40話 脅威再び ―異界の勇者達―
本日もよろしくお願いします。
前日にも投稿しましたのでまだ見ていない方はそちらも読んでいただけたらと思います。
中園利香達三人がダンジョンの隠し通路を探索した後のこと。
彼らは最下層で見たもの、手に入れたものを王国側へ報告。
持ち帰った幾つかの青い魔鉱石は全て王国が引き取り、船戸玄が手にした大剣は彼の武器として認知された。
一方、隠し通路は王国側が厳重に管理をするとして話が終わる。
中園利香達が再び探索に赴きたいと願い出ても聞き入れてもらえず、他の勇者達も最下層への探索は禁じられた。
王国側は把握できていない最下層を探索させて帰還が出来なくなることを危惧していると言う。
実際、探索した三人は全てのモンスターを倒したわけではないとして王国側で最下層の全容が把握できるまでは一切の立ち入りは出来ないようにした。
隠し通路がある中層エリアには今まで以上に兵士が待機していることから異界の勇者達も事を荒立てないようにしていた。
彼ら異界の勇者達がサンデル王国に召喚されてから三年と半年近く。
彼らは変わらずサンデル王国の勇者として活躍している。
それは他国でも知られており、サンデル王国を狙う隣国フレイメス帝国も警戒を強めていた。
強力な力を持つ彼等でも元は只の高校生、戦いがない時は変わらず以前の様に友人達と話して過ごせているようだ。
この日は訓練が早めに切り上げられたようでほとんどの勇者達は疲れ果てている。
汗を流すために用意された突貫の湯浴み所で女子達が使い、その後男子達が使う。
最初でこそ女子の一部から男子が使うことに抵抗があると言われたが簡単には作れないので彼女達は何とか留飲を飲んでくれた。
そんな彼女達が汗を流した後の過ごし方は大体がグループに分かれて誰かの部屋で雑談に興じることだ。
谷川麻紀達三人も例外ではない。
「もー訓練なんてしなくて良くない?」
谷川麻紀の言葉に藤田杏奈と高木唯が頷く。
「確かに言えてるー。」
「私達が戦わなくても国の人達だけで戦えばいいのにねー。」
「ここに来ていい事なんてほぼないでしょ。」
彼女達が過ごす日々は座学と戦いに身を投じるための訓練。
しかも、座学は殆ど聞いて終わるもの。
訓練も人にもよるが時に厳しく、モンスターとの実戦も交えるのだから命の危険が大きいだろう。
「はぁ~。次はいつ街に行けるのかなぁ~?」
高木唯は偶に出かけることが出来るようになった城下町の散策に胸を躍らせているようだ。
「言うの難だけどあんまりおもしろくなくない?」
「だよねー。服もパッとしないし。」
「それはそうだけどさー。」
谷川麻紀や藤田杏奈は城下町の店や商品に魅力を感じていない。
それは高木唯も同じであるが、彼女達の世界と時代を比べたらここの文化や文明は遅れていると言うのが彼女達にとっては正しいだろう。
服一つとっても材料と発想と技術、これだけでも大分違う。
もし彼女達が現代知識を提供して実現できれば大きなブレイクスルーになるだろうが異界の勇者達は普通の高校生、全ての知識もなければ技術を身に付けていない。
だから彼らがブレイクスルーを起こせることはないだろう。
尤も料理に関しては幾つかレシピを送った人がいるらしいが再現できる材料が足りないため、美味しいものは出来ていない。
勿論、谷川麻紀達が現代知識を駆使して何かを成し遂げようなんて考えることはない。
「そう言えば小倉が兵士達に言い寄られてたの見たんだけどさー。」
「マジ!?小倉が?」
「誰かと付き合ってるの!?」
小倉柚希、黒髪ロングヘアで左側に緑のヘアピンを着けているAランクで【マジック・アクオス】を持つ女子。
「小倉は女子の中でも綺麗で背も高い方だから毎日城の兵士達をとっかえひっかえしてるんじゃね?」
「マジ受けるー!」
「ホントならやばいよねー!」
爆笑する彼女達の声は大きく笑い声だけなら外の通路にも漏れている。
