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37話 分からないことはあるけど分かることもある

本日もよろしくお願いします。


※一部表現を変更しました

 私→わたし(地の文)

 わたし達がキャニプスを撃退してから参加した冒険者達の安否を確認し合った。

 名簿とかは持っていないからお互いに自分の状態を報告し合って誰かを呼んでいるかいないか、いないならどこへ行ったかと言う感じで話し合った。

 キャニプスの死体が幾つもある中、森と農場の間で何人か倒れ込んでいる。

 何人かは薬草で手当てしたりポーションを飲んで体力の回復をしている。

 どちらも即効性はないから直ぐに戦闘できるわけじゃない。

 中には腕や足を噛まれた人もいる、見ていて痛々しい。

 それでも暫くすれば活動できる方だからマシかもしれない。

 一方で少数だけど食い千切られた人もいるし、そのまま亡くなってしまった人もいる。

 人もモンスターも早めに埋葬か火葬しないとアンデッドになると言われているけど、先ずは町に戻って報告しないといけない。

 場合によっては増援も必要。

 ウルサクのようなここら辺で凶悪なモンスターが出てくれば中堅以上の冒険者でないと対応しづらい。

 動ける怪我人は四人、自力で動けない怪我人は七人と少なくはない。

 万全の状態の冒険者はざっと見て十人以上はいる。

 何人かは防衛の為にここに残って残りは怪我人と一緒に町に戻ると言う意見が出て来た。

 確かに怪我人をここに置いておくわけにはいかない。

 大体の人が納得してその意見に従った。

 わたしは等級が無色と言う理由で町までの随伴をする一人になった。


 「なんだよあいつら。」


 「昼間に活動するなんて聞いてないぞ。」


 怪我人達が愚痴を零している。

 キャニプスはどちらかと言えば夜行性で真昼に活動することがあまりないらしい。

 全くないという事はないけど、昼間に見るときは自分達の縄張りに敵対者が侵入して追い返そうとする時と言うのが一般的。

 もしかしたらキャニプスより強大な存在が追い出したから彼らはここまで来た?

 そんな風に思うけど誰もそこまでは考え付いていないみたい。

 怪我人を引き連れて町に戻る。

 昼間だけど人通りは少ない。


 「おい、冒険者達だ!」


 「怪我してるじゃねえか!?」


 わたし達を見て近くに居た人達が次々に言葉を浴びせてくる。

 知り合い同士は簡単に説明して、そのまま冒険者ギルドへ進む。

 冒険者ギルドに入ると昼間なのに冒険者達が集まっている。


 「お前達無事だったか!」


 上半身裸で大きな斧を担いだ男、サイラスが声を掛けて来た。

 わたし達の先頭を歩いていた冒険者の男が話すとサイラスを中心にこの場に居る冒険者全員が耳を傾けていた。


 「少し前に慌てて駆け込んだ奴が農場の援護を求めてきてな。今数を揃えていたところだ。」


 これから行こうとしていたってこと?

 正直遅いと言えば遅い。

 最初に作業者達を町に送り届けた人達は居住区まで付いていったらしく、そこから冒険者ギルドへ報告したそうだ。

 ただ、規模が分からないからと言う理由で町に居る冒険者達に手あたり次第声を掛けて冒険者ギルドに集合した。

 そういう事らしい。

 準備もあるから直ぐに動けないとしても良いとは思えない。

 冒険者ギルドもキャニプスの討伐の話を聞いて冒険者達に協力を仰いだ。

 わたし達は冒険者専門の町医者の所まで移動して怪我人を預けてから再び冒険者ギルドへ赴く。

 建物へ入ると話は大体まとまったらしく十人くらいが農場へ向かった。

 幾つかのパーティーは山や森の付近で哨戒して残りは町で待機。

 農場で戦った私達は休憩を挟めることになったから良かったけど農場に残った人達は大分大変かもしれない。

 これ以上の襲撃がないように・・・。

 冒険者ギルドに併設されている飲食店で安価な食事を摂っていると扉が激しく開けられた。


 「大変だ!インフェリアマイリスが来ているぞ!」


 インフェリアマイリス?

 過去に読んだ図鑑には載っていないモンスターなのかな?

