表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/131

43話 異変の前触れ(後編) ―シンゴ・ヒラモト―

本日2度目の投稿です。

前話を見ていない方はそちらもお願いします。


※タイトルの微変更をしました。

 後半→後編



前話のあらすじ

シンゴ達は冒険者ギルドからハーフエルフのエディックを紹介され、共に討伐依頼を受けることになった。

 森に入って暫くすると、早速ジェーン、シンゴ、グレアム、エディックの隊列で進み始めた。 

 何時もより荷物は多く、全員で何かしらの荷物は背負っている。

 道中、三人はエディックにミールドに関する様々な事を教えた。

 エディックも初めて来た場所だからなのか三人の話に耳を傾けながら楽しそうだ。

 北の森から左回りに森が地続きで繋がっているため、南西の森と言われていても大体の感覚でしか見られていない。

 詰まるところ、シンゴ達の感覚一つで調べる範囲ががらりと変わる。

 それ故にシンゴは長年、適当な範囲で区分している森の範囲を勝手に決めることにした。

 具体的にはある地点から南西方向へ歩き続けるがその時に右側の木々に目印を付けることにした。

 目印と言っても人間の手が届く高さにナイフでバツ印を着けているだけだ。

 多少の手間はあれど目につきやすいだろう。

 それを一定の感覚で付けて進んだ。


 「なんで今まで付けなかったんだろう?」


 「面倒だから、と言うのが一番だ。それに森の区分は便宜上使うだけで元は一つの森だからわざわざ目に見えるようにする必要もなかったんだ。」


 「誰かがやってくれても良かったのにぃ。」


 文句を言いつつジェーンも手近な気に印を付ける。

 シンゴ達よりも長く居るグレアムも目印があれば多少は楽だと思いつつ実際にやりたかったかと聞かれるとそうでもないようだ。

 彼らは雑談をしつつ森の奥へ進む。

 進むほどにフレイメス帝国の国土に近づいているが明確な領土の印がないため、近くに住んでいる村人達も感覚で相手国との距離を置いているらしい。

 とは言え一日で作業をしながら歩いているため一日そこらで国境を跨ぐほど近くもない。


 「ここまで来たのにモンスターに遭遇していないな。」


 「そうだな。もしかしたらサスタニアンがまた暴れているとか?」


 シンゴの意見にグレアムは思案するがジェーンもどう答えたらよいのか分からず困った顔をするばかり。


 「周囲にはモンスターや動物の気配はないな。」


 エディックが静かに言うと三人は驚いた。


 「どうしてわかるの!?」


 ジェーンの前のめりに聞くからエディックは体を後ろに倒しつつ距離を取った。


 「昔から耳は良いんだ。だから周辺に何かが居るかどうかは大体わかる。」


 もちろん例外もある、と彼は付け加えた。


 「弓使いとしても冒険者としても良い力を持っているんだな。」


 グレアムが褒めるとエディックは照れて自身の頭を掻く。


 「多分エルフは皆持っている力だと思う。僕はハーフエルフだから彼らほどじゃなさそうだけど。」


 「へぇ、ハーフエルフなんだ!初めて見るわ!」


 興味津々のジェーンが耳を注視すると、シンゴは手を叩いて三人の注目を集めた。


 「取り敢えずここら辺で野営しようと思うけど三人は良い?」


 「そうだな、もう直ぐ日も暮れそうだしここで準備するか。」


 四人はそれぞれ担いで持ってきた野営用の道具を広げて準備をする。

 と言ってもこの時期はそこまで寒くはならないから厚手の布に包まったり、鉄製の鍋に材料を入れて火にくべる程度だ。

 水に関してはエディックが水魔法を使えて、生活水を生み出せるためそれに頼ることにしたようだ。

 野菜や肉を炒めて水を入れて煮込めばスープの完成。

 水分と栄養を取れるため多くの冒険者達が良く作る料理でもある。

 それらを平らげれば今後の方針と雑談。


 「今日は動物もモンスターもいなかったねぇ。」


 「そうだな。一匹くらいは居てもおかしくなさそうなのに。」


 ジェーンが思ったことを口にすればシンゴ達も同じように思った。


 「この森はどういったモンスターが見られるのですか?」


 最近来たばかりのエディックにとっては森の状況は分からないから三人で教え合った。


 「ロフォラティグ、フォレドリヤス、サスタニアンに―――。」


 それ以外にもシカやウサギなどの動物もおり、ミールドの食堂で提供もされている。

 それらを聞いてエディックも同じように感じたようだ。


 「考えられるとしたらサスタニアンのような凶悪なモンスターによって追いやられている、とかですかね?」


