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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
異世界と言う現実
3/131

3話 暗転

本日もよろしくお願いします。


※6/13 一部修正 一部の文章の順番と整合性を変えました。

※11/22 微修正 一部の誤字脱字を直しました。

※三度目の加筆修正。話には影響ありません。

 召喚されてから大体三か月が経った。

 俺の状況は相変わらずで大官寺には陰で暴力を振るわれ、訓練でも兵士達による何かしらの名目で死なない程度に痛めつけられ、あとから谷川麻紀(たにかわまき)にまで目を付けられた。

 状況は最悪だけど、中園の言葉を胸に能力を使いこなして見返すことで自分の価値を示したい。

 体がボロボロでも今後生き残るためには時間の許す限り自主練をしたが強くなった実感もなく、体の節々が痛いままになっていた。




 この日は朝食を終えてから訓練の指導役でもあるガンボーが訓練場に俺達を集めて今日の趣旨を伝えた。


 「昨日も伝えた通り、朝からダンジョンへ向かい実戦してもらう!五人で一つのパーティーを組んでもらうが既に決めてあるのでそれに従うように!」


 それと各パーティーには兵士を一人ずつ随伴するようだ。

 今回の目的は実践を経て自分達の実力の確認と戦うことでより強くなってもらうことだそうだ。

 国が管轄するダンジョンがあってそれを利用するなんて本当にラノベのテンプレを踏んでいる気がした。

 一人ずつ呼ばれて整列させられてから全員がそれぞれのメンバーを確認し合っていた。

 今回俺が所属するパーティーメンバーは、英雄人(ランクS)、橘川明之(きっかわあきゆき)(ランクB)、幸田悠人(こうだはると)(ランクD)、谷川麻紀(ランクD)だ。

 俺との関係性で言えば誰もがクラスメイトだ。

 英とは何度か挨拶した程度で橘川や幸田は体育の時間に偶にグループ分けで一緒になったら少し話した程度、谷川はここに来るまでは一度も話したことはなかった。

 仲の良さはともかく、他のパーティーよりもランクの平均が下回っているみたいだがもしかしたら英に多くの経験をさせるためかもしれない。

 現状、自分達では攻撃力や防御力などのステータスと言うやつは分からないがモンスターを倒すことで見えないステータスが上がるのかもしれない。

 そして最優先で力を付けさせたいのはSランクの人達だろう。

 英とは仲の良いSランク達もある程度分かれていたのが良い証拠だ。


 「それと今から君達を守ってもらうためのネックレスを渡す。今日はそれを付けるように。」


 兵士達が小箱から一つづつ生徒達に渡す。

 そして、俺の所にはどの兵士も来ることなく出発することになった。


 「・・・やっぱそうだよな。」


 なんとなくだが、ここでも俺はいじめられるようだ。

 ガンボーに対して中園や船戸(ふなと)が何かを言っているがその話は直ぐに終わった。

 船戸が中園を落ち着かせていたが中園は一瞬俺達のパーティーを見て戻っていった。

 もしかしたら俺のために、と思ったが中園の助言に応えることが出来ていない俺なんて気にしていないのだろう。

 どちらにしても俺は今日も生き延びることを考えなければいけない・・・。

 

 


 ガンボー達騎士団と城を出て山の方へ進むこと二時間。

 途中で休憩を挟みつつ整備された山道を歩いてダンジョンの入口へ着いた。

 入口は木材などで補強されており直ぐに崩れることはなさそうだ。


 「それではこれからダンジョンの中層まで進むことになるが実はこのダンジョンの出入り口は幾つもある。そして、そのどれもが中層の大広間に繋がっている。今日はそこまで進んで貰うことになるが危険な場合は直ぐに退避してもらう場合もある。パーティー毎にそれぞれの出入り口へ案内するからそこから入るように。」


 それを合図に随伴する兵士達が引率して右へ左へパーティーを引き連れていった。

 俺達も兵士の一人についていき、案内された出入り口へ辿り着いた。

 前を歩いていた英から一言。


 「今日は初の実戦でチーム戦でもある。恐い気持ちはあると思うけどこの世界で生き延びるためには恐怖に打ち勝たなければならない。それには皆の協力が必要だ。だから、今日からよろしく頼む!」


 軽く頭を下げた英に橘川、幸田、谷川が明るく答えた。

 今のパーティーは今日限りのもので明日以降は変更があると言っていたのを忘れているのだろうか?

