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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
奪われる弱者
21/131

21話 優しい時間は唐突に

本日もよろしくお願いします。

前日の9月10日にも『20話』を投稿しているはずなのでそちらも良かったらお願いします。


今回の話は三人称視点と一人称視点の話が混ざっていますのでご注意ください。

(基本的には区切りとして行間を三行分開けているのと一人称視点の部分は名前を入れています。

まだ書いていない話では1話分の中で違う視点を一緒にしないように気をつけます。)

 冬のある日。

 国全体が暗い雲に覆われている。

 どこも人の出入りが平時より少ない。

 家屋では朝からストーブを点けて暖まる者達が多い。

 アルファン邸でも同じように暖を取るために大広間のストーブを点けて屋敷全体を暖めている。

 今日も使用人達がせっせと仕事をしている中、ボビィとサムは外で走り回っている。

 昼前は勉学に勤しみ、昼食を食べ終えたあとは運動をしていたが暫く前から早めに終わっている。

 これは今年に限らず毎年寒くなる季節はそうだ。

 ポーラはケイティと他の使用人達と一緒に食料の追加をするために街へ出かけた。

 雪が降って気動きが取れなくても生活するための保存食に必要な材料を作るためだ。

 屋敷の至る所を走り回るボビィとサムは時々しゃがんでは話し込み、また走り回る。

 他の使用人たちは


 「子供は元気だなぁ。」


 と様子を観ながら仕事に従事していた。

 夕日が完全に沈む前にはポーラ達も帰りついて夕食を食べる。

 最近のポーラ達は使用人達と一緒に食べることが多くなった。

 その時は、アルファンが食べ終わってから別室でローテーションを組みながら食べるようだ。

 食後は当直の使用人以外は自由に時間を過ごし、早めに眠りに就く。

 ポーラ達の寝室は屋敷の離れにあるレンガで積み上げられた平屋の建物だ。

 同じつくりの建物が二つあり、ボビィとサムは同じ建屋、ポーラはもう一つの建屋で過ごしている。

 個室が四つあり、一人一部屋と言う普通の少年少女の生活をしている。

 ポーラは部屋のテーブルに水縹(みはなだ)色のスカーフと小さな黒のヘアピンを眺めた。


 「・・・。」


 今日の買い物でケイティ含む使用人達がプレゼントしたようだ。

 ボビィとサムにもそれぞれ赤色の布と緑色のスカーフを渡していた。

 二人には具体的な使い道が見出されていないが、ポーラは髪を纏めるのにも重宝する。

 ここに来てから後ろ髪は伸ばしたままで癖が付いている。

 最初は髪を切ろうとしたがケイティや他の女性使用人達に止められて以来、自分で切ることはなくケイティ達に散髪を任せていた。

 ヘアピンは遠くの国から商人達の手に渡り近くの街まで流れてきたものを使用人達の一存でポーラに渡したものだ。

 ポーラ自身は貰い過ぎだと思ったが使用人達からはかなり気に入られていたこともありそのまま受け取ることになった。

 暖かくなる時期はまだ先だが、それでも数月後にはポーラ達奴隷は自由になる。

 テーブルの上に折りたたんだスカーフと箱に入れたヘアピンを置く。

 感傷的になりながらもポーラは(かぶり)を振ってベッドに入った。

 



