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47話 男を見せる時(中編) ―シンゴ・ヒラモト―

本日2話目の投稿です。

後編も投稿しますのでご了承ください。

 森に入ると鳥の(さえず)りが聞こえ、木漏れ日が心地よく感じそうだ。

 初めて入った場所にトニーは周囲を常に見渡す。


 「初めて入ったのか?」


 「うん。」


 「これからモンスターが出てくると思うが俺達が守ってやるからな。」


 「わ、わかった。」


 シンゴに言われると上擦った声になるトニーだったがそれでも歩く速さは冒険者の面々に合わせている。

 トニーには身の丈もある麻袋を持たせており、恐らくトニーが果実を運ぶのだろう。


 「俺とシンゴで前衛をやる。メイはそこの嬢ちゃんと支援してくれ。」


 「分かりました。気を付けてくださいね。」


 「誰に言っている?俺なら大丈夫だ。」


 「そうでしたね。」


 一行が森に入って早数刻。

 休憩を挟んだり薬草を採取している内に獣のような唸り声が聞こえてきた。

 似たような声が幾つも。


 「お出ましだ。」


 ローディーが腰に帯びた二振りの剣を抜く。

 シンゴも同じようにジャクバウンを抜いて構えた時にはローディーが既に先行していた。

 彼らの目の前に姿を現したのは三頭のロフォラティグ。

 首周りの触手を逆立てて警戒している。

 その内の正面左側の一匹に向かってローディーは剣を振り抜いていた。

 その剣はまるで肉切り包丁。

 右手に持つ肉切り包丁が振り抜かれた時、ロフォラティグの頭部が半分になっていた。


 「ひっ!?」


 初めて見るであろう冒険者とモンスターの戦闘にトニーが小さく悲鳴を上げた。


 「ここを頼んだ!」


 「任せて!」


 シンゴもジェーンを置いてローディーに加勢する。

 二匹目がローディーから距離を取ったのに対して三匹目は近づいてくるシンゴへ襲い掛かった。

 シンゴはジャクバウンに青いオーラを纏わせてタイミングを合わせて振り上げた。

 すれ違う両者が歩みを止める。

 シンゴはジャクバウンをゆっくりと鞘に納めたのに対してロフォラティグは左右に両断されて地面に倒れた。


 「やるなぁ。」


 ローディーはそれを見て感心しているようだが警戒しているロフォラティグは好機と見たのか顔を向けていないローディーに飛び掛かった。

 しかし、ローディーは右足で浮いているロフォラティグを蹴り上げ、左の肉切り包丁で相手の首を両断した。

 吹き出る血が掛からないように直ぐに脇へ移動したローディーは涼しい顔をしてロフォラティグの亡骸を眺めた。


 「三匹なら余裕だな。」


 シンゴは既に討伐部位を切り取っておりローディーも自身で倒した二匹から討伐部位を採取した。

 戦闘の始まりから終わりまでを見たトニーは青い顔をしていたが傍にいるメイディスに声を掛けられた。


 「気分は如何ですか?初めて見る光景は良いものではありませんから無理はしないでくださいね?」


 「う、うん・・・。」


 倒したロフォラティグに最低限の処理を終えると彼らは再び森の奥へ歩き出した。

 戦闘は進む度に何度もあった。

 その全てをシンゴとローディーで迎え撃ち、圧倒的な力で斬り伏せた。

 最初でこそ驚きと恐怖を感じたトニーも段々と落ち着いた顔になっていた。


 「冒険者って凄いんだね!」


 「そうだね。でも、あの二人だから凄いのかも。」


 「へぇ~。」


 大分奥へ進んだが、既に空は赤くなっていた。

 それに気が付いたトニーが彼らに訊く。


 「まだ進むの?」


 「目的の果実は先にある、が今日はここまでだな。」


 ローディーが周囲を見回しながらトニーの頭に手を乗せた。


 「それにしても坊主は意外と根性があるな。」


 「そ、そうかな?」


 照れるトニーは頬を掻いてはにかむ。

 雑草が生い茂っているが平地であろう場所を選定してそこで焚火の準備をした。

 冒険者達はそれぞれ非常食を出して飲んだり食べたりする。

 トニーも予め持たされた非常食を食べる。

 初めて食べたトニーは顔を(しか)めた。


 「冒険者ってこういうのばっかり食べているの?」


 「野宿するときはそうかも。あとは動物を捕まえたり果実を取ったり。」


 ジェーンが思い出すようにあれこれと思い出を語った。

 それを聞いたトニーは想像できているのか分からないが感心はしていた。


 「冒険者は腕っぷしが強いだけじゃ生きられないからな。」


 シンゴが静かに言う。


 「それでも強いことに越したことはないな!」


 ローディーの言葉は力強い。

 それは今回の戦闘で証明していた。

 シンゴもローディーの言葉に頷いているがメイディスはふふっと笑う。


 「何が可笑しんだ?」


 「他の事は私に任せているのだから。」


 「そ、それはだな!」


 実はローディーは文字は読めず、金勘定も出来ないと明かされた。

 交渉事も向いていないため戦闘以外は全てメイディスに任せているらしい。

 それが可笑しかったのかトニーもつい笑ってしまう。


 「俺はいいんだ!出来ることをやる!適材適所だ!」


 トニーに釣られシンゴやジェーンも笑ってしまい、恥ずかしくなったのかローディーは頭を掻いて夜空に顔を向けてしまった。

 雲は少なく、星空も見えるため明日も晴れるだろう。

 食事を終えて雑談をした後は冒険者四人でローテーションを組んで見張りを立て夜を過ごした。

 モンスターが住まう森のただ中でも幸いなのか襲ってくる存在は一匹もいなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

後編も18時に投稿予定なので時間があればよろしくお願いします。




補足・蛇足

ロフォラティグ

ネコ科に似ている。雄なら体長2メートル、メスなら2.5メートルはある。

緑の体毛に茶色の顔、首周りに赤い触手がある。

一匹か番で行動する。獰猛で食糧難に陥ると人里に下りて襲い掛かる。

夏場は体毛が生え変わって薄くなる。

パントラと言う植物の匂いに釣られて集まる習性があり、それを採取して冒険者が討伐に利用することもある。

また、好物はアドラクタの果実だが完熟した状態を一番好む。

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