ただ彼女達はそれを気にすることはないのだろう。
他にもあの騎士がカッコいいとか、王子と結婚したら戦わなくても良いとか現状における理想の話から下世話な話まで様々。
彼女達は楽しい話をすることで一つのストレス解消がされているのであった。
別の部屋。
この部屋には飯田翔太と山田航大がベッドに体を預けている。
「俺達、何でこんなところにいるんだっけ?」
飯田翔太がぼんやりしながら口にする。
「あぁー。この国に呼ばれたからだろ?」
「そうだったな。」
山田航大も天井を見つめたまま答えた。
「ここに来て何年経つんだっけ?」
「三年半近くは経つんじゃないか。誤差はあるけど。」
「俺達は魔王を倒したんだよな?」
「そうだな。倒したな。」
「普通、魔王を倒したら帰れるだろ?」
「普通はそうかもしれないな。」
「実は魔王を倒していないとか?」
「あるかもしれないな。」
「いや、そこはないって言えよ!」
「あり得るかもしれねーじゃん。適当な事は言えないって。」
「お前の返事は割と適当じゃないのか!?」
「俺だって元の世界に帰りたいわ。」
「はぁー。」
「はぁー。」
二人で溜息を吐いてしまう。
日頃の訓練での疲れもあるだろうが先行きの分からないことに不安を感じている。
そもそも彼らにとっては魔王を倒したことで元の世界に帰られると信じて疑わなかったのだから。
しかし、魔王討伐後から今日まで彼らは何度か帰りたいと言ったがまだ役目を終えていないや平和が訪れていないと言い張ってずっと彼らをこの世界に留めている。
抗議をしようものならいつかの鎧の戦士に取り押さえられたり、もしかしたら死刑もあり得ると彼らは想像してしまい、全員で表立って言えないのでいた。
そういった不満と不安が日々積み重なってくるが幸いなのは黙って従う限りは衣食住が保障されていることだろう。
右も左も分からない彼らにとってサンデル王国がこの世界で生き残る唯一の支えなのだから。
「せめて楽しいことはないかー?」
「ないだろ。娯楽の類もないし。」
「テレビとか欲しいよなぁ。」
「テレビがあってもテレビ局はないだろ?」
「誰かが番組を作ればよくね?」
「誰が作るんだよ?」
「インターネットもないしゲーム機もない。スポーツも出来ないし。」
「そうだよな。なんか作って売れればな。」
「俺達にそんな知識とかないわ。」
「そうだな。もっと知っておけばよかったなぁ。」
今日の彼らは話しても解決しないことばかりであった。。
サンデル王国北部。
嘗て魔王が現れて、城を建設していた場所。
今ではサンデル王国がヒロノス砦として活用している。
当時は天井のない城になっていたが兵士達の働きにより雨風を凌げる場所には仕上がった。
その砦には現在兵士達が北東のムンドラ王国と北西のステア王国を見張っていたり、周辺を警戒、雑談に興じている。
「いい加減ここから撤退しても良さそうだよなぁ?」
砦の外周部で雑談に興じる兵士の一人がそうボヤく。
「そうだな。魔王なんていないし問題なんてないだろ?」
別の兵士も同意するが三人目の兵士は違う意見のようだ。
「聞いた話だとムンドラ王国やステア王国に攻め込まれた時の備えだとよ。」
「そこの二国とは話が纏まっているんじゃないのか?」
「もしもを考えてだろ。」
「それならもっと早くから砦を建てれば良かったんじゃないのかぁ?」
「確かにな。実際砦を作ったとしても魔王にやられるのがオチだったろ。」
「違いないな!」
ドッと笑いが広がった。
ここに居る兵士達にとっては他の場所よりはのんびりと仕事が出来ると認識されていないのだろう。
一方、砦周辺を回っている小隊が森でコボルドの群れに遭遇した。
「相手はどれくらいいる!?」
「十匹だ!」
「別のモンスターと暴れられても困るな!さっさと倒すぞ!」
彼ら四人の兵士が敵意を剥き出しに襲い掛かるコボルドに向かう。