 寒い時期は夜が長い。

 月が昇る前にはほとんどの者達は寝入っているころだ。

 それでもこのアルファン邸には4人の使用人達が屋敷の警護に当たっている。

 通常であれば外にも人員を配置しているが、アルファンの命令により屋敷の中だけにしている。


 「寒い中に立たせ続けるわけには行かない。」


 他の貴族達が聞けば一笑(いっしょう)()すが、アルファンは彼らの体調を考えた上での判断だった。

 屋敷の外も中も静かだ。

 全員、中に居るが異常は見当たらない。

 見当たらなかった。

 男性使用人が屋敷の裏口を見て回り、隣の洗い場へ向かった直後。

 ドアが一瞬で燃えた。

 男性使用人は燃えた音を聞いて振り向く。

 その瞬間、彼は動かなかった。

 よく見ると彼の喉には鋭利なナイフが突き刺さっていた。

 男性使用人を刺したのは黒いローブを着た人間のようだ。

 口から血を吐く男性使用人が、ポケットに手を突っ込み一つの球を取り出した。


 「っ!」


 黒いローブを着た人間はすぐさまナイフを抜いて阻止しようとするが遅かった。

 男性使用人は握った球に魔力を込めると床に倒れた。

 同時に珠からけたたましい音が鳴り響いた。

 黒いローブを着た人間は球を踏み潰すが既に音は外にも漏れていた。


 「ちっ!」


 舌打ちするが後ろから同じ格好をした人間が屋敷内へ進む。


 「さっさと済ませるぞ。」


 「わかっている。」


 二人以外にも同じ格好の四人が続々と侵入した。

 彼らのローブには小さな刺繍が施されている。

 横向きの馬の頭蓋骨に鎌を添えたデザインだ。

 



 ケイティは非番で自身の部屋で寝ていたが、けたたましい音が耳に届いて目を覚ました。


 「っ!」


 暗い部屋でベッドから起きたかケイティの格好は飾り気のないワンピース。

 女性使用人とポーラはケイティと同じデザインの服で寝ているが、アルファンからの支給品である。

 そして、ケイティは血相を変えて両開きのタンスから何時ものメイド服へと早着替えした。

 ケイティのいる女性使用人専用の居住棟に足音が響く。

 居住棟は男女ともに二階であり、ケイティは二階の奥の部屋だ。

 武器のナイフを手に取り、ローファーを履いて。

 ドアから出て、行かずに壁に立てかけた板を退かして足から部屋の窓を飛び出した。

 部屋の窓。

 一部の国ではガラスを使った窓ガラスが貴族階級で普及し始めているらしいが、アルファン邸にはガラスを使った窓はなく全て壁の穴に板を置いてつっかえ棒やギミックで開閉する仕様だ。

