26話 探し出すために ―中園利香―
本日もよろしくお願いします。
※微修正しました。
魔王討伐から一月以上経った頃。
寒さが増した時期だけどあまり雪は降らない国らしい。
私達は寒さに震えつつ、サンデル王国に戻って幾つもの行事に参加させられた。
主に王城での催しが多かったけど、地方に行って貴族達のパーティーにも参加させられた。
国へ貢献している強い立場の貴族の所へ足を運んで色々話しては逆に聞かされたことで、私もそうだけど殆どのクラスメイト達はかなり疲れたはず。
私達の事はどうであれサンデル王国としては、このタイミングで異界の勇者を国内外にアピールするのが目的らしい。
そんなことに使われる前に行われた鈴木君の葬儀はかなり簡素で木桶に真新しい普段着を着せられて城の近くの墓所で土葬された。
仲の良かった武田君や桑原君が一番悲しんでいたけど私達や他の子達も悲しんでいたと思う。
でも、中には全然気にしない人もいて正直理解に苦しんだ。
大半の生徒は静かにしていたけど、大官寺君や谷川さんは式が終わるとあっけらかんとして喋り出したけど内容が酷かった。
「弱い奴だったから死んで当然だろ?こんな葬儀する価値なんてないだろ!?」
「あー、どうかな・・・。」
いつも大官寺君と話す小田切君は彼と違って人前で誰かをバカにすることはなかった。
それでも大官寺君は鈴木君をバカにするような内容ばかりであまり聞いていられるものじゃなかった。
私が動こうとしたら船戸君が大官寺君の元に向かった。
「大官寺。」
「あ?なんだお前?」
「あまり亡くなった人間についてとやかく言うべきじゃない。俺達は大事なクラスメイトを失ったんだ。」
「だからなんだよ?親しくもない奴に気を遣う理由なんてねーんだよ!俺に指図すんじゃね!」
大官寺君は小田切君を連れて何処かに行ってしまった。
なるべく穏便に済ませようとした船戸君には感謝しなきゃ。
その直後に谷川さん達のグループにも出くわした。
「なんであのデブのために時間を割かなきゃいけないの?」
谷川さんは怒って仲間内に不満を漏らしていた。
「ねー、正直居ても居なくても変わらない人だったしぃ。」
本気なのか冗談なのか藤田さんも谷川さんの話に乗っていた。
「そんなことよりさぁ。」
高木さんは話題を変えようとしていたけど中々話題が変わらず罵詈雑言が続いた。
そんな彼女達に樹梨ちゃんが近づいた。
「あんた達さ、ギャーギャー煩いんだよね。少しはその口を閉じたら?」
いつも落ち着いている樹梨ちゃんだけど声のトーンが幾分か低かった。
それだけストレスが溜まっているのが分かる。
「はっ?あんた何様?普段は活躍してないのに偉そうに言わないでくれる!?」
「それに誰が亡くなっても気分が良くないのにあんた達みたいに騒ぐ奴がいるのは迷惑だよ。」
「あんたには関係ないでしょ!?」
谷川さんや藤田さんは怒りながらもその場を後にした。
ここまで二グループが騒いでいたけど英君は現れなかった。
英君がいたら彼らを止めていたか、逆に英君を見れば話を止めたかそのどちらかだと思う。
実際のところ、葬儀が終わって直ぐに彼は王様や大臣と別の場所で話し合っていたらしい。
更に葬儀が終わって皆が散らばったのを良いことに彼らは色々と言っていたけど私に限らず樹梨ちゃんも船戸君も彼らの思考や神経が分からなかった。
そんな一悶着も終えて様々な催しに出て。
それでも私達が元の世界に帰れる話は出てこない。
アニーさん曰く。
「まだ、この国や世界の脅威が存在しています。その全てが取り払われるまで皆様の力添えをお願いします。」
女子の大半は絶句していた。
男子も一部は不満を漏らしていたけど、帰る手段が分からない以上従う他ない。
サンデル王国内の治安が落ち着くころには魔王の侵攻を受けたステア王国とムンドラ王国との会談が長引いているらしい。
要約するとサンデル王国の魔王討伐が遅かったためにそれぞれの国に被害が出たからその補償をしろというものだ。
魔王の出現地と拠点はサンデル王国の北部だったけど、ステア王国とムンドラ王国の国境に近かったことから魔王軍が四方八方に派兵して侵略していたらしい。
私達はその事実を事前に聞かされていたけど極秘扱いだったのは言うまでもない。
それ以前に伝える相手は居ないのだけれど。
あとは東側のフレイメス帝国との睨み合い。
今のサンデル王国はなんとか帝国に対する防衛力を維持しているものの、領土拡大を狙っている帝国からいつ宣戦布告されるか城内の騎士達も緊張をしている人達は少なくなかった。
そんな状況だけれど、私達クラスメイトが前線に出て戦う事態にはなっていないため城の敷地内で過ごせているのはまだ良い方。