「こいつらって臆病じゃないのか!?」
「ここ数年は立ち向かう奴らの方が多いな!」
「でも弱いことに変わりはない!」
「油断するなよ!」
数の上では兵士達が不利だが一人が手を翳すと土の塊が生成される。
「クエイクボール!」
両手で抱えきれないくらいの土の球が正面に打ち出される。
それに驚くコボルド達。
最初の一匹に当たるとそのまま勢いを落とさずに二匹目と三匹目にも当たった。
質量が伴っているのか当たった三匹は後ろに仰け反り首が曲がっていた。
恐らく絶命したのだろう。
そこからは兵士の剣とコボルドの剣や棍棒がぶつかり合う。
コボルド達は兵士達の攻撃を受け止めていたが直ぐに隙を晒して腹や胸を斬られる。
そうして気づけば兵士達がコボルドの群れを全滅させていた。
「呆気なかったな。」
「そうだな。」
「こちらも血が灰色だな。」
「最近の奴はそうだな。」
「変異種って感じでもないよな。」
「モンスターはモンスターだろ?気にすることないって。」
「まぁそうだな。」
彼らはその場を立ち去ろうとしたがその時大地が小さく揺れ始めた。
「ん?」
「なんだ!?」
「大地が揺れている!?」
「地震か!?」
揺れは強くなるが立っていられなくなるほどではなかった。
数十秒すると揺れが収まり兵士達の顔が安堵に包まれる。
「びっくりしたな。」
「砦の方は大丈夫か?」
「大丈夫だろ?」
「次に行こうぜ。」
彼らは気にすることなくそのまま巡回経路を辿り始めた。
しかし彼らはこの時知る由もなかった。
砦の異変を・・・。
「報告します!」
サンデル王国の謁見の間。
玉座にはサンデル王国の王、バイゼル・サンデルが座っている。
バイゼルが見下ろす先には騎士の一人、ダークブラウンの髪をオールバックにした鼻の大きいタウゼン・フォン・ティセロニアが跪いている。
「一月ほど前にサンデル王国北部のヒロノス砦に突如巨大なモンスターが出現しました!」
「な、なん・・だと・・・。」
バイゼルを始めとした大臣達も驚愕する中、報告は続く。
「モンスターを討伐しようと現地の騎士と兵士で挑みましたが討伐できず。今なおモンスターはヒロノス砦に鎮座しています。」
「生存者は?」
「王城へ報告に来た者達を含めわずかです・・・。」
「バカな・・・。それほどまでに相手は巨大で恐ろしいと申すか?」
「はい。恐らく魔王よりも多くの戦力が必要かと。」
暫くの間、謁見の間では報告と話し合いが行われたがその場では何も決定することなく後日改めることになった。
この報告は既に城内の騎士達には上がっており騎士の中でも格上の者達で議論が交わされている。
「こんなモンスターが居るなんて馬鹿げているぞ!」
「パニックを起こした兵士の報告なら誇張されていても・・・。」
「報告がある以上は現地に行って確かめるしかないだろ?」
「誰が行くんだ?」
「行くとしても連れて行く規模は?」
「往復に掛かる費用も文官達に考えて貰わないとな。」
などと話しているもそもそも本当か嘘かで意見が分かれ、派遣するにしても規模は魔王討伐程ではないとしている。
その騎士達も二月後には知ることになった。
魔王よりも強大で恐ろしいと・・・。
騎士や大臣、文官達が右往左往して寒い季節になり暫く。
サンデル王国で雪は積もらないが空気は冷たい。
その環境下でも城の中であれば魔鉱石を用いた暖房具で保温できる。
とは言え建物自体が機密性は高くないから一部の部屋にしか使われない。
暖房具によって暖かくされた大広間に異界の勇者達が集められた。
彼らは雑談に興じたり、一部の女子は体や手を擦って温めていたりする。
そんな彼らの元に兵士達と一緒にサンデル王国の魔法研究部門に所属するアニー・スノーランドが現れた。
「皆様お静かに!私から重要な話をさせていただきます!」
大声を出したアニーに全員が静かになって注目し始めた。
静寂な空気になってアニーは一呼吸置いてから話し出す。
