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32話 真夜中の防衛戦

本日もよろしくお願いします。

前日、前々日にも更新しましたのでそちらから読んでいただけたらと思います。

 ひたすら誰もやらないような依頼を受けて二月が経った頃。

 涼しさはなくなり朝も夜も過ごしやすい時期になって喜ばしいことだけど、この町では喜ばしくないことがあった。


 「これは酷い・・・。」


 畑作地帯の依頼を受けて朝一にやって来たわたしの目の前に広がる畑は荒らされていた。

 土は掘り返され順調に育っていた苗は無くなっていた。

 よく見ると何か生物が通った足跡が見られる。

 四足歩行で指は三つ。

 農作業者達に話を聞くと毎年あることがわかった。


 「この時期になるとな、ネズミが来るんだ。」


 「ネズミ?」


 「確かマウマスキュって言うモンスターよね?」


 「お前さんは知らないのか?」


 「えぇ、初めて聞きました。」


 おじさんやおばさん達に聞かれたけど名前は初めて聞いた、訳ではないけど今まで山暮らしをしていた身分という事で話を通しているからモンスターに関しては知らない振りをする。


 「茶色の体毛で黒い出っ歯でお前さんより小さいネズミだ。」


 「この時期になると大量に発生して山から下りてきては食い荒らす、迷惑な奴らだ。」


 「冒険者ギルドに頼んで討伐依頼を出してもらわないとなぁ。」


 「ポーラも冒険者だから討伐してくれるんじゃないか?」


 「そうか、そう言えばそうだな!頼む、この畑を守ってくれ!」


 そんなこんなでわたしは回れ右して冒険者ギルドへ農作業の代表者と一緒に報告へ向かった。

 冒険者ギルドはまだ混んでいるようでカウンターに列が出来ていたけど端っこの依頼相談窓口は空いていたため、直ぐに話ができたのは幸いだ。


 「分かりました、今日中に作成して掲示しておきますね。」


 「よろしくお願いします。」


 話がまとまって代表者が帰ろうとしたところで気になったことを受付嬢に聞いてみた。


 「あの、一つ聞いても宜しいでしょうか?」


 「はい。」


 「無色の等級ですけど今日の晩に畑作地帯の見張りをする仕事ってありますかね?」


 「そうですね・・・。私の一存では許可できませんが上と掛け合えば一日くらいなら仕事の依頼を出せるかもしれません。」


 「ポーラ、君が引き受けてくれるのか?」


 「わたしで良ければ、ですけど。」


 「僕としても今日は見張りを引き受けて貰えれば助かるな。」


 「あとは許可を貰えるかどうかですよね?」


 「今日中にはお伝えできると思うのでまた夕方に来てください。」


 「分かりました。」


 「それでは僕達は戻りますね。」


 周囲の喧騒があってか誰もこの話を聞いていなかったけど他に人が居ればいいなぁ・・・。

 畑作地帯に戻ってみれば既に荒らされた畑は直されていた。

 荒らされていたのは山に近い一区画だけだったこともあり、他の人達はいつも通りの作業をしていた。


 「わたしも作業に参加します。」


 「よろしく頼んだよ。」


 雑草取りから水撒き、一部の作物には虫が付いているからそれを取り除いたりであっという間に一日が過ぎた。

 夕暮れ時、わたしと農作業の代表者で再び冒険者ギルドの依頼相談窓口へ行って話を聞いてみた。


 「明日から討伐されるので今日の晩であれば依頼は出せるという事なので特別依頼を作成させていただきました。」


 「おぉ!それではよろしくお願いします。」


 「良かったですね。」


 「そうだな、これで安心して夜も寝られるな。ポーラ、君はどうするんだ?」


 「わたしでも受けられるなら引き受けたいのですけど・・・。」


 受付嬢の顔を覗くとニコッと笑みを向けられた。


 「今回は等級に関係なく引き受けられる依頼になっています。それと人数制限は設けていますけど特別にあなたの枠を確保していますから安心してください。」


 「そうでしたか、それでは依頼を受けさせていただきます。」


 「では、この用紙に書かれている内容を確認の上、こちらの用紙にお名前を記入してください。」


 一枚目の用紙には依頼内容と場所、報酬が書かれていた。

 日が沈んでから次の日が昇るまで。

 畑作地帯を荒らすモンスターの撃退及び討伐。

 また畑の侵入阻止。

 報酬は一人当たり銀貨一枚、モンスターの討伐次第で報酬は増える。

 討伐したモンスターの部位を切り取って見せることが証明、撃退では対象外になる。

 切り取る部位は別途資料で参照すること。

 と書いてあった。

 討伐したモンスターによって持ち帰る部位が違うとなると何処を持ち帰ればいいんだ?


