの人はダルメッサを評価をしていた。
人によっては苦笑いする人もいた。
一部の人にはお金を握らせるとここだけの話として幾つか聞けた。
曰く、気に喰わない輩は数日のうちに消えていること。
曰く、子飼いの組織がいるらしい。
曰く、この街にその組織がいるから直ぐに事を起こせるのではないか。
他の町でも聞いた話だったけど、私兵を動かした様子もない時は汚れ仕事を請け負う存在が近くにいても不思議じゃない。
この街も広いから何十人が居ても紛れ込めそうだし。
それから帝都にも足を運ぶ商人からは、何年か前にアルファン様が育てた人材が評価されたことにダルメッサがご立腹だったとも言っていた。
一時期、ベイグラッド領からアルファン様への物流が滞ったとか。
大体は商人へ金を握らせて行かないように仕向けたそうだ。
一方的な恨みとは言え性格上、ダルメッサが暗殺を企てるには十分な気がする。
殆どは好評価と以前にも聞いた似たような噂ばかりでも、ダルメッサの周辺の出来事を知るとあいつは黒だと心の奥から訴えてくる。
どちらにしても探らないと。
どうしようか考えていると道行く人達の話が聞こえてきた。
「ベイグラッド侯爵が使用人を募集しているらしいぜ。」
「土木で仕事するよりそっちのほうが金払いも良さそうだな。」
「だが残念!募集しているのは女だけだ!」
「だったら俺に言うなよ!まぁ、女癖が悪いと噂の御仁なら納得は行くな。」
使用人……。
潜り込むには丁度いい。
使用人の募集について聞いて回ると二日後にベイグラッド侯爵が管理するお店の裏に集まった人を審査してその場で合否を出すそうだ。
具体的な審査内容は分からない以上、あまり対策も立てられないけど行ってみよう。
冒険者ギルドで仕事をするかどうか迷ったけど、お金はあるので適当な宿に泊まりながら街の内外を見て回った。
そして、使用人募集の日。
わたしは今までの装備を外して黄土色のワンピース姿で参加した。
荷物は街の外の地面に隠したから直ぐにバレることもない。
一つ心配なのは誰かが掘り当てることだけど、意図して掘る場所ではないはずだから気にしても仕方がない。
集合場所の店は飲食店。
表から見る限り、一般人でも利用できるみたい。
裏手に回ると既に何人もの女性がいた。
年齢は様々で上は三十代、下は十歳にも満たない。
特別に年齢制限は設けていないらしい。
裏手の広場は広いもので後から来た人達を含めると百人は居そうだ。
栄えている街でも結構な人口は居ると思うけど、もしかしたら近隣の町や村からも来ているかもしれない。
そう思っていると、仕立ての良い黒のスーツを着た四十代の男性と青系のワンピースに白のエプロンを着た三十代の女性を先頭に十人くらいの兵士が現れた。
「本日は来てくださりありがとうございます。これより皆様にはベイグラッド卿に仕えるために必要な能力があるかどうか確かめさせていただきます。」
「私共がこの場で判断します。合格した者は明日から働いてもらいます。不合格者はその場で退去してください。」
二人の使用人の前を開けさせられると近くにいたものから五人ずつ呼ばれて、名前と出身を始め幾つかの質問をされた。
山で暮らしていました、なんて言えば怪しまれる。
あれこれ考えている内に審査は進む。
面接を受けた人達は何か所かで集まっている。
兵士達に誘導されているみたい。
彼女達の同行を見つつ、結局わたしは幾つか前に訪れた村の名前とそこで聞いたある夫婦の子供の名前を使わせてもらった。
その夫婦は既に亡くなっており、一人残された子供は村を出ている。
仮に出所を探られても直ぐにバレることはないはず。
「わたしの名前はアシュリー、村はオブソレイトウッドです。」
それから幾つかの質問に対して無難な答えを返して兵士の誘導に従った。
これだけで終わり?
