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33話 世知辛い世の中はここにも

本日もよろしくお願いします。


 マウマスキュから畑作地帯の防衛を受けてから数週間が経ち、町は平和に過ごしている。

 あれ以降は、冒険者達が森に入っては倒して数を減らしたことで町や畑に侵入する事案がなくなった。

 ただ、マウマスキュだけではないけれど最近のモンスターの血の色が灰色になっていると言うけどどうして灰色なのかは誰も知らなければ調べようがなかった。

 それ以外で言えばわたしの等級が下から二番目の黄になったくらい。

 配布されたプレートの下の段に黄の金属が付着され、それを見せればその人の等級だと示せる。

 それによって受けられる依頼が多くなったのが救いだけど、ソロだと限界があるから大手を振って受けるわけにはいかず細々と活動している。

 報酬が手に入ってもその日のご飯や装備品の手入れであっという間に底を着いちゃうのが苦しい現状。

 特にマウマスキュに使ったナイフがダメになったから安物を購入したけど依頼一つの報酬で消えるくらいの値段だった。

 商売道具になるから仕方がないとは言え、もっと丁寧に扱わないと・・・。

 今日は魔力の回復に効く魔力草を採取した。

 付近の山の中腹でしか自生していなくて大半の冒険者が面倒くさがる依頼を引き受けたけど、道中に遭遇するモンスター達を掻い潜って進むのに苦労した。

 倒せるなら倒したいけどナイフ一本で連戦は辛いし以前の生活はある程度インターバルを挟めたからどうにかなったけどせっかくのナイフをダメにしたくないと言う理由で避け続けることにした。

 山登り自体は慣れていたし魔力草自体は以前から知っているから登山と採取だけだったら大分楽な依頼なんだろうなぁ。

 天候は曇りだったけど雨は降らなかったしモンスターとも戦わずに済んで良かった。

 

 「確認するからちょっと待っててね。」


 受付嬢のレスリに渡すと袋の中身を確認して、計量器で図った。


 「結構取って来たんだ!じゃあ今回の報酬はこれね。」


 カウンターの前に出されたのは銀貨一枚と銅貨五十枚だった。


 「良かったぁ~。」


 魔力草は回復草に比べて三倍の価値を付けられている。

 場所も違えば需要も異なるため。

 労力に見合っているかは人によるけど今のわたしであれば大分いい方だ。


 「魔力草って誰も取りに行きたがらない割に魔法使いの人達は必要としているからポーラのお陰で供給できるわ。」


 「役に立てたなら何よりです。」


 「もし道中でモンスターを討伐したら証拠を持って来ると追加で報酬が出ることもあるから。」


 「そうなんですね。倒せそうであれば倒してみますね。」


 「またね!」


 「それでは。」


 報酬を懐に入れてから冒険者ギルドを後にする。

 夕食はいつもの店で食べて宿泊場所もいつも通りの馬小屋で。

 等級が上がっても節約はしたいのと十分な収入とは言えないから最初の頃と変わらない。

 ただ、最近変わったことがあるとすれば。


 「よぉ、新米。奇遇だなぁ。」


 男性に声を掛けられ振り向くと、この町でベテランの冒険者ジェイソンがそこに居る。

 最初に出会ったのはマウマスキュから畑を守るための依頼で一緒になった時。

 あの晩は一人だけ眠っていて、朝になって起きたと思えば青い明星の頭目ロズワルドから報酬を分けてもらった悪い印象しかない冒険者だ。

 それから暫くは会うことがなかったけど昇級してから度々声を掛けられるようになった。

 しかも依頼を達成して報酬を受け取ったあと。


 「ソウデスネ、ジェイソン。ツカレタノデコノヘンデサヨナラ。」


 関わり合いたくないからこの場を立ち去ろうとしたところで肩を掴まれた。


 「そうつれないことを言うなよ。少しはベテランに付き合うもんだぜ?」


 「ジェイソンは他の冒険者に必要とされていますからそちらへ向かった方が良いですね。」


 「例えば誰だ?」


 ジェイソンが顔を近づけてくるけど、近いし臭いが気になる。

 いや、水浴びしているけど人のことは言えない気がする。


 「そ、そうですね。ロズワルド達とか?」


 あまり他の冒険者を知らないので適当に挙げて見た。


 「ロズワルド?あいつは俺より下だが一人前の冒険者だ。」


 「へー。そうなんですね。それならデレクとかはどうでしょうか?」


 「あいつか?確かにあいつはまだまだだがどうでもいいな。」


 デレク、良い人なのにベテラン冒険者からの評価が高くない。


 「えーと・・・ティム達はどうでしょうか?これからもっと活躍するパーティーだと思います。」


 「・・・。そいつらはまた今度だな。」


 今の間はなに?