 「だとするとサスタニアンしか考えられないな。」


 グレアムは以前の経験からそう結論付けた。


 「怖いと逃げたくなっちゃうもんねぇ。」


 ジェーンも以前討伐したフォレドリヤスの群れを思い出していた。


 「サスタニアンであってもなくても脅威になる奴が居たら討伐。手に負えないなら逃げる。それで行こう。」


 シンゴの言葉に三人が頷いた。

 焚火を囲う彼らは火の番を交代しながら夜明けを迎えたが何かが襲ってくることはなかった・・・。

 翌日。

 天候は快晴、木々の隙間から青空が良く見える。

 雨を降らせる黒い雲も見当たらない。

 彼らは支度をしてから再び歩き出した。

 ある程度まで進むとそこから左に曲がって進みだす。

 根っこや岩、自然な段差で迂回せざるをえない箇所も多々あり、直進することはなかった。

 そんな中でも動物の気配もなく、陰からモンスターが襲ってくることもなかった。


 「ここまで何もないと不気味だな。」


 四人は警戒しつつも森の探索を続ける。

 木々や雑草などの植物は何も影響はなさそうで森林浴であれば気持ちが安らぐ場所かも知れない。

 しかし、それが却って不気味に感じるのかジェーンは及び腰になっていた。


 「まさか大きなモンスターに皆食べられちゃったとか?」


 「そんな訳はないだろう。いくら冒険者が討伐しても短期間で湧いて出てくるのがモンスターだろ?」


 グレアムの言葉にエディックは頷くもジェーンは安心できないのかシンゴにしがみ付いている。


 「大丈夫だ。ジェーンの事はちゃんと守るから。」


 「シンゴぉ~。」


 その時、進行方向から巨大な地鳴りが聞こえて来た。


 「なんだこれ!?」


 シンゴ達は震源地と思われる場所まで一直線で駆けだす。

 足場は悪くも森へ何度も足を踏み入れている冒険者。

 エディックも慣れているのか躓くことなく駆け抜ける。

 そして四人が視た光景は驚くべきものだった。


 「カエル?」


 「ブタかもしれない。」


 「足して二で割った感じじゃないか?」


 「文献で見たことがあります。これはスクロファヌラ。でも、ここまで大きいなんて・・・。」


 スクロファヌラと呼ばれたモンスター。

 アマガエルのような見た目に腹の下は桃色、鼻は大きくぺちゃんこになった鼻。

 後ろから見れば細く小さな尻尾もついている。

 ただし、全長は推定三十メートルほどで地面からの高さも五メートルはあるだろう。

 サスタニアンの十倍も大きい体をしている。


 「気を付けろ!」


 「来るっ!?」


 シンゴとジェーンの声に残りの二人も反応する。

 スクロファヌラの口からピンクの舌が素早く伸びた!

 四人は四散したことで被害を免れたが巻き取られるとそのまま口の中へ運ばれそうだ。


 「舌の攻撃は獲物を捕まえますから絶対に捕まらないでください!」


 エディックが遅い忠告をする中、シンゴは能力を使って展開を読み始めた。


 >ジャクバウンの青いオーラの刀身を伸ばして振り抜く。

 >スクロファヌラがバク転で避ける。

 >周辺の森林を両断する。


 ジャクバウンは持ち主の魔力を取り込んで青いオーラの刀身を作り出す。

 それは持ち主次第でいくらでも長く出来るがその分魔力も消費する。

 大抵のモンスターを一刀両断できるジャクバウンの攻撃をスクロファヌラはいとも簡単に避ける映像を見たシンゴは初めて額から汗を流した。


 (スクロファヌラの背後の森は全部薙ぎ倒されていた。あいつはここまで突っ走ってきたってことだよな。それだけの巨体にのしかかられたら一溜りもないな。それと俺の攻撃を余裕で避けるとかあり得ないだろ!)


 ジャクバウンを構えた状態のシンゴだったが一先ず思考を切り替えた。


 「全員舌の攻撃は避けてくれ!ジェーンとエディックは弓矢で牽制する準備を!グレアムは少しだけ付き合ってくれ!」


 シンゴに言われてジェーンとエディックは後方へ下がりながら射撃の準備をする。

 その間にシンゴはグレアムに盾を構えてくれるように頼んだ。


 「俺も捕まるんじゃないのか!?」


 「行けそうなら合図する!ダメそうなら俺が斬る!」


 グレアムが盾を構える横でシンゴは再び能力を使う。



 >ジャクバウンを下で構える。

 >直後、スクロファヌラの舌が飛んでくる。

 >少しだけジャクバウンを動かす。

 >飛んでくる舌にグレアムが盾でノックバックする。

 >弾かれた舌が口の中へ戻る。



 (これは行けそうだ!あとは舌が斬れるのかどうかだ!)



