31話 駆け出しの冒険者
本日もよろしくお願いします。
前日にも更新しているので見ていない方はそちらからお願いします。
翌朝。
馬小屋の隙間から差し込む光から今日も晴れみたいだ。
馬の匂いが籠っているとは言え、藁のお陰で大分楽に寝られた。
敷いていた毛皮を取り出して藁を払ってから被り直す。
寒さ避けには役立つ毛皮だけど、正直目立たない外套が欲しいなぁ。
そう思いつつ馬小屋を出て仕事を始めていた丁稚に挨拶して町を回る。
既に人の出入りはあるのか検問所傍の広場では出店を始め様々な人達で賑わっていた。
喧騒の中で食欲をそそる匂いも漂い、匂いの元へ行くと焼きたてのパンが並んでいる。
朝早くから焼いたんだろうなぁ・・・。
目の前でパンを見るわたしにパンを売っているおじさんが胡乱げな目で見てくる。
「おい。冷やかしなら他所へ行け。」
「・・・。」
こんな格好をしていれば当然か。
実際にお金はないし。
美味しそうなパンが脳裏に焼きつつその場を去った。
それから町を見て回るけど広場以外は人の通りが少なく、あまり活動はしていないようにも思える。
と言うかここは住宅街になるのかな?
日の辺りの良い場所悪い場所に限らず、偶に建物から人が出てくるけど店を構えている感じじゃない。
歩き進めると煙の上がっている場所が幾つかあり、空いている窓や扉から様子を観ると上半身裸の屈強な男達が道具を確認したり窯の炎を調整していたりと忙しなく動いていた。
隅の方に剣とか槍があるから鍛冶をする場所なのかな?
まだ本格的な作業が始まらなさそうだから次に行く事にした。
道行く先に様々なお店や建物があり興味を惹かれた場所へ赴けば店員が訝しむ目で見てくる。
店員じゃなくても道行く人達全員が似たような目で見ていたのは間違いないと思う。
それくらい今の格好は浮いている。
歩いているうちに外套を売っている店に辿り着き、店主に聞くと売値は銀貨十枚だった。
昨日の夕食はレスリ達に奢ってもらったけど一人当たり銅貨六十枚だった。
二人はお酒を何杯も飲んでいたからわたしが食べた分はもう少し安い気がする。
銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨千枚で金貨一枚の換算だった気がするから満足な一食を銅貨五十枚だとすれば二十食分になるはず。
それを稼ぐには冒険者ギルドで受けられる依頼報酬がどうなっているのか?
これによっては何年も掛かるかもしれない・・・。
一文無しのわたしは後ろ髪惹かれる思いで店を後にした。
幾つかお店を回って冒険者ギルドへ向かう。
レスリ達が言っていた通り、ギルド周辺に人は疎らにいるだけでそれでも少し注目されつつ扉を潜った。
建物の中の冒険者は何組かいるけど、カウンターに並んでいる人は一人もいなかった。
掲示板の傍には青年が二人、併設されている食事処には朝食を食べながら雑談しているパーティーや黙々と食べているソロの人達が何組かいた。
わたしも依頼を探すために掲示板に掲載されている依頼書を眺めることにした。
依頼名、イラスト、依頼内容、報酬、期限、等級資格、依頼主など書かれている。
モンスター討伐は無色の等級だとゴブリン退治とかウサギ狩りばかりで後は薬草採取や畑の手伝いや夜の番とかだ。
お使いもあるけど値段は最低等級だとその日暮らしも怪しいし、一人なら実入りが良さそうでも数を必要とする依頼もあるから手っ取り早く稼ぐのは難しい。
等級が上がればモンスター討伐が目立ち、それなりの報酬になっているけど装備品の整備とかパーティーで分けた時は貯金が出来るほど貰えるのかも分からない。
文句を言える立場ではないから先ずは出来ることからやろう。
隅の方にある薬草採取の依頼書を手に取った。
東の森の奥にあるポーションの原材料である回復草を採取する依頼。
依頼主は冒険者ギルド、報酬は一本分の採取で銅貨十枚。
ポーションに使われる量がどの程度か分からないけど、貸し出しの麻袋一杯に入れた場合は最大で銅貨五十枚。
それ以上の採取は厳禁とも書かれている。
幾つか注意事項が書かれていて期限は書かれていない。
他の依頼書に比べて大分くたびれていることからこの依頼書自体が何度も使い回されていることがわかった。