 「あの、今回のモンスターってマウマスキュになるんですよね?」


 「そうですね、ただ別のモンスターも紛れ込む可能性があります。」


 「なるほど。因みにマウマスキュの討伐部位って何になりますか?」


 「本来なら資料を見てもらいたいんですけど時間もないので。マウマスキュの討伐部位は二本の黒い前歯です。」


 事前に調べるのも冒険者の仕事ですかね、でも教えてくれるあたり優しい人だ。


 「分かりました。何処を持ち場にするとかは参加した冒険者達で話し合えばいいんですよね?」


 「はい、その通りです。普段は関わらない人達が多いですから気を付けてくださいね。」


 「忠告ありがとうございます。それでは向かいますね。」


 もう一枚の用紙にサインを書くと既に十人以上の名前が並んでいた。

 一部の丁寧な文字は受付嬢が書いたのかもしれない。


 「では、わたしはこの辺で失礼します。」


 「気を付けて行くんだよ。」


 「はいっ。」


 農作業の代表者とも別れてわたしは畑作地帯へ向かった。




 日が暮れるギリギリ、町の出入り口から近い畑に行くと既に冒険者達が集まっていた。

 とは言え、装備品から想像しただけで冒険者とは断定できないけど。

 駆けつけると全員がわたしに注目して色々な顔をしていた。

 純粋な好奇心であったり嫌そうな顔をしていたり。


 「君も晩の見張りの依頼を受けに来たのか?」


 「はい、その通りです。」


 声を掛けて来たのは好青年の戦士。

 鎧は青系で薄いプレートメイル、腰に剣を一本と小楯を持っている。


 「俺はロズワルド、青い明星と言うパーティーの頭目をやっている。君は?」


 「ポーラ。最近冒険者になったばかり。ソロです。」


 あまり伝える情報もないから素っ気ない返答になったけど相手は顔色を変えることがなかった。


 「そっか。モンスターの討伐経験は?」


 「山で何匹か。」


 「それなら大丈夫そうだな。」


 握手を求めて来たロズワルドに応えて握り返す。

 結構力がある。


 「あたし、子守なんてしたくないんだけど?」


 「そう言うなってメラニー。そんなにマウマスキュも来ないだろうし討伐経験もあるから大丈夫だよ。」


 「小汚いし疑わしいわね。」


 良く思っていないと言っているのはメラニーと言う女性。

 ローブを被っているぷっくりとした唇と頬が特徴的だ。

 体の凹凸もローブの上からでも分かるくらいで他の男達の目線が胸やお尻へ釘づけにしている。


 「良いだろ別に。気にすることはない。」


 軽装で弓と矢を担いでいる目の細い男がメラニーの肩を抱こうとするけどあしらわれていた。

 残念だったね。


 「コリンの言う通りだ。気にする必要はない、俺達は俺達の仕事をするだけだ。」


 軽装の弓術士の名前はコリンと言う。

 因みに四人目は重装備で大盾を持っている男、ランディーと言う。

 彼ら四人で青い明星と言うパーティーだそうだ。

 他にはランディーよりも上半身裸の大男、サイラスは大きい斧を担いでいる。

 盾を持たない男戦士が三人、デレク、ハドリー、テリーと言われ。

 斥候を生業にしている女性は二コラ、メラニー以外にも二人の魔法使い、パメラとダーナ。

 わたしより少し年上で三人のパーティーを組んでいる男戦士のティム、男魔法使いのエイベル、女弓使いのシビル。


 「わりぃ、遅くなった。」


 最後に来たのは壮年の男、革の装備品に身を包んだ戦士ジェイソンだった。


 「次からは頑張ってくださいよ?」


 「そうだな、頑張れせてもらうか。」


 ロズワルドとジェイソンは仲が良さそうに見える。

 これで全員揃ったらしくロズワルドが話を進めた。

 今から朝方まで畑を守る事と持ち場を決めること。