合否はその場で教えると言われたけどまだ何かある?
全員が質問に答えた後、等間隔に並べさせられた。
一列あたり十人、それが十列くらい。
わたしは前から二列目の真ん中くらい。
振り分けられた集団ごとに横並びにされた、何かしらの意図はある?
そして使用人の女性から次の題目が伝えられた。
「今から皆様には地面に腕を立てて貰います。兵士の方と同じような姿勢を取ってください。」
全員の前で兵士の一人が地面にうつ伏せになりながら両腕を立てて体を支えた。
「私達が良いと言うまで全員この姿勢を保ってください。途中で腕を曲げたり他の人を妨害した場合は即刻退去してください。従わない場合は最悪のケースもあります。」
別の兵士が腰の剣を抜き取った。
殆どの女性に動揺が走った気がする。
仕事を貰うために来たのに命が掛かっているのは予想外という反応。
人によっては顔を青くして、体が震えていそうだ。
「では、全員地面に伏せて!」
使用人の女性の号令に従ってこの場にいる女性全員が地面に伏せた。
「始め!」
号令と共に腕を立てた。
この試験の意味はある?
体力測定の一環?
忍耐力の有無?
振るい落とすためだけ?
痩せ細っている人や逆にふくよかな人は後ろの方にいた。
最前列にいるのはこの中では顔立ちが整っていたり、女性的な線が分かる体型の持ち主に思える。
わたしはどの基準でこの場所にいるのかはわからないけど、もし評価されたいるなら上々。
始まってわずかな時間で大半の女性は脱落している。
後ろは向けないけど兵士に促される声が多く聞こえた。
一部では駄々を捏ねていたけど鞘から剣が抜ける音でその女性達は渋々退去したと思う。
ベイグラッド卿の噂はどうであれ、使用人になれば生活に困ることはないのだろう。
そう思っているから多くの人がここへ来た。
どんな理由であれわたしは他者を気にしない。
そもそもここで落ちるわけにはいかない。
そう意気込んだけど全体的に脱落する人が多く、最前列でも既に何人も脱落していた。
かなり拍子抜けだ。
ほんの少しの時間でこの試験は呆気なく終わった。
「そこまで!残った人は立ち上がってください。」
そう言われてわたしは立ち上がり周囲を見た。
後ろに居た人達は誰もいなかった。
右は誰もいない、左を向けば一人だけ。
最前列は三人しかいなかった。
「あなた達は合格です。この試験では体力や忍耐力を問いました。ベイグラッド卿の元で働く以上必要な物だとご理解ください。それでは明日より屋敷で働いてもらいます。あとは―――。」
兵士達が脱落した女性達を送っている中、残ったわたし達は改めて名前と年齢を答えた。
羊皮紙に人相書きも足されて、違う人を雇わないように情報を整理したみたい。
「今後は私達の指示に従ってください。従わなければ雇いませんので。」
使用人の女性に言われて全員が使用人達の後を追う。
暫く歩くと豪華な屋敷が見えて来た。
しかし、正面にはいかず遠回りして屋敷の裏側の使用人用の裏口から通された。
内壁の近くに木が幾つも植えられている、一方で茂みは全然ない。
裏口から少し歩いたところに立派な建屋が現れた。
「ここが使用人が住まう宿舎です。今日からここで過ごしてもらいます。」
男性の使用人が扉を開けて、エントランス脇の部屋にわたし達を入れた。
服飾職人が何人かおり、使用人の女性も二人ほどいた。
「ここで作業着を作るために採寸します。」
五人の採寸が終わるとこれからの説明を受けた。
具体的な作業と新人の教育係や言葉遣いなど。
家主であるベイグラッド卿やその家族には数日後に面通しするらしい。
採用された女性達は皆期待と不安を抱いているかもしれない。
だけど、わたしは自分の様々な気持ちを抑えるので精いっぱいだ……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
前書きにも書きましたがもう一話同日中に投稿予定です。
基本的に不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