 図鑑に載っていたのはどれも四足歩行か羽根つき、多足型だったからもしかしたら人型かもしれない。

 ゴブリンとかオーク、一部の人型モンスターは教えてもらったけどこの大陸には色々いるらしい。

 食事をしていた冒険者は急いで掻き込んで外に出た。

 場所は農場方面じゃないらしい。

 別の出入り口に向かっている途中、大きな物音が聞こえた。

 全員がぎょっとしてその方向へ向かう。

 建物が少なくなり、検問所に近づいたところでいつもと違う光景が広がっている。

 この場所はよく回復草を取りに行くために通る大通り。

 農場とは反対側。

 この場所も出店を中心に賑わっていたけど、土煙が舞っているし石畳や一部の建物が崩れている。

 その中心にいるのはロズワルド率いるパーティー青い明星を中心に何人かいる。

 但し、半分くらいは地面に伏せっていたり壁に埋もれている。

 後衛の人達が少ない損傷と言うことしか分からない。

 そしてその中心に居るのは緑色の人型だ。

 顔はなく表面は液状なのか常に表面を動いているように見える。

 所々に骨が見えることから少なくとも人間ではない。

 それと右手に動物の牙に見える剣、左手に亀の甲羅のような盾を持っている。

 モンスター?


 「あいつがインフェリアマイリスだろ?」


 「青い明星達が戦っていたのか。」


 「あいつらやられているじゃねーか!?」


 「他の奴らも!」


 「なんでモンスターが町に居るんだよ!?」


 「兎に角加勢するぞ!」


 周りの声を聴くと緑色の戦士がインフェリアマイリスらしい。

 アンデッドモンスターなのかな。

 ただ、ベテラン冒険者達でも油断できない敵と言うのはわかった。

 一緒に来た三十人くらいの冒険者達はインフェリアマイリスの前に出る人、倒れている冒険者達を介護する人で別れた。

 わたしは介護する方を手伝って倒れている冒険者を他の人と一緒に引っ張り出す。

 重い。

 武器や防具を持っている人は重い。

 必死になって物陰に運ぶと手伝ってくれた冒険者は私に任せて戦場に戻った。

 運んだ冒険者の状態を確認してから密かに煎じていた薬を傷口に塗る。

 それから痛みを堪える冒険者をその場に置いて近場の飲食店に駆け込む。


 「水をください!」


 慌てて入る私は店主や店員に事情を説明すると快く桶に水を入れてくれた。


 「皆さんも早く避難してください!敵は近くまで来ているので危険です!」


 店主達はわたしの言葉を聞いて急いで外に出てくれた。

 一先ず敵のいない方向へ行ったことを確認してからわたしもコップを一つ借りて零さないように運ぶ。

 煎じた粉薬と一緒に一杯分の水を怪我人に呑ませると少しは落ち着いたみたい。


 「悪いな。」


 「お互い様です。」


 この場所で待ってもらい、私は別の場所にいる怪我人に水を運んだ。

 誰も死んではいないけど衝撃が凄かったのか結構苦しそうだ。

 傷口を洗ったり、喉を潤して貰ったりすればあっという間に桶の水が無くなった。

 大体の人に行き渡ったから桶とコップを返却する。

 最初に手当てをした人は未だに建物の壁に寄りかかっている。


 「何があったか喋られますか?」


 怪我人に聞くことじゃないと思いつつ状況把握をしたい。


 「そう・・だな。俺も詳しくはないが、依頼から戻って来た・・・俺や青い明星の奴らがそこの・・・検問所を通り過ぎた直後に・・・慌てて・・・駆け込んだ冒険者が・・・居てな。多分、森で哨戒していた・・・奴の一人・・・だろう。そいつが・・・インフェリアマイリス・・・が来たって言う・・・から俺達全員・・・外を見たら本当に・・・来ていてな。ここら辺じゃ・・・珍しいから自分の目を・・・疑った。だが、奴は走って・・・向かってくるから・・・俺達は急いで外に・・・出ようとしたが奴は・・・検問所を通り抜けてな。それで・・・戦闘になった。」


 「この町に来た理由は分かりますか?」


 「それは・・・知らないな。」


 「分かりました。今から安全な場所まで運びます。」


 「いや、俺はここで・・・良い。いざって時に・・・戦わないとな。」


 「でも。」


 「先輩の言うことは聞くもんだ。って俺達は自由だからな。」


 乱れた息を整えて何とか話してくれた冒険者。


 「分かりました。でも、無理はしないように。」


 「そうするさ。」


 怪我人に見送られて私は戦場へ向かった。

 それなりの時間が経ったのか状況は変化していた。


 「いてぇー!?」


 「がふっ!?」


 「このやろー!」


 「舐めやがって!」


 「強いぞこいつ!」


 冒険者達の怒声が響く。

 地面には倒れる冒険者の数々。

 その中には二度と起き上がって来ない人達もいる。

 その中でも奮戦している人たちもいる。


 「おりゃあああ!」


 サイラスが斧を振り回す。

 それをインフェリアマイリスは甲羅の盾で受け止める。

 結構な衝撃があるはずなのに平然と受け止めてる!?

