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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
奪われる弱者
23/131

23話 奪われて奪われて奪われて

本日もよろしくお願いします。

今回はポーラ視点です。

※一部加筆修正しましたが本編に影響はありません。

 屋敷が襲撃されてからケイティによって逃がされた。

 暗い通路をランタンの明かり一つで歩き続ける。

 わたしの足音以外に音は聞こえない。

 通路の壁面はレンガのようなもので固められている。

 天井は木材が張り巡らせているけど、所々傷んでいる。

 床は固められた土。

 かなり歩いているけど先は見えない。

 途中から少しづつ勾配が上がっているくらい。

 同じ光景が続くからこそ何度も考えてしまう。

 ケイティは無事なのかな?

 アルファン様も脱出しているのかな?

 オリバー達使用人の皆やボビィとサムも大丈夫なのかな?

 頭の中でぐるぐると良いことと悪いことが巡ってくる。

 もしかしたら、皆もこの通路を通っているかもしれない。

 そう信じるしかない。

 通路は緩やかに右や左に曲がる。

 休まずに歩き続けたけど、少し休もうかな?

 そう思い始めた時、正面に扉が見えた。

 扉は金属製で時間が経っている。

 扉を押すけどビクともしない。

 ランタンを翳して調べるけど鍵穴は見つからない。

 しかし、扉の真ん中に何かの宝石がはめ込まれている。


 「これに魔力を流せば行けそう?」


 わたしは宝石に触って自分の魔力を流し込む。

 すると宝石は光りだしてガチャっと音が聞こえた。

 扉は重いけどなんとか押せた。

 外に出ると一面は森、或いは山の中だった。

 今までの野外訓練で訪れたことがない場所。

 そう感じたとき、扉がゆっくりと閉じた。

 その扉を見続けていたけどいつの間にか扉が消えて盛土になっていた。

 これはあの時の光景に似ている。

 そう思って触るけど土の感触しかない。

 ケイティが唱えた呪文を唱えるけど反応はしない。

 違う呪文を唱えないと反応しないみたい。

 ここが何処かわからないけど、なんとなく上を目指すことにした。

 もしかしたら、アルファン様の屋敷が見えるかもしれない。

 そう思ってひたすら上を目指した。

 周囲を注意しながら進むけどモンスターが見当たらない。

 もしかしたら、活動時間じゃないのかもしれない。

 山の頂上らしき場所まで行って周囲を見回した。

 空はもうすぐ太陽が見える。

 そして、眼下には太陽の光に照らされる平野が見えた。

 ゆっくりと周回する。


 「!?」


 そして、目にした。

 かなり遠い場所から煙が上がっている。

 しかし手前には別の山があり、具体的な場所がわからない。

 その場所へ向かおうとしたけど、膝の力が抜けてしまう。

 だめだ、眠気が襲ってくる。

 ・・・。




 次に目を覚ました時は夜だった。

 今は寒い時期でこの山もかなり寒いのにここで寝られた自分が鈍感なのかと疑ってしまう。

 幸いなことに山の獣に襲われなかったようで、周囲の状況を確認して慎重に行動した。

 本当は戻るべきじゃないけど、どうしても確認したい。

 その思いを優先して山を下りることにした。

 初めて訪れた山だから、降りるのに数日は掛かるかもしれない。

 食料に関してはリュックサックの中には非常食があるから、それで食いつないだ。

 時折、モンスターを見かけたけど息を殺して見つからないように努めた。

 逸る気持ちを抑えて動かないと無駄に体力を使ってしまう、その意識をした自分を褒めたいくらいだった。

 何とか下山は出来たけど、地理が把握できない。

