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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
異世界と言う現実
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2話 縋る気持ち

このお話に興味を持って頂きありがとうございます。

完結できるように書かせていただきます。


稚拙で勉強不足ですがよろしくお願いします。

 部屋で休むことなく俺達は兵士に呼ばれた。

 案内役の兵士達についていくと城の傍にある100人ほど入れそうな建屋だった。

 既に洋風の料理が並べられていて空腹の俺達には食欲をそそる光景を見せられた。


 「空いている席に着くように」


 俺達は仲の良いグループで固まって座った。

 全員が座ると兵士の一人が砕けた挨拶をしてから俺達は食べ始めた。


 「パンはちょっと堅いな」


 

 「時間が経っているってことだろ」


 スープに付けるとふやけて飲み込みやすいな。


 「味が薄いなこれ」


 「手抜きの料理…ってことはないよね」


 野菜の細切れが入った透明なスープを飲んだ桑原は眉を顰めた。

 鈴木の言う通り、手抜きというよりは貴重品なのかもしれないぞ。

 メインディッシュの肉は見た目では何の動物か分からない。

 匂い自体は香草の爽やかな香りが食欲をそそるが果たして。


 「…固いな」


 「火は通っているみたいだから食べられるだけマシかもな」


 塩味とかあればまだ食べやすい、そう思えるような料理だった。

 周囲を見れば殆ど似たような表情ばかり。

 俺たち全員が用意された料理を食べて総じて美味しくないと感じている。

 眉を顰め口をへの字にして食の進みは遅い。


 「これ、美味しくないよね」


 「これがこの国の料理なの?」


 「元の世界の料理の方が何倍も美味しいよね」


 「早く帰りたいなぁ」


 そんな声がそこかしこに聞こえたが兵士達は取り合う気がないらしい。

 結局俺達は文句を言いながらも慣れない料理を食べざるを得なかった。











 翌日。

 臭いが残った部屋で過ごしたけど、換気だけで臭いを逃がせるのか。

 それくらい臭いが残っている。

 水洗トイレが如何に素晴らしいのか身を以て知るとは。

 朝食を食べ終えてから昼食まで座学を受け、午後になれば渡された訓練着で訓練をすることになった。

 城から離れた平原に集められ、多くの兵士達に見守られながら俺達の訓練を担当する騎士の話を聞いた。


 「我が名はガンボー・フォン・クロスフォード!勇者達の鍛錬を任された、手心を加えるつもりはないから覚悟するように!」


 土色の髭を蓄えた三十代のおじさんが鎧姿で話を続けた。


 「最初は走り込みだ!戦うにはまず体力が必要だ、とにかく走れ!拒否すればその場で体罰を与えるから覚悟しろ」


 これを聞いて大半のクラスメイト達が嫌な顔をした。

 実際拒否権がないに等しい俺達は渋々走り始めた。

 広範囲に跨って鎧を着た兵士達が囲んでいるためドサクサに紛れ込んで逃げることは出来ないほど目を光らせている。

 一周で400メートル以上はあるような感覚で俺達は走るが早速鈴木がばて始める。


 「もう、ダメ」


 鈴木の足がどんどん遅くなる。

 それに合わせて俺達もペースを落とす。


 「こういうのって能力の使い方を教えるとかだよな」


 「そうだよな、でも体力が重要って言うのも分からなくはないな」


 武田と桑原は気を紛らわせようと話題を振るが鈴木の目が死にかけている。

 ガンボーによる叱咤が入ることで他の人達はペースを上げさせられていた。

 そして俺達も一周を回るとそれ以上に叱られた。


 「お前達、一番遅いぞ。もっと早く走れ!」


 木刀ならぬ木剣で俺達を叩こうと近づいてきたので俺達は鈴木を押しながら急いでその場を離れた。

