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44話 女剣士の受難(前編) ―シンゴ・ヒラモト―

前日に続きよろしくお願いします。

今回もシンゴ編となります、ご了承ください。

昼頃に後半を投稿予定です。


※タイトルの微変更をしました。

 前半→前編



前回までのあらすじ

ムンドラ王国のミールドでハーフエルフのエディックを仲間に加えたシンゴ達は森を荒らすモンスターの討伐に成功した。

 シンゴ達のパーティーにエディックが加入して早三か月ほど。

 ムンドラ王国ミールドでは獣人の姿も見られるため異種族に慣れている国であるが、この国でも珍しいハーフエルフでもあるため、今現在も街行く人達から注目されている。

 珍しい人が居るだけで他者から羨ましがられることもあり、時にはエディックに対して引き抜きを行おうとするパーティーもいた。


 「申し訳ないけど僕はこのパーティーと一緒にいます。」


 と言って断ることから今では声を掛けるパーティーもいなくなっていた。

 一方でハーフエルフでも只人から見れば美貌はあり、一般人や冒険者に関係なく女性から声を掛けられ食事に誘われることもしばしば。

 それでも無用なトラブルを避けるために彼は尽く断っているが、丁寧に断っているのか女性陣から不満が漏れることもない。

 ジェーンや既に別の誰かと関係を持っている女性達からは基本的に声が掛からないのは彼にとっては良い事だろう。

 エディックを取り巻く騒動が落ち着いた今日この頃、シンゴ達は今日も依頼を受けるために冒険者ギルドの掲示板に目を向けていた。

 掲示板はいつもの如く討伐系が一番多い。


 「ふ~ん。」


 「どうしたのシンゴ?」


 「いや、なんかゴブリン退治の依頼が少ないなって。」


 「ゴブリンが少ないからじゃないの?」


 「まぁ、そうだよな。それにオーク退治の依頼とかも少ないし。」


 シンゴ達は気にも留めず依頼表を眺めていた。


 「これなんてどうだ?」


 グレアムが手に取ったのは鉱石の採掘だった。

 厳密に言えば採掘とその護衛。


 「ミールドから北にある鉱山か・・・。」


 「あそこは国が管理していますから、ある程度は護衛兵もいるはずです。」


 エディックは以前足を運んだことがあるそうで、鉱山に関しては三人よりは詳しいそうだ。

 あれこれと他の依頼も検討したシンゴ達だが最初に提示された採掘と護衛の依頼になった。


 「依頼主は国だから、結構出してくれるんだな。」


 他の国は兎も角ムンドラ王国は冒険者相手でもある程度の報酬は出すからムンドラ王国内の冒険者からも一定の信頼と評価は得られている。

 決めた依頼の受理を済ませて彼らは必要な道具や消耗品、序に鉱山付近まで向かう商人達との交渉をして出発した。


 「アダントラ鉱山、以前から採掘はしていて今だに鉱石は採れる。しかし、モンスターも生息しているため大量に採掘は出来ずモンスターの討伐と採掘を行っている。」


 「主な採掘の労働者は囚人らしいな。」


 「そうだ。国の兵士は飽くまで監視と採掘物の護衛が主な仕事だ。冒険者を借り出すのは兵士だけでは手に負えないモンスターが出た時が殆どで採掘をさせられることはないらしい。」