冒険者ギルドの受付カウンターに向かうとレスリが居た。
「おはよう、これをお願いしてもいいでしょうか?」
「おはようポーラ!その毛皮を脱ぐ気はないの?」
「代わりの物があればいいんですけど、今は一文無しなので。」
「そっかぁ、そればっかりはどうにも出来ないからなぁ。」
「レスリ、依頼を受理しないと。」
隣に座っているマーサが手刀でレスリの頭を小突いた。
「分かってるって。」
「マーサもおはよう。」
「おはようポーラ。元気で何よりだわ。」
「昨日はありがとうございました。」
「いいのよ。また時間のある時に行きましょう?」
「喜んで。」
「ポーラ、この依頼でいいの?」
レスリが渡した依頼書を確認したので頷いて手続きを進めた。
「多分大丈夫だと思うけど無理はしないでね?」
「肝に銘じます。」
レスリから貸し出しの麻袋を借りたけどわたしの頭位の大きさだった。
「行ってきます。」
「気を付けてね。」
二人に見送られて早速東の森へ足を運んだ。
東の森は町から見える場所にあり、日の位置がそこまで変わらない内に辿り着いた。
森自体は特有の雰囲気とか特徴はなく穏やかだ。
簡単に整備された細い道を行き、途中で大きな岩が現れた。
「ここを右に行くんだよね。」
右に進んで暫くすると木々のない空間が現れ、その地面一体に根元が紫色で一枚一枚が細い葉を生やした群生地になっている。
これが目的の回復草だ。
手前の方はまだ若い草が多く、奥はそれよりも二倍近く伸びている。
遠回りしながら奥の方へ足を運んで長く生い茂っている場所で足を止めた。
「根元は残して・・・。」
繁殖力が強く、根っこを残せばまた葉っぱを生やしてくれる。
手持ちのナイフは大分傷んでいるけど回復草を切る分には大丈夫。
広がっている葉っぱを束ねて根っこ付近をナイフで引くように切る。
上手く切れた。
それらを麻袋へ詰めて次の回復草を刈っていく。
無我夢中で作業をすると日は既に天辺を通り越して大分傾いていた。
麻袋の中は八割くらい溜まっていた。
「これくらいかな。」
目の前の群生地の四分の一を採取していた。
今日はこの辺にして帰ろうかな。
ナイフを仕舞って麻袋を抱え込んでこの場を後にする。
帰り道は何とか覚えていたし、道も単純だったから安心して町に帰り着いた。
冒険者ギルドへ向かうと同業者達が建物へ次々に入っていく。
日も大分暮れ始めているから仕事が一段落して帰ってきた人達だろうか。
相変わらずわたしに奇異の目を向けてくるけど。
誰も話しかけてくる人はおらず、列に並んでいる間は周囲の喧騒に耳を傾けていた。
「次の方どうぞー。」
わたしはカウンターに麻袋を置いた。
この受付はマーサで、わたしを見て安心した表情を見せた。
「お疲れ様、今から量るので待ってください。」
麻袋を受け取ったマーサは中身を確認しながら後方にある計量器に麻袋を置いた。
「結構取れたみたいですね。」
麻袋を別の荷台に置いてマーサはカウンターに戻った。
「レスリ、受理書を頂戴。」
「はいっ。」
隣に座っているレスリから羊皮紙を受け取ったマーサが確認してからそれをわたしに見せてくれた。
「今回の採取量が四本分だったので銅貨四十枚になります。」
「分かりました。」
「それと場所は指定された場所で間違いありませんか?」
「東の森を進んで大きな岩を右に曲がって―――。」
今回の一部始終を説明するとマーサは別の羊皮紙に書きこんでいた。
どの依頼でも記録を取るのがルールらしい。
「では、以上で終わりです。本日もありがとうございました。」
「またよろしくお願いします。」
事務手続きも終わり報酬を受け取ってカウンターを後にした。
レスリが作業の合間に手を振ったので振替したら喜んでくれた。
周囲に居る冒険者の殆どは男性で女性は疎らだ。
数少ない女冒険者がいて嬉しいのかもしれない。
と言っても誰かの為に冒険者になった訳じゃないからなぁ・・・。
昼は食べていないから直ぐにでも食べたい。
だけど食べられる場所は・・・昨日の場所でいいかな。
昨日と同じ場所へ行くと席の半分は埋まっているけど、一人ならカウンター席でも大丈夫だ。
空いているカウンター席に座って背後のメニュー表を見ると手頃な値段の料理が書かれていた。
ふかしたイモは銅貨五枚・・・一応料理?