 いや、英としては同じクラスの仲間が一丸となって立ち向かいたいと言いたかったのだろう。

 どちらにしても四人は俺の事を見ていない。

 厳密にいえば谷川は俺を見下してサンドバックにするくらいには見ているのかな。

 とにかくチームの和を乱さないようにしないとな・・・。




 随伴する兵士曰く、このダンジョンは発見されてから百年以上が経っているようで基本的にはモンスターがダンジョンの外へ出ないように騎士団が間引きしているらしい。

 なのでダンジョン内のある程度までは通路の整備がされており、俺達が苦労する点はモンスターと戦うこと以外にはないと言われた。

 今回のことは攻略ではなく実戦と評したのも頷ける。

 大体のダンジョンは自然にモンスターが湧き出るらしく、その仕組みは未だに分かっていないようだ。

 それでも実戦の場所としては都合がよくて定期的に管理をしていれば問題ないとしたのだろう。

 そんな俺達の装備は訓練用のシャツとハーフパンツの上に革の鎧や肩当、ブーツが共通だ。

 英と俺は片手直剣で橘川明之と幸田悠人は木製の杖だった。

 英の【シャイニングオーラ】は近接戦闘でも遠距離戦でも発揮するようだが基本的には剣を持って戦うらしい。

 谷川は【バーサク】で所謂狂暴になるらしい。

 通常よりも刃が短めの両手直剣を帯剣していた。

 本人も望んで得た能力じゃないが今一扱いきれていない気がする。

 これで俺に向かって斬りかかられたらどうなるのか想像したくない・・・。

 橘川明之の【マジック・フレイム】は炎属性の魔法を使えるようで今ではほとんどの中級魔法まで使えるとか。

 幸田悠人の【マジック・ウィンド】は風属性の魔法で現在は2つの中級魔法を習得したらしい。

 魔法使い二人は後ろへ、俺達三人は前に出て随伴者の兵士は一番後ろで陣形を組んだ。

 橘川と幸田は前方を注意しつつもぽつぽつと話している。

 前衛に居る谷川は英と話しており、これを機に仲良くなろうとしているのだろう。

 俺は二人の視界に入らないように後ろへずれると谷川から「あんたは前に行きなさいよね!」と言って剣を抜いて脅してくるので仕方がなく二人よりも前に出て身構えることにした。

 英からは「悪いが頼む。」と言われるが、谷川の事を抜きにしてもそんなに悪く思っていなさそうな顔なのは気のせいだろうか。

 いや、気のせいだと思いたい。

 そして、しばらく進むと正面の薄暗がりから三匹のゴブリンが現れるや否や全員が身構えた。

 俺は初めて見る人型の怪物に複雑な気分になる。

 俺達は本当にこいつらを倒せるのか?