 サイラスの動きが止まった隙に牙の剣が襲い掛かる。

 しかし、横から剣が伸びてギリギリ止められた。


 「あぶねーな!」


 「悪いな!」


 サイラスを助けたのはデレク。

 カッコいい場面かも知れないけど状況はよろしくない。


 「ファイアボール!」


 後方から女性の声が聞こえた。

 同時に放たれた火の玉がインフェリアマイリスに向かって行く。


 「「うおっ!?」」


 二人はギリギリで避けて何とか巻き添えを喰らわずに済んだ。


 「あぶねーじゃねーか!」


 「仕方がないじゃない!不意打ちしないと防がれちゃうし!」


 攻撃魔法を使ったのは魔法使いの女性、ダーナ。

 彼らは特定のパーティーと組んでいないみたいだけど意外と連携が取れているのかも。

 そしてファイアボールを正面から受けたインフェリアマイリスは火炎に包まれたと思えば緑色の流動体が全て飲み込んだ。


 「は!?なにあれ!?」


 ファイアボールを放ったダーナが一番驚いている。


 「インフェリアマイリスって火に弱いんだろ?」


 「あぁ、そのはずだ。」


 周囲でも同じような反応。

 インフェリアマイリスって火が弱点なのね。

 でも、飲み込んでいた。

 色によって弱点が違うとか?

 近くにいる冒険者に聞いてみよう。


 「あの、インフェリアマイリスの流動体って皆緑色なんですか?」


 「あ?・・・そうだな、奴らの流動体は緑だ。だが、それより上位体が存在するとか聞いたな。そいつらは流動体の色が違うとか。」


 「ありがとうございます。」


 見た目は同じで違うモンスターとか?

 ただ、それを言ったらキリはないし重要じゃない。

 それよりも水とか土の魔法はどうだろうか?


 「水とか土とか違う属性はどうでしょうか!」


 大声で聞いてみると何人かは反応してくれた。

 ダーナを始めとした魔法使い達は違う属性の球を生成して放つ。

 勢いを伴ってインフェリアマイリスに当たるけど大半は甲羅の盾で防がれる。

 違う方向から放たれたクエイクボールは腕に当たってよろけた。

 でも、よろけただけ。

 ある程度の質量があれば耐えられないのかな。

 属性は特に関係なさそう。


 「ダメか!?」


 「じゃあ、あいつは新種なのか!?」


 「弱点はないのかよっ!?」


 あっちこっちで怒声と意見が飛び交いうけど解決策は見つからない。

 大分日が傾いてきた。

 まだ明るいけど長引くとこっちが振りになる。


 「怪我人は下がって!魔法使いや弓使いには必ず一人は護衛について!残りは奴に仕掛けるぞ!」


 ロズワルドの号令にこの場に居る冒険者達は全員従った。

 ロズワルドと同じパーティーで魔法使いのメラニーと弓使いのコリンは近くで射撃の準備をしている。

 同じ仲間の重装備のランディは彼らの護衛に着いたみたい。

 他の人達も同じように守る側と攻める側に別れている。

 わたしは・・・護衛は埋まっているみたいだから遊撃しようかな。

 正直知らない相手との戦いは怖いし、目的も達成してないからここで死にたくない。

 でも、ここの場を見捨てるのはダメな気がする。

 五体満足で生き残る、これが絶対条件。

 怒号が飛び交い、血と煙が舞い、武器や盾がぶつかり合う戦場に足を踏み入れる。






 この場所で戦った冒険者。

 大半は致命傷に至っていないけど中には還らない人もいる。


 「流動体を飛ばすぞ!」


 ロズワルドの号令に周囲の冒険者は従う。

 魔法使いや弓使いの人達は距離を置きお互いに被弾しない位置取りをする。

 盾を持っている人たちは後衛の人達を守るために近くで構えている。

 そして残りの人達でインフェリアマイリスに仕掛ける。


 「横から挟むぞ!」


 男の冒険者二人がそれぞれ挟み込むように迫る。

 インフェリアマイリスはそれぞれの攻撃を剣と盾で抑える。

 三人目の冒険者が正面から槍で叩きつける。


 「もらった!」


 しかし盾を引いてよろけた冒険者を蹴り、槍の攻撃を盾で弾き返した。


 「なんだとっ!?」


 槍の男は弾き返された反動で後ろに仰け反る。

 インフェリアマイリスの剣も引かれてバランスを失った冒険者は前のめりになりそのお腹も蹴られて吹き飛ぶ。

 そこからインフェリアマイリスは大きく前に踏み出て突きを放った。


 「ぐわっ!?」


 胸を一突きされた槍の男は胸と背中から血を流してその場で倒れ込む。


 「今だ!」


 「「「ウィンドボール!」」」


 魔法使い達の攻撃魔法が同時に放たれた。

 三つの迫りくる風の球がインフェリアマイリスに迫る。

 もし人間なら腰が引けそうだけどインフェリアマイリスには目があるのか怪しい。

 恐怖を感じていないであろうモンスターによって冷静に剣と盾で裁かれるけど一発だけが見事命中。

 その衝撃で大きく後ろに仰け反った!


