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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
奪われる弱者
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25話 決戦の日 ―中園利香―

本日もよろしくお願いします。

24話のサブタイトルの一部を変更しましたが内容の変更はありません。


 魔王討伐軍として魔王が拠点を構えるサンデル王国北部に来て約一月。

 クラスメイトだけで戦う姿は何度も目にしたけど、騎士や兵士達が戦う姿は初めて見た。

 私は後方で待機をしているけどこの戦場は燃え上がる炎と舞い上がる土、そして血の匂いが充満している。

 戦うことに慣れていない私達高校生は戦争に怯えて気持ちが悪くなって逃げ出すかもしれない、そう思っていた。

 だけど、誰一人背を背けることなく戦場に立っている。

 半年も経てば慣れるものなのかな?

 そう思う一方、私にしても他の女子にしても誰一人怖がることがなかったのは正直意外。

 これが普通なのか召喚された勇者だからなのか、或いは・・・。

 理由は分からないけど恐怖で動けずに殺されるよりはまだいいのかもしれない。

 そうして、皆が騎士や兵士達と力を合わせて戦線を押し上げていた。


 「お疲れ様。」


 私は樹梨ちゃんと船戸君に木製のコップに入った水を渡した。


 「ありがとう。」


 「ありがとな。」


 二人は水を少しずつ飲んでいく。


 「私は全然戦場に出られないから役に立てていないけど。」


 「そんなことはない。寧ろ利香は出なくていいよ。」


 樹梨ちゃんが真剣な目をしている。

 船戸君もそうだと肯定した。


 「人には出来ることがある。俺みたいなのは前に出て敵を倒す力があるから戦場に出る。中園には中園の力の使いどころがあるからな。」


 「二人ともありがとう。」


 今のところ、私は後方支援として軽い怪我をした人達の手当てや物資の運搬の手伝いをしている。

 今回の討伐では南下するモンスター達と戦って魔王の元へ行くことを第一目標にしているけれど、補給線の確保も必要なため、

ある一定範囲を確保したら拠点と中継地を作りつつ最前線付近に防衛部隊が夜戦をしても取り戻した土地を維持できるように緩衝地帯を設けている。

 集団が一日に進める距離も限界があるので大きな前進はないものの確実に侵攻されたサンデル王国の領土を取り戻しつつ攻め入る事を作戦にしているらしい。

 私達から少し離れたところに谷川さん、高木さん、藤田さんがお話をしている。


 「はぁ~。今日も疲れたわよ。」


 「麻紀は前で戦ってたもんね。」


 「だよねぇ。私ら女子高生が戦ってるの凄くね?」


 自身の肩を揉み解す谷川さん、褒める高木さん、自分達の評価をする藤田さん。


 「杏奈は味方を回復してただけじゃん。後ろとか楽でしょ?」


 「まぁね。でもずっと回復の魔法を掛けるのも疲れるんだよ?」


 「魔力とかたくさん使うもんね!でも安全じゃん。私なんて前に出て戦うんだよ?毎回モンスターに襲われて恐いわよ。」


 「あはは。」


 藤田さんは【ヒーラー】として回復魔法を使って怪我人を治している。

 谷川さんは【バーサーカー】の能力で近接戦闘が得意なため前に出て戦っている。

 ちょっと引き気味に笑っていたのは高木さん、彼女は【マジック・ウォーター】で水魔法を使って後方から遠距離攻撃で支援している。


 「それに比べて私みたいに戦わなければ唯みたいに遠くから攻撃できないし杏奈みたいに怪我人の回復も出来ないお荷物がいるのは酷いと思うんだけど?」


 「だよね、楽するなって思うわ。」


 谷川さんと藤田さんがそんなことを言い始めた。


 「もしかしたら騎士や兵士に媚売ってたりして?」