 それでも太陽や月、星の位置で大まかな方角を確認して屋敷へ戻った。

 森を超え、丘を越え、平原を歩いて。

 やっと見えてきた。

 今は夕暮れ時だ。

 直ぐに暗くなる。

 ただ、いつもと違うのは見る方向だ。

 いつも訪れる街とは逆の方向だったらしい。

 そして、屋敷の正面に着くと絶句した。


 「うそ、でしょ・・・?」


 屋敷が燃えていた。

 敷地の中は至る所に焦げ跡があり、屋敷の壁も熱に耐えられなくて一部は崩れていた。

 そして、正面から見える屋敷は跡形もなく崩れ去っていた。

 残っているのは焦げたレンガと炭の残骸。

 正門は鍵が掛けられたままだから、周辺を回って崩れて駆け上れそうな壁から入った。

 小屋、使用人宿泊棟、平屋、倉庫。

 屋敷と同じように黒焦げで瓦解していた。

 敷地の所々に焼け跡が残っている。

 屋敷に戻ってアルファン様の部屋の位置をひたすら漁る。

 既に暗くなっているけど、目が慣れてくる。

 重い瓦礫も無理やり退かす。

 こんなことをしても意味はない。

 分かってはいるけど認めたくない。

 指を切っても気にせず退かす。

 そして、今までの瓦礫とは違うものに触れた。


 「痛っ!?」


 刃物で切ったような痛み。

 指は切断されていないし、深くもない。

 それよりも。

 周辺の物を退かして掘り当てると、一本の剣が現れた。

 「これは・・・。」

 ある晩餐の話。

 月に一度、わたしたちはアルファン様と食事を一緒にする習慣があった。

 その時に、アルファン様は冒険者として活躍したと聞いた。

 アルファン様が当時の武器を愛剣として所持していると言ったらボビィとサムがせがんだことで特別に見せてもらったことがあった。

 その時に、


 「私は何があってもこの愛剣と共にある。」


 と言っていた。

 つまり。


 「アルファン様はここで死んだ・・・?」


 あの時、ケイティのお腹は傷付いていた。

 そして、わたしを逃がすほどの逼迫した事態。

 それはアルファン様にも振りかかっているはず。

 もしかしたらアルファン様も逃げているかもしれないけど以前の話やアルファン様を考えるとこの愛剣を残すとは考えにくい。

 護身用で持っていくはずだ。

 もし、アルファン様がここに残っているなら他の使用人達も残るはず。

 それほどまでにアルファン様を慕っているのだから。

 それはケイティやオリバーも一緒のはず。


 「う、うぅ・・・。」


 視界が滲む。


 「な、なん、で・・・。」


 言葉が上手く出ない。


 「う、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 声を上げてしまう。

 涙が止めどなく出てしまう。

 ポーラの親に売られて奴隷になって。

 先がどうなるか分からないときに。

 ケイティがわたし達を買い取って。

 アルファン様の元で奴隷になって。

 奴隷になって永遠と虐げられるかと思えば、アルファン様も皆も優しかった。

 同じ奴隷になったボビィとサムは時々喧嘩することもあったけど、彼等との時間も楽しかった。

 オリバーは厳しくて怒ることもあったけど、わたし達の為に指導してくれた。

 マーユはお姉さんみたいな人だった。

 優しくて暖かくて笑顔が絶えなくて色んなことを教えてくれて、良く抱き付いて来るのが玉に(きず)だったけどわたしに良くしてくれた。

 ケイティはずっとわたしの事を気に掛けてくれた。

 ケイティも優しいお姉さんで、器用にものを熟したり指導の時も無理はさせない思いやりのある人だ。

 一度怒るとオリバーよりも大変だったけど。

 アルファン様の使用人の皆は奴隷のわたしに対しても一人の人間として接してくれた。

 それが嬉しくて。

 