 「行けるぞ!」


 誰かが言うけど甘くはない。

 直ぐに体勢を直したインフェリアマイリスは前進する。

 出入り口から既に五十メートルは進んでいる。

 流動体が表面を動いているけど一瞬だけ首周りが露出していた。

 その時、妙なものが視えた。


 「あの、聞きたいんですけど。」


 「なんだ!?」


 「インフェリアマイリスって首に水晶とか付けているんですかね?」


 「はぁ?そんな話は聞いたことがないな。水晶をつけているなら金になりそうだな!」


 そう言って話しかけたおじさん冒険者はインフェリアマイリスに突撃した。

 おじさん冒険者も剣で戦っている。

 ジェイソンよりも若くて体力や技量もあるっぽい。

 ただ、やっぱり盾に阻まれているから一撃を入れられない。

 寧ろ、剣一本で相手の攻撃を捌いていると言うのが正しいのかもしれない。

 周辺を見ると魔法使い達は風の球を作っている最中。

 弓使いの人達も隙あらば射撃している。

 けど、全員の顔色は良くない。

 火の攻撃は通用しないし、武器攻撃も入らない。

 攻略方法が分からない相手に恐怖を感じていそう。

 ついにおじさん冒険者もインフェリアマイリスの一撃で飛ばされる。

 彼はギリギリ剣で受け止めたことで大きな怪我はしていなさそうだけど、地面に投げ出された直後に剣が折れてしまっていた。

 膂力とかが意外とある。

 弓使い達の射撃が次々入るけど盾で防がれる。


 「ばらけるぞ!」


 男の弓使いで青い明星のコリンが別の場所へ動き出す。

 それをきっかけに他の弓使いも別の場所に移る。

 従来の複数人が正面から撃つのは広がっている相手に面攻撃で制圧しやすいから。

 それと相手が一人の人間で盾を持っているなら防がれやすいけど優位には立てるはず。

 だけど今回は手練れの人型モンスターで正面からの遠距離攻撃を(ことごと)く捌いたり受けきってしまう。

 もっと早い段階でばらけるべきでは、なんて思っている場合じゃない。

 それと誰もわたしを射抜かないように。

 誤射とかで受けたくないなぁ。

 他の冒険者が二の足を踏み始めたところへわたしも動く。

 更にロズワルドも動いていた。


 「俺が剣の方から攻める!君は盾を頼む!」


 「了解。」


 正直、剣の方が近かったけどまぁいいかな。

 お互いに交差して攻める。

 抜剣して相手の左後ろに回って右からの薙ぎ。

 ロズワルドと同時攻撃をしたけどこちらは盾で防がれる。

 そもそも相手は目を持ってないよね?

 何でわかる?

 蛇も見えていない相手を感知するらしいけどその理由をわたしは知らない。

 いやそんなことより二撃目、三撃目を入れるけど捌かれる。

 インフェリアマイリスは体勢を変えずにわたしとロズワルドに対応している。

 他の冒険者との戦いもそうだったけど結構すごい奴?

 そうして攻防を広げると準備の整った攻撃魔法が放たれた。


 「「「ウィンドボール!」」」


 風の球が再びインフェリアマイリスに迫る。

 わたし達はギリギリまで剣と盾を封じる。

 でも相手はそれに付き合ってくれない。

 わたしが攻撃する前に盾で押し出しをされる。

 さっきも見たからそれは受けない。

 盾で殴られる前に後ろへ跳んでギリギリ回避。

 死角になっているからロズワルドが引いたのか分からない。

 もう一回後ろに跳んで距離を取ると風の球は既にインフェリアマイリスの傍。

 盾は完全に伸ばしていたために引き戻すのに間に合わず、剣で薙いでいた。

 さっきもそうだけどインフェリアマイリスは剣で攻撃魔法を斬れる。

 攻撃魔法を剣で斬る話は聞いたことがないけど実は出来るものなの?

 右から真ん中の攻撃は全て切り裂いて無力化された。

 でも、左側は伸ばした腕に直撃。

 風の威力で左腕が後ろに曲がった!