 実は覚えられていないとか。

 まぁ、冒険者はたくさんいるし覚えるのも大変そう。

 ってこのままだとまた厄介事に巻き込まれるじゃん。


 「急いでいますので。」


 「あとは休むだけなんだろ?」


 「休息も冒険者にとって大事なことだと思いますが?」


 「それよりも俺との付き合いが重要だ。」


 嫌だこの人。




 だって初めて声を掛けられた時、連れていかれたのは酒場。

 他の冒険者達も通っている場所でジェイソンが入店した途端、空気が一瞬変わったのを今でも覚えている。

 彼らは一瞬だけジェイソンを盗み見たけど何事もなかったかのように飲み食いしていた。

 カウンターに着いたわたしとジェイソンだったけどジェイソンが酒と料理を頼むから普通の食事だと思っていた。


 「おい、お前も好きなのを選べ。食える時に喰わないとな!」


 笑いながら言うから豪快な人だと思いつつ、安く済ませられるように注文するとジェイソンに驚かれた。


 「おまえ、そんなんでいいのか!?」


 「えぇ、大丈夫ですけど。」


 「そんな事を気にせずにどんどん食え食え!」


 背中をバシバシ叩かれたけど注文を変えず追加せずでジェイソンの話が始まった。


 「俺が冒険者になった時はな、まだこの場所が村と遜色なくってよぉ。今でこそ立派な町だがどいつもこいつも湿気た面していてよぉ。冒険者もここまでいなかったんだぜ?」


 これがベテラン冒険者の昔話。

 正直興味が湧かないけど聞き流すしかないよね?


 「俺が冒険者になって一年後にはマウマスキュなんて一撃で倒せるようになってだなぁ―――。」


 「十七の時に村の開拓にたくさんの人間がやって来たんだが、その中で飛び切り綺麗な女がいてなぁ。俺と同じ年でよぉ―――。」


 「二十歳の時にワングスタフって言う茶色の体毛に鋭い爪を持ったモンスターが村で暴れ回った時は―――。」


 最初にお酒が運ばれてその後に料理が運ばれてきたけど早くに酔いが回ったのかかなり饒舌になっていてひたすら昔話が続いていく。

 一人の時は既に食事を終えて寝ている時間だから正直眠たい。

 偶にレスリやマーサと食事するときは有意義に感じているけどジェイソンの話は自慢話だけ。

 この周辺に生息するモンスターの話は参考になったけどそれよりもジェイソン自身の話が多い。

 何時まで続くの?


 「それでだな・・・。」


 ただ、何時しか人は眠るもの。

 ジェイソンも話し疲れたのか酔い潰れたのか。

 顔を赤くしながらカウンターに顔を預けていた。

 漸く解放されると思いほっと息をつき、食べた代金をカウンターに乗せて立ち去ろうとした。


 「ちょっと待ってくれ。」


 バーテンダーから声を掛けられた。


 「はい?」


 おじさんの眼光がわたしを射抜く勢い。


 「こいつの分も払ってくれ。」


 「は?」


 何を言っているの?


 「ジェイソンが食べた分はジェイソンが払うでしょ?」


 真っ当な意見を伝えたはずなのにバーテンダーからは呆れられた。


 「知らないのか?こいつは金を持っていない。」


 「はぁ。」


 なんでお金を持っていないことを知っているの?


 「こいつがお金を持っていない理由は皆知っている。昔から金使いが荒いからな。」


 いや、知っているなら食わせちゃダメでしょ!?