 屋敷が襲撃される日の午後。

 わたしはケイティやマーユ達と街へ出かけた。

 保存食を作るための食材の買い足しだったけど、時間が出来たので街を回っていたときのこと。

 男性使用人達も何人か来たけど荷馬車の番をして、屋敷で働くほとんどの女性使用人が街であれこれと見て回る。


 「マーユ、あまり時間を掛けないでくださいよ?」


 「分かってるって!」


 ケイティが後ろから付いていく中、マーユはポーラを連れて店を訪れる。


 「ここって。」


 「女性向けの装飾品を扱っているのはここしかないのよね。」


 マーユに手を引かれながらお店に入る。

 色とりどり、形状も様々な髪飾りが商品として並んでいた。

 マーユが手にとってはわたしに当ててくる。


 「これなんてどうかな?」


 「可愛いけど・・・。」


 お値段が高い。


 「んー、じゃあこれは?」


 次々に選んでくれるけど良い物はやはり金額が相応。

 色々見たけど隅の方に両手で囲える大きさの籠に幾つも同じ物が入っていた。


 「これは?」


 「これは・・・確かヘアピン、と言われるものですね。珍しいですね。」


 ケイティ曰く、この国では王都くらいでしか見かけないらしい。」

 女性店主にも聞くと取引先の商人が別口で卸したからここにも並べたけど、この街の女性達は他の髪飾りに比べてあまり注目していないとのこと。


 「これ、いいなぁ。」


 「変わっているわねポーラ。シンプルなデザインだけど。」


 飾り気がなく黒くて小指の長さしかない小さなヘアピン。


 「だけど、何かの作業をするときに前髪とかを横に止められれば良いかなって。」


 「なるほど。それに横に挿すだけでも印象を少し変えられそうですね。」


 「実用的でちょっとしたアクセントにもなる。二人とも流石ね!じゃあこれ三つください!」


 「まいど!」


 マーユは二人の話を聞いて即決して買った。


 「じゃあ、これはポーラにプレゼント!」


 「え、えっと。良いの?」


 「勿論!私の可愛い妹分だからね!」


 「く、苦しい!」


 気づけばわたしの身長は成人の女性の身長に近づいていた。

 マーユの胸に埋められるてちょっと恥ずかしい。


 「あ、ケイティはお金頂戴!」


 「分かっていますよ。」


 マーユとケイティでやり取りして店を出た。


 「でも、もうちょっと可愛い奴があるといいわね。」


 「そうですね。」


 二人とも給与を貰っているけど何でも買えるほど貰っているわけではないようだ。


 「あ、そこの三人どうしたの?」


 別のグループの女性使用人達がやってきた。

 マーユ達が事情を話すとある店を紹介されてどんな物があるか内心楽しみになる。

 一方で、先程買ったヘアピンを彼女達に勧めると納得して直ぐに買いに行った。

 因みに勧められた店は布を扱っている店の一つみたい。

 そこには大きな布が何枚も扱っているけど中には小さい布も売っていた。


 「これね。」


 マーユが指したのはスカーフと呼ばれる布だった。

 衣服や生活に必要な布製品への材料ではなく、既に完成されたものらしい。

 装飾品として使われることもあるとか。


 「どの色が良いか決めましょうか。」


 「良いわよ!どれがいいかしら。」


 「ん?」


 わたしは後ろを向いている間に二人で色とりどりのスカーフを当てていた。


 「ポーラはどの色が好きですか?」


 ケイティに言われて二人が持つ幾つかのスカーフを見た。

 なんとなく良いと感じたのは水縹色だった。


 「これかな。」


 「私の勝ちですね。」


 「くぅ、そっちを手にすれば良かったぁ。」


 偶々ケイティが手にした色を選んだけど、二人が何を気にしたのか分からなかった。


 「ちょっと値が張るけど良いわね。」


 「問題ありません。」


 いつの間にか選んだスカーフをマーユが買った。


 「と言うわけでポーラ、貴女にプレゼントよ!」


 「えっ!・・・いいの?」


 予想外だった。

 さっきもヘアピンを貰ったのに。


 「いいのよ、次の年に成人になるんだからその前祝いよ。これは私達全員からのプレゼント、受け取ってよ!」


 「皆、ありがとう。」


 「お礼は他の方達にも伝えてください。」


 「うん!」


