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30話 一年が経ち、人里へ

本日もよろしくお願いします。

翌日も投稿予定です。

※今更ながら1話から順にセリフと地の文の間に行間を入れました。なのでここから先も行間が多くなると思いますが了承ください。

(今更ながらで申し訳ありません)


ポーラのあらすじ

奴隷となったポーラは貴族の家に引き取られ、数年間は穏やかに過ごした。

しかし屋敷への襲撃により屋敷は壊滅、主と従者達は帰らぬ人になった。

自身を理不尽に追い込んだ人達を恨んで憎むポーラは一度世間から消えるのであった。

 「おい、何処の村からやって来たんだ?」


 両脇に石積みの壁が並んでいる検問所で町の衛兵に呼び止められ、特に思いつくこともないから素直に答える。


 「ずっと山で暮らしていました。」


 「山?どの辺だ?」


 山に名前があるのか?

 分からないから大体の方角を指さしたけど伝わったのかなぁ。


 「あんなところに人がいるなんて聞いたことがないなぁ。まぁ通って良いぞ。」


 これ以上の問答はなく衛兵に言われて町に足を踏み入れた。

 約一年ぶりの人里。

 正面は広場になっていて露店や詩人、何かしらの芸を行っている人達を中心に人々で賑わっている。

 その奥には大通りが伸びており左右に建物が並んでいる。

 広場の隙間を縫うように進むがモンスターの毛皮を頭から被っているからなのか周囲の人間は奇異の目で見てくる。

 誰も似たような恰好をしていないから見られて当然か。

 先ずは宿泊できる場所を探す。

 人だかりで見渡しにくいが出入り口から少し離れたところに馬小屋を見かけた。

 十頭くらいは収まりそうな小屋だけど今は四頭ほどしかいない。

 丁稚(でっち)に話をしてから管理者に辿り着き、何とか交渉。

 暫くは只で泊めてくれるという事で内心ホッとする。

 二人とも親切にしてくれたけど訝しんだ顔をしているから下手なことはしないでおこう。

 宿泊先を確保したら次は収入を得るために冒険者ギルドへ行く。

 その冒険者ギルドは何処にあるのか?

 通りすがりの人に聞いて町を右から左へ歩き続けて見つけ出した。

 日が傾いているが夕暮れにはなっていない。

 靴のマークが掘られた看板を掲げている石と木材で出来た建物の扉を開ける。

 喧騒はなく、右側のテーブル席は三組くらいが雑談に興じていた。

 反対側にカウンターと受付人が二人で事務作業をしている。

 二人とも身なりは整っていて、二十代の女性でシャツにベスト姿だ。

 正面左側に居る受付人に声を掛けるかな。


 「あの、少し宜しいでしょうか?」


 「はい!?」


 驚いたのはこの姿かな?