 >ジャクバウンを下で構える。

 >直後、スクロファヌラの舌が飛んでくる。

 >ジャクバウンで振り上げる。

 >ジャクバウンの軌道の手前で舌の先端が真上に飛んでいく。

 >振り上げたジャクバウンで斬り下ろす。

 >スクロファヌラが後ろに飛びながら舌を戻す。

 >空を斬る。



 (器用な舌だな!だったら!)



 >ジャクバウンを下で構える。

 >直後、スクロファヌラの舌が飛んでくる。

 >魔力を与えたジャクバウンで青いオーラの刀身を伸ばして振り上げる。

 >かなり手前で舌が停まって直ぐに口の中へ戻る。

 >振り上げたジャクバウンをそのままスクロファヌラへ振り下ろす。

 >スクロファヌラが右へ避ける。



 (嘘だろ!?避けるとかチートじゃないのか!?)


 ジャクバウンの剣戟を全て避ける結果を見せられシンゴだが、現実に目を向けた直後、スクロファヌラの舌がグレアムに飛んでくる。


 「盾で弾け!」


 「信じるぞ!」


 シンゴの言葉にグレアムは盾を構えたまま。

 巨大な舌の先端がグレアムの盾に触れる。

 瞬間、盾が上に動いた直後、舌の先端も上に弾かれた。


 「よし!」


 「二人とも無理せず牽制してくれ!」


 シンゴが振り向いて弓の準備をし終えた二人に声を掛ける。

 頷く二人は左右に分かれて木々を遮蔽物にして隠れながら矢を放つ。

 二人の矢はスクロファヌラの体に当たるが上手く刺さらない。

 放たれた矢が痛くないのかスクロファヌラは動じることなく再びグレアムに向かって舌を飛ばした。

 同じ軌道で飛んでくる舌をグレアムは難なく弾き返す。


 「クッ!?予想以上に力強いな!」


 苦い顔をするグレアムの体勢は少し後ろに仰け反りそうになっていたがギリギリで踏ん張ったようだ。

 舌を引っ込めてから再び飛ばすまで十秒ほど時間が空いている。


 (直ぐに飛んでくるのはきついがこっちの攻撃は効かないのも厳しいな。)


 お互い膠着状態だがシンゴは自身が優位な立場にいるとは思っていないらしい。


 (もしスクロファヌラは俺の動きを見て避けているなら目を潰してもらうか?)


 「ジェーン!エディック!奴の目を狙ってくれ!」


 「わかった!」


 「任せてください!」


 二人は弓に矢を携え弦を引き絞る。

 その間にも再び舌の攻撃が飛んでくる。


 「うおっ!?」


 「なっ!?」


 先ず、舌の軌道はグレアムの左側だったこと。

 更に舌の先端はまだ後方へ伸びていた。

 そこから素早く先端が彼らの後ろに回り込んで巻き取ろうとしていた。

 それに気づいた二人はギリギリのところでしゃがんで避ける。

 空を掴んだ舌はそのまま口の中へ戻る。


 「器用な奴だ。」


 グレアムは冷や汗を掻いているがシンゴも同様だった。

 正面から飛んでくるだけなら盾で弾いて防げるが、左右から瞬時に巻き取られると直ぐに食べられてしまうだろう。


 (口に入って死ぬわけじゃないだろうが窒息するかもしれない。)


 スクロファヌラの舌が口の中へ納まったと同時、ジェーンとエディックは矢を放った。

 ジェーンの矢は正面左目の下に当たって弾かれた。


 「うぅ・・・。」


 彼女の悔しさが声から伝わってくる、それでも彼女は再び弓を構える。

 一方、エディックの矢は真っすぐスクロファヌラの正面左目に突き刺さった!


 「gebow!?」


 あまりに痛いのか前脚で刺さった矢を取ろうとするが中々取れない。


 「今だ!」


 シンゴはジャクバウンに魔力を流して青いオーラの刀身を作り出す。

 他の三人を巻き込まないようにシンゴは正面へ走る。

 それに合わせて青いオーラが伸びていく。


 「うおおおおおお!」


 雄叫びを上げるシンゴはジャクバウンを右から左へ薙ぎ払った!