 山の方面に人を立てれば済むという事だからお互いに目が届く範囲に人員を割けられる。

 パーティーを組んでいる人達も関係なく一定間隔に配置に着くことになりこれに異を唱える人は居なかった。

 わたしとティム達以外は一回以上の経験しているそうで他の人達は慣れている様子だった。

 何処かのタイミングで睡眠を取るのは自由だけど出来れば仮眠程度、それに全員が寝る状態は避けたいから一定時間ごとに両隣に声を掛けること。

 戦闘になった時、状況に応じて近くの冒険者を助けること。

 一方で討伐した場合は最後に止めを刺した人が優先するけど、状況によっては魔法使いや弓使いとかち合った時は話し合いか等分すること。

 最低限のルールを確認し合ってからそれぞれが配置に着いた。

 山とは言うけど先ずわたしが住んでいた山ではない。

 わたしが下りた山と町の間は平地でそれなりに距離もある。

 町に近い山は二つあり、どちらも回復草の群生地である。

 ただ、畑作地帯周辺は冒険者が山に入る開拓ルートにはなっていないため正面に見えるのは道なき森。

 月の光があるとはいえいつ襲ってくるか分からない。

 一日中起きていられるけど寝られるときには寝たい。

 と言うわけで仮眠でもいいから配置について直ぐに休むことにした。




 「おい、起きているか?」


 「大丈夫ですよ。」


 右隣から男の声、男戦士のデレクが声を掛けて来た。


 「そうか、立ったままじっとしているから心配になったぞ。」


 「この中で唯一の無色ですからね。」


 「まぁ、あんまり気張らずに居ろ。俺達がいるからな。」


 「ありがとうございます。デレクは寝なくても大丈夫ですか?」


 「大丈夫・・・と言いたいが少し寝させてもらおうか。お前は寝なくても良いのか?」


 「わたしの事は気にせず寝てください。適当なところで起こしますので。」


 「悪いな、当てにしてるぜ。」


 デレクはそのまましゃがみこんで仮眠を取り始めた。

 声はそこそこ張り上げていたから周囲の人達にも聞こえていそうだけどこちらを見ていた素振りは見られない。

 単純に気にしていないだけかも。

 現在いる場所は町に近い場所から二番目の位置。

 右側に冒険者達が配置されていて町に一番近い位置にいるのはベテランのジェイソンだ。

 ただ、彼は今も寝ている。

 デレクの向こう側は寝ている人もいれば起きている人もいるみたいだけど大半の人はしゃがみこんでいる。

 多分立ちながら寝ていたのはわたしだけらしい。

 ケイティ達の修行の一環で身に付けた技術だけど他の冒険者がしていないことからかなり特異な事だと思わざるを得ない。

 だからと言って自分の実力がここにいる誰よりも優れているわけではない。

 彼らの実力は未知数だけど何度も死線を潜り抜けて経験を積んでいるのだから。

 そう言えば、夕ご飯を食べていないからお腹が空いたなぁ。

 他の人達は携帯食やお店で包んだものを食べていたけど正直羨ましい・・・。

 次からは準備しよう・・・お金があればだけど。

 月が天辺に上った頃、空は雲が少なく雨が降ることがなさそう。

 そんな風に思っていたら風の音に紛れて草むらがガサゴソ鳴っている気がした。


 「デレク、起きてください。」


 何度か呼びかけるとデレクが顔を上げてくれた。


 「おう、それなりに寝かせて貰えたみたいだな。」


 「それよりも警戒してください。正面の茂みが動きました。」


 「なに?気のせいじゃないのか?」


 「それなら構いません。」


 「まぁ、寝込みを襲われるよりはマシだな。」


 デレクは話の通じる人で良かった。


 「ジェイソン、起きてください。」


 左隣のジェイソンに声を掛けるけど寝たままだ。

 しかもいびきまで聞こえる。


 「正面を警戒しながら起こしに行けるか?」


