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38話 小さな弱者

本日もよろしくお願いします。

昨日(12月18日)にも1話分投稿しているの良かったらそちらもお願いします。



※本文の一部を訂正しました

 無職→無色

 インフェリアマイリスの襲撃から早数週間。

 多大な犠牲を払った末の結果として住人には被害がなく、重軽傷者多数で死者は数名と言うのは良い方だと思う。

 それと戦闘で荒らされた場所は土木業者を中心に冒険者達が手伝って修復した。

 いまだに直っていない場所もあるけど、何れは修復される。

 今回の報酬は銀貨五十枚と冒険者ギルドに併設されている飲食店での飲み食いが一回だけ負担してくれる(値段の上限はあり)だったため、ベテラン冒険者達にとっては割に合わない仕事になったけどわたしにとっては十分な額だった。

 そもそも、誰が参戦してどんな功績を挙げたのかなんて正確に把握するのが難しいと言うのが冒険者ギルドの言い分かも知れない。

 その稼ぎも大きいけどわたしは旅立つまでに依頼を受けて報酬を貰い、旅支度をした。

 事件から数日後に受けた依頼の一つでインフェリアマイリスの痕跡を捜索するものがあった。

 町周辺の舗装路には足跡なんてなかったけど山に入ってからは雑草を踏みつけたあとがあり、奥に進むと途中で血痕もあった。

 それを辿ってみれば何人もの冒険者達が無残な死に方をしていた。

 周辺を探るとインフェリアマイリスはいつかの大穴から這い出て来たらしい。

 と言っても明確な証拠はなく、踏み付けた跡が大穴に続いていたからそう言う結論になった。

 今後も強力なモンスターが這い上がってくる可能性があるという事で土魔法を使って穴を塞ぐ作業が行われている。

 ただ表面を作っても早くに崩れてしまうだけだから埋めるために今だ試行錯誤はしているらしい。

 犠牲者の中でハドリー達四人を発見したけど別の場所でもう一組の冒険者達もいたから人材と言う点で言えば冒険者ギルドとしてはかなりの痛手だと思う。

 仲が良かったわけじゃないけど話せる知人だったから、安らかに眠って欲しいと願うばかり・・・。

 忙しい毎日を終えて今では一段落着いたある日の夕食時。


 「明日出ていくのね。」


 マーサがいつもの飲食店で寂しそうな顔をする。


 「今までお世話になりました。こうして五体満足でいられるのは皆さんのお陰です。」


 「うぅ、まだ行かなくてもいいじゃないの~。」


 レスリは涙目になっている。


 「今のうちに色々なところを回ってみたいので。」


 「若い子には旅をさせろって何処かでは言うらしいけど。」


 「私達もまだ若いわよっ!」


 二人ともいつもよりお酒を飲んでいる、顔が結構赤い。


 「えぇ、二人ともお綺麗ですよ。」


 「ポーラだって~。」


 「えっと、ありがとうございます?」


 「そうよ!だから今日はもっと飲んで飲んで!」


 何時もなら飲まないけど今日だけはいいかな?