 しかも、緑色の流動体が少し後ろに飛んで行った。


 「よしっ!行けるぞ!」


 ロズワルドの声に他の人達も希望を持ち始めた顔をした。

 露出した左腕は人の骨。

 盾は握ったままだけど腕は力が抜けたように下に向く。

 それでも直ぐに体を纏っている流動体が動いて左腕に纏われる。

 流動体が血であり肉みたい。

 だけどそれを吹き飛ばせば骸骨は動かなくなる。

 吹き飛ばされた部分はどうなるんだろう?

 インフェリアマイリスの後ろを見ると飛ばされた流動体の一部がうねうねと本体の方へ動いている。

 飛ばすだけじゃ根本的な解決にならないみたい。

 他の冒険者達が四方八方から近づいていく。

 わたしは後ろに下がって彼らに任せる。


 「骨を折れば動かせないだろっ!」


 誰かがそう言って最初に仕掛けた。

 その剣がインフェリアマイリスの頭に届く前に剣で弾かれて蹴られる。

 次々に来る冒険者達に対して近づいてきた者から盾で弾いては剣で切り裂き始めた。

 さっきよりも前後左右に機敏に動いている。


 「うわあああ!?」


 「いてえええええええ!」


 「ぐわっ!」


 断末魔が聞こえる。

 気づけばインフェリアマイリスの周囲には倒れた冒険者の数が増えている。

 何事もなかったかのように進むインフェリアマイリス。

 決して早く歩いていないのに冒険者達に対する圧迫感が強い。


 「うおおおおおお!」


 ロズワルドが再び仕掛ける。

 一人で仕掛けると盾で防がれて剣で斬られる。

 上手く考えを纏められないけど仕方がない。

 なるようになれ!

 わたしも盾を持つ側から攻める。

 わたし達が近づいたことで歩みを止めたインフェリアマイリスは迎撃するために再び構える。

 誰かが近づいたときは止まるみたい。

 それでも四六時中そんなことが出来るとも思えないけど。

 先にロズワルドが仕掛ける。

 ロズワルドの方へ体を傾け、盾で防御姿勢を取っている。

 今なら背後から攻撃できる?

 思いっきり踏み込む。

 だけど、そんなに美味しい話はない。

 ロズワルドが急制動を掛けて止まった直後にインフェリアマイリスは体の向きをわたしの方へ変えて来た。

 盾をこっちに向けてくる。

 このまま振り下ろしたら受け止められるは必定。

 ならば!

 構えた剣は振り下ろさない。

 向けられた盾を足場にして駆け上がる。

 そのまま飛び上がって相手の頭上から振り下ろす。

 わたしが飛び上がったタイミングでロズワルドも仕掛けた。

 これで飛び上がった相手に向けて剣を使われにくいはず。

 だけど、そんなに甘くはない。

 振り下ろした剣はギリギリのところで盾で防がれる。

 わたしが跳んだと同時に持ち上げたみたいだ。

 盾で受け止められたらそのまま盾の上に着地。

 わたしは急いで剣を腰に仕舞う。

 直後、風を感じた。

 それは青い明星の一人、メラニーのウィンドボール。

 見事インフェリアマイリスに直撃。

 だけど、これだけだと部分的に流動体を飛ばしただけで直ぐに補われる。

 他の魔法使い達もウィンドボールを撃ったことで次々に流動体が吹き飛ぶ。

 それでも全てを吹き飛ばせない。

 魔法使い達全員が撃ち終わったのを見計らって上半身を前に下ろす。

 ロズワルドが再び剣を抑えてくれているから直ぐに斬られないはず。

 今わたしの視界には露出した骸骨の頭部から胸部までが見える。

 そして、首の部分には灰色の水晶が付いている。

 右の指二本を伸ばして水晶に狙いを定める。


 「ファイアショット!」


 頭一つ分くらいの距離から火の弾を放つ。

 距離が短いのもあって水晶に命中。

 だけどこれだけじゃ足りない気がする。

 更に三発!

 連射で撃つと熱が広がって熱い!

 着弾した火が晴れる。

 よしっ!

 目の前の水晶に皹が入っている!

 追加で攻撃しようとしたけど、既に流動体は守ろうと動いている。

 盾も動いている。

 不味い。

 その時、左側から一射。

 それを防ぐためにインフェリアマイリスは盾をそちらに向けて防御した。

 矢を放ったのは女性の弓使い、シビル。

 悔しそうな顔をしているけど、ある意味助かった。

 もしかしたら盾で地面に押さえつけられるところだったかもしれない。


 「首の水晶を狙え!」


 ロズワルドの叫び。

 わたしは自由落下でそのまま地面に落ちる。

 受け身を取ったけど直ぐには立ち上がれない。

 頭上にはインフェリアマイリスの足。

 踏み潰される!?