「皆様に集まっていただきたのは他でもありません。ここサンデル王国に新たな脅威が迫ってきました!」
新たな脅威と聞いてざわつく異界の勇者達に兵士達が声を掛けられて話し声が止む。
「その脅威は三年以上前に倒していただいた魔王より遥かに強大です!」
「魔王より強い?そいつはなんなんだよ!?あぁ?」
大官寺亮典が睨みつけるがアニーは大きく息を吸った。
「それは、邪神です。」
邪神と聞いて異界の勇者達はどよめく。
「邪神?」
「クトゥルフ神話のあれとか?」
「邪神って言うくらいだから神様か?」
彼らのイメージでは悪い神様くらいしかないようだ。
そんな彼らの話を止めて再びアニーは話す。
「邪神カタストゥ、それがサンデル王国に顕現した邪神です。」
邪神カタストゥと聞いても誰も知らない。
当然、彼らのいた世界にそんな邪神はいなければそれが登場する神話も存在しない。
「皆様には魔王を倒したように邪神も倒していただきます!」
力強く言うアニーに誰も反対しない、いや反対は出来ない。
言う事を聞かず力で訴えれば鎧の兵器ホロアムズが取り押さえる。
ただ、彼らの殆どは何年も自分達に衣食住を与えて来た相手に対して報いる気持ちがある程度芽生えているのも事実。
それらが合わさりアニーから簡単な打ち合わせをされて全員が邪神討伐へ向かうことになった。
不承不承と言う者達もいるが、サンデル王国としては異界の勇者の使いどころ。
故に魔王討伐後も元の世界へ返さずに日々訓練を行っていたのだ。
この日から異界の勇者達は邪神カタストゥの討伐に動き始めた・・・。
広間でのガイダンスが終わり、各自が解散した後。
異界の勇者の英雄人、北山洋成、海賀亨、菊池未梨亜、堂本みのり、若山智里は英雄人の部屋に集まっていた。
部屋は石畳のため、冷えやすいが菊池未梨亜の【マジック・ボマー】によって空中の何か所かに炎の球が生成されている。
ベッドには女子が三人座って、三つある木製の椅子に男子が座っている。
「菊池の能力は凄いな!お陰でこの部屋も暖かいぜ!」
北山洋成は嬉しい顔でそう伝えた。
「私はエアコンじゃないんだからね!」
本気ではないが憤慨する菊池未梨亜に堂本みのりは落ち着くように促す。
「でも、未梨亜ちゃんのお陰で暖かいよ。ありがとう。」
「みのりの言う通りだなありがとう。」
「まぁ、みのりや雄人が寒く感じるのは困るし!」
「素直じゃないなぁ、未梨亜はぁ。」
英雄人もお礼を言い、若山智里が茶化す。
海賀亨はいつも通り物静かである。
「それは兎も角。邪神ってなんなの?神様なんでしょ?」
未梨亜が話を振ると全員が悩みだす。
「神と言えば神だよな。」
英雄人の単純な答えに全員が頷く。
「敵なら倒す。それだけだろ?」
北山洋成は単純な思考だった。
「神様を倒すって良いのかな?」
不安に感じる堂本みのりに海賀亨は淡々と答える。
「倒したからと言って世界が消える、なんてことはないだろう。邪神と言うから人に災いを成す神。倒さないと平穏は訪れないでしょ。」
「そうだよねー。さっきの話だと魔王みたいにモンスターを各地に放っているって言っていたし。」
若山智里も倒すことに賛成のようだ。
「そもそも僕達に拒否権はないからね。」
「俺達を召喚した理由、だからな。」
海賀亨と北山洋成の言葉に誰もが暗い表情になってしまった。
炎の球が部屋中を暖めて照らす中、英雄人が口を開いた。
「俺達は生きて元の世界に帰る。だろ?」
「そうだな。邪神以上に脅威なんてないだろう。サクッと倒してお終いにしようぜ!」
「この土地に美術が広まっていないから未練もないし。」
「いい加減帰りたい~。」
「そうそう。私達は戦いたいわけじゃないもんね。」
堂本みのりは一拍置いてから表情に笑みを作って頷く。
「うん、早くこの世界が平和になるといいよね。」
「取り敢えず、明日街に行って美味しいもの食べない?」
