35話 昼間の防衛戦
本日もよろしくお願いします。
わたしの生活が平穏になって暫くのこと。
等級はまだ変わっていないけど以前の依頼で顔見知りになったティム、エイベル、シビルの三人に同行してゴブリン退治をしていた。
高さは成人男性一人分、幅は三人並んで歩けるほどだけど明かりが届かず松明で照らす以外ない。
「おりゃ!」
ティムの剣が緑の体色のゴブリンを斬り付ける。
「gbbbbbw!?」
広くない洞窟で断末魔を叫ぶゴブリンだがやられた仲間には目をくれず奥から次々に湧いてくる。
わたしもティムと一緒にゴブリンを倒すけど左手に持つ松明で照らす限り十匹はいそうだ。
最初に倒したゴブリンの武器を奪って使い倒している。
物は良くないから倒す先で使い捨てているから、自前の武器が消耗しなくて済んでいるし狭い洞窟に引っ掛けなくて安心できる。
戦場の隙間を縫うように弓矢と攻撃魔法の援護射撃があるから武器を拾う隙を見せても立て直せる。
魔法使いのエイベルのファイアボールが一匹のゴブリンに直撃して焼き始める。
それを起点に洞窟内が照らされて見やすくなった。
「そっちに行ったぞ!」
ティムの言葉にわたしは後ろに戻って駆け抜けたゴブリンの後頭部を棍棒で強打する。
地面に倒れたゴブリンだけどその後何度も殴りつけて絶命させる。
「そこまでやらなくても・・・。」
魔法使いのエイベルが青い顔をして言うけど確実に仕留めないと隙を窺って襲うかもしれない。
それ以前にわたしはティムほど腕力が足りていないからどうしても一撃で沈めることが出来ない。
こうして町から離れた村の近くに出来たゴブリンの巣を殲滅することが出来た。
「ありがとうございます!」
村長を始め村人達から礼を言われて、そのまま町に戻る。
因みに前日の夕方に村に到着して翌日の朝方に襲撃して昼前に終わった。
洞窟はそこまで大きくなく、ゴブリンの数も十五匹だった。
どれも子供の背丈程度だったから何処かの集団から逸れたのかもしれない。
「ポーラが居て助かった、ありがとう!」
シビルからお礼を言われて嬉しい気持ちになる。
「それにしてもよく武器をとっかえひっかえって言う発想が出来たな?」
「山で暮らしていたからね。」
ティムに対して適当に返す。
本当は記憶の中の映像やオリバー達に教えてもらったことだけどそれらを言う必要はない。
それとこの前拾ったショートソードは鞘が欲しいから武器屋に預けてある。
武器屋のおじさんは剣に触れた時、気分を悪くしていたけど仕事は引き受けてくれた。
あと数日で完成予定だから内心楽しみにしている。
そう言う理由もあるから今回の方法を提案してみた。
最初は渋っていたけど理由を並べたら納得してもらい実践すれば感触は良かったみたい。
「それにしてもこの暑い時期によく毛皮を着ていられますね?」
エイベルもローブを羽織っているけどかなり薄いのかそこまで暑さを感じていないようだ。
「まぁ、着慣れているし。」
雑談を交えながら町の冒険者ギルドで依頼達成の報告をして報酬を山分け。
取り分は多くないけど、一人では中々出来ない体験をさせて貰えた。
「それじゃあまたな!」
「ありがとうございました。」
ティム達と別れて一人になる。
誰かと冒険をするのも悪くなさそう、そんな気持ちもある。
けど、わたしの道は一人で良い。
誰も巻き込むわけにはいかない。
そんな風に考えて最初に訪れた飲食店に足を運んで蒸かしたイモと水を注文。
トラブルが無くなってからは大体このお店で同じものを頼んでいる。
別のものを食べたくなるけど節約しないと。
そんな風に思っていたら新たに客が入ってきた。
「ねぇねぇ、私達と一緒に食べよ?」
カウンター席で肩を叩かれたから後ろを向くとレスリとマーサが誘ってくれた。
「二人とも上がったんですね?」
「そうなの、せっかくだからいいでしょ?」
「分かりました。」
四人テーブルに移動して二人は注文、最近のあれこれを聞くことになった。
「最近は大きなトラブルもなくて助かっているわぁ。」
「そうなんですね。」
「あまり大きな声で言えないけどあの人が居なくて良かったって人が多いみたい。」
マーサが言うあの人とは恐らくジェイソンのこと。
「後ろに人が並んでいてもお構いなしに話し込むし。」
「外に出て体を触って来たこともあったわね。」
「お店にもツケを踏み倒すか他の冒険者に払わせるし。」
「青い明星も良く報酬を分けていたし。」
「報酬って前にあった夜の見張りの依頼の奴ですか?」
「それもあるけど今までの集団で受けられる依頼は大体そうだったって聞いているわ。」
ひどい話よね!ってレスリが言うくらいだからこの前のマウマスキュの件も含めて常習犯だったのは違いないみたい。
「そう言えば山で見つけた大穴に関わっていそうなモンスターって発見されたんですかね?」
話題を変えて聞いてみるとこちらは進展がない。
「特にないみたい。大穴が見つかったのは山を挟んで町とは逆側だったし、向こう側で暴れている話も聞いてないって。」
「ただ、ウルスラに並ぶ凶悪なモンスターが出たらしいです。それとモンスターの数が以前よりも増えているそうですからもしかしたら等級制限が近々発令するかも知れません。」
周りに聞こえないようにマーサが言ったけど、それって結構不味いんじゃ!?