 プラチナブロンドで後ろに髪を結んだ垂れ目の女性受付人が表情を引き攣らせた状態だけど話を続けよう。

 隣のブラウンのボブヘアーで両頬にそばかすのついた女性受付人も同じ様に驚いていた。


 「冒険者になりたくて来たんですけどどうしたらなれますか?」


 静寂の時間が数秒流れたのち、ハッとなって目の前の女性受付人が口を開いた。


 「冒険者志望ですね。えっと、ですね。文字は書けますか?」


 「一応書けると思います。」


 「それではこちらから質問しますのでこの用紙に書いてください。」


 渡された羊皮紙は白紙で、一緒に渡された羽ペンで名前、年齢、出身の村の名前、使う武器、魔法は使えるかどうかを書かされた。

 一通り書いて渡すと隣の女性受付人に見せ合って確認していた。


 「ポーラさん、出身は山と書いてありますけど村の名前ですか?」


 「いえ、気づいたら山暮らしをしていたので。何処の村で生まれたかは分かりません。」


 「わ、分かりました。それでは冒険者の規則について説明させていただきますね。」


 それからしばらくの間、規則について説明された。


 「改めて。冒険者は過酷な職業ですがそれでも宜しいでしょうか?」


 「はい、問題ありません。」


 「わかりました。それでは登録しますのでお待ちください。」


 女性受付人が羊皮紙を持って裏手に移動した。

 手持無沙汰になったところへもう一人の女性受付人が話しかけてきた。


 「ポーラさん。あなたって女の子なの?」


 「はい。」


 「やっぱり。顔が隠れて分からないけど名前と声で分かったわ!」


 当たったのが嬉しいのか女性受付人が身を乗り出してきた。


 「女性冒険者っているには居るんだけど途中で辞めちゃう子が多くて。それに単身登録に来るのも珍しいから気になっちゃうわ。」


 冒険者の実情は分からないけど受付人が言うなら間違いないのかな。


 「私はレスリ、あなたの相手をしたのはマーサ。もう直ぐしたら私達の勤務時間が終わるから一緒にご飯食べない?」


 「手持ちのお金がないので。」


 「気にしなくていいわ。今日は私達が奢ってあげるから。」


 笑顔でぐいぐい来るレスリに断ろうか迷う。

 正直お金がないから食事を奢ってもらえるのは嬉しい話だ。

 うーん・・・。

 裏がないと信じよう。


 「分かりました。お言葉に甘えます。」


 「良かった。」


 それから雑談をして時間が経つとマーサが戻ってきた。


 「随分楽しそうねレスリ。」


 「そうね、って別に仕事をサボってはいないわよ!」


 「そう言うことにしてあげるわ。」


 「本当だってぇ~。」


 レスリの言葉を無視してマーサはわたしに向き直った。


 「ポーラさん。それではこのプレートを渡します。無くさないようにしてくださいね。」


 渡されたのは金属製のプレート。

 掌に収まるサイズで長方形の中は一行目に名前、二行目に丸とギザギザの線が組み合わさった模様と八桁の数字が掘り出されていた。

 三行目には丸く凹んだ中に透明の何かが流し込まれていた。


 「一行目が持ち主の名前、二行目がこの町で登録した冒険者の番号、三行目が等級を示しています。登録番号は同じ名前の人と区別する意味合いが大きいです。等級は冒険者として実力を示しています。今後ポーラさんが功績を重ねれば三行目に別の色が加わります。」


 なるほど、これで冒険者ギルドに所属する人達を紐づけているのか。


 「失くした場合って再発行とかありますか?」


 「条件を満たせば再発行も出来ますが一からやり直しが殆どです。」


 「つまり等級を引き継げないと言うことですね。」


 「そうですね。顔なじみのギルドであってもこれに関しては一律で決められています。」


 「分かりました、無くさないようにしますね。」


 プレートの端っこに穴が空いているから紐を用意して首に掛けたり腕に巻きつけるのが良いのかな。

 出入り口のドアから音が聞こえた。

 振り向けば冒険者のパーティーが戻ってきたようだ。


 「話はまた後でね!」


 レスリに言われてカウンターから離れることにした。

 すれ違いにカウンターに向かってきた一団から胡乱げな目で見られた気がしたけど気にする必要はない。

 外に出ると日が大分傾いてきた。

 それに合わせて何組かの冒険者達が冒険者ギルドへ入っていった。

 レスリとの約束もあるから下手に周辺を散歩できない。

 冒険者ギルドの近くで立ち続けている間、物珍しそうに見られた。

 この時期に毛皮を着た人間なんてわたしくらいしかいないだろう。

 冬から春へと移り変わる時期で人によっては肌寒く感じるかもしれない。

 それでもこんな格好はこの町ではいない。

 人の流れを目で追い続けていたら横から声を掛けられた。


 「お待たせ!遅くなってごめんね。」


 質素なワンピース姿のレスリとマーサだ。


 「いえ、お仕事が大変だったのでは?」


 「そうなのよ!次の子が中々来なくてぇ。」


 「その話は後にしてお店に行きましょう。」


 マーサに言われてレスリの話は中断され、彼女達の行きつけのお店に向かった。

 大通りは冒険者ギルドに戻る冒険者達が殆どで偶に一部の冒険者達がレスリやマーサに声を掛けていた。

 彼女達の装いが違っても顔を覚えられているんだと感心した。

 お店に行くと大きくはないけど既に何人か客がいた。

 出入り口右側が八人座れそうなカウンターとその奥が調理場で左側が四人席のテーブルが四組。

 レスリ達はお店の中の空いているテーブルに進みわたしが四人席の奥で隣にレスリ、正面にマーサが座った。

 羊皮紙に書かれたメニュー表が壁に貼り付けてあり、それを見て頼むらしい。

 ただ、値段が書いてないから何が高くて安いのか分からない。

 何を頼もうか悩んでいるとレスリが声を上げて注文した。


 「お任せディナーを三つ!」


 レスリの顔を見たカウンターの奥に居るシェフが頷いてから作り始めた。

 シェフは中年男性で毛むくじゃらの太い腕をみせる白シャツ姿だ。

 髪は後ろに結んでいて調理の邪魔にはならないようにしている。


 「お任せって?」


 「お任せはお任せ。その日によって仕入れる材料が違うからシェフに任した方が早く食べられるのよ。」


 「えっと、あれはメニュー表ですよね?」


 気になって壁の羊皮紙を指すとマーサが応えてくれた。


 「そうね、サラダとスープ、ソテーにパン。あとは常備しているお酒の名前が書かれてるけど、殆どの人はメニュー表を見て頼むことはしないわ。そもそも字を読めるかどうかの問題が大きいから。」