菊池未梨亜が話題を変えると笑いが広がる。
「花より団子、だな。」
「いいじゃない!ここはつまらないし!」
「俺も賛成だ。どうせなら楽しいこともしないとな!」
北山洋成の茶々も入りつつ英雄人が賛同する。
こうして彼らは明日の予定に花を咲かせるのであった。
別室。
この部屋には武田康太と桑原健斗の二人が蝋燭を囲って俯いていた。
「邪神だってよ。」
「そうだな。」
「魔王が強かったのにそれより強い邪神なんて俺達に倒せるのか?」
「俺達はダメだろうな。Sランク様達がどうにかするだろ。」
「だよな。俺達は要らないよな。」
「異世界もこんなもんだよな・・・。」
二人はかなり弱気になっている。
最初の頃に魔法を見て興奮していたとは思えないほどに。
武田康太がベッドから立ち上がって叫ぶ。
「なんで俺達はこんな目に遭ってんだよ!?」
それにつられて桑原健斗も椅子から立ち上がる。
「知るかよ!俺に聞くなよ!」
「悪い・・・。」
お互いに座るが沈黙が重くのしかかっている。
「クソッ!鈴木も死んだのに誰も怖くないのかよ!?」
「強い能力持ちは怖くないだろ。実際強いしな。」
鈴木隆利が死んだときに友達だった二人にとって死を意識している。
「だけどな武田、俺は戦う事に恐怖をあまり感じないんだ。それに死ぬことを想像してもそこまで怖くない。」
「は?」
「実はお前もそうじゃないのか?多分他の奴らも同じだと思うぜ・・・。」
桑原健斗に言われて武田康太も思い返してしまった。
口では怖いと言いながらそこまで怖いと思っていない自分を。
初めて剣を握ったとき、ファンタジー世界に来たと実感していた。
初めてモンスターと遭遇したとき、見慣れない生物でこの時は恐怖を感じていた。
しかし、魔王との討伐では威圧を感じても恐怖で逃げ出したくなる気持ちにはならなかった。
あの時は魔王を倒して英雄にでもなれると興奮していたと彼らは思っていた。
魔王を倒した後、鈴木隆利が息を引き取ったことで現実の死がすぐ隣にいることを感じた彼らだがそれに対して恐怖で竦むことはなかった。
それからも様々な経験を経た今、成長したからどんなことにも恐怖を感じることが無くなったと。
少なくとも武田康太はそう思っていた。
こうして不安定になっているのは自身の非力さを悔やんで嘆いているのだと桑原健斗は武田康太に思っていた。
「くっ!」
「戦うことは変わらないぜ。」
「だったらせめて俺を強くしてくれよ!なんで俺達はこんな弱いんだ!?」
「神様が決めたんだろ?」
「いるわけないだろ!居たら俺達も優遇されるべきだ!」
「邪神がいるんだ。神はいるさ。俺達は石ころと変わらないんだよ、きっと。」
武田康太は自身の立場を嘆き桑原健斗は自暴自棄に答えるだけ。
彼らの思い描いた異世界ライフは最初から存在していない。
あるのは現実、ただそれだけ。
「頑張ってもランクは変わらない!ステータスだって具体的に幾つか分からないし!やりようがねーんだよな!」
「ホントそうだよな。あの水晶を定期的に使っても見られる項目なんて使える魔法くらいだったし。」
「あれ壊れてるんだよな!新しいの作れよ!」
「俺に言うなよ。アニーさんにでも言えよ!」
「言えるなら苦労しねぇわ!」
悪態とため息が二人の間で入り混じる。
フィクションで夢見て憧れていたと言っても過言ではない二人は今やもっともここを離れたいと思っているだろう。
それでも帰ることを許されず、一人は己の無力に嘆きもう一人は考えることなく逃避するのであった。
王城のある広間。
ここには文官と武官が幾人か話し合っていた。
最初は情報の共有、それらを元にどう動いていくか。
「勇者達が魔王の最後の言葉を聞いた中で『あの方が舞い戻る』と言っていたらしいが邪神のことだったんじゃないのか!?」
「その可能性は否定できません。」
サンデル王国上層部でも全員が邪神について事細かく知っているわけではないらしい。