 「やってみます。」


 駆け足でジェイソンの元まで行くとやはりジェイソンは寝ていた。


 「起きてください、モンスターが来るかもしれません。」


 「グゴォォォォォ・・・。」


 返事はいびきだけで起きる気配がない。

 肩を揺らすけどピクリともしない。


 「起きてくださーい!」


 耳元で叫んだことでようやく体を震わせて反応した。


 「煩いなぁ・・・、こっちは眠いんだよ。」


 「モンスターが来そうです。体勢を整えてください。」


 「あん・・・。おめぇ、来なかったらどうするつもりだ?」


 「それに越したことはありません。」


 「仕事に熱心な事で・・・。」


 一度は目を覚ましたジェイソンは疲れているんだと言って直ぐに寝てしまった。


 「嘘でしょ・・・。」


 なんでこの仕事を受けたのか・・・いや、ここにいるだけでも銀貨一枚もらえる仕事なんだ。

 しかも町に一番近いからモンスターが近づきにくい場所だとしてそこを選んだのかもしれない。

 今いる配置はロズワルドが決めたことでジェイソンだけは当人の意思で今の場所を選んだ。

 わたしは彼らに配慮されて二番目に近い位置にしてもらい、あとは出来るだけ近距離と遠距離の人達がカバーできるような配置になっている。

 もう一度起こそうとしたその時。

 森の真ん中あたりから何かが動く音が大きくなっていた。

 それを機に他の面々が寝ている人を起こしたり前方へ移動して警戒し始めた。

 デレク達のフォローに回らないと。

 ジェイソンの正面にはモンスターが隠れているようには思えなかったのでそのまま持ち場に戻る。


 「残念だったな。」


 「そうですね。」


 もしかしてジェイソンが起きないことを知っていたのか、デレクめ。


 「どうすればいいでしょうか?」


 「俺達が前に出る。抜かれた時は頼む。」


 「わかりました。」


 デレクや前衛職の人達は持ち場から更に前に出て正面の森を睨む。

 わたしや後衛職の人達はそのまま動かずに攻撃の準備に入った。

 森の中は先程よりも茂みが揺れる音が強くなっている気がする。

 しかし、森から出て来たのは一匹のマウマスキュだった。

 マウマスキュは一直線に走り抜けようとする。

 その先にはロズワルドが盾を構えていた。


 「ここは通さない!」


 迫りくるマウマスキュにロズワルドも走り出す。

 互いに距離が詰まった時、ロズワルドが左の盾を投げつけた。

 それに反応したマウマスキュはロズワルドから見て右側に避けながら走り抜けた。

 いや、避けた先にロズワルドの剣が振り抜かれていた。

 真っ二つ、とはいかないまでも顔面を強打しながら中空に飛ばされたマウマスキュは地面に二、三転したあと暫く痙攣してやがて動かなくなった。


 「やったわね、ロズワルド!」


 彼の右隣を持ち場にしていたメラニーが讃えると大半の人が安堵の息を漏らしていた。

 だけど、安心するのは早かった。

 まだ森の茂みは音を立てて動いている。

 そこから子供大の影が幾つも飛び出してきた。


 「まだ居るのか!?」


 サイラスが驚きの声を上げると眠っているジェイソン以外が戦闘態勢に入り直す。

 現れたマウマスキュは五匹。

 サイラスの元へ纏まって駆けて行く。


 「ウォーターボール!」


 「一撃必中!」


 サイラスの後ろに居るパメラとシビルがそれぞれ援護して一匹ずつ仕留めた。


 「おらっ!」


 大きな斧を振り回して一匹を仕留めたサイラスだけど残りの二匹が気にせず脇を抜けた。


 「待てっ!」


 追いかけようとするサイラスだけど体格が大きいだけに俊敏には動けず大分距離が空いてしまった。

 しかし、後方に控えていたパメラとシビルは冷静だったようで既に二射目を準備し終えていた。