 「あとは少年二人の分だけど、男達に任せればいいかしら?」


 「そうですね、その方がいいかもしれませんね。」


 ケイティ達はボビィとサムにも送るらしい。


 「そうだ、二人にも違う色のスカーフが良いなぁ。」


 「それはまた珍しい。」


 マーユは意外だと驚いた。


 「なんとなくだけど、お揃いのものでも良いかなって。スカーフなら日常のどこかでも使えそうだし、怪我をした時にも巻けるし。」


 「冒険者の中にはスカーフを首に巻いている人もいるらしいですね。」


 「怪我をした時って。訓練の影響が強そうね。でも、悪くはないわね。」


 一度店を出て荷馬車の番をしていた男性使用人達にも相談してもう一度買いに出て、その時にマーユが幾らか値段交渉をした。

 最終的には屋敷の人達で負担すると言っていたけど申し訳なさも出てきて。


 「ポーラは気にしなくても大丈夫ですよ。私達が送りたいと思っているのですから。」


 色は二人に気に入って貰えそうな物を選ばせて貰った。

 今回の買い物を済ませてから屋敷に戻り、オリバーからボビィとサムに渡すように段取りされた。

 スカーフになった理由を聞いたオリバーは


 「なるほど。そうですか。」


 と言っていたらしい。

 食事の時にいつもの三人で食べた時にはプレゼントが話題になった。


 「俺達、スカーフってやつを貰ったぜ!」


 「わたしも貰ったよ。」


 「へぇ、皆同じ物を貰ったんだ。」


 ボビィは赤色のスカーフ、サムは緑色のスカーフを見せてくれた。

 二人にも喜んでもらって良かった。

 そのあと、女性使用人の宿泊棟へ行き、色々と話し込んだ。

 この時も楽しかった。

 何も気にせず楽しめたのは凄く久しぶりな気がした。

 ケイティ達と過ごす最後の時間になるなんて思いもしなかった・・・。




 襲撃された屋敷に戻って色々と思い出しては涙が溢れ出す。

 ずっと奴隷でいる気はなかったけど、こんな形で解放されたいとは思わなかった。

 ここでの時間は感謝することばかり。

 見つけたアルファン様の愛剣は倉庫から掘り出した柄のないシャベルで少し離れた地面を掘ってそこに埋めた。

 この世界に墓があるのか分からない、平本慎吾の記憶を朧気ながら思い出したけど目立つものは作るわけには行かなくて埋めるだけにした。

 手を合わせて祈りを捧げた。

 そして、屋敷をもう一度見てこの場から離れた。

 あれから数日は経っているけどまだ人の手が入っていなかった。

 でも、その内来るかもしれない。

 その時、わたしが居たら疑われる。

 手掛かりはないけど、恐らくアルファン様を良く思わない人達がいるはずだ。

 その人達を調べたいけど、まだ何も出来ない。

 近くの街に行けばわたしの情報が洩れるかもしれないし住民に迷惑がかかるかもしれない。

 結局、脱出先の山へ戻ることにした。

 暫くは身を潜める意味でも山での生活を視野に入れる。

 この時期からどれだけ生活が出来るのか分からないけどやろうと思ったことは全てやるつもりだ。

 そうして少しでも実力をつけること。

 この考えが正しいか分からないけど兎に角生き残る。

 この世界に来てから虐げられて、助けてもらえたと思えば奪われる。

 わたしはわたしの平穏やものを奪った奴らを許したくない。

 憎い奴らを思い出すたび、腸が煮えくり返りそうだ。

 これ以上奪われるものはないけど、奪われたなら奪った相手を全て壊したい。

 大事なものがないと感じたはずだけど。

 頭の片隅に何故か平本慎吾の時に見た三人の少年少女がチラついた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが暇なときに読んでいただけると幸いです。



雑談・蛇足

この話で一区切りになり、次回から別の話を数話挟む予定です。

ご了承ください。

主人公について 16年ほど生きた少年が7,8歳の少女になってからの意識や考え方がどう変わっていくのか。色々な説や個人的な考えなどあると思いますが、今作ではケイティ達の躾の影響を含めて少しずつ少女に近づいていったような感じにしました。ただ、元が少年なだけに歪に感じますが・・・。

それでは皆様今後もお付き合い頂ければ嬉しい限りです!


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