 青い軌跡が一瞬映し出され、消えた直後にはスクロファヌラは上下に分断されていた。


 「!?!?!?」


 斬られた当人は訳も分からずそのまま体を地面に預け、息を引き取った。

 赤い血が周辺へ流れ出し、死んだことが証明された。


 「ふぅ・・・。」


 息を吐くシンゴに背中を叩くグレアム。


 「お疲れさん。」


 「そうだな・・・。」


 後方からジェーンとエディックも駆けつけた。


 「凄かったねシンゴ!」


 「ありがとう。」


 「あの巨体を一撃で斬り倒すなんて・・・。」


 ジェーンは嬉しそうだがエディックは困惑を隠しきれないでいた。


 「エディックのお陰だ。」


 振り向いてエディックにもお礼を言うシンゴにエディックも表情を緩ませた。


 「流石紹介されただけはあるな。」


 「シンゴは凄いんだから!」


 ジェーンはシンゴよりも得意げに話すから他の三人はつい笑ってしまった。


 「私、おかしなこと言った!?」


 落ち着いた一行はスクロファヌラを解体して証明できる部位を切り取ってから一度ミールドの冒険者ギルドへ戻った。

 帰り着いた四人に対して街の人や冒険者は奇異の目で見ていた。


 「なんだあれ?」


 「カエルか?」


 「ブタの鼻もあるぜ。」


 「結構でかいな・・・。」


 色々な感想や憶測を立てられながら四人は冒険者ギルドの受付嬢に事情を話した。


 「・・・。わかりました。それでは討伐部位は裏手の解体倉庫へ運んでください。」


 受付嬢はカエルが苦手なのか終始引き攣った笑顔で対応していた。

 裏手の解体倉庫へ討伐部位を運べば隅の方に小さなカエルの足が幾つも見られた。


 「あんたたちの持ってきた討伐部位はおっきいねぇ。」


 作業者の男性が驚きながらもそれらを引き取る。


 「スクロファヌラって奴はたくさん出ているんですか?」


 「あぁ。数日前まで姿を見たこともなかったが昨日あたりから結構出始めたらしい。しかも、無差別に動物やモンスターを食べるらしいからな。お陰でシカやウサギも獲れないらしい。」


 「あー。」


 シンゴを始めジェーンとグレアムも納得した顔だ。


 「こいつらのせいでウサギの肉を食べられなかったのか・・・。」


 落ち込むグレアムを放っておいてシンゴ達は再び冒険者ギルドへ報告した。

 南西の森自体は調査中だが巨大なスクロファヌラが居て、通り道と思われる場所は無理やり木々が薙ぎ倒されていた。

 そんな風に報告を上げた。


 「それからお尻の方にたくさん傷があったよね。」


 ジェーンがそれを付け足したがその場では大きく議論に上げられることがなかった。


 「薙ぎ倒した木々の断面で傷つけたのでしょう。」


 「お尻は弱いんだね。」


 そんな結論に落ち着いた。


 「まだ調査は終わってないんだよな・・・。」


 「あの大きさがまだ居るとは思えないが。」


 「今日はもう休もうか。」


 シンゴの号令により本日は解散して明日仕切り直すことにした面々。

 各々が宿泊施設へ向かう前にエディックが引き留める。


 「三人とも。僕は君達のパーティーでこれからも活躍しても良いだろうか?」


 シンゴ達はそれぞれ顔を見合わせる。

 その沈黙が辛いのかエディックは沈んだ表情になりそうだ。


 「もしダメなら。」


 「いや、エディック。俺達はあんたを歓迎するよ!」


 「弓の腕を見せつけられて離す訳にはいかないな。」


 「それに水魔法があれば飲料水も困らない!」


 「あ、ありがとう。」


 歓迎されたことを知り、エディックの表情は明るくなった。


 「これからもよろしく。」


 シンゴが握手を求めるとエディックも握手に答えた。


 「こちらこそ。」


 改めてシンゴのパーティーに新しい仲間が加わった瞬間だった。 

ここまで読んでくださりありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

次回もシンゴ編の前後半を投稿予定です。

色々と申し訳ありませんがご了承ください。


補足・蛇足

エディック

ハーフエルフの男、外見25歳(実年齢180歳ほど)。弓使いで腕が立つ。水属性の魔法も幾つか使える。他のエルフとの交流はなく、当人も親から聞かされた程度で良くは知らない。好青年で笑顔で接することで女性からは勘違いされやすい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