 暗い夜に女性が二階から飛び降りるのは危険だが、ナイフをある一点に投げて前転の要領で受け身を取って着地した。

 投げられたナイフは避けられ地面に刺さったがケイティはそれに構うことはなかった。


 「先に行け!」


 ケイティに近い黒いローブを着た人間が言うと平屋に近かった黒いローブを着た人間が出入り口に向かった。


 「待ちなさい!」


 体勢を直した直後に黒いローブを着た人間が右手のナイフで襲い掛かってきた。


 「通すかよ!」


 ケイティは左手で相手のナイフを持つ腕ごと、軌道をずらして懐に飛び込んだ。


 「っ!?」


 黒いローブを着た人間が次の行動を起こす前にケイティは背負い投げた。


 「かはっ!?」


 そこから相手の手首を捻ってナイフを手放させ腕を折る。

 腕の痛みに耐えようとするところへエプロンの紐に固定したナイフで喉を一刺し。

 黒いローブを着た人間はその場で悶えてから絶命した。


 「早くしないと!」




               ――― ポーラ 現在 ―――


 夜中に大きな音が聞こえてわたしは急いで起きた。

 外で何が起きているか分からない。

 その割にベッドから起きて蝋燭に火をつけて、動きやすい服装に着替えた。

 着替えてベッドの裏にあるナイフを持ったところへドアがいきなり開けられた。

 体が強張ると暗がりで分からないけど黒いローブを着ているんだと思った。

 そして、屋敷の人がこんな時間にそんな恰好でいきなりドアを開けるはずがない。

 直感に従ってナイフを構える。

 黒いローブを着た誰かはお構いなしにわたしに迫ってくる。

 いきなりことで恐怖を覚える。

 それでも無抵抗は嫌だ。


 「お嬢さん、その危ない物を手放してくれないか?」


 目の前の黒いローブを着た誰かがしゃべった。

 相手は人間、かもしれない。

 それでも不気味だ。


 「あなたは誰ですか?」


 「俺?俺かぁ。お嬢さんを救いに来た騎士様だ。」


 「騎士はそんな恰好で来ないと思う。それにわたしは騎士に夢を見たことがないから。」


 「それは残念だ。まぁ、どちらにしてもお嬢さんは俺と一緒に来てもらう。」


 「嫌だと言ったらどうする?」


 わたしが訊いた直後、空気が変わった気がする。


 「時間がないからな・・・。」


 黒いローブを着た誰かはテーブルを倒しながらゆっくりとわたしの方へ歩き出した。

 蝋燭は燃えているけど床に燃え移ってはいない。

 それにスカーフとも無事。

 ただ、歩いているだけ。

 そう思った直後、何かを感じた。

 しゃがむと頭上に何かが通過した。

 次にわたしの顔に目掛けて黒い何か、恐らく黒い靴で蹴りを入れられた。


 「がっ!?」


 咄嗟に両腕で庇ったけど蹴り飛ばされて壁に激突、ベッドの上に着地した。


 「お嬢さん、反応が良いね。意外だったよ。」


 「はぁ、はぁ。」


 いきなりの攻撃に緊張が走る。

 気を抜くと殺される。

 相手はゆっくりと近づいてくる。

 既に逃げ場はない。

 意を決してナイフを構えた。


 「やる気?まぁ、構わないけど。」


 この隙に横にある枕を拾って相手の顔へ投げつける。

 脚に力を込めて右へ跳躍。

 ここで相手の左手をき


 「残念。」


 黒いローブを着た誰かは左手で枕を叩いてわたしに返した。

 枕を左手で受け止めた直後に相手が押し込んできた。

 力が強い!


 「かはっ!?」


 枕で視界が潰されてからお腹に蹴りを受けた!?

 再び壁に激突。

 背中が痛い!