 取り敢えず作れる料理を書いておいたって感じなのね。


 「じゃあ、このお店ではお任せを注文した方がいいんですね?」


 「一通り食べるならそうね。どれか一つだけ食べたいならそれを注文すればいいだけだし。」


 じゃあ、このお店では沢山の料理を作れるわけじゃないのか。

 それとマーサは業務外の時は砕けた口調に切り替えるっぽい。


 「じゃあ、料理が来るまで時間があるわけだし根掘り葉掘り聞いちゃうわよ!」


 レスリの興奮がわたしに向けられているのが良くわかる。

 ただ、今後の事を考えると出自を晒すのは良くない気がする。

 考えて話さないと・・・。


 「それでは改めて、あなたの名前は?」


 「ポーラです。」


 「何処の村から来たの?」


 「今まで山で暮らしていたので。何処の村で生まれたかは分かりません。」


 最近まで山で暮らしていたのは本当、出身の村は知っているけど言いたくないなぁ。


 「嘘!?お父さんとお母さんは?」


 「物心ついたときには・・・。」


 正直名前は知らないからある意味本当だし、二日目で売られたから知らないに等しい。


 「大変な生活を送っていたのね~!」


 レスリの目が潤んでいて同情しているのが分かる。

 わたしも普通の生活を送っていてこんな話を聞いたら同情したくなる。

 いや、普通の生活ってなんだろうか?

 マーサもわたしに興味を持ったのか訊いてくる。


 「山に暮らしていたって言うけど文字は書けていたわね?何処で習ったの?」


 「・・・。ある日、別の山へ足を運んだらわたしと同じように暮らしているおじさんが居て。その人に教えてもらいました。」


 「そんな人がいるなんて。木こりかしら?」


 「かもしれないわ。」


 文字の読み書きができるのは誰かに習わないと出来ないことだろう。

 それについてマーサは気になったみたいだけど本当は屋敷で習ったことだ。

 そして知らないおじさんと山で出会ったのも本当の話。

 おじさんからは文字を教えて貰ってはいないけどお世話にはなった。

 あの人は・・・木こりじゃないと思う。

 何をやっている人だったんだろう?


 「じゃあどうしてこの町で冒険者になろうと思ったの?」


 マーサの真剣な目は冒険者が危険な仕事だと分かっているからこそなのだろうか?