 脚を上げて踏み潰される直前。

 一つの矢が見えた。

 その矢が向かった先。


 パリンッ


 恐らくインフェリアマイリスの首に付いた灰色の水晶。

 水晶は粉々になりわたしの頭の上に落ちた。

 同時に矢も落ちて来たからそれを掴んで起き上がり二、三歩離れる。

 すると、インフェリアマイリスは動くことなく、流動体は空気に溶けるように消えていった。

 そして骨と装備品だけが残り一斉に地面に崩れ落ちた。

 ロズワルドの息が聞こえる。

 相当粘ったみたい。

 この場に居る全員がインフェリアマイリスだったものを暫く見ていた。

 ・・・。

 終わった、のかな?


 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 「俺達、倒したぞー!」


 「やったー!」


 盛大な声が聞こえる。

 終わったみたい。

 周りを見ると誰もが喜び安心している。


 「助かったよ。」


 ロズワルドも疲弊の色を浮かべているけど傷は見られない。


 「こちらこそ。まぁ、止めを刺したのはコリンですよね?」


 「そうだな、ちゃっかり良いとこ取りされたな。」


 「それでも倒せたからいいんじゃないですかね?」


 「あぁ、その通りだ。ありがとう!」


 ロズワルドが差し出した手を握り返す。

 多分、ロズワルドが居なかったらもっと犠牲が出ていたかも。

 コリンやシビル達が居なければ危なかった。

 メラニー達が居なかったらここまで攻められなかったかも。

 ランディー達は大きな活躍をしていないけど、後ろを守っていたから他の人達が前に出られた。

 一頻(ひとしき)り喜んだ彼らと一緒に事後処理。

 夕日が沈む前に決着をつけられたけど怪我人達や戦死者達を運ぶのに相当時間がかかり夜が更けていた。

 ロズワルド達が代表で冒険者ギルドへ報告。

 町の人達からも証言を得られているから冒険者達の活躍は認められた。

 本来なら閉店時間の冒険者ギルド併設の飲食店も今日は特別に延長で営業している。

 それも今回冒険者達が町を守ったからに他ならない。

 お代はギルド持ちになったけどその分報酬はそんなにないらしい。

 言い換えれば今日の夕食が報酬替わりだとか。

 経済的に豊かではないらしいから仕方がない。


 「おい、新米!お前、意外と活躍していたな!」


 「そういや魔法を使っていた!?」


 「どこの出身だ?」


 今だに毛皮を被っているし最後の方で戦っていたからか冒険者達が次々に質問してくる。


 「皆さんが居たから戦えただけです。魔法は知らない人から教えてもらって。今までは山で暮らしていました。」


 半分以上は適当に答えて流す。

 そうすれば、話題は自然にベテラン冒険者達の会話になるから楽になる。

 その輪から抜けて隅の方へ移動。

 一つの更に幾つもの料理を乗せて、よく噛んで味わう。

 今まで蒸したイモばかり食べていたから今日の料理はより美味しく感じる。

 そんなわたしの横にロズワルドが来た。


 「少しいいか?」


 「まぁ、どうぞ。」


 ロズワルドはお酒を飲みながらわたしに話しかけてきた。


 「今日はありがとう。お陰で助かった。」


 「いえ。わたしだけじゃなく皆さんの力と勇気があったからですよ。」


 「そうだな。それでも、だ。」


 「・・・。」


 こうやって一人一人に挨拶しているのだろうか?

 それなら凄い律儀な人。


 「あの、インフェリアマイリスについて聞きたいのですが。」


 「俺で分かることがあれば。」


 「インフェリアマイリスは普段から近くに現れるモンスターなんですか?」


 「あのモンスターはここら辺じゃ出ないな。見かけるのは洞窟とか廃城とかだ。この町の冒険者の活動範囲で見かけることは滅多にないな。」


 「皆さんが知っているのはどうしてですか?」


 「他所から来た冒険者達が他のモンスターの話を聞かせてくれることがあるから人伝に知った人もいる。一部は遠征して直接見たって人もいるな。」


 「ロズワルドさん達は?」


 「俺達も他の場所で戦ったことはある。その時は今回ほど苦戦はしなかったな。メラニーの火の魔法で倒せたし。それにインフェリアマイリスは複数体で動くことの方が多いな。」