 枕を落とすと正面にナイフが迫ってきた。

 右手のナイフで割り込んで弾く。

 しかし、相手は直ぐに左手でわたしの首を掴んできた。


 「動きは・・・普通だな。特に才能とかは感じられないなぁ。こういう時に動けたのは上出来だけど。」


 首を掴まれて苦しい。


 「まあ、訓練してるからだな。頑張った。もう抵抗しなくても良いからな。」


 わたしは右手のナイフで相手の左手を斬りつけようとしたけど直ぐにナイフを手放して押さえつけられた。


 「抵抗しなければお嬢さんを殺さない。でも、抵抗を続けるならこのまま殺しちゃうから。」


 相手の声は冷たい。

 本気だ。

 ここで降参すれば死なずに済む。

 今は生きることが優先だ。

 直ぐに言うべきだ。

 でも。

 悔しい。

 あれだけ訓練を積んだのに全然通じないなんて。

 あれだけ優しくしてもらえたのに報いることが出来ないなんて。

 弱い。

 わたしは弱い。

 誰かを殺せるほど強くないわたしが憎い。

 こんなことになるなんて、弱くて無様だ。

 悔しくて情けなく苦しい・・・。

 わたしは・・・強くなりたい。

 自分の弱さに泣いてしまう。

 あぁ、相手の輪郭がぼやける。




               ――― 現在 ―――


 黒いローブを着た人間がポーラの首を絞めている中。

 背後から何者かが迫ってきた。

 それに気づいた黒いローブを着た人間はポーラから手を離して身を屈めた。

 何者かはケイティだった。

 ケイティは背後からナイフで刺そうとしたが相手が避けて失敗。

 黒いローブを着た人間は足元のナイフを取り、右足でケイティを蹴る。

 ケイティは体を後ろに引くが間に合わず蹴り飛ばされた。

 二メートルほど動いたが壁にぶつからなかった。

 体勢を整えた黒いローブを着た人間は直ぐに距離を詰めてナイフで突いてくる。

 ケイティも最低限の動きと両手で攻撃を避けながら応戦する。

 それぞれが顔を狙いつつ相手に捕まれないようにナイフの軌道を変える。

 二人の攻防が続く。


 「ケイティ!」


 ポーラが黒いローブを着た人間に近づく。

 右側から攻撃を仕掛けようとしている。

 それに気づいた黒いローブを着た人間は右足で蹴り飛ばす。

 ポーラは蹴られたがそのまま足にしがみ付き、手に持ったナイフで思いっきり刺した。


 「いてぇ!」


 黒いローブを着た人間が思わず声を上げた。

 その隙を突いてケイティはナイフを左手に持ち替えて相手の首に刺した。

 相手はガクガクと体を震わせた。

 そして、ケイティの左腹部も真っ赤に染まり始めた。


 「っ!」


 ケイティが刺したように相手も一瞬の間を置いて刺し返したようだ。

 黒いローブを着た人間の体から力は抜けて左に倒れた。


 「ケイティ!」


 ポーラが立ち上がると彼女もケイティの腹部を見て驚愕した。


 「大丈夫です。」


 ケイティはナイフを抜くが血は更に出る。


 「治療しないと!」


 「落ち着いてポーラ。」


 血に汚れたエプロンを脱いだと思えば仕事着のワンピースも脱ぐ。

 寝間着で来ている薄手のワンピースの状態で腹部にエプロンを巻いた。


 「これで動けます。」


 仕事着のワンピースを着たケイティはポーラに微笑むがポーラは泣き続ける。


 「ごめんなさい、ケイティ。わたしが、わたしが!弱いばかりに!」


 泣きじゃくるポーラをケイティは引き寄せた。


 「大丈夫ですよポーラ。このくらいの怪我はどうってことありません。」


 ケイティの優しい声音に落ち着き始めるポーラにケイティは改めて向き直った。

 大きな怪我をしていないポーラを確認して、ケイティは安堵するも気を引き締める。


 「恐らく屋敷の中は危険な状態です。ポーラは・・・。」


 ケイティの中では最悪の状況がイメージをして、一拍置いてしまった。


 「屋敷から退避しなさい。」


 「わたしも!一緒に!」


 「聞きなさい。敵の目的と数が分からない以上、あなたを連れて行くわけには行かない。」


 「・・・。」


 ポーラはケイティの腹部の血を見て絶句して、悔しそうな顔で唇を噛み締めた。


 「ケイティは怪我が酷いんじゃ!?」


 「私は大丈夫です。」


 ケイティはそう言ってポーラの頭を撫でた。


 「それに、あなたには生きてやるべきことがある。違いますか?」


 ケイティに言われてポーラの中で様々なものが次々に浮かんでは激しく混ざる。

 これ以上を言わないポーラにケイティは話を続けた


 「良い子ねポーラ。そうだ、ちょっと後ろを向きなさい。」


 「?」


 ケイティはポーラに後ろを向かせて、床に散らかった水縹(みはなだ)のスカーフを拾って後ろ髪をまとめた。

 それからポーラに前を向かせて箱に入ったヘアピンで前髪の左に着けた。


 「似合っていますよ、ポーラ。私達の可愛いポーラ。」


 ポーラの目線に合わせて屈んだケイティの微笑みにポーラは「ありがとう。」と伝えた。


 「そこにある鞄を持ってこっちに来なさい。」


 ポーラ達が野外訓練で使う道具一式が入った背負い式の鞄、革製のリュックサックだ。

 部屋にある携行式のランプに灯して二人は通路へ出ると、突き当りで止まった。

 ケイティは行き止まりの壁の三歩手前で手を翳した。


 「誰にも見えない暗い口、我が命ず。彼の者が歩む道を開け。」


 レンガの壁に魔方陣が現れたと思えば、板の床が一人程度なら通れる地下へ通じる階段が現れた。


 「これは・・・?」


 驚くポーラにケイティは説明した。


 「これは非常時の脱出口です。ポーラはここを通りなさい。」


 「ケイティは?」


 「私は・・・まだやるべきことがあります。」


 それを聞いてポーラは沈痛な面持ちになる。


 「聞き分けが良い子で良かった。貴女との暮らしはとても楽しかった、私だけでなくオリバーや使用人仲間、アルファン様もそう感じています。だから、貴女は最後まで生きてください。本当なら争い事に関わって欲しくありませんが、貴女の目は最初から変わっていないもの。だから、私は、私達は貴女が生きて幸せになることを願い続けています。」