 「ウォーターボール!」


 「もう一射!」


 彼女達の目前に迫っていたマウマスキュだけどそれぞれの攻撃が見事に的中して誰も怪我をすることなく仕留めることが出来た。


 「戦士が後ろを危険に晒すなんてまだまだね。」


 魔法使いのパメラが挑発するとサイラスは怒りを露わにするも言い返せないでいた。


 「それよりもまだ来るみたい。」


 シビルが顎で指すとそれぞれの正面から一斉にマウマスキュが飛び出した。

 数は・・・数えられない。


 「今までこんな数が来ていたか!?」


 「もっと少ないはずよ!」


 弓使いのコリンと魔法使いのメラニーが慌てているように他の冒険者達も困惑を覚えつつも動き出した。


 「ポーラ、おまえも覚悟しろよ!」


 デレクは正面から襲い掛かるマウマスキュに剣で斬りかかり一撃で落とした。

 しかし、タイミングをずらしながらも他のマウマスキュが次々に襲い掛かる。

 デレクの横を抜けたマウマスキュが畑に向かう。

 急いで駆けながら最初の一匹の横腹を蹴り飛ばす。

 空中で前転しながら向こう側にいた別のマウマスキュにぶつかり絡まった。

 蹴り飛ばした勢いで近くを走り抜けようとするマウマスキュの下から掬い上げるように蹴り飛ばす。

 相手の出っ歯がそこまで長くなかったから足に触れずに済むから躊躇なく行動できた。

 蹴り飛ばしたマウマスキュが地面に着いた瞬間、腹を見せたところへナイフを一突き。

 ジタバタと暴れるけどそのまま腹を掻っ捌いて瀕死に追い込む。

 返り血を浴びるけど気にせず次のマウマスキュへ走り出す。

 既に何匹か畑に侵入していたけど弓使いの二人がなんとか仕留めている。

 夜だから一匹に対して二射三射しているけど動き回る相手を鑑みても悪くはなさそう。

 ロズワルド達も一撃で仕留めているようで着実に数を減らしていた。

 デレクが逃した一匹を最初と同じように蹴り上げ、地面に倒れたところで喉を一刺し。

 軌道を潰して次の獲物に向かう。

 ただ、三回蹴り飛ばしたことで足が疲れている。

 何度も使える手・・・足じゃない。

 自分の非力さを呪いたいけど今は最低でも足止めをしなくっちゃ。

 一番左にいるジェイソンはこんなに煩い中でもまだ寝ている。

 ある意味神経が図太かった。


 「まだ居る~?」


 かなり向こう側に配置された魔法使いのダーナが声を掛ける。


 「助けてください!」


 わたしの声が聞こえたのかダーナを含む何人かがこちらに向かってきて畑に侵入したマウマスキュを追い出しながら魔法や矢で仕留めた。

 最後に飛び掛かってきた一匹の喉を狙って一突き、のしかかられながらも抵抗して数秒すればマウマスキュの動きが止まった。

 血を浴びながらも重くなったマウマスキュを退かして立ち上がる。

 ナイフを見ると月の光に照らされた血の色が灰色に見えるのは気のせい?


 「討伐は初めてなんだろ?よく躊躇しなかったな?」


 男戦士の一人、テリーも返り血を浴びている。


 「山で生活していたので。」


 「だから毛皮なんて着ているのか。」


 実際に山で生活していたから躊躇する余裕なんてなかった。

 わたしも相手も生きるのに必死だから。

 緊張感が解れそうになったところでロズワルドが皆に声を掛ける。


 「全員怪我はないか?あるなら今のうちに手当てを。それとまだ来るかも知れないから警戒するように!」


 周囲の人達で確認し合うけどいなくなった人が居なければ大きな怪我を負った人もいない。

 強いて言えばジェイソンが隅で寝ているくらい。

 普段は関わらない人達でも最低限の礼節を意識しているのか交代で倒したマウマスキュの歯を採取するときは自分達が仕留めた分だけに手を付け終えたことで揉めることがなかった。