 「それってもう売女じゃん!」


 主に谷川さんと藤田さんで盛り上がっている。


 「三戸だって薬作ってるのに!」


 「あいつの薬って安全なのって!」


 「怖くて飲めないよねぇ!」


 「それでもあいつは薬作ってるからまだいいじゃん。」


 「そうそう、あの人はそれすらもしないから。あ、出来ないんだっけ!」


 「作られても飲めるかって!」


 笑い声が響く。

 周囲の兵士達は気に留めていない。


 「あいつら何様?」


 樹梨ちゃんが明らかに怒っている。


 「樹梨ちゃん落ち着いて。」


 「平気な顔してあんな事いうなんて許したくない。」


 私も樹梨ちゃんも谷川さん達が誰のことを言っているのか分かる。


 「それでも落ち着いて。」


 「でも!」


 私は樹梨ちゃんの手を掴む。


 「いいの。私の事なら本当だから。それに今騒ぎにするわけには行かないよ。」


 言われて平気、じゃないけど耐えられないわけじゃない。

 船戸君も動き出そうとしている。


 「船戸君も待って!」


 「しかし。」


 「いいの。私は大丈夫だから。それに二人がさっき言ってくれたから。」


 それを伝えて二人は顔を見合わせた。

 納得はしてくれていないと思うけど幾分か落ち着いてくれた気がする。


 「もし、本当に嫌なことがあったら言ってくれ。俺も中園や近野の力になりたいからな。」


 船戸君が頼もしい。

 樹梨ちゃんも同じく思っているのか少し照れている。


 「私も利香が大事だから。あいつらが何かするようなら黙っていないからね。」


 「うん。ありがとう。」


 「船戸はまぁ、大丈夫だとは思うけど。」


 「そうだな、俺は大丈夫だ。だから気兼ねなくして欲しい。」


 前よりも船戸君と関われるようになった。

 勿論、樹梨ちゃんも船戸君と打ち解けている。

 友達は少ない私だけど異世界に来ても恵まれている。

 だからこそ、私は平本君も・・・。




 十日ほど経った頃。

 現在の最前線に初めて目撃されるモンスターが出現して今日出撃した部隊が撤退を余儀なくされたらしい。

 クラスメイトには飯田君、桑原君、本村さんの三人が現場に居たけど全員命に別状はない。

 回復魔法かポーションでどうにかなるから数日後には元気になると聞いてホッとした。

 その数日後に新たに出現したモンスター【ディルアース】をクラスメイト達で倒すことに成功した。

 人型で鹿の頭と角、二本の尻尾の先に鳥の頭があり、槍とタシットを装備していたらしい。

 英君を始め私を含む十人は待機させられていたから詳しい状況はわからなかったけど、樹梨ちゃんと船戸君が教えてくれた。

 実力は今までのモンスターよりもあって、かなり苦戦をしたと。

 最後は皆の力を合わせて倒したけど、魔王の強さはこれ以上かもしれないし同じ強さのモンスターが他にもいるかもしれないと言う見方も出てきた。

 それでも私達に退くという選択肢はなく、恨みはないけど魔王を倒すしかなかった。


 「過去の文献によると私の【クリアテイカー】は魔王の弱点を見抜くらしいの。」


 「魔王が何度も出てきているなら弱点は同じ場所じゃないのか?」


 船戸君が言うのも尤もな話だけど実際は違うらしい。


 「過去に同じ場所を狙っても倒せずに敗北寸前っていうこともあったらしくて。」


 「それって一番危ない役じゃん。利香を晒すわけには行かない。」


 「そうだな。そこはノーマンさんに頼んで俺と近野をつけてもらうようにしようか。」


 「癪だけど私だけじゃ守り切れないから・・・その時はよろしく。」


 「あぁ、俺もよろしく頼む!」


 「二人ともありがとう。」


 色々話してノーマンさんには二人を護衛に付けて貰えることになった。

 これほど心強い人達はいない。


 「二人なら安心できるよ。」


 「絶対生き抜く。」


 「二人とも気負い過ぎるなよ?」

 