 ケイティはポーラを抱きしめた。

 ポーラもケイティを抱きしめた。


 「ケイティ。わたしは・・・。」


 「貴女は自由です。行きなさい!」


 ケイティはポーラの向きを変えて体を押した。

 泣き顔のポーラは一度振り向くが、意を決して先へ進んだ。

 暗闇に消える少女に向かって小さく呟く声。


 「さよなら。」


 ポーラが階段を降りきった瞬間に出入り口が以前の床に戻った。


 「あの子達も回収しないと・・・。」


 ケイティが外に出た時、見えた人影は二つ。

 気持ちを落ち着けてもう一つの平屋へ向かった。




 使用人達の宿泊棟。

 こちらも黒いローブを着た人間達が襲撃していた。

 男性使用人達は支給された麻のパジャマに革靴を履いてからナイフを携帯して外に出ようとした。

 バンッ

 ドアが蹴破られた。

 急いでドアから離れて相手を見る。

 黒いローブを着た人間だ。

 軽やかな動きで男性使用人との距離を詰める。

 男性使用人は部屋のテーブルを倒して蹴飛ばした。

 相手が怯んだ隙に距離を詰める。

 ローブを着た人間の左側へ動いてナイフで突く。

 相手は左手の甲で男性使用人のナイフを弾いて右手のナイフで刺し返す。


 「ふっ!」


 男性使用人は咄嗟に左手で相手の腕を掴んだ。


 「くっ!」


 黒いローブを着た人間も迫りくる男性使用人の右腕を掴み返す。

 お互いに拮抗する。


 「お前達は何者だ!」


 「答える義理はない!」


 しかし、その均衡が崩れた。


 「!?」


 黒いローブを着た人間の背後から別の男性使用人が首にナイフを突き立てた。

 力が抜けて床にぐったりと倒れる黒いローブを着た人間を見ながら二人は頷いて廊下を出た。

 二人が出た瞬間、背後から炎の魔法が飛んできた。


 「フレイムショット」


 無防備な二人は炎に呑まれるがまだ息はある。


 「咄嗟に魔力を纏ったか。」


 黒いローブを着た人間は床に倒れた二人に向かってナイフを突き立てた。




 女性使用人の宿泊棟。

 こちらも男性使用人の宿泊棟と同様に襲撃されている。

 ある女性使用人の部屋を蹴破ったローブを着た人間は目を見張った。


 「はっ?」


 窓を開けて蝋燭を灯しながら女性使用人の一人、マーユがベッドの上でワンピースの胸をはだけていた。

 ブラウンのパーマの長髪の彼女の顔がほんのり赤い。

 ケイティより少し年上の女性使用人だ。


 「お前は何をしている?」


 「何って、見たら分かるでしょ?」


 「そ、それは・・・。」


 しどろもどろになる黒いローブを着た人間にマーユは話を続けた。


 「どうせなら私の体を見る?」


 マーユは胸を強調していた。

 月明かりに照らされて肌がより白く(なま)めかしい。

 肉付きの良い足が大きく露わになっている。


 「どうかしら?」


 「どう、とは?」


 「決まっているじゃない。私のか・ら・だ。」


 ごくりっ!