「よく許可が下りたね。」
樹梨ちゃんが船戸君に尤もな疑問をぶつけてきた。
私と樹梨ちゃんと船戸君の三人で最初に訪れたダンジョンへ向かっていた。
後ろから兵士が二人ほど付いてきているけど護衛と言う名の監視役。
万が一、脱走されたり死んだりしたら困るのが本音だと思う。
私と樹梨ちゃんは胸当ての上にローブを羽織って、船戸君は革鎧と大剣と予備の剣を携帯している。
「腕を訛らせないようにダンジョンで探索させてくださいって伝えたら簡単に許可が下りたぞ。」
「意外。」
王国側に対して意外と快く受けてくれるんだなぁと感心しちゃった。
「他の人達は?」
「話を聞いた英から参加の意思がある人全員で行こうと言われたが、非常時に備えて少数で行くべきだと言ったら納得してくれた。」
「確かに。じゃあ、これからはローテーションしてダンジョンへ行くって事?」
「あぁ。参加したい人たちでスケジュールを組むのが前提だがな。」
樹梨ちゃんが懸念しているのは私達の本来の目的が阻害されないかどうかだと思う。
その点を含めて出来るだけ円滑に進めることが出来たみたい。
私達はその話し合いに参加しなかったけど船戸君が代表して話に参加しているので大丈夫だった。
「参加の意思を示したのは英達のグループと大官寺、飯田や田辺もそうだな。女子のグループはあまり聞いてないが二人は何か聞いてないか?」
私も樹梨ちゃんも他の子達の事はあまり知らないから首を横に振った。
「無理は良くないからな。二人もそうだが定期的に参加しなくても問題はないからな。」
「船戸はどうするの?」
「目的を果たしても体を動かす意味では今後も行くつもりだ。」
「そっか。」
樹梨ちゃんは悩んでいるみたいだけど今回で見つからなければ次回以降も行くつもりなのは変わりない。
ダンジョンに着いてからは遭遇するモンスターを相手に二人が倒していく。
私は暗い道を二人よりは見渡せるから早い段階で接敵を知らせて援護する。
それと松明で周辺を照らすことくらい。
攻撃手段の乏しい私でも二人は変わらず接してくれるのが嬉しかった。
何度か休憩を挟みつつ中層フロアまで来た。
「三人でも来れるもんだな。」
船戸君が感慨深くなっている。
魔王討伐までこのダンジョン自体は何度も訪れてはいるけれど、五人から八人編成で動いていたのもあり船戸君がそう思うのも尤もだと思う。
ただ私は能力面では戦う事ができないし、武器の扱いも上手くないからこの場では実質二人だけで進んでいる。
「相変わらずここにもモンスターはいるんだ・・・。」
最初に来た時はモンスターが居なかったけど、それ以降はこの中層エリアにも何匹かモンスターが徘徊するようになっていた。
それでもコボルドやオークくらいでそれ以上の強力なモンスターがいないのは幸い。
樹梨ちゃんの【オーバープレッシャー】で固まっているコボルド達を纏めて圧力をかけて平らに、船戸君は大剣でオークを真っ二つに斬った。
異世界に来る前の私ならこの光景を見て気分が悪くなって吐いたかもしれないけど今では平静を保てるくらいにはなった。
「これで全部だな。」
周辺を見回すと生存しているモンスターは居ないようだ。
ダンジョン内の倒したモンスターは時間が経つと粒子になって消えるため事後処理の必要がない。
そして落ち着いたところで私は二人の兵士に頼むことにした。
「すいません、私の荷物を何処かに置いてきてしまったみたいで。申し訳ありませんが探しに行ってもらえないでしょうか?」
「えっと・・・わかりました。自分が探しに行きます。」
「念のため、二人で向かってもらえませんか?一人だと何かあった時に対処出来なかったり私達と連絡を取れるようにした方が良いと思います。」
「はぁ、そういうことでしたら。おい、行くぞ。」
「わかった。お三方はこの場から動かないでくださいね?」
「私達はこの中層フロアで待機しています。」
後ろに居た二人の兵士をこの場から退去させた。
「悪い女だね。」
「樹梨ちゃんも一緒に考えたでしょ?」
意地悪な顔で言う樹梨ちゃんに私は肩を落とした。
この場所に着いたら兵士の人達に居て欲しくないからそのための方法を事前に考えた。
それが途中で荷物を置き忘れること。
荷物の中身は支給された物だから仮に失っても痛くはないと思うことにして実行した。
ただ借り物だからこういうことで罪悪感が湧いてしまったけどそれを押し留めた。
「中園、早く済ませるか。」
「うん。」
船戸君に促されて私はこの中層フロアの壁や通路を見回した。
【クリアテイカー】は目を通しての感知に優れている能力だと言う。
と言っても兵士の剣を見たら説明文が表示されるわけでもなく誰が作ったか分かるわけではない。