 「なんで食わせているのか?こいつが暴れまわるからだ。それで泣きを見た奴がどれほどいるか。」


 だったらギルドに訴えればいいじゃん。


 「前に冒険者ギルドに訴えたがこいつは町で数少ない赤の等級だから下手に言えないってことになってな。」


 「それって冒険者ギルドとしてどうなの?」


 わたしの考えを察して貰っていたけどつい口に出してしまった。


 「俺達もそうだと思っている。けどな、この町はこいつが守ってきたのも事実。それにこの町で有力な奴らは皆外に行っちまう。今でこそロズワルド達もいるがいずれはあいつらも出ていくなら実力者がとんと減るんだ。」


 「それは冒険者ギルドの問題だと思うけど。それ以前にジェイソンは今も冒険者として活躍しているの?」


 「それは俺の耳には入ってこないな。もしかしたら知らないところで依頼を受けているかもしれないが。」


 活動していないなら過去の栄光に縋ったおじさんじゃん。


 「どっちにしてもわたしは自分の分しか持っていません。」


 「それならお前さんのツケだな。」


 「いやいや、それはジェイソンの。」


 「冒険者の不始末は冒険者に拭ってもらう。それ以外にない。」


 「はぁ!?」


 「もし、お前さんが払わないって言うなら出るとこに出るしかないぞ。」


 「それ脅しじゃん。」


 「その前に食い逃げだ。」


 「それはジェイソンが。」


 「同席していたお前さんに責任がある。」


 「だから」


 「金がないなら明日持って来い!」


 「ふざけんな!」


 憤慨して外へ飛び出したけど頭を抱える羽目になってしまった。

 一緒にご飯を食べただけでわたしの食べた分の何倍も払うとか詐欺だよね?

 悶々としながらいつもの馬小屋で就寝、朝になったら冒険者ギルドでジェイソンの事を聞いてみた。


 「ジェイソン?あの偉そうなおじさんよね。」


 「レスリ、本当の事でもここでは言ってはいけません。」


 二人とも同じような事を思っているらしい。


 「何があったの?」


 一部始終を話すとレスリは怒って、マーサは悲しい顔をしていた。


 「あのおじさん、まだやっていたのね!ポーラにそんなことするなんて許せない!」


 「困った人よね、本当に。」


 「ジェイソンは昔からあんな感じなの?」


 二人とも息ぴったりで頷いた。


 「有名も何もよく新人相手に威張り散らしているわ。普段依頼を受けていないけど噂だとお店に付けているとか他の冒険者に払わせているとか。」


 「酒癖女癖も悪いの。実際、私達も一時期困っていたくらいだし。」


 「お金の話は噂を飛び越えて真実だよ。それでマーサ、その時はどうなったの?」


 「受付嬢全員で冒険者ギルドに訴えたら話を聞いてもらえて。その時は強く言ってもらえたから大人しくなったの。」


 「そうだったんだ。それならお金のこともどうにかして欲しいなぁ。」


 「そうよね、ポーラがこんな目に遭っているならどうにかしたいわ。」


 憤慨して同情するレスリの隣でマーサは神妙な顔をしていた。


 「ただ、冒険者同士のお金の問題と言う風に見せられているから飽くまで個人間で解決して欲しいと言うのがギルドの考えなのよね。」


 「そっかぁ。そういう話になるとギルドは責任を負わないってなってるわね。」


 マーサの言葉に思い出したようにレスリも同意した。

 今回の問題はわたしとジェイソンと言う個人間でのやりとりだから冒険者ギルドの規定外のことであり関与しないと言う。

 登録した時の規約にそんなことが書いてあったなぁ・・・。

 最悪じゃん。


 「つまりジェイソンはそれを悪用している・・・。」


 「そういうことね。」


 「何とかしてあげたいけど、どうすればいいか分からないわ。」


 マーサもレスリもお手上げ状態だ。


 「あのおじさんに一度目を付けられると気が狂っちゃうって話だから。」


 「レスリ、そんな事を言わないの!」


 前途多難だった。

 因みに最初の日の代金はお店側が冒険者ギルドへ訴えることで等級を下げられたり永久追放処分まで下されるらしい。

 今の段階でそれは嫌だったから仕方がなく貯金から出してその日の事を終えられたけどかなりの痛手だった。

 