 黒いローブを着た人間は喉を鳴らした。


 「凄く、良い。」


 「ありがとう。」


 マーユはそのまま自分の胸を優しく撫で始めた。


 「ハァ、ハァ、ハァ。」


 今夜は寒い。

 それでも彼女の体は徐々に熱くなり、吐息は蒸気になる。

 ほんのり赤く色づき始めたマーユはローブを着た人間を横目に見る。


 「気持ちいいわ。あなたは楽しんでいるかしら?」


 「あ、あぁ。お前はいい女だな・・・。」


 「嬉しいわ。・・・そうだ、せっかくだから私ともっと楽しいことしない?」


 「楽しいこと・・・だと?」


 「そう、楽しいこと。あなたも私の体を触りたいでしょう?」


 「それは・・・勿論。」


 「最後に男の人と楽しみたいわ。」


 「・・・。いいだろう。」


 黒いローブを着た人間はゆっくりと女性使用人に近づいた。


 「その危ないものはテーブルに置いてくれるかしら?その距離なら私の手は届かないし。」


 マーユに言われて黒いローブを着た人間は大人しくナイフを机に置いた。

 彼女が掛布団を右の壁側に追いやり、ベッドの上で寝転ぶとローブを着た人間は彼女の上に跨った。

 黒いローブを着た人間は頭のフードを脱いだ。

 プラチナブロンドの短髪で三十代の男性だ。

 彼の鼻はかなり伸びている、鼻息も少し荒い。


 「良いんだな?」


 「ここまで来たら大丈夫よ。」


 「よし、早速・・・。」


 男は馬乗りになって女性使用人の胸を掴もうと手を伸ばした。

 マーユからも近づいてきた。

 距離が縮まり女性使用人の胸を掴んだ。

 男の顔は満面の笑みになった。


 (最高だな~!)


 言葉にしようとしたが声が出ないようだ。

 それに喉に違和感を覚えたのか、顔をしかめた。

 よく見るとマーユは笑っている。

 それは先程と変わらない。

 しかし、マーユの右腕が肩から少し上がっている。


 (なんだ?)


 しかし、男は何も分からず息を絶えた。

 力の抜けた男がマーユに覆いかぶさる。


 「お、重い・・・。」


 何とか男を退けたマーユは掛布団で体に掛かった血を拭った。


 「急がないと!」


 着崩した寝間着のワンピースを整えてテーブルに置かせたナイフを手に取って外に出た。


 (屋敷にも襲撃はあると思うけど、皆が行くから。あとはケイティとオリバーも心配だわ。ポーラ達が無事だといいけど!)


 彼女は使用人達の中でもケイティやオリバーの次にポーラとよく話す間柄。

 時間のある時に彼女はポーラに裁縫を教えていた。

 マーユが思ったポーラの思い出は、男勝りな一面と女性の振る舞いを使用人達全員で教えた時に恥ずかしがっていたことだ。

 大抵の女の子はある程度喋り方や振る舞いは少し教えれば恥ずかしがることもなく呑み込んでいくが、ポーラは所作を当たり前のように行うまで時間が掛かった。

 それでもそう言ったところも可愛いと感じたり、初めて髪飾りを身に着けた姿を見てあまりの可愛さに抱き着いたりもしていた。

 それにポーラが今も髪を伸ばしているのは、マーユ達の要望だった。

 マーユを始めとした女性使用人達にとってポーラは大事な妹になっていた。

 だからこそ、マーユは主であるアルファンの元ではなくポーラの元へ駆けつけた。


 (ケイティ達なら大丈夫だと思うけど、相手の人数も分からないし。)


 外は寒いがマーユの体はまだ温かかった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

この後は不定期投稿ですが、お時間があれば暇つぶしに読んでいただけると幸いです。




雑談

今回はシリアスな展開を入れさせていただきました。

その中でポーラ達を育てた使用人達は戦えると言う描写(古今東西メイドさん達は武術の心得があるという話だそうです)。

これは単純に使用人達の戦う描写を入れたかったからです(あまり考えずに書きました)。

そして読んでいてややこしい、煩わしいと感じたのは『黒いローブを着た人間』。

何処かの組織名を名乗らせられれば組織名や個人名も出しますが、今回は終始謎の集団に襲われる状態にしたかったので三人称視点とは言え雑で読みづらい名称にしてしまいました。

いつかコンパクトにまとめる力をつけたいです(伝える力を含む)。

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