 「つまり、今回の敵はイレギュラーだったと?」


 「そうだな。この町でインフェリアマイリスを見たって話は今までに聞いたことがなかった。」


 「そうでしたか。初めて知ったモンスターですので。教えていただきありがとうございます。」


 「新人冒険者に教えるのも俺達の役目だからな。」


 他の冒険者の様子からしてもロズワルドの話は本当だろう。

 多分調べても直ぐには分かることがなさそうだ。

 わたしの質問が終わると次はロズワルドが口を開いた。


 「俺からも幾つか聞きたいがいいか?」


 「答えられる範囲であれば。」


 「君は魔法を使っていたけど、誰に教わったんだ?」


 「さぁ?山で暮らしていた時に名も知らないおじさんに教わりました。」


 大体の事はオリバー達に教わったけど、言うつもりはない。


 「ふーん。そんな人が山で何をしていたんだろうか?」


 「何をしていたんでしょうね。」


 「殆どの人は魔法を教わる機会を持たない。勿論冒険者で魔法を使える人は割と多いけど良いところの出自や君みたいな場合もある。」


 「そうだったんですね。そうなるとあなたのパーティーに居るメラニーは良いところのお嬢様とか?」


 「そうかも知れないね。俺達は彼女の事情を知らないんだけど。」


 冒険者だから互いの事情に深入りしない傾向があるのか、それでも彼らは信頼していそうな感じかな。


 「それとジェイソンのことを少し聞きたい。」


 「何をですか?」


 「あの人の死の真相を知りたくてね。」


 「冒険者ギルドが公表したと思いますけど。」


 「あれは表向きじゃないのか?」


 「本当の事です。」


 「少なくとも君は当事者だったよね。」


 「そうですね。目の前で穴に落ちて・・・。」


 「そうか。信じるしかないのか。」


 悲しい表情をしているかと思えばそうでもない。

 何を考えているの?


 「死の真相を知ってどうするつもりだったんですか?」


 「いや、特には。ただ・・・。」


 「ただ?」


 「君も知っての通りあの人はこの町でも腕利きと言われている冒険者だったけど俺達にとっても・・・まぁ、良い印象はなかったな。」


 「いなくなって清々したと?」


 「はっきり言うね。」


 「あの人には嫌な思いをさせられたので。」


 「まぁ、有体に言えばそうなるかも。」


 お酒を一口煽るロズワルドの頬は少し赤い。


 「ジェイソンは過去の功績があるとは言え、実力はそこまでない。それでも彼には誰も頭が上がらず邪魔に感じた。だけど、自分達が直接手を下すと冒険者の規約に反して罰せられる。そんなリスクは負いたくない。表では穏便に済ませていたけどその内どうにかしたかった。そんな時にジェイソンはわたしを探しに山に入った。理由は金蔓が中々帰還しないから。初心者の冒険者であれば山でモンスターに襲われて死んでいるかもしれない。でも、ジェイソンはそんなことを考えずに山を探索してわたしを見つけた。そして、偶々遭遇したウルサクに襲われて不慮の事故で死んだ。ジェイソンを知る人なら彼の行動に納得できるかもしれない。わたしが山へ向かったことを伝えた冒険者があなたでなければ自然な流れだったかもしれませんね。」


 わたしの言葉に目を細めるロズワルド。


 「俺が言った?何を言っているんだか。」


 「別にあなたを責めているわけじゃないですよ。ただ、わたしも調べたらジェイソンに伝えた人がロズワルドだったという話を聞いたので。勝手な想像ですけど、初めて畑作地帯の防衛の依頼を受けた時にあなたはわたしに目を付けていたんじゃないでしょうか?単純にジェイソンのお守りを押し付けるために。以前からジェイソンは初心者を中心に集っていましたけどあの時は貴方が裏で集られていた。当初は押し付けてお終いだったかもしれない。けど、冒険者として初めての討伐にも関わらず初心者が無傷で数匹を倒した。何体もいましたからそれだけ倒す機会もある。けれど、初心者で何匹も倒すのはこの町では珍しかったのかもしれない。だからあなたはわたしに目を付けて情報を集めた。そして、ジェイソンに押し付けつつわたしが依頼を受けている最中にジェイソンを炊きつけて同行させる。誰もいない場所で二人っきりになった時、普通なら実力のあるジェイソンが死ぬことはなさそう。でも、その初心者がジェイソンよりも実力を持っていたら?もしかしたら、ジェイソンの理不尽に耐えきれずにその場で亡き者にするかもしれない。そんな状況になれば御の字。そうでなくても、初心者にくっついて貰えればそれで良し。あなたはそんな風に考えていたのでは?確実な方法の模索はせず、現実になればいいなと言う程度。結果としてジェイソンは事故死。自分の手を汚さず、目の上のたん瘤が消えて皆が幸せ。違いますかね?」