 そういう思考で埋め尽くされた中、英が号令を出した。


 「橘川と幸田は初級魔法の単発で牽制を!俺達はその後に斬り込む!」


 「わ、わかった!」


 「ふぅー。」


 橘川は声を上げて返事をし、幸田は呼吸を整えるために深呼吸をしていた。

 二人に限らず兵士以外の全員が大なり小なり緊張をしていた。

 それでも橘川と幸田は呪文を唱えて初級魔法を準備した。

 ゴブリン達が迫ってくるがまだ距離がある。

 英に言われて魔法使いの二人は呪文を唱えてファイアボールやウィンドカッターを放った。

 射出する少し前に射線軸から動いた俺達は二人が放った火球や色を帯びた刃の行く先を眺めた。

 いや、英だけが魔法の後を追いかけた。

 そして魔法が三匹の内、二匹へ当たった。

 二匹はそれぞれ熱さや出血のひどさに慌てふためいた。

 その隙を逃さない英は帯剣していた剣を抜いて攻撃を受けていないゴブリンの頭蓋を叩いて戦闘不能にした。

 そこからすぐにウィンドカッターを受けた二匹目を蹴り飛ばしてファイアボールを受けた三匹目に躊躇なく剣を振り下ろしてこれも戦闘不能にした。

 蹴り飛ばした三匹目が立ち上がろうとしたところへ同じように剣を振り下ろして叩き割った。

 こうして体感三分も掛からぬうちに三匹を戦闘不能に追い込んだ。

 この一連の戦闘に俺はこれ以上言葉が出なかった。


 「お見事!流石はSランクのユゥト様!」


 後方で待機していた兵士は英に近づいて剣を受け取って布で手入れをした。


 「ありがとうございます。」


 礼を言って英は剣を受け取った。


 「あと俺だけじゃなくて橘川と幸田にも言ってください。彼らの攻撃魔法のお陰で直ぐに片づけられました。」


 「素晴らしい!仲間も評価できるなんて将来有望ですね!」


 英は学校でもクラスメイト達と手を取りあい尊重する人格者だ。

 一方で兵士のべた褒めは異常な気がするもあまり気にしても仕方がないだろう。

 英の傍に寄ってきた橘川と幸田を褒める兵士を見ていると谷川が俺の方へ近づいてきてドスの効いた小声で話しかけてきた。


 「あんたも少しは役に立ちなさいよね。」


 直後に腹を殴られた。

 思った以上に強くて、お腹を押さえる俺を他所に谷川は英達の話に混ざっていった。

 そんなに進んでいなさそうだから、この場では後ろから襲われる心配はなさそうか。

 俺は腹を抑えながらなんとなく後方を確認して進路方向へと歩き出した。

 腹を抑える俺を見て誰も声を掛けないのはこの状況でも同じらしい。

 つくづく現状が嫌になるな・・・。

 俺が進み始めたことで他の人達も進み始めた。




 中層フロアと呼んでいる場所までそれなりに時間が掛かった。

 と言っても途中で昼食も挟んだのだが騎士団が発見したモンスターが近寄って来ない安全な空間で腰を下ろした。

 予め用意された食事は兵士が持っており、各自に給付されたがここでもランク毎にメニューに差異があった。

 英はSランクだからなのか中身が白く柔らかいパンと燻製肉、チーズ、木製の水筒に入ったスープ。

 Bランクの橘川は英を基準にしたらチーズがなく、スープの量も半分くらいらしい。

 Dランクの幸田と谷川の場合は燻製肉は半分の量で主食は黒パンになっていた。

 そして、Fランクの俺は黒パンだけ。

 橘川や幸田は俺の分を見て不憫な目をしており、英からは「ランクを上げれば良くなるかも。」と言われた。

 そもそも、ランクは上がるのか?

 上げ方を教えてくれよ!

 そう言った思いはあれど適当に相槌を打った。


 「あんたにはお似合いだわ。」


 やはり小声で言ってくる谷川は相変わらずだ。

 それでいて英の方へ行くと顔を明るくして話している。

 ころころ顔を変える谷川がある意味恐ろしいと思えた。

 その前後の道中は何度もモンスターに遭遇して倒していくが基本的には橘川と幸田が先制攻撃で魔法を飛ばしてその後に英が倒していく。

 勿論、毎回綺麗に決まるわけではなく魔法を外したり数が多いと俺や谷川がフォローした。

 俺は他と違ってFランクなだけにゴブリン一匹を倒せるかどうかなのに対して、偶に参戦する谷川は能力も相まってゴブリンを易々と倒したり他のモンスターとも拮抗していた。

 それ以前に女子の谷川もそうだが英や橘川、幸田は最初でこそモンスターを少し恐れていたように見えたが気づけば初めて見るモンスター相手でも平然と立ち向かっていた。

 橘川と幸田は後方で攻撃しているからかもしれないが一番モンスターを近くで倒した英が異常と思えたが何でも(こな)せるイケメン男子にはこういうことも直ぐに慣れるのかと思った。