 その日から度々声を掛けられるようになった。

 最初の事があり即座に逃げた。

 しかも追跡される可能性もあったから暫く隠れたり走ったり。

 夜中になっていつもの馬小屋に帰り着いたけどいつ特定されるか分からないから貯金した分は冒険者ギルドに預けるようにして宿泊先に私物を置かないようにした。

 今まで冒険者ギルドにお金を預けなかったのは手数料を取られるからだ。

 ある程度稼いでいる冒険者は利用しているそうだけど、等級の低い冒険者はあまり利用していないらしい。

 利用しない人達の理由は貯金の意識のない人が大半だったりするけどシステムを理解していない人もいるとか。

 出来るだけ消費を抑えて貯めておきたいから、当初は無色の等級の依頼も今だに受けて黄の等級も受けて貯蓄を増やそうとした。

 日によっては夜中まで仕事をするから正直疲れる。

 けど、その無茶も日を跨いでも営業している冒険者ギルドが依頼達成の手続きをしてくれるから出来ることで営業していなかったらこんな事は流石にしない。

 夜中でも営業しているのは緊急時の対応が出来るようにするためで、わたしのような手続きを受け付けるのは序でだと言われた。

 ここ暫くはわたし以外利用する冒険者がいないようで彼らには変に覚えられてしまった。

 夜にする仕事は採取依頼を中心に受けているけど割に合うかは別問題で、時間に関係なく報酬は変わらないからだ。

 それでも稼ぐしかないんだけど。

 だけど稼いだ傍から毎回集りにジェイソンが来て困る。

 最悪。

 



 本日は逃げることが出来ず、ジェイソンに肩を掴まれたままある居酒屋にやってきた。

 最初の店とは別の場所、店内は蝋燭や光を反射する鉱石を利用していることもありかなり明るい。

 基礎は木材で組んでいて壁は石積みになっている。

 三十人は利用できる広さに四人席が六か所あり、壁に沿ったカウンター席は六席用意されている。

 厨房は正面に用意されていて喧騒が部屋全体を包んでいる。

 ジェイソンは厨房傍の女性店員に声を掛け、お酒と料理を注文した。


 「お前も頼めよ!」


 いや、あんたは払う気ないでしょ!


 「・・・。イモと水。」


 「承りました!」


 声は元気そうだけどジェイソンを見る目はウンザリしているように見えた。

 長年この町に居るジェイソンを知らない人間はいないのだろう(余所者は除く)。

 壁際のカウンター席に座らされ、直ぐに注文した酒と水が出された。


 「今日も疲れただろう!飲もうぜ!」


 わたしはこの瞬間も疲れているから帰りたい!

 でもこの人は直ぐには離さない。


 「一人で飲んでください。わたしは明日も仕事があるので。」


 「何寂しいことを言っているんだ?皆で騒ぐ方が楽しいじゃないか!」


 注文したお酒を一気に呷る。

 グビグビといい音を鳴らして飲んだ顔は既に赤い。

 今日も上機嫌だ。

 逆に私は超不機嫌。


 「俺はこの町一番の冒険者でな!冒険者の中で一番偉いんだ!分かるか!?」


 大声で話すジェイソンに他の客はうんざりした目をしている気がする。

 周囲を気にせず話し続けるジェイソンは今日も自慢話を始めた。


 「俺が二十五歳くらいの時にモンスターの討伐依頼を受けたんだ。何か分かるか?」


 「マウマスキュですかね。」


 適当に相槌を打つと背中をバシバシ叩かれる。


 「そんな訳ないだろっ!?俺は町一番の冒険者だぜ?その時のモンスターはウルサクって奴だ!」


 「ウルサク・・・。」


 前に屋敷で見た資料には体長二メートルくらいで緑と茶色が斑になった体毛が特徴の熊みたいなモンスターってあったかな。

 わたしが今被っている毛皮はあまり見かけない熊のもの。

 今も動物はいるけど生態系を荒らしたり人間を優先して襲う生物を総じてモンスターと言っているらしい。

 ウルサクと言うモンスターも熊の亜種とも言えそうだけどモンスターとして扱われるのは上記の条件に加えて魔力を持っていることもある。

 と言う定義でこの大陸の人達は認識している。

 そして、ウルサクはこの大陸で多く見られるモンスターの一種だけど割と凶悪で戦闘経験の浅い冒険者では簡単にやられてしまうとか。

 以前山に住んでいた時に見かけたことがあったけど今のわたしでは勝てそうになく、基本的には遭遇したくないと思っている。


 「そう、ウルサクだ!お前は知らないだろうから特別に教えてやろう!」


 一応知っているから聞く必要はないんですけど。


 「あの時の俺は仲間と一緒に依頼を受けて山に入ったんだ。回復草が食い荒らされているから何とかして欲しいってな!俺達は当時は知らぬ者はいない実力者だったから快く引き受けてやったんだ!どうだ、凄いだろ?」


 ナニガスゴイノカワカラナイ。


 「山に入って回復草のある場所まで行くと確かに食い荒らされていた、だから俺達はその周辺の足跡を探して追いかけたんだ!」


 意外と冷静に判断して行動している?