 「・・・。」


 ロズワルドはわたしの話を聞き終えてお酒を一口呷る。


 「中々に興味深い話だったよ。まぁ、仮に俺がジェイソンに君の居場所を教えたとしてもそんな風に考えて行動した証拠もない。そして実際に俺は手を下していない。君の言う通りジェイソンは事故で亡くなった。これが全てだ、違うか?」


 「・・・その通りですね。」


 「そうだ、もう一つ。君はこれからもこの町で活動するのかい?」


 「いえ、もう暫くしたら別の場所に行きます。元々離れるつもりでしたけど、今回の騒動で長居することになっただけです。」


 「そうか。どうして他の場所へ?」


 「色々な場所を見て見たくて。そのために自由の利く冒険者になりました。」


 「ふーん、そうか。じゃあ、旅には気を付けて。」


 「ありがとうございます。ロズワルド達も元気で。」


 ロズワルドが席を立ち別のテーブルに混ざった。

 直ぐに彼らの間に笑いが溢れた。

 ロズワルドはこの町の人気者かぁ。

 顔も性格も悪くない。

 実際、この町では多くの女性が彼に好印象を抱いていると思う。


 「ちょっといいかしら?」


 「はい?」


 次に来たのは青い明星の一人、メラニーだった。

 手にはお酒がある。

 顔は結構赤い。

 そのせいか色気が出ている?

 隣に座ったメラニーがわたしを睨みつける。


 「あなた、ロズワルドと何を話したの?」


 剣幕は凄いけど怖くはない。


 「今日の戦いのお礼と魔法を誰に教わったのかと聞かれたくらいです。」


 「本当にぃ!?怪しいわね!」


 「あとで本人に聞いてください。」


 「勿論そうするわよ!」


 メラニーはお酒を呷って一息ついた。

 結構飲んでるのかな?


 「そうよね、魔法は知らなきゃ使えないもの。あなたは何処の出身なの?」


 「気づいたら山暮らしです。」


 「嘘おっしゃい!山で過ごして魔法を使えるなら誰も苦労しないわよ!」


 御尤も、と言っても山で生活するのは大変ですけどね。


 「山で生活していたのは本当です。信じてもらうほかありません。ただ、一時期知らないおじさんに教えてもらったことがあります。それで使えるようになりました。」


 「そう。パメラやダーナ達も似たようなものだから信じてあげる。それで、もう一つ聞きたいんだけど?」


 「何を聞きたいのでしょうか?」


 メラニーは鼻息を荒くして顔を近づけてきた。


 「あなた、ロズワルドに対してどう思ってるの!?」


 「はぁ?」


 「はぁ?じゃないわよ!答えなさいよ!」


 「特には。」


 「何かないの!?カッコいいとか憧れるとか!」


 「いえ全然。」


 「はぁ・・・そう。」


 「メラニーは、ロズワルドの事が好きなんですね?」


 「はぁ!?そ、それは・・・。」


 彼女は更に顔を赤くしてもじもじする。

 結構可愛いところがあるんだ。


 「わたしは興味ないので気にしないでください。それにロズワルドもわたしに対して何も思っていないので安心してください。」


 「そう、それなら。でも、興味ないなんて。他に好きな人がいるの?」


 「違いますよ。単純に冒険したいだけです。そのためにもう暫くしたらここを立ちます。」


 「はぁ・・・。なによ、私が勝手に肩肘張っただけじゃないの。」


 「それだけメラニーは真剣になっているってことじゃないですか。」


 「そうかな・・・。」


 「わたしはメラニーの恋を応援するから、何時か成就させてください。」


 「意外と良いやつね。」


 「ありがとうございます。」


 それなりに酔っているのかメラニーから色々話しかけられた。

 今日まで関わることはなかったけど話すと悪くない人だった。


 「旅立つときは気を付けてね。」


 「メラニーも怪我をしないように。」


 「あなたより等級は上なんだから大丈夫よ。でも、ありがとう。」


 こうして町の防衛に成功して、冒険者達で賑わう祝勝会も無事に幕を閉じた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に見ていただけると幸いです。




蛇足

「32話 真夜中の防衛戦」に登場した人物達を何話かに跨いで再登場させてみました。

と言ってもほとんどはキャラ付けが出来ていないモブにしてしまったのが情けない限りです。


ポーラの戦い

基本的には武器を手に取って近接戦闘ですが、一応魔法も使えます。

ただ、魔力の保有量は多くはないのと魔法を覚えるのが大変だったので派手な魔法は使えません。

それと武器の扱いは一通り学んだとは言え筋力が足りないので戦斧や大盾を握って動きながら戦うことはないと思います。

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