 更に数日後、私達クラスメイト全員を含めた討伐隊で行軍を始めた。

 近くまで行くと建築物が見えた。

 その建築物は魔王が生み出したモンスター達によって作られた魔王城だけど、かなり不気味だった。

 ディルアースを倒したからなのか魔王城近辺までモンスターによる待ち伏せや奇襲が一切なかった。

 その状況を踏まえてノーマンさんが戦える兵士や騎士達を全て魔王城まで送り込むことにしたそうだ。

 魔王を倒すのは異界の勇者の役目と言うことで仮に魔王城の直前で敵に襲撃されても迷わず進んで魔王を倒すように言われた。

 代表して英君が応えて、クラスメイト達にも伝えられた。

 こうして私達はこの戦争の目的である魔王の討伐に乗り出すことになった。

 全戦力で行軍する中、魔王城に近づくにつれて周辺の木々が減り、大地が荒廃しているのが分かった。


 「これが魔王の影響?」


 私の小さな呟きは隣の樹梨ちゃんにも聞こえてしまったみたい。


 「そうかもね。これが大陸に広がれば人が生きるのは難しそう。」


 私達はこう言う環境下で過ごしたことがないから想像の域を出ないけど間近に迫っていることだけは理解できた。

 そして、魔王城へ続く幅百メートルはありそうな長い一本道に辿り着いた。

 両脇は崖になっていて標高は・・・道幅以上に感じられた。


 「それでは異界の勇者様方・・・。」


 代表の騎士が言い続けようとした時。討伐隊の両脇の地面から数えきれない数のモンスターが這い上がってきた。

 兵士や騎士達の怒号によって私達も気が付いた。


 「では、皆様。先に魔王の所まで向かってください。場合によってはあなた達だけで倒してもらうことになりますが、それでも私達はあなた達の勝利を信じてここで待っています。」