 「正直冒険者に金を出すより兵士や騎士だけでモンスター退治した方が経済的に良いだろうに。」


 「そこはお互い持ちつ持たれつ、だと思う。」


 「なるほど。」


 鉱山の事情を知らないのはグレアムだけではない。

 それでも彼らは謙虚になってエディックから知らないことを色々聞かされた。


 「冒険者の方々、そろそろ出ますぞ!」


 商人のおじさんが馬車の傍でシンゴ達に声を掛けると彼らは直ぐに向かった。


 「よろしくお願いします。」


 「こちらこそよろしく。」


 こうして彼らはミールドから北にあるアダントラ鉱山へ向かった。

 ミールドの近くになる北の森を迂回しつつ馬車で数日かかる場所。

 途中で町や村があれどミールドに比べると規模は小さい。

 それ故にモンスターの脅威にさらされやすく、ミールドの街から冒険者が度々駆けつけることが多い。

 それでもシンゴ達がアダントラ鉱山へ向かうまでは何事もなかった。




 シンゴ達がアダントラ鉱山に向かってから何日も経った頃。

 無事に辿り着けたなら既に鉱山で何かしら働いている頃だろう。

 ミールドの街は様々な人達で賑わっている。

 冒険者ギルドの掲示板の前に一人の女剣士がいた。

 ダークグレーのボブヘアーに一睨みされると動けなくなりそうなキツイ目つき。

 軽量化されたアーマープレートと左腰にはレイピアを帯剣している。

 この冒険者の名前はキャロル。

 一月ほど前まではパーティーを組んでいたが冒険中のトラブルによりソロで活動することになった経緯がある。


 「都合のいい依頼はないねぇ。」


 彼女の等級は緑の等級、五つある内の真ん中。

 相手がドラゴンでもない限りは幅広い依頼を受けられる立場であるが一人となると討伐一つとっても大変である。

 暫く掲示板と睨めっこした彼女だが結局受けたい依頼がなかったのか依頼表を手に取ることはなかった。


 (受付で聞いてみるかな。)