 「旅立つ友を祝してかんぱ~い!」


 「かんぱい。」


 「かんぱい。」


 注文した一番安い酒を手に二人と乾杯。


 「これは苦い・・・。」


 「それが大人の味よ!色々大変だけど無茶はしないでね!」


 「無理もしないことよ?」


 「肝に銘じます。」


 「緑の等級は意外と時間が掛かるから、上げたいなら討伐依頼をするのが早いわよ!」


 「さっき無茶はしちゃダメだって言っていたのはどの口かしらね?」


 「困った時に思い出して欲しいって思ったの!それに等級を気にしないならしなくてもいいわけだし。」


 「分かりました。アドバイスを有難く頂戴します。」


 「改まらなくていいのよっ!」


 葡萄酒を一口飲んだマーサの頬がほんのり赤く、麦酒を一気に呷るレスリの顔はかなり赤い。


 「でもポーラが居なくなるのは寂しいわ。ポーラ以外にも新人さんは何人もいるけど、技量も度胸もポーラが飛び抜けているわ。」


 「そうよね。私としても新人の中ではポーラが一番凄いと思うわ!」


 「わたしも二人の顔を見られないのは寂しいですね。まぁ、わたし以外の新人は将来有望じゃないでしょうか?これから実力が着くと思いますし。」


 「ベテラン達がしっかり教えてあげられるのが良いかもしれないけど。」


 「そればっかりはねぇ。」


 二人の話では冒険者の業界においてベテランが新人に教える風習はないらしい。

 個人単位で言えば教える人もいるには居る。

 それこそ一日限りで基本的な事を教えるだけの場合もあれば、パーティーに招いて一緒に仕事をしながら教える人たちもいるとか。

 まぁこの町ではそう言う人達は見かけないらしい、あの青い明星も積極的に教えてはいないとのこと。

 だからこの町でデビューした新人達は未だに無色の等級で最初はお使いを中心に依頼を受けていたけど、最近は依頼の幅が増えたらしい。

 わたしも最初は似たようなものだったけど最初の段階で回復草をしっかりと採取できたところが評価されていたり、夜中にマウマスキュを三匹討伐したことで進級の点数を稼いでいたとか。

 そう言う話を聞くと二人がわたしを評価するのは一人である程度依頼を達成できたところだと思う。

 きっかけは今も羽織っている毛皮のインパクトだと思うけど。


 「それは兎も角まだまだ飲むわよ~!」


 「明日も仕事があるからほどほどにね?」


 「今日くらいは飲ませてよぉ!寂しいんだから!」


 「抑えてくれるならわたしも付き合うから。」


 わたしを送り出してくれる二人には感謝で一杯だ。

 何もなければ二人の住むこの町で冒険者稼業をするのも良かったのかもしれない、そんな風に思ってしまった。







 翌朝、雲はそこそこあるけど雨は降らないと思う。

 太陽も出ているから洗濯物はしっかりと乾きそうかな。

 身支度を終えてから馬小屋を出る。

 結局、この町では一泊も宿を取らずに過ごしてしまった。

 山暮らしを思えばここも大分マシだと思えてしまう。

 馬小屋を出て丁稚に挨拶して朝一に出発する商人を捕まえて何とか乗せてもらった。

 商人達の様に武力を持っていない人が移動するとき、危険から身を護るために冒険者ギルドで護衛依頼を出す場合がある。

 護衛の人数や報酬は依頼主によって変わり、人によってはよく受ける人もいる。

 そして、引き受けるメリットは人によっては馬車に乗せてくれること。

 乗せて貰えれば体力の消費も抑えられるし、早く移動できる。

 それに依頼報酬も貰える。

 ただ、わたしの場合は等級の都合上引き受けられないので、出発前の商人達に声を掛けて交渉した。

 護衛料を貰わない代わりに乗せて欲しいこと、もしモンスターに襲われたら退治することを条件に。

 実際に応じてくれたのは馬車を何台も持っている商人で既に護衛の冒険者を雇っていたこと。

 それでもわたしの話に応じてくれたのはまだ空きがあったこと、それとインフェリアマイリスの戦いに貢献しているのを知っている冒険者達が護衛の依頼を受けていたこと。

 半ば紹介されて同伴することになったけど、有難く同行することにした。

 わたしを紹介してくれた冒険者達は祝勝会の時に話しかけてきた人たちの一部だった。

 馬車に荷物を運んだら彼らと一緒に馬車に乗って町を出た。

 少しずつ小さくなる町の風景にちょっと感慨深くなる。

 正直、お金を稼ぐだけの場所だと思っていたけど、今では思い出が詰まった場所だ。

 レスリとマーサ、今まで関わってきた人達。

 お元気で。

 こうして次なる場所を目指して出発した。






 ある町で暫く泊まることになったときのこと。

 わたし達冒険者は時間が来るまで自由にしていいという事だったので、暫くはこの町の冒険者ギルドでお世話になった。

 と言ってもわたしが受けた依頼はお使いが中心だったけど、町の住人達から話を聞けた。

 最初の町やこの町を含む領地を治めている領主はダルメッサ・フォン・ベイグラッドと言う男性貴族。

 彼はこの先にある街ダランタに住居を構えているとか。

 流石に顔や性格はわからなかったけど、表立って批判すると数日後には消されると言う噂。

 少なくとも以前、この町の住人が税の引き下げを訴えたけど暫くするとその人達が忽然と消えていた。

 領主が直接手を下した証拠はないけど、領主に楯突くとどうなるかわからないと言う恐怖から噂が広まったらしい。

 前の町では延納は認められているとか言っていたけど、どうなっているの?