「無色の等級とかは全然仕事がなくなってしまうんじゃ?」
「もしそうなったら対象者は農作業の手伝いと見張り番に回されますので安心を。」
「それならまだ。」
一応出来る仕事はあるらしい。
ただ、人によってはしたくないとか言いそうだけど背に腹は代えられない。
あとは暴れないようにしてほしいばかり。
「そっかぁ。あんまり長引かないで欲しいなぁ。」
「どうして?」
「実は、もう少ししたら次の場所へ行こうかと。」
「えっ!?行っちゃうの!」
予想外だったのかレスリはオーバーリアクションで驚いた。
「声が大きいです。」
レスリを落ち着かせながら声を小さくするようにお願いした。
「それで?なんで行っちゃうの?」
レスリもそうだけどマーサも意外だと思っているらしい。
「単純に色々な場所を巡りたいからですかね。」
「それならまだここに居てもいいじゃん!」
「レスリ、ポーラは冒険者よ。誰にも邪魔なんて出来ないわ。」
興奮するレスリにマーサが宥めてくれる。
「でもぉ・・・。」
「レスリとマーサに良くしてもらったことには感謝しています。二人のお陰で冒険者として活動できています。」
「だったら。」
「それでもやっぱりここで冒険をしているうちに違う景色を見たくなりました。なので、もしまたここに来たら二人にお話したいと思います。」
「うぅ・・・。」
「でも、無理はしないでね。私達はポーラの安全を願っているから。」
涙ぐむレスリと心配するマーサに胸の奥が少し暖かくなった。
二人が優しくしてくれて良かった。
「まぁ、明日明後日の話じゃないのでもう暫くはお世話になりますけど。」
「そうよね、それまでは私達がサポートするから!」
「ありがとうございます。」
その後は付き合いでお勧めの飲み物を頼んだけど、酔いの回りが早かった。
二人に伝えた理由は殆どが嘘、本当の事は言えない。
次の場所に行くのはここでの情報収集と資金を確保出来たから。
と言っても次の場所も冒険者ギルドのあるところを目指す予定だから多くは無くてもいいかな。
嘘と言う後ろめたさを感じるけど流石に伝えたくはない。
それでも二人には感謝しているから今晩は一緒に騒いで楽しむことにした。
それから数日後、彼女達が言っていたことが現実になった。
休養を取っていたから何時頃から張り出されたのか分からないけど掲示板の真ん中に等級制限のお知らせがあった。
内容は山の方で危険なモンスターや未確認だったモンスターがいるから、下から二番目の等級である黄の等級までは町と農場以外で仕事に出ないようにだった。
一番は実力に関わることかなぁ。
あとは、町の防衛に割く為とか?