 それで足跡を追ったら草花を踏む音が聞こえて来た。何だか分かるか?」


 「モンスターが居たんですかね?マウマスキュとか。」


 「あー!違うんだよなお前。居たのは奴だ、ウルサクだ。奴は毛の色が緑や茶色で風景に溶け込んでいる。分かりにくいんだがよ、俺達はちゃんとわかっていたぜ!奴だってな!」


 「ソーデスカ。」


 「俺は言ってやったんだ、『俺が囮になっておびき寄せるからお前らは囲んでから一斉に攻撃しろ。』ってな!」


 顔を近づけニヤニヤした顔のジェイソンだけどお酒臭い。


 「ガントが『信じているからな!』って言ってな!ウルサクは狂暴なモンスターだから皆心配してくれたが最後は俺の事を信じてくれたんだぜ!」


 本当の所はどうなのだろうか、それ以前に帰っても良いですかね?


 「俺は仲間が配置に着くまで待ってから一気に駆け出した!今でも思い出すあの緊張感をよ!走った俺に奴は気づいて後ろを振り返ったがその時はもう遅い!俺は構えた剣を思いっきり奴の脳天に叩き込んだ!だが奴の頭は固くてな、一撃じゃ沈まなかった!」


 本当に硬いのか当時のジェイソンが弱かったのか。


 「奴は怯んだが戦意は失わず寧ろ俺に向かって雄叫びを上げた!俺はそんな雄叫びなんてビクともせず剣を構えて奴にもう一撃加えようとした時だ。ガント達が飛び出してきて横から後ろから攻撃を仕掛けた。奴は驚いた顔をしていたぜ!周りに伏兵が居るなんて思っていなかったんだからな!剣や弓、魔法でひたすら攻撃すると奴は弱ってきた!だが、奴も一矢報いるためなのか目の前の俺に最後の力を振り絞って襲い掛かってきた!そんな奴の攻撃を俺は見切って軽やかに避けた!それと同時に渾身の一撃を叩きこんでやった!あれは手に汗握る展開だった!俺が!この町では狂暴なモンスターと恐れられているウルサクを仕留めてやったんだからな!」


 仲間と力を合わせて倒したんじゃないの?


 「倒した奴は普通ならその場で解体するんだがよ、俺達は力もあるから倒した獲物をそのまま担いで町まで凱旋してやった。するとどうだ?町の奴らは全員驚いていたぜ!あのウルサクを仕留めたのかってな!町の奴らが騒いで出迎えてくれたのが昨日の事のようだな・・・。」


 ここまで町と言っているけど当時はまだ村ですよね?

 まぁ、この場所を指しているならどっちでもいいのかなぁ。

 あ、店員さんありがとうございます。

 わたしの目の前に茹でたイモと水が出された。

 お腹を満たすために祈りを捧げてから食べようとしたら目の前の皿から茹でたイモが無くなっていた。

 わたしはまだ食べていない。

 隣のジェイソンを見ると閉じた口が咀嚼していた。


 「こんなんでお腹が満たされないぞ?もっと食えよ!」


 ・・・。

 コイツハナニヲイッテイルンダ?


 「あー、どこまで話したんだ?・・・そうか、凱旋して報告したら冒険者ギルド中が驚きと歓声に満ちたんだ!当時はウルサクを倒した冒険者はいなかったからな!最初の栄光を俺達が掴んだんだ!」


 ・・・。


 「町中が俺達を称賛して、お祭り騒ぎだ!目の前には肉と酒!美人は寄ってくるしで大賑わいだ!良いだろ、羨ましいだろ!?」


 ・・・。

 わたしの夕食を返せっ!

 ジェイソンにも注文された品が配膳されたけどそれらはジェイソンが全て平らげ、更に追加で酒が注文される。

 酔いつぶれて寝た瞬間にさっさとわたしの分だけ払って去りたい。

 それにしても話の内容がこの前も聞いた気がする。

 周りの喧騒が静かになり永遠に感じるこの時間が終わった時、わたしは解放されたと思えた。

 目の前のジェイソンは漸く意識を手放していたけど、同時に閉店時間でもあった。


 「ジェイソンの連れの人、お代は銀貨十枚になります。」


 今回も逃げきれなかった。

 しかも、金額が過去最高に高い。

 ジェイソンの等級であれば一回の依頼で得られる報酬額にも思えそうだけど、今のわたしの稼ぎでは一週間以上掛かる。

 希望は既に潰えていた・・・。 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に見ていただけると幸いです。

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