 「おじさんから話を聞いて、見聞を広めようと思ったからかな。世界は広いって言っていたし。」


 本当の事は言いたくない、おじさんを理由に使わせてもらうけど多分大丈夫なはず。


 「そっかぁ。その木こりの人も冒険者をしていたのかな?」


 レスリが知らないおじさんを想像するけど、実際に何をしていたかは殆ど話してくれることはなかったなぁ。

 マーサも納得したのか取り敢えず体を引いてくれた。

 暫くすると注文した料理が次々に運ばれてきた。

 サラダは葉物と果実の三種類が入った色とりどりで肉は何かしらの香辛料を使っているのか肉の良い匂いを引き立たせている。

 それから主食のパンも白く、お酒の入った小さな木製ジョッキが運ばれてきた。


 「それではポーラ、よろしく!」


 「よろしくね、ポーラ!」


 レスリとマーサがジョッキを掲げたから同じようにジョッキを掲げるとジョッキ同士を軽くぶつけ合った。

 喉もお腹も空いているから勢いよく飲んでしまう。


 「苦い・・・。」


 とても苦かった。


 「これがエールよ。もう少し高いお酒だとワインがあるわね。一応ポーラも成人なんだから少しは慣れておいても損はないわ!」


 顔が仄かに赤いレスリはさっきよりも上機嫌になっていた。


 「人によっては直ぐに酔っちゃうからほどほどにね。」


 マーサも同じような顔色だけど落ち着いている。

 それよりも二人の奢りで出された目の前の料理に目が行ってしまい早速口に頬張った。


 「結構お腹が減っていたのね。」


 「私達も食べましょ!」


 二人もわたしに続いて食べ始め、夕食の席は大いに盛り上がった。




 「また明日。」


 「ありがとうございました。」


 「またねぇ~。」


 マーサに肩を担がれ酔いつぶれたレスリに手を振り返した。

 二人とも良い人達で良かった。

 二人は三杯以上飲んでいたけど一杯でもそれなりに酔う。

 飲むときは注意しないと・・・。

 冒険者ギルドへ行く前に立ち寄った馬小屋で何とか止めて貰えることになった。

 今回はお金もないから只で宿泊できるけど明日からはどうにかして仕事をこなさないと・・・。

 食事中は結構楽しかったけど幾つか話も聞けた。

 冒険者ギルドの斡旋される仕事は等級で受けられる依頼が変わる。

 自分の等級に見合った内容を早めに見つけないと誰かに先を越されてしまう。

 だから朝は依頼達成に費やす時間も含めて混むらしい。

 今のわたしは無色の等級で混雑する時間を過ぎても受けられる依頼はあるから余裕をもって受けられるらしい。

 その等級は依頼の達成数や内容などで進級できるから頑張って(こな)すことが重要と言われた。

 ただ報酬は等級相応の配分でどうしても苦しい生活になるからそれは覚悟しなければいけない。

 まぁ今のところは等級を上げる必要がないからいいけど。

 それとこの町はベイグラッド領にある。

 ベイグラッド領はアルファン様が治めていた領地の西側でフレイメス帝国の中でも名前が広がり始めているとか。

 一方アルファン様が治めていた領地はロドリムズ男爵が管轄することになったけどベイグラッド伯爵と関係があるとかないとか。

 ベイグラッド伯爵の話を聞くと良い噂と悪い噂の両方が聞けた。

 良い噂は帝国に対して忠誠を誓っているとのこと。

 あとは領民の延納を認めているとか。

 悪い噂は周辺の領地を治めるのは殆ど男爵で彼らは皆伯爵と仲が良いことから以前の管轄していた貴族達は皆伯爵によって暗殺されたんじゃないかと言う話。

 去年のアルファン様の屋敷が消失して死亡が確認された話が出回ったことで余計に噂の信憑性を増させたとか。

 国単位の情勢としてはフレイメス帝国は北側のムンドラ王国とは国交を結んでいて交流が盛ん、そのムンドラ王国はゴルダ連合国と交流があり一部の街は交易所にもなっているとか。

 東側にはジェポタ公国があり、フレイメス帝国とゴルダ連合国と交易があるとか。

 一方、フレイメス帝国と仲が悪いのは西側のサンデル王国でフレイメス帝国は()の国へと領土を広げたいらしい。

 その理由は全土支配であり、最優先としてサンデル王国の西側の森や北西に用があるとかないとか。

 何故そう言った場所に用があるのかはわからないそうだ。

 ただ、この国では見ないエルフやドワーフがサンデル王国やステア王国で活動しているのが関係しているんじゃないかと見ている人もいる。

 数年前はサンデル王国内に魔王が出現してムンドラ王国やステア王国も国防に割いていてフレイメス帝国がそれに乗じてサンデル王国へ侵略する話もあったらしいけど実際はそんなことはなく平和に終わったらしい。

 出現した魔王もサンデル王国の勇者達が倒して平穏を取り戻した。

 しかし、数年後には邪神を名乗る存在が再び平和を脅かしたけどこれも討伐して収まったそうだ。

 なんだか前に何処かで聞いた話と似ている?

 サンデル王国で勇者の話が広がったように各国でも力を持つ存在はいるようでその一つにムンドラ王国の冒険者は青い剣を携えて巨大な魔物を一刀両断するとか。

 これも知っている気がする・・・。

 こういった話は偶に商人や吟遊詩人に冒険者達が国の外へ行って仕入れる情報を町民に流して噂になるらしい。

 全部が全部本当とは限らないから真に受けない人が殆どだ。

 二人から聞いた話を整頓して空いている馬小屋の藁の上に毛皮を引いて藁を体に纏いながら目を瞑った。

 久しぶりに人と交流できたなぁ・・・。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

基本的に不定期更新ですが時間のある時に見ていただけると幸いです。




雑談

この話から暫くはポーラの話になります。

いきなり一年後から再開しましたが、独りぼっちになった主人公の一年間の話は何処かで書くかは迷っています。

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