農場の手伝いをしようと受付に行けば案の定、指定された場所から出ないことを念押しされた。
外に出る依頼に関しては等級の高い冒険者達で解決していくとのこと。
多くはないし、この町にはまだ最高等級はいないけど頼りになる人達は居るので大丈夫だろう。
農場へ行けば普段はここに居ないような冒険者達がちらほら。
中には黄の等級であるティム達三人も居た。
「ポーラもこっちに来たのか。」
「お腹を満たすためには仕事をしなきゃいけないからね。」
「僕はあんまりしたくないなぁ。」
ティムは苦に感じていないけどエイベルは既に汗を掻いている。
「だらしないわね、エイベル。稼ぎは私が貰っちゃうわよ?」
「勘弁してよぉ。」
三人は楽しく作業しているようで何より。
トマトの収穫をしている最中だけど、他にも人手が欲しそうな場所はありそうなので代表者のハドリーに訊いてみた。
「暫くだね、ポーラ。」
「そうですね、今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく。今日は向こう側のスイートラディッシュでもお願いしようか。」
「では早速。」
普段から作業している人達と挨拶を交わしながら野菜の収穫をすれば一日はあっという間に終わった。
おじさんおばさん達と話しながら町に入ればそこでお別れ。
最後は笑顔だったけど、危険なモンスターの話は既に住民達も知っているから不安を隠せないでいた。
ただ、こう言ったことは今までに一度や二度じゃないらしいから恐怖に怯えていると言う感じでもなかった。
もしかしたら作業を手伝った冒険者達が近くにいるから安心しているのかもしれないけど。
「ポーラは随分親しそうだったけど、前から働いているんだっけ?」
シビルはわたしとおじさん達の様子を観ていたようだ。
「うん、最初の頃から。最近は来ていなかったけど。」
「よく通い詰めたねぁ。」
「他にできる仕事は限られているからね。」
「そっか。偶に手伝うなら良さそうだけど、うちの男二人はねぇ・・・。」
エイベルは肉体労働が好きではなく、ティムは単純にモンスターを倒して名誉が欲しいと言った典型的な話だった。
「私はもう少しのんびり過ごしたいけど二人が心配だからさ。」
三人は年齢が同じようだけど、シビルは二人のお姉さんみたいな立ち位置かな?
だけど二人はやる時は男を見せると思うけど伝えるのは余計なお世話か。
早くモンスターの脅威が無くならないかと思って過ごせば十日以上が経過した。
今日のわたしの腰にはオーダーメイドの鞘に収まったショートソードが釣り下がっている。
注文した鞘の完成が思った以上に掛かったみたいで武器屋のおじさんからは謝られたけど仕上がりの良い鞘だったので不満はなかった。
遅れた原因は寸法合わせの為に何度か剣に触って気分を悪くしたことで、その度に時間を置いて作業をしたためと聞いた。
「お前さん、これは呪われているんじゃないか?」
「そうですかね?確かにデザインは恐そうですけど。」
「その程度の感想なのか・・・。」
預けるまで持っていたけど気分を悪くしたことはなかったし、問題ないと思っている。
店主に呆れられたけど使えるものは使う主義、この武器は大事にせねば。
基本的に冒険者は拾ったものを冒険者ギルドに報告することが義務付けられている。
ただ何処で拾ったのか、拾ったものは全部報告しているのかなんて話になると恐らく違うと思う。
つまり人によっては一部の金品は懐に仕舞っているのかもしれない。
命懸けの仕事を引き受けているけど依頼や時期によっては稼げないときもあるから少しでも欲しくなるのが人間心理だと感じる。
だからと言って何も報告せずに居れば何かあった時に信用を失って罰則や資格の剥奪もあると言う。
取り敢えずわたしも素直に報告して冒険者ギルドで保管している武器と所有者の情報を検索してもらったけど登録した人の中で所有者もいなければそもそも武器の情報もないと言う。
勿論この支部で報告されていないだけで他の支部や国になら情報はあるかもしれないけど冒険者ギルドがそこまでの手間は割くことはなく、拾ったものの情報は保管したいからスケッチをするためにも預けるように言われて、しばらくの間預けていた。
その時にも受け取った受付嬢さんは気分を悪くしたと言ってたなぁ。
結局のところ、武器に呪いが掛かっているかもで話が終わっている。
もし呪いがあるとしたらある日突然食われるなんて言うのは嫌かなぁ。
出来れば目的を達成するまでは使わせて欲しいけど。
そんな経緯もあるショートソードも見かけは悪くないから他の人達が見る分には問題なさそう。
鞘は木材をベースにしているとかで表面は革で覆っている。
かなりシンプルだけど普通の剣と違って少し曲がっているからそれに合わせてあること、抜き差しがしやすい。
今日も畑仕事にやってきたわたしを見て何時ものおじさんやおばさん達からは色々と言われる。
「お前さん、剣を買ったのか!?」
「いえ、拾ったものです。」
「すんげえなぁ。」
「危ないことはしちゃだめよ?」
「冒険者だからそうはいかないだろ?」
「前よりも冒険者って感じだな!」
褒められたり心配されたりだけど悪くはない・・・。
今日はセロリの収穫の手伝いでひたすら引っこ抜く。
結構食べ頃で癖は強いけどスープなどによく使われる。
「ポーラ、あとで少し持っていくと良いよ。」
「いえ、これは皆で作った物ですし。」
「だからだ、お前さんもここで働いてくれているしこの前も守ってくれたし気にするな。これは皆の気持ちだ。」
正直資金面で浮かせたいからこの申し出は正直嬉しいけど、本当にそれでいいのか。
悩んだ末、その申し出を受けるとおじさんはわたしの肩を叩きながら喜んでくれた。
結構嬉しいのかな。
もしかしたら親戚の子供に何かを上げる心境とか?