 ただ、谷川に関しては能力の影響があったとしても流石に戦うことに抵抗する意識が簡単に薄れるとも思えない。

 けれども、実際にオーク相手でも果敢に立ち向かいながら「この豚がっ!」って言ったくらいだから本当の所はわからない。

 この時、橘川と幸田はドン引きしてたし英も苦笑いしていたことに当人は気づいていたのだろうか?

 こうして兵士の道案内もあってか誰もが多種多様なモンスターが出現するダンジョンの中層まで辿り着くことが出来たわけである。




 中層フロアは大きな空間で山の中に部屋を作った状態だった。

 かなり広く直径百メートル以上はありそうだ。

 天井や壁、床には多くの光る鉱石が顔を出しておりある意味幻想的だった。

 また空間の壁にはいくつもの出入り口があり、俺達の二倍くらいの大きさの穴が多く、それらと反対側に何倍もの大きさの穴が見えた。

 俺達は小さな穴の一つを潜ってきた。

 そして、俺達が中層フロアへ辿り着いたときには既に他のグループも着いていた。

 なんなら、俺達のグループが最後だった。


 「おい雄人!遅かったじゃないか!」


 「結構モンスターを倒してきたんだが。皆は違ったの?」


 「比べようはないが俺達もそこそこ倒したぜ。」


 北山が英に話した内容は本当の事だろう、周囲の人たちも同意していた。

 そして、俺達もそれなりの数に遭遇したのだが。


 「まぁ、Fランクがいるんじゃ遅いわな!」


 大官寺がこれ見よがしに絡んできた。


 「彼の力はともかく結構戦ってたのは本当だから。」


 英がそう言って大官寺を押し留めた。

 学校生活の中で英と大官寺は積極的に話している姿を見たことはない。

 ただ、俺の見ていない場所で話すことはあったかもしれないが。

 印象に残っているのは、クラスの意見を聞くときに大官寺と揉めることもあっても最終的には大官寺が折れるか英が尊重していたか。

 実際に二人の仲の良さは知らないがこうして見る限り悪いわけではないらしい。

 今もそうだが英は大官寺相手でも臆したり嫌がることをせず対応するし大官寺も英達に対して暴言を吐くことがなかった。

 と、これで話が終わって帰るだけならどんなに良かったことやら。




 中層フロアに通じる通路のほとんどから何か音が反響し始めた。


 「なに?」


 「なんか聞こえるね。」


 と女子達が話した。


 「なんも聞こえない・・・こともないか?」


 「どこから聞こえるのかわからん。」


 音が大きくなるにつれて何人かは不安になっていた。

 兵士の一人が英に声を掛けた。


 「もしかしたら大量のモンスターが流れ込んでくるかもしれません。全員に迎撃の準備をさせてください。」


 英は緊張した面持ちで事態を受け止めて全員に号令を掛けた。


 「聞いての通り、このフロアへモンスターが雪崩れ込んでくるかもしれない!それに備えて全員で戦う準備をして欲しい!」


 「でも、モンスターが来ない出入り口もあるかもしれないでしょ?そこから逃げれば良いじゃない。」


 菊池がそういうも英は首を振った。


 「どこから来るか分からない以上は下手に出入り口へ行って殺されるわけにもいかない。もし、何ヵ所か来ない場所があっても安全だと言う保障はないから全員でどうにかした方が確実だ。わかってくれるね?」