単純に生命エネルギーとか魔力が見える。
或いは通常人の目には見えない何かが見える、が正しいのかもしれない。
私は集中して見回すとダンジョン内部は魔力が循環しているのかどこを見ても魔力の流れが見える。
だけど、一か所だけ流れの違う場所があった。
私はその場所へ歩き出す。
二人も私の後を付いてきた。
「ここ・・・。」
以前、イビルモルが現れた大穴の正面左側。
壁に人が通れるくらいの面積で魔力の流れが異なっている。
その場所にゆっくり手を触れるけど何も変化はない。
私は思い切ってその先を見通すように意識した。
少しずつ、その壁が透過してきた。
その先は・・・下り坂になっていた。
その下り坂は中層フロアと同じような魔力の流れになっていたけどその終着点からは今までと違う魔力が流れていた。
「っ!?」
慣れない使い方をしたからなのか体から力が抜ける。
「利香!?」
「おい!?」
二人が同時に受け止めてくれた。
「何、今の?」
「これは?」
能力を解除した後に二人は心配そうに私の顔を覗いた。
「私は・・・大丈夫だよ。」
「取り敢えず大穴から離れよう。」
船戸君が私を抱えて大穴から離れた。
壁際にもたれ掛かって樹梨ちゃんに携行容器に入った水を貰う。
「ありがとう、二人とも。」
「これくらいはな。」
「利香、何かわかったの?」
私は呼吸を整えてから思い出す。
「さっきの場所、壁なんだけどあそこだけ魔力の流れが違っていたの。それで触ってみたけど何も変化はなくて。次に壁の向こう側を見通せないか試してみたら向こう側が見えたんだけど・・・。」
「あそこが隠し扉なわけか。」
恐らく船戸君の言う通りだと思う。
「見えたのは長くて急な下り坂。そこを抜けた直後にこことは違う魔力を感じたんだけど、それで・・・。」
「無理しちゃったんだね。」
寄り添ってくれる樹梨ちゃんが暖かい。
「そこまでしか分からなかった。」
「十分だよ。多分そこに何かがあるはず・・・。」
「そうだな。どっちにしても時間もないからな。」
船戸君が視線を向けると二人の兵士が私の鞄を探して戻ってきたようだ。
「ありがとうございます。」
「いえ、これくらいなら。」
「このあとはどうされますか?」
「もう暫く休憩してから今日は帰ります。」
「わかりました。」
手掛かりを掴んだかもしれないと内心焦るけど、船戸君は私達に無茶をさせないようにしている。
ここで私が騒いでもダメだ。
兵士達に気づかれるわけにもいかない。
「利香、城に戻ったらもっと聞かせてね?」
「うん。」
小声で話して休憩をとれば私達は無事に城に戻ることが出来た。
その日の夜。
今日は樹梨ちゃんの部屋に集まった。
「それでさ、利香。聞きたいことがあるんだけど。」
「何?」
「利香が倒れて受け止めた時、一瞬いつもと違うものが視えて・・・。」
「違うもの・・・。」
「なんか靄みたいなやつ。緑とか青とか。」
「っ!」
「俺もそんな感じのが見えたな。」
樹梨ちゃんの言葉に驚いたけど船戸君も同じ物を見たと言っている。
「もしかして、私の見える光景が二人にも視えたってこと?」
「同じものか分からないけど。」
樹梨ちゃんにしても船戸君にしても私の能力でどんな風に見えるかは分からない。
そもそも主観的な能力だから。
「二人に見えたものが私と同じものなら・・・。」
二人が私を受け止めた時、まだ能力は使っていたし目を向けたままだった。
「能力を使っている私に触れていると同じものが視える?」
「本当ならそうかもしれないな。」
「じゃあ、今から試して。」
「それはやめておけ。今日は無理をしたから休んだ方がいい。」
「でも。」
「それに時間はまだある。ダンジョンに行かない日は中園の能力とかは無理をしない範囲で検証すればいいはずだ。」
「船戸の言う通りだよ。」
「うん、そうだね。今日は能力は使わないようにする。」
二人が安心しているのは能力を使わなくても分かる。
「それじゃ、俺は先に失礼する。」
「また明日。」
「今日はありがとう。」
「応、二人とも遅くなるなよ。」
船戸君が退室してから樹梨ちゃんと色々話したけどいつもより早めに切り上げて自分の部屋で就寝した。
今日は新しい発見があって驚いたけどそれが良いことなのか分からない。
でも、平本君に辿り着けるなら頑張らないと。
異世界に来てから平穏に過ごせる日々だったけど、異界の勇者としてこれからも戦場に立たされることをこの時はクラスメイトの誰も知る由もなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが今後も時間のある時に見ていただけると幸いです。