帰る時に貰うことにして区切りのいいタイミングだったから作業者全員は昼休憩に入ろうとした。
因みに冒険者の殆どは畑作地帯の外縁部で待機している。
理由は周辺からモンスターや野盗が襲ってきたときの防衛だけど、実のところ畑仕事はしたくないと言うのが良く聞く理由だ。
こんな時だけど彼らが居るお陰で作業者たちは安心して仕事が出来るから良いとは思う。
近くに立っている小屋へ向かおうとしたら森の方でざわついた。
「まさか。」
「どうしたんだ?」
「他の人達と一緒に町へ避難してください。」
急いで森の方へ向かうけど防衛についている冒険者達はまだ森の変化に気づいていない。
「敵が来ます。警戒してください!」
近くにいた冒険者達に叫ぶけど直ぐに対応してくれない。
「はぁ?何を言っているんだ、何も来ていないじゃないか。」
「あぁもう!」
わたしより等級が上であろう男性冒険者はわたしが喚いているだけに見えるようだ。
仕方がない。
ただ、わたしの声は他の人達には届いていたみたいで何組かは急いで戦闘準備をしていた。
その中にはティム達のパーティーもいて、少しは安心する。
森と畑の間はそれなりのスペースがあるけど、畑への侵入は勿論町への侵入や住人に危害を加えさせるわけにはいかない。
本来であれば集団戦になると森はモンスターの方が優位に働きやすいから現状行くべきじゃない。
だけど作業者たちの逃げる時間を稼ぐためにも何かをするしかない。
後ろを振り向けば声を掛けたおじさんや代表者たちが、他の人達を誘導していた。
分かって貰えて良かった。
正面を再び見ると既に何かが動いている音が聞こえる。
風の吹く音ではない。
それに息遣いも聞こえる。
木々を潜り抜けて現れたのはキャニプス、オオカミに近いモンスター。
体の上半分は黄色、下半分は茶色の毛並みを持ち後ろ脚は馬の蹄で前脚の踵には伸縮する隠し爪があるらしい。
最初の一匹が森に出ようとしたタイミング、腰の鞘から引き抜いたショートソードで左に抜けながら斬り払う。
わたしを見つけて飛び掛かろうとしたキャニプスの大きく空いた口から斬り込んで上手い具合に両断。
このショートソードってそこら辺の剣よりも切れ味が良い?
あまり力を入れていなかったけどイメージ以上に切れ味が良かった。
後ろに流れて上下で分断された体はそのまま動くことなく地面に落ちた。
けど、これは始まり。
油断してはいけない。
振り抜いた直後に他のキャニプスが二匹同時に襲い掛かってきた。
同時に相手できないから足に力を込めて後ろに飛ぶ。
獲物を見失った二匹は迷う・・・こともなくそのまま正面に居るわたしに再度飛び掛かる。
正面左側に居るキャニプスの顔面に向かって跳躍。
ギリギリ右足が口を開けた相手の鼻先に乗った!
踏み台にしつつ右側のキャニプスの顔面を斬り付ける。
正面から両断は出来なかったけど喉元までスラリと斬れた気がした。
頭蓋骨って結構堅い気がするけど、やっぱりこのショートソードの切れ味は凄い。
そう思った直後には地面に着地。
振り向きながら横薙ぎ。
同じように振り返ったキャニプスの鼻先が落ちていた。
「Cyan!?」
斬られた痛みで慌てて後ろに下がる相手だけどそのまま顔面に向かって振り下ろす。
頭から喉元まで斬られれば、体に力が上手く入らないのか地面に転げながらジタバタと足掻き始めた。
もう一匹も同じように上手く呼吸も出来ず動く素振りもない。
周辺をサッと見ると他の冒険者達も森から出て来たキャニプスに応戦している。
畑の作業者たちは丁度町に入り始めた頃だ。
近くにいた冒険者達が護衛に着いていたから問題はなさそうだ。
森の近くにはティム達も善戦している。
この時点では死者はいなさそうだし、畑にも侵入されていない。
だけど、まだ森の中にはキャニプスがいる。
わたしを含む何組かは森に入り討伐に向かった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に見ていただけると幸いです。