 彼女は空いている受付嬢に声を掛けて都合の良い依頼がないか聞いてみた。


 「緑の等級でソロでも割にある依頼ってある?」


 「んー。難しいですね。ちょっと待ってくださいね。」


 掲示板には載せていない依頼もあるのか受付嬢は手元の資料や依頼表を漁った。

 暫く待つと受付嬢は苦い顔をした。


 「キャロルさんに見合う依頼はありませんね。」


 「そっかぁ。」


 キャロルは諦めて掲示板から何か適当に選ぼうと踵を返したが受付嬢から声を掛けられた。


 「あの!キャロルさんには申し訳ないとは思いつつもお願いしたい依頼があるんですけど・・・。」


 「どんな依頼?」


 「えっと・・・ですね。」


 目線が別の方向へ向いている受付嬢は手元の依頼表をそっと見せた。


 「ゴブリン退治・・・です。」


 「えっ?」


 キャロルも予想外だったのか間抜けな声を出していた。


 「実は、最近ゴブリンの集団が各地で見られているそうです。」


 「それなら無色や黄の等級が受ければいいんじゃないの?」


 「御尤もなのですけど。現在彼ら全員に当たって貰っているのですがそれでもカバーしきれなくて・・・。」


 「優先順位をつけてもってこと?」


 「はい・・・。」


 「はぁ・・・。」


 少しだけ腕を組んで唸るキャロルだったがカウンターの方へ一歩進んだ。


 「仕様がない。それ、受けるよ。」


 「い、いいんですか!?」


 「正直割に合わないけど。出来る範囲で頑張ってみるから。」


 「ありがとうございます!」


 こうしてキャロルは初心者が受ける依頼に手を付けた。

 手続きが済んだキャロルは直ぐに道具や食料品、消耗品を買い足した。

 一通り準備を終えて目的地付近まで乗せてくれそうな商人を探そうとした時、彼女に声を掛ける集団がいた。


 「キャロルじゃなぁい。奇遇ねぇ。」


 「・・・ナンシー。」


 キャロルが振り向いた先には四人の女性冒険者がいた。

 木製の杖を持ってローブを着たくせ毛になっているブラウン系のロングヘア―のナンシー。

 キャロルと同じような装備をした緑がかったポニーテールのアンジェラ。

 大剣を背負った長身でガタイもある黒の短髪のビビ。

 錫杖を握った背の低い白いローブを着た黒のツインテールのミラ。


 「なんで死んだはずのあなたがここにいるのかしらぁね?」


 「死んでないからでしょ。」


 「素っ気ないわねぇ。ところで今から仕事かしらぁ?」


 「そうだと言ったら?」


 「碌に仕事も出来ないあなたがちゃんと仕事出来るのかしらぁ?」


 「それだけ?用事がないならさよなら。」


 キャロルは会話を切り上げてその場を立ち去った。


 「仲直りしなくていいの?」


 ミラが声を掛けるもナンシーは鼻を鳴らした。


 「対して強くもない人に戻ってきて貰おうなんてぇ思わないわよ!」


 「まぁ謹慎も解けたし、新しい人探した方がいいんじゃない?」


 アンジェラはあっけらかんとしている。


 「キャロルが弱かったのは本当だからね。」


 ビビも二人とは同意見のようだ。


 「皆がそう言うなら・・・。」


 沈んだ表情になったミラだったがナンシー達は気にせず冒険者ギルドへ向かった。

 彼女達を見る一般男性の半分は頬を染めたり鼻の下を伸ばしていた。

 女性だけのパーティーは多くはないがそれなりにいる。

 その中でもナンシー達は良くも悪くも名の知れたパーティーだ。

 彼女達が冒険者ギルドへ入れば暇を持て余す男性冒険者の大半は目を向けて声を掛けて来た。


 「お前ら謹慎は解けたんだな!」


 「今日も仕事に行くのか?」


 「どうせなら俺達の相手をしてくれよな!」


 「なんなら朝までよぉ。」


 下心見え見えの男性冒険者が何人かいたが彼女達は軽くあしらって掲示板を眺めた。

 キャロルが見た時に比べれば数枚減っている程度。


 「面白い依頼はないねー。」


 アンジェラがつまらないと言ってそっぽを向いた。


 「中型モンスターの討伐にしない?」


 ビビは好戦的な顔で提案するもビビは嫌そうな顔をした。


 「早速討伐系なんて嫌ですよ。痛いのは避けたいです。」


 あれこれと提案しては却下する。

 そんなやり取りをしていたがナンシーは不意に受付に向かっていた。


 「受付嬢さん、お聞きしたいことがぁあるのですけどぉ。」


 「はい、どのようなことでしょうか?」


 「キャロルが受けた依頼を知らないかしらぁ。或いはぁ方角でもいいんですけどぉ?」


 「何故でしょうか?」


 「私達ぃ、キャロルと仲直りしたいんですぅ。できればぁ早くにぃ。」


 「その、申し訳ありませんがそう言ったことは口外できませんのでご理解ください。」


 「はぁ~。」


 「ひぃ!?」


 ナンシーの目が途端に鋭くなった。

 その変化に受付嬢は怯んでしまう。


 「私達とキャロルは同じパーティーだったのぉ。分かるでしょう?」


 「そ、それでも!ギルドの規定ですから教えるわけにはいきません。」


 「・・・。あなた、あとで覚えておきなさぁい。」


 ナンシー達は冒険者ギルドを出ていった。

 ナンシーの凄みに狼狽えそうになった受付嬢だったがなんとか乗り切ったようだ。

 安心したのか肩の力が抜けてしまってすぐ、彼女の顔はハッとなった。


 「そうだ、お昼の休憩を取りますね!」


 近くの同僚にそう伝えて奥の部屋へ入って行った。

 冒険者ギルドの職員が取れる昼食の時間は明確に決まっておらず、受付嬢の場合は空いている時間であれば何時でも取れるようだ。

 併設された食堂には様々な冒険者で賑わいだしたが受付前に人は並んでいなかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

本日中にもう1話投稿予定です。


補足・蛇足

キャロル

人間の女で24歳。魔法剣士で使う武器は細剣、火属性の魔法を使う。元貴族で数年前に没落した時に冒険者になった。その時の事件で両親は責任を取らされて死刑、他の兄弟はちりぢりになった。

剣術や魔法は没落直前まで習っていた。

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