水は銅貨一枚、スープは銅貨十枚。
パンとサラダも銅貨十枚でローストミートは銅貨二十枚。
お任せ料理一式は思った通りの値段だった。
他にも幾つか書いてあるけど酒類が殆どだ。
「注文いいですか?」
声を上げるとカウンターで野菜を切っている料理長が反応してくれた。
「昨日の奴か。」
「覚えていてくれてありがとうございます。」
「流石に昨日の今日だからな。」
「それでは―――。」
注文して暫く待つと注文した料理が運ばれてきた。
銅貨二十五枚を渡して目の前の料理を眺めた。
水一杯、ふかしたイモが二つ、野菜炒め。
昨日奢ってもらったメニュー程じゃないけどこれなら夜は過ごせるはず。
水を一口。
乾いた喉に染み渡る。
やっぱり水は大事だ。
野菜炒めは葉物や根菜類が混ざっていて量はそこまで多くないけどわたしの体なら十分。
火は通っているけど根菜類は硬めだ。
それでも噛めば味は出るからたくさん咀嚼した。
ふかした芋はふかしたてで中まで火が通っていてホクホクして美味しい。
初めて自分で稼いだお金でご飯にありつけた。
人間社会で生きるって大変だなぁ。
「止まっているが大丈夫か?」
近くで作業していた料理長が気に掛けてくれてハッとなった。
「大丈夫です、料理が美味しくてつい。」
「そ、そうか。それなら良かったが。」
少し照れているようにも見える料理長。
目の前の料理を全て平らげ満足できた。
「ごちそうさまでした。」
「また来いよ。」
お辞儀をしてから店を出ると空は大分暗くなっていた。
大通りは人通りが少なく、殆どはお店か家や部屋に帰ったのだろう。
わたしは勿論、今日の宿も馬小屋だった。
馬小屋生活も早数日。
毎日のように依頼を受けるけど、内容は薬草採取やお使い。
薬草もポーションの様に大量に製造するものは採取場所を選べば毎日のように採取できるけど場所によっては夜に帰らざる終えない場所もあるため毎回受けるわけにもいかない。
お使いは千差万別、おばあさんの頼みで息子夫婦の所へ荷物を届けて欲しいとか落とし物を探す依頼とか町の住人を中心にしたお手伝いが中心。
一部、商人や貴族のお使いもあるけど等級が満たしていないから受けることが出来ない。
そして、今日は町から少し離れた畑作地帯で農作業の手伝いをしている。
この場所では野菜が中心で時期は温かくなり始めたから耕して種蒔きから水を撒いたり雑草を抜いたりする作業だ。
わたしは雑草抜きを手伝っていた。
「若いのに冒険者をやるなんてなぁ。」
おじいさんから話しかけられ曖昧な相槌を打つとおじいさんの話が加速し始める。
「儂の若い頃はなぁ―――。」
雑草を抜いては移動してを繰り返す中、おじいさんの話も若い頃から今に至るまでの話も繰り返していた。
この畑作地帯の農作業者達の大半は町の住人だけど中高年の人達が多い。
わたしと同年代や少し年上の人達もいるけど大半の若者は別の町へ行ったり冒険者になっている人もいるのだとか。
それでも作業者が居るなら冒険者に依頼が出ることはないはずだけど作業内容によっては力仕事で人手が欲しかったり人海戦術で計画を進めたいため人がいるに越したことはないらしい。
それと農作業の依頼主は町そのもので領主に渡す税の関係もあるから食料がたくさんある分には困らず人を集めて収穫量が増えるのを望んでいる。
あとは暇な冒険者への食いつなぎのための依頼でもあり、作業中にモンスターに襲われても人や土地を守るための護衛としても期待されている。
と言う説明をマーサから受けて仕事を引き受けて見たけど、結構作業が大変だ。
一番大変なのはおじいさんの昔話だけど・・・。
この場所が終われば次は隣の畑で雑草取り。
地域によっては一つの町村で一種類の野菜を育てる場所もあるらしいけどここは複数の野菜を育てていて、それぞれ区分けされている。
また時期によって同じ耕作地でも違う野菜を育てたり、昨年とは違う場所で植えたりして連作障害を防いでいるとのこと。
最初に担当した場所はイモを育てている場所で次はニンジンの区画。
間違って抜かないようにしないと。
今日は二区画を担当したけど予想以上に広かった。
おじいさん以外にも何人か一緒に協力して作業に臨んだけど野菜もいくつも種類があり、何区画にも跨って栽培しているため一日では全ての畑を見切れない。
殆どが町の住人だから日が暮れる前に全員で一緒になって門を潜った。
作業者代表のおじさんは町長に報告するため別れ、わたしも冒険者ギルドへ行くために他の人達と別れた。
「また明日も来てくれよ。」
手を振るおばさん達に挨拶して別れるとわたし以外に冒険者ギルドに向かう人がいないため、他の冒険者が参加していないことがわかった。
少なくともモンスターを討伐したりお宝を見つけたりと夢を求めて活動している人が殆どらしいからこう言った作業に参加する人はいないかな。
冒険者ギルドへ辿り着き、列に並んで番が回ってきた。
「お疲れ様でした。本日の報酬はこちらになります。」
マーサから出された報酬は銅貨二十枚。
薬草採取の報酬で言えば瓶二本分が今日一日の農作業の報酬だ。
一攫千金や戦いたい人達からすれば割に合わないのは分かる。
けど今のわたしには選択肢はあまりなく、戦って名を上げたいわけじゃないからそこまでは気にしない。
いつものお店で水とイモ二つを平らげて馬小屋で疲れを癒した・・・。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
不定期更新ですが時間のある時に見ていただけると幸いです。
また翌日も更新予定なのでご了承ください。
雑談
冒険者と言えば華々しい活躍と言うのをよくイメージしていましたけど実際は地味な作業も多いのでは?と思い、こんな感じで書きました(かなりのダイジェスト)。
因みにポーラは常に毛皮を全身に被っているので知らない第三者からすれば性別もわからない感じです(受付嬢達は除く)。
細かいところで、連作障害は実際と違う部分がありますので真に受けないように気を付けてください(農業系作品ではないとは言え多少は研究されていると言う描写にしたかったと言う理由からです。ただ、ストーリー上で大きくかかわらないのでなくても良かったと今更ながら思っています・・・)