 「雄人がそういうなら。」


 英の考えを聞いて菊池が引き下がったことで不安に感じている人達も大なり小なり覚悟を決めたようだ。


 「先程一緒にいたパーティーを組んで対処して欲しい。勿論他のパーティーが窮地に陥ったら助けてあげて欲しい。いいかな?」


 「「「おーっ!」」」


 大半の生徒が声を上げて気合を入れたようだ。

 そうしてパーティー毎に集まって距離を取れば各方面からモンスター達が現れた。

 ゲームでお馴染みのゴブリンやオークを始めコボルドや人型ゾンビが多くいたが角を生やした角ウサギや人間大のウォーバッドなど空想上でいそうな動物の変異種が複数種類いた。

 そうして全員で混戦状態に入った。

 まず、魔法を使える人達で攻撃魔法が放たれた。

 どれも初級魔法で威力は低いけど発射までは速く弾幕を張るように放たれていた。

 火、水、風、土の攻撃魔法が次々に敵を倒していく。

 勿論全てに当たるわけでもないので取りこぼしが前に来れば即座に英達が斬り込んでいった。

 ここに来るまでモンスターを倒したからなのか目に見えて軽々と敵を屠っていた。

 特にランクの高い人達が顕著でBランク以上の人達は体の大きなオークですら一撃で倒していた。

 モンスターの数がどれほどのものか分からないが、この分なら大丈夫だろう。

 俺は前衛でモンスターの足止めをしながら安堵を覚え始めると背後から大きな振動を感じた。


 「なんだっ!?」


 北山が背後を振り向くと俺を含めた一部の人間はモンスターと距離を置きながら背後の大きな穴の方を向いた。


 「で、でかい・・・。」


 俺達の背後から現れたのは巨大なモグラだった。

 正確な体長はわからないが五十メートルプールに収まりそうなサイズのモグラが二足歩行していた。

 他に特徴的なのは青く見える体表や額の黒い宝石、鼻の近くから生えている左右十本の触覚がゆらゆらと動いているところか。

 兵士の一人から英へ進言があった。


 「ユゥト様、あれはここよりも下の階層に現れるイビルモルというモンスターです。巨大な前脚と爪を振り回すだけでなく伸びる触覚で小さな敵を誘導したり土魔法も使う厄介な敵です。」


 「俺達の実力で勝てますか?」


 「確かにイビルモルは巨体で倒すのに苦労をしますが全員で協力すれば倒すこともできます。」


 「そうですか・・・。まだ、小さなモンスター達もいますが分散して対処するのが良いでしょうか?」


 「そうですね、下位ランクの方たちであれば残りのモンスター達を殲滅するのも難しくはないでしょう。」


 「あとはあいつの弱点とかはあるのでしょうか?」


 「額の宝石を壊せば倒すことが出来ます。」


 「そうなると魔法による攻撃が有効そうですね。」


 「私達も協力するので安心してくださいね。」


 「ありがとうございます。」


 「それと・・・。」


 「えっ?・・・わかりました。」

 一瞬訝しんだ英が周囲を見回して大声で叫んだ。


 「皆聞いてくれ!今からあのモグラも倒すことになった!C、D、Eランクは引き続き小型モンスターを倒してくれ!Bランク以上の人達はモグラを倒すことに専念して!」


 一部は兵士達が遠くにいた人達に伝えたようで英の号令に従って再編成された。

 CからEランクの人数は十六人でBランク以上は二十三人と結構な人数差があるものの小型モンスターの数も減っているから問題はないと思ったのだろう。

 しかし、ここに来て遂に俺は完全にいない子になってしまった。

 それでも俺は目の前のゴブリンを相手にしようとしたら横から兵士が来てサクッと倒してしまった。

 今の俺の実力はゴブリン相手でどうにかなり、体の大きいオーク相手だと苦戦する。

 対してこの兵士が軽やかに決めたのを見ると俺よりも兵士達の方が強いと思った。


 「Fランク、お前には重要な役割がある。一緒に来るんだ。」


 有無を言わさずに兵士は俺を引き連れた。

 更にもう一人の兵士も合流した。

 俺一人に兵士が二人って?