 英君が騎士の前に出て


 「わかりました。僕達の手で必ず倒してきます!」


 とお辞儀をしてから私達を引き連れて魔王城へ向かった。

 後ろを振り向くと既に戦闘は始まっていて、今まで以上に大乱戦になっていた。

 それでも私達の中で誰一人立ち止まることなく魔王城へ駆け出した。

 どれくらい距離があるかも分からない中、駆け足するのは体力を消費すると思ったけど今の私達は以前よりも体力があるのかこれくらいで疲れることはなかった。

 魔王城の城門を見ると造りは荒いけど機能としては十分そうだ。


 「この門を破壊する!未梨亜、橘川君、源間、十津川さん、村田さん。ファイアボールかフレイムボールで破壊して欲しい!」


 「任せて!」


 英君の指示に菊池さんは意気揚々と、逆に源間君は溜息を吐きながら渋々前に出た。

 菊池さんは【マジック・ボマー】、橘川君は【マジック・フレイム】でフレイムボールを撃ちだした。

 源間君、十津川さん、村田さんは二人とは違って複数の属性を扱えるため一緒にファイアボールやフレイムボールを放った。

 五発の火炎玉が正門にぶつかると勢いよく燃えだした。

 下の方が完全に燃えたと判断した英君は水の魔法を使える人達に消火を頼んだ。

 鎮火した正門を潜るとサンデル王国よりも大きくて広い居城が待ち構えていた。

 周囲にはモンスターがいないようで安心するが気は抜けない。


 「全員で城の上階を目指そう!逸れて孤立しないように!」


 大官寺君が舌打ちをしたけど誰も気にせず城の門を開ける。

 この門も人間よりも大きなサイズで開けるのに一苦労だったけど出入り口付近に待ち伏せは居なかった。

 英君と【シーフ】を持つ武田君を先頭に大きな階段を登っていく。

 岩を直接削って作り上げたような内装に歩きづらさを覚えるけどなんとか転ばないように進めた。

 大きく回りながら登った階段の先には空が見渡せる大きな空間が広がっていた。

 そう、途中で通路や部屋はなく登り詰めた先には直径二百メートル四方で天井のない部屋になっていた。

 部屋と呼べるかは怪しいけど岩の壁があるので部屋なのかもしれない。

 そして奥には大きな椅子に座る存在と両脇に違う姿のモンスターが整列している。

 向かって左に居るモンスターは目測二メートルほど、太くて短い尖った角を頭の両側に生やして灰色の体に兵士のような鎧を着こんでいる体毛のない獣の人型。

 向かって右に居るモンスターも同じく二メートルほど、緑の鱗を纏った人型の蛇か蜥蜴に見える。

 革鎧を着ているだけでなく二振りの長剣を握っている。

 そして、真ん中に座っている存在が恐らく魔王なのだろうか。

 黒いファーの付いた赤の分厚いローブを羽織って黄金の杖を握ったその様は王の貫禄がありそうだ。

 金の王冠も頭に乗せており顔は人に近いけど紫の肌に黒い眼球に赤い瞳をしている。


 「我が居城の正門を壊すとはずいぶん手荒なのだな、人間とは。」


 正面の魔王が話し始めた。

 低い声だけど全員に届いているようだ。


 「僕達はあなた達を倒しに来た。それだけだ。」


 「そうかそうか、交渉の余地はないのだな?」


 「先に仕掛けておいて何を交渉するんだ!」


 「青いな異界の勇者よ。まぁ、我も交渉する気はないのだがな。」


 魔王から出た異界の勇者と言う単語に何人か反応するけど事態は進む。


 「我が今代の魔王、この大地の覇権を掛けて戦おうではないか!」


 それを合図に魔王との戦いが始まった。

 初めての相手に皆苦戦する。

 魔法の応酬で押したり押されたり。

 相変わらず大官寺君は一人で殴りに行くけど飛ばされてはまた飛び込む。

 そういう意味では暴走する谷川さんや大重さんも似ている。

 途中で英君が立てた作戦で私が魔王の弱点を見つけつつ、二体のモンスターを倒してから一気に魔王へ畳みかけた。


 「小癪な!」


 魔王の攻撃魔法が後衛の子達に襲い掛かったけど鈴木君が割って入ったことで彼らは無事だった。

 そして、激戦の末英君の一撃によって倒すことが出来た。


 「ふ、ふはははははは!これで!これで!あの方がこの世に舞い戻る!」


 魔王は最後にそう言って紫の粒子になって消えてしまった。

 同時に一緒に居た二体のモンスターの亡骸も同時に消えた。

 暫くの間、誰もが茫然としたけどこの場や周辺にそれ以上の変化はなかった。


 「皆、魔王を倒したぞー!」


 英君の叫びに多くのクラスメイト達が同じように歓声を上げた。

 ただ、一部が素直に喜べなかった理由は一つ。


 「おい、鈴木。魔王を倒したぞ!起きろよ、起きろよ!」


 「俺達英雄なんだぜ!一緒に城に戻って凱旋しようぜ!」


 床に倒れて動かない鈴木君の傍で武田君と桑原君が一生懸命声を掛けていた。


 「おい、誰か!鈴木に回復魔法を掛けてくれ!?」


 武田君の声に【ヒーラー】を持つ堂本さんと本村さんが魔法を掛けた。


 「ダメ、魔法を掛けてるけど・・・。」


 本村さんが項垂れたけど堂本さんは諦めていないようだ。

 私も駆けつけて彼の腕の脈を図って能力で見たけど、彼の鼓動は既になかった。


 「鈴木君は・・・もう・・・。」


 私がそう言うと堂本さんも回復魔法を止めて項垂れた。


 「だったら蘇生魔法はどうなんだ?二人とも覚えているだろ、ヒーラーなんだからさ!」


 武田君が叫ぶけど二人とも首を振る。


 「私達は傷を治すことはできるけど、誰かを生き返らせる魔法は持ってないの・・・。」


 堂本さんに続いて本村さんも答えた。


 「今までの勇者に蘇生魔法を使える人は居なかったって。それにこの世界に蘇生魔法は確認できてないって。」


 「でもさ!でもさ!」


 桑原君も叫ぶけど誰も答えることができない。


 「皆、まずはここを出て討伐隊と合流しよう。」


 英君に従ってほとんどの人がこの場を後にする。


 「鈴木は俺が運ぼう。」


 船戸君が鈴木君を背負う。


 「わりぃな、船戸。」


 「気にするな。」


 武田君は泣くのを堪えているけど桑原君は既に涙を流していた。


 「こいつ重いからさ、疲れたら俺達が背負うよ。」


 「その時は頼む。」


 桑原君の言葉に船戸君は頷いて階段に進んだ。私や樹梨ちゃんも後を追う。

 武田君と桑原君はその場で泣き出したけど、私達が正門に辿り着いたころには追い付いてきた。

 正門を出て長い道のりを歩いた先には騎士や兵士達の戦いが終わっていた。

 あれだけの数を相手にした討伐隊の被害も少なくはなかった。

 犠牲者達は時間をかけて王城まで運ぶそうだ。

 それと鈴木君は最優先で運んでくれると言うことで任せることにした。

 もしかしたら何かの奇跡で彼が目を覚ますかもと武田君達は期待していたけど、彼が起きてくることはなかった。

 こうして私達と魔王の戦いの幕が閉じられた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んで頂けると幸いです。




雑談と蛇足

今回の話がダイジェスト風になってしまい申し訳ありません。

当初は細かく書こうとしましたが、想定以上に長いサイドストーリーになってしまうのでこのような形にさせていただきました。

今後別枠で書くかもしれませんのでその時にまた読んで頂けると嬉しいです。

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