 わたしが直接仕留めたのは三匹でデレクの後ろだったこともあり彼と揉めることなく歯を取った。

 この後は朝方までそれぞれが仮眠を取りながら警戒したけどマウマスキュが襲い掛かることはなかった。




 朝日を拝みつつマウマスキュの死骸を森の近くに埋める作業が始まった。

 近くに倉庫があり、そこで鍬とかの農機具を借りて埋めた。

 マウマスキュは食用としては食べられず放っておくと他のモンスターや動物が集まりだす危険性があるため出来るだけ埋めるようにしているそうだ。

 こう言った作業は町の近辺の話で森や他の場所ではそのままにすると聞いた。

 最後の片づけを終える前には既に農作業者たちが来てこの惨状を見ながらお礼を言ってきた。


 「ありがとうございます。これで安心して仕事ができます。」


 一部荒らされた場所は作業者たちでやるとのことだったので畑の方は彼らに任せることにした。


 「今日はどうするんだい?」


 農作業の代表者に聞かれ、休みたい気持ちはあれど仮眠も取ったし大丈夫だろう。


 「報告した後、また来ますね。」


 他の作業者たちに驚かれつつも無理はしないように言われた。


 「あんた、ここで働いているの?」


 「最近はそうですね。」


 斥候の女性、二コラが相槌を打って離れた。

 恐らくこの町の冒険者の中で農作業の手伝いをしているのは私だけだろう。

 全員で冒険者ギルドへ行こうとした時、ジェイソンが起きてきて寝起きの一言が


 「おう、お前ら。仕事は終わったみたいだな。誰か俺にも分けてくれないか?」


 と晴れやかな笑顔で言ってきた。

 他の冒険者達は誰もが不満を露わにしていたのは当然のこと。


 「これで良ければ。」


 ただ、お人好しなのかオズワルドは自分が倒した分の幾つかをジェイソンに渡していた。


 「へへ、悪いな。」


 気を良くしたジェイソンが大手で先頭を歩く姿を見て誰もが気分を悪くしたのは言うまでもなかった。

 だいぶ日が昇ってから冒険者ギルドへ行くと人は疎らになっていて受付に並ぶとあまり時間が経たずに番が来た。


 「皆様お疲れさまでした。畑作地帯の見張りの件ですよね?」


 「そうだ、報告はロズワルドがしてくれるからな。」


 「ではロズワルド、お願いします。」


 今回の受付嬢はマーサだった。

 ジェイソンを見た顔は頬がちょっと引き攣っていたけどマーサは苦手意識を持っているのかな?

 隣で仕事をしているレスリは見ようともしていない。

 ロズワルド以外の冒険者は一言も喋らず彼の報告に耳を傾けていた。


 「報告は以上です。」


 「ありがとうございます。それでは討伐の証を持っている方から順に並び直してください。」


 今回は全員が討伐しているので並びはそんなに変わらなかった。

 ロズワルドの前にジェイソンが入り込んで懐から黒い歯を出した。


 「よろしく頼むな。」


 出された証拠を見てマーサは手元のサンプルや資料と見比べるとカウンターの前に報酬の貨幣を出した。


 「がはは、またな!」


 笑って冒険者ギルドを後にしたジェイソンを見送りロズワルドを始め次々に精算された。

 ロズワルド達の報酬はカウンターに置かれた音からしてかなりの額なのだろうか?

 そんな事を考えながらわたしの番が回ってきた。


 「お願いします。」


 「失礼します。一つ二つ三つ。では今回の報酬はこちらになります。」


 カウンターに出されたのは銀貨二枚と銅貨五十枚だった。


 「こ、こんなに・・・。」


 薬草採取や農作業の手伝いでも銀貨を見ることがなかったからつい驚いてしまった。


 「初めての討伐、大変だったと思います。その中で生きて依頼を達成したのですから当然の報酬です。」


 「そっかぁ・・・。」


 意外と嬉しく感じてしまう。

 ただ、一方でたくさん倒した人達はもしかしたら銀貨十枚に達しているのでは?

 無色の等級だと銀貨が報酬と言う時点でかなり高額に感じてしまう。

 知らない方が幸せかな?


 「これで手続きを終えます。他に何かありますか?」


 「えっと、この後農作業の手伝いに行きますのでその手続きをお願いしてもいいですかね?」


 「えっ?」


 マーサに驚かれるけど働かないとお金が溜まらない。


 「依頼の手続きをお願いします。」


 働き詰めだけど仮眠は取ったし大丈夫だと思う。


 「そのまま仕事を?」


 「はい。」


 「お疲れでは?」


 「今日くらいなら。」


 腕を上げて元気なアピールを示すけど心配な顔をされてしまった。


 「無理はいけませんよ?」


 「無理はしていませんよ?」


 「はぁ・・・私達に止める権利はありませんけど無理はしないでくださいね?」


 「重々承知しています。」


 「それでは・・・。」


 手続きを終えて振り返るとロズワルド達がまだ残っていた。


 「ポーラ、他の冒険者達との共同作業はどうだったかな?」


 「うーん。・・・新鮮でしたよ?」


 「そうか、それは良かった!また何かあったらよろしく頼むよ。」


 「機会があればお願いします。」


 朗らかな笑顔のロズワルド達全員と握手を交わして冒険者ギルドを出る。


 「またな。」


 「無理はするなよ。」


 デレクやテリー達とも言葉を交わして畑作地帯に向かった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に見ていただけると幸いです。




雑談

町の冒険者を登場させましたが全員が等しく活躍できるかは・・・未定です。

ただ、登場している以上はどこかしらで活躍させたいとは思っています(ちょい役が多いかも知れません)。

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