一人が立ち上がって怒号を上げれば別の誰かも反応してテーブルを叩く。
「あの時から対策出来ただろう!?」
「私達もそれを伝えましたがあなた達が否定したではありませんか!」
「魔王の時よりもモンスターの活動範囲が広がっている!派兵して抑え込まないと町村が壊滅しますぞ!」
「それは既に行っている!フレイメス帝国の動きもあるから全兵士を導入するのが難しいんだ!」
「勇者達を導入すればモンスターの群れなぞ吹き飛ぶであろう。」
「バカを言うな!切り札を雑魚に使えるか!数が多いんだ!」
「それに魔王クラスの敵が出現したら抑え込むのは厳しいぞ!」
「騎士達であれば大丈夫でしょう。それにホロアムズもいますし。」
「手の内を晒すのか!あれとて万能ではないぞ!」
「先ずは村や町の住民の避難と受け入れ先を決めなければ!」
文官と武官だけでなく文官同士武官同士で言い合う場面も多々あった。
それでも最終的に対応を決めて動き出す。
大臣や国王達に報告してから彼らは雑務に追われ続ける。
彼らにとっての戦場は城内であろう、他者から見れば大変だと思うかもしれないが死地へ向かう者達からすればまだ楽園なのかもしれない。
アニーも上から言われて様々な場所で仕事を任される中、先日異界の勇者達に協力して貰って水晶による計測結果を眺めていた。
しかし、計測結果とは言え細かいパラメーターなどは書かれておらず名前と性別、称号、ランク、能力名、使える魔法やスキルが書かれているだけ。
「やっぱり開放の水晶が壊れているのかしら?」
アニー自身、異界の勇者を目にするのも水晶を使ったのも初めてであり召喚や水晶について十全に知っているわけではなかった。
サンデル王国に残っている資料もそれほど多くはなく、邪神に関する情報も資料室の奥に埋まっていた数枚を見つけた程度である。
「直し方なんてどこにも書いていないし・・・。」
元々の機能では身体能力や魔力量なども数値化出来るらしいが現状ではそれが表示されない。
アニーは先達に聞いて回ってもわからないと言われて、それでいて異界の勇者達の情報の詳細を示せと煩い始末。
「それに一部は魔法名やスキル名が文字化けしてるし・・・。」
実はサンデル王国は過去にも異世界から勇者達を召喚しており、彼らの情報も一応保存はされている。
それらの情報を元に開放の水晶に記録させたことで後の勇者達の能力やスキルなどを判断しているらしい。
「邪神を倒すための有力な勇者の能力を探せって言われても分かるわけないじゃないの!」
羊皮紙の束を床に叩きつけるがはっとなって直ぐに拾って整える。
何時間も狭い場所で資料を漁っているが有力な手掛かりは見つからない。
「なんで先祖はしっかりと情報を保存していないのよ・・・。結局Sランク勇者達を中心に戦ってもらうしかないわね。」
溜息を吐いて彼女は必要な資料を手元に残して後は棚に仕舞う。
実のところ、邪神に関する情報がいつのものかは分からない。
アニーが生まれる前と言うのは間違いないがそれがサンデル王国の歴史の中の出来事なのか建国前から既に存在していたのか・・・。
それは兎も角、アニーは自室に籠り資料を纏めた。
上司に報告して苦い顔をされたがそれらは文官達に回され、武官と一緒に勇者達の編成の参考にされた。
そして勇者達に運命を委ねられた・・・。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。
次話 邪神登場と言いながらダイジェストになることをお許しください(ダイジェストかも怪しいです)。
補足や蛇足
魔王
意思を持つ人型のモンスター。
過去に何度も出現しているが全て異なる魂である。
目的はモンスターによる大地の支配とされているが、真偽は定かではない。
異界の勇者以外にも倒せるが強大な力を持っているため人類の総力戦で倒した記録があるとかないとか。