 うーん、単純に時系列の問題とか?

 税の引き下げと言う声があって彼らを消した。

 それによって領内で不満が溜まり始めた。

 だから延納を認めた。

 とかだったら筋は一応通るのかな?

 改めて延納の話を聞くとまさにその通りだった。

 延納を認める辺りは優しそうに思えるけど、飴と鞭を使い分けているだけかもしれない。

 それと領主に会う機会はあるのかどうか。

 少なくともこの町には顔を出していないからないとのこと。

 それと取り立てる兵士達が横暴らしい。

 他にはフレイメス帝国の兵士や騎士がいつも以上に訓練を行っているとか。

 ここベイグラッド領は勿論の事各領主達の私兵や国直属の騎士団も同じらしい。

 常に強国であれ!と言っているとか。

 他にも幾つか聞いたけど優先して覚える話はこんなところかなぁ。

 実際のところはあまり有用な情報じゃない気がするけど。

 気になる話として、ベイグラッド卿は気に喰わないことがあれば実行部隊を使って排除しているのかもしれない。

 その実行部隊を使ってアルファン様達を暗殺した・・・可能性はある。

 そんな可能性を思うと怒りが込み上げてくるけどそれを抑えつつ数日間は町のお使いをしながら近隣の野山にも入って採取や討伐もした。

 採取対象外の植物は何かの役に立つかと思い、道具を集めて煎じて保存。

 討伐をするのは腕を鈍らせず、向上できるようにするため。

 マーサ達からは可もなく不可もなく評価されたけど、大型のモンスター相手だと一人でどうにかするのは難しい。

 それに下手をするとモンスターよりも強力な存在を相手にしなきゃいけない。

 それでもどうにかしなきゃいけない。

 そんな風に思っていたら・・・。

 現在依頼を受けて山に入ったわたしの目の前には遭遇したウルサクがいる。

 気を付けていても見つかる時は見つかってしまう。

 ウルサクは鼻が利き、気配を殺しながらわたしに近づいてきたようだ。

 そう言う意味では運がない。

 だけど、そんな簡単には片づけられない。

 前回は倒せる気がしなかったけど、今回はそう言う話以前に逃げ切れる気がしない。

 天賦の才はないけれど、やれることはやらなければ・・・。

 目の前のウルサクはお腹を空かせてわたしを食べようとしている。

 そしてわたしは。

 ウルサクが好機と見てわたしに向かって走り出す。

 初速が遅いように思えるけど、数秒で襲い掛かってくるはず。

 意を決してショートソードを抜いてギリギリまで引き付ける。

 剣を握る両手が熱く感じる。

 二度目の正直だけど恐怖と緊張が入り混じっている自覚がある。

 その状態に殺される訳にはいかない。

 距離を詰めて飛び込んできたウルサクの大きく開いた口が狂気を剥き出しにした!

 顔面から噛まれる前に左へ屈みこむ。

 同時に剣を振る。

 何かを斬った感触が伝わる。

 地面に転げて体勢を直す。

 そこには右前脚の甲を切断されたウルサクが血を流している。

 だけど、相手は戦意を失っていない。

 多少バランスを崩してもそのまま突っ込んできた。

 次は相手の左足を狙う。

 呼吸が乱れ始めるけど落ち着けわたし。

 だけどテンポがずれた。

 ウルサクが立ち上がってから左前脚を振り下ろしてきた。

 後ろに飛ぶけど防御が間に合わず引っ掛かれる。

 右腕を引っ掻かれた!

 痛い!

 毛皮を割いて腕にまで届く爪と膂力。

 普通の熊でも一回の攻撃でこうはならないはず。

 それにウルサクの攻撃は終わらない。

 四つん這いになってそのまま近づいてくる。

 咄嗟に真上に跳ぶ。

 前転しながら剣を振る。

 背中を斬った。

 着地して直ぐに距離を取る。

 背中を斬られたウルサクが吠えるけど後ろに居るわたしを見つけると直ぐに飛び掛かってきた。

 右腕を上げづらい。

 左に避けるけど足を縺れさせてしまった。

 マズイ!?