 英達がイビルモルへと距離を詰めていく中、俺達は壁際に沿って大きく回り込んでいた。


 「あの、重要な役割って?」


 「イビルモルを倒すための援護だ。」


 「自爆とかなら嫌ですよ。」


 ここにきて重要な役割と言い出すあたり都合がよすぎる。

 俺は嫌な予感がしたので拒否をした。


 「そんな特攻する役割じゃないから安心するんだ。一先ずお前は壁側を走れ。所定の位置までイビルモルの攻撃の余波から守ってやる。」


 自爆じゃないなら安心した。

 とは言え現状命が掛かっていることには変わりはない。

 俺も役に立ちたいと言う思いから兵士の言うことに従う。

 イビルモルの背後まで走った時には既に英達が戦っていた。

 敵の後ろへ回り込んだので反対側にいる彼らの戦況はわからないが彼らを信じるしかない。

 そこへ兵士が背嚢から野球ボール大の土色の珠を取り出した。

 感触はスベスベしており水晶のようにも思えた。

 少なくとも泥団子じゃないよな?


 「これはある魔法が込められた魔道具だ。使いきりだが、この戦いで大いに役立つ。」


 「どう言ったものですか?」


 「簡単に言えば相手を怯ませる魔法なんだが正面からだと使いずらくてな。」


 「これを投げて当てればいいんですか?」


 「その通りだ。」


 「それなら俺じゃなくても。」


 「いや、お前の能力が重要なんだ。」


 俺の能力が重要?

 どういうことだ?


 「不思議に思っている顔だな。なに、やってもらう事は投げるタイミングをお前の能力で見極めて欲しいんだ。一回限りだから適当に投げられても困るわけだし。」


 一回限りで失敗は許されない、というのは本当のことかもしれない。

 ここで実力や功績を示せば少しは風当たりが良くなるかもしれない。


 「分かりました。因みにどのあたりへ投げればいいんですか?」


 「あいつの尻尾に当てるんだ。尻尾に衝撃が走るとイビルモルは怯む。それから地面に転がっても発動しないからな。」


 「タイミングを見てやってみます・・・。」


 俺は内心恐怖に支配されながらも少しの希望を抱いてイビルモルに近づいた。

 皆が戦っている。

 皆が頑張っている。

 俺もその中に入りたい。

 俺は自分が主人公じゃなくても皆と一緒に居たい。

 そんな思いが浮かんでくるもそれが叶うのは大分先だろう。

 今はこいつを倒す手助けをするんだ。

 俺はイビルモルの動きに合わせて距離を取りながら【フォーチュンダイアグラム】を使った。

 

 >>俺が投げた珠が放物線を描く。

 >>着地点は尻尾よりも大分手前。

 >>何も起きずに終わった。

 