 それを好機と見るやウルサクは覆いかぶさってきた。

 わたしの目の前には我慢できないと言わんばかりに涎が垂れている。

 上から降ってくる涎が頬に掛かる。

 食べられる!?

 足で胴体を蹴ってもビクともしない。

 剣から左手を離して急いでウルサクの顔面を狙う。


 「ファイアショット!」


 私の指先から炎の弾が飛翔した。

 口の中に吸い込まれたそれは見事に爆ぜた。


 「!?!?!?」


 口の中に炎を放り込まれて驚くウルサクは大きく仰け反った。

 剣はその場において急いで膝を曲げてから頭を逆位置にする。

 そこから反動をつけてウルサクとは反対側へ飛び出す。

 口の中を火傷していそうなウルサクがもっと敵意を見せて来た。

 右腕は痛むけどまだ使える。

 右腕を下げたまま右手の親指を正面に向けて魔力で炎の弾を作り出す。


 「ファイアショット!」


 小さな炎の弾はウルサクの左側へ抜けてしまった。

 標準が甘かった。

 ウルサクはニヤリと笑いながらわたしに向かってきた。

 わたしもウルサクに向かって走り出す。

 残り数歩のところで再び放つ。


 「ファイアショット!」


 これも標準が甘い、だけでなくウルサクが見切ったように左へ避けた。

 だけど、それで良かった。

 わたしはそのまま正面を走って地面に置いた剣を飛び込んで掴み、一回転しながら体勢を直す。

 先に距離を詰めたウルサクがいる。

 右手を握りに添えて左手で振り上げる。

 正面から来たウルサクの鼻を斬り飛ばす。

 勢い余って飛び込んできたウルサクだけど痛みを感じて堪えようとしたのか口を閉じてくれていた。

 お陰で顔面タックルをくらっても食い千切られることはなかった。


 「がはっ!?」


 それでも何倍もの体重を持っているであろうモンスターの突進は衝撃が来る。

 近くの木に激突して痛い。

 肺から一気に空気が抜けた。

 急いで吸わないと!

 でもウルサクは待ってくれない。

 鼻先を斬られても再びわたしに襲い掛かる。

 横向きになっているわたしにウルサクが喉笛を食い千切らんと頭を出してきた。

 死ぬ!?

 気づけばわたしの腕は剣を上に持ち上げていた。

 剣の矛先は。

 ウルサクの喉笛。

 ウルサクの牙がわたしに届く前に、わたしの剣が届いた・・・。

 突き刺さった喉から鮮血が噴き出る。

 顔や被っている毛皮にかかる。

 剣を力いっぱい抜くとその体はゆっくりと右へ倒れた。

 わたしは・・・生きてる?

 一人で動物やモンスターは倒したことがあるけど倒した相手はどれも確実に倒せると思った相手だけ。

 本来であれば倒せない相手に挑めば死に直結する。

 ただ、復讐するうえで確実に力を持った相手はいる。

 異界の勇者。

 あいつらはこの世界の人達よりも強くなれる。

 それは最初から知っていた。

 でも、覚悟が足りていなかった?

 だからウルサク相手に怖気付いていた?

 そんな自分を自覚してしまうと愚かに思える。

 本当に復讐したいのか?

 ・・・。

 いや、したいんじゃない。

 するんだ。

 この黒くて気持ち悪い感情が収まらない。

 絶対に許してはいけない。

 わたしを理不尽に追いやった全てを許さない。

 ぐちゃぐちゃな気持ちと思考の中、涙を流すわたしは血の海に横たわるウルサクを眺めていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




蛇足

30話~38話まではポーラが冒険者として活動する話にしました。

基本的には苦労しながらも充実した日々を送ったり、途中からおじさんに絡まれて嫌な思いをする。

その後には大きな仕事(命懸け)を手伝ったりと冒険者として少しは成長したと思います(思いたい)。

一方38話で野生の強敵と対決して勝ちますが今までの自分を振り返って見つめ直すことになりました。

この自覚によって気持ちを新たに進んでいくと思います(ある種のマイナス面に)。

※もしかしたら一部修正するかも知れませんが物語には影響ないと思いますので了承ください。




次の話から数話は別視点の話を予定していますのでこちらもご了承ください。

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