 ここからでは当てられない。

 そして、距離はもっと進んでから出ないと意味がない。

 そうして俺は更に距離を詰めて能力を使う。


 >>俺が投げた珠が放物線を描く。

 >>動く尻尾に当たらず地面に着地。

 >>何も起きずに終わった。


 距離は大丈夫。

 後は動く尻尾に合わせるだけ。

 ここからは何度か能力を使ってタイミングを計った。


 >>俺が投げた珠が放物線を描く。

 >>動く尻尾に当たりイビルモルが体を震わせた。

 >>珠は地面に落下した。


 そして、遂に効果的なタイミングを見つけた。

 途中から珠を渡した兵士が近づいてきて「護衛は任せろ。」と言ってきた。

 それなら最初からついて来いよ!と思ったが掴んだタイミングで珠を思いっきり投げた。

 運動部にすら所属していない俺が珠を勢いよく投げられるのはもしかしたら以前よりも身体能力が上がっているからかもしれない。

 それはモンスターとの戦いである意味証明できていたかもしれないがボールを投げる動作を比べるとより実感できていたんだ。

 物を投げるくらい簡単なことだよな。

 そして、投げた珠は動く尻尾を捉えて当たった。

 バンッという音が響いたと同時にイビルモルの体が震えて動きが止まった。

 当たった珠が地面に落下して数メートル転がった。

 一方、反対側では一際大きな声が上がっていた。

 ここからが本当の勝負だろう。

 俺は安心して傍にいた兵士に振り向いたとき。


 「ウォーターボール!」


 兵士が右手を翳してイビルモルへ向けて放った。

 背後からも攻撃を仕掛けて体力を削ろうとしているのか。

 俺はそんな風に思った。

 撃たれたウォーターボールがイビルモルに当たることなく手前の地面に落下した。

 厳密に言えば俺が投げた珠を濡らした、と言うのが正しいのかもしれない。

 それと同時に珠から勢いよく土煙と爆風が発生した。

 予想外の展開に俺は腕で顔を覆ったが、直後に誰かに捕まれたのか地面への踏ん張りが効かずに大きく後ろへ飛ばされた。


 「!?」


 何が起きたか分からず地面を転がり続ける中、更に地面が隆起したのか俺を突き上げて壁際まで転がされてしまった。

 煙や爆風はあの珠かもしれないが地面の隆起は土魔法でイビルモルが仕掛けたのかもしれない。

 余りの出来事にうまく思考が働かない俺を他所に声が掛けられた。


 「お疲れさん。イビルモルの足止めに感謝する。そしてお前はここでお別れだ。」


 土煙の中、男の声が聞こえたが上手く目を開けられず誰か分からなかった。

 そして転がっている俺の腹が思いっきり蹴られて更に奥へと転がされた。

 地面は勾配があるのか自然に止まることはなくどんどん奥へ進む。

 無理やり力を入れようとしても体は痛いし勾配が少しずつ大きくなっているのか転がる勢いを止められない。

 土煙で目が痛くなることを覚悟して目を開けたら真っ暗で何も見えない、ただ俺自身が回っていることしか分からない。

 そうしていつ止まるか分からない恐怖へ苛まれながら転がり続けていった・・・。

読んで頂きありがとうございます。

主人公が立場的に落とされる場面は尺の取り方にも寄りそうですが

諸々が難しいですね。

次の展開へ行くために気が逸ったかも知れません。


補足

平本慎吾の能力について

1話目で触れましたが、この行動を起こしたら結果がどうなるだろう?

を脳裏で思い浮かべる力です(ざっくり)。

その過程や結果がある種の未来予知(実行したら現実になる)映像を

瞬時に把握できます。

それらの描写を>>で表してみました。

この話においては一行目が自分の行動、二行目が過程、三行目が結果

で簡単にですが書かせていただきました。

ただ、この描写の法則がこの話だけになるかもしれないので了承ください。

それとこの能力って将棋や囲碁で何手先を読むか、と変わりない気がします

(棋士の方達が凄いのであって平本晋吾の能力がファンタジー能力なのか?

)。


谷川麻紀について

大官寺とは別に平本慎吾を追い詰める立ち位置。

誰もが違う環境でストレスを抱える中、大官寺以外にもいそうかと思い、出してみました。

彼女の場合は周りに共感が得られる友人が居なくても平本慎吾に悪い方で構っていますが、能力による弊害(と言うことにしてください)で当たっています。

近いうちに彼女を含めたクラスメイト達の話(或いは背景)も書けたらと思います。


モンスターについて

今回出てきたイビルモルは魔石を頭に填めた巨大モグラです。

そして、この作品オリジナル(もしかしたら似たようなのがファンタジー関係の原典などであるかもしれません)が今後も出てくると思いますので了承ください

(或いはアレンジなどですかね)。


不定期更新ですが暇つぶしにでも見て頂ければ幸いです。

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