 気づけば陽が沈む前まで走らされていた。


 「喉が…乾いた」


 「水が飲みたい」


 「暑い、辛い」


 全員が足を止めたので俺達も体を地面に預ける。

 これで解放されると期待したがそんなことはなかった。

 英を始めとした運動部の面々に何度も抜かされたことで俺達は罰としてもう十周走るように言い渡された。


 「十周って夜になるだろ!」


 「つべこべ言うな!」


 木剣の乾いた音が地面を通して響く。

 あんなのでも殴られたくない。


 「クソッたれ」


 悪態を吐きながら俺達四人は走らされた。

 体が火照り汗も滝のように流し体がふらつく。

 武田と桑原は自分達のペースで先に走り出し、俺は鈴木のペースを少しでも速めるように横を走った。


 「ごめん、僕のせいで」


 「気にするな。人には得手不得手があるんだ」


 せめて水は飲ませて欲しい……。

 それから二日目以降も走り込みだった。

 最初は筋肉痛に悩まされたりしたけど時間が経つと体力がついたのか前よりも走ることに余裕ができた。

 顕著だったのは運動部の面々が4日経つ頃には一日目の2倍以上は走っていたこと。

 それと1週間が経つとグループ分けされてノルマが変わった。

 俺と鈴木と武田は同じで、桑原だけ違うグループ。

 前衛職と後衛職みたいな分け方だな。

 あいつは女子の多いグループに分けられて鼻の下を伸ばしている。

 しかもランニングも以前ほどしていないと来た。

 羨ましい。

 一方の俺達はランニングに加えて武器の使い方をレクチャーされた。

 俺や鈴木は木剣を、武田は木製のナイフを振り回す。

 一部のクラスメイトは例外なのか複数人の騎士や魔法使い達が話し合いながら訓練を進めていた。


 「あいつらって新種の能力持ちじゃないのか」


 「多分そうだよね」


 「大官寺もいるじゃねーか」


 クラスの問題児である大官寺を見て武田は複雑な気持ちになっている様だ。

 他のグループを横目に俺達は担当の兵士の話を聞いて全員で素振りをする。

 見よう見まねで振り続ける中、鈴木達には修正をしながら口頭でも教えていたが俺の所には来なかった。


 「あの、俺も見てくれませんか?」


 不安に感じて呼んでみるが兵士の返事は意外だった。


 「ん、ああ。お前は大丈夫だ、そのままでいい」


 雑な返答以前に冷たい視線を送られた気がした。

 俺の所から離れると英を始めとした他のクラスメイト達に対しては熱心に教えている。

 気のせいか?

 この日から教えてもらうことはなくただそれっぽく木剣を振るだけだった。











 初めての訓練から1か月が経った頃。

 俺は完全に孤立していた。

 取り敢えず木剣を渡されるが剣術の技量を上げるための教えを受けていない。

 鈴木達は話を聞いてクラスメイト同士で模擬戦もやっているが俺だけは参加していない。

 多分一週間前のことが原因だろうか。

 剣術を習うグループで初めての模擬戦を始めることになった。

 あのときは鈴木を相手にしようと思ったけどそこへ大官寺が割り込んできた。


 「お前、俺の相手をしろよ!」


 正直大官寺を相手にしたいとは誰も思わないだろう。

 俺だって同じだ。

 そもそも俺と大官寺にクラスメイト以上の接点はない。

 なんで指名されたのか分からない。


 「なんで?」


 「お前が一番相手しやすいからだ!お前、Fランクなんだろ?」


 「なんでそれを!?」


 他のクラスメイトの能力やランクはアニーさんから公開されていない。

 なのにこいつが知っているってことは武田達が言ったのか?


 「お前が他の奴らに見せていれば俺にも見えるのは当然だろう?バカだな」


 初日に俺達が見せあった時にこいつは覗き見たと言っている。

 こいつにプライバシーの概念とかないのかよ!?

 腸が煮えくり返るのを他所に兵士も許可を出しやがった。


 「良かったぜ、これで遠慮なくお前と戦えるってもんだ」


 「最悪だ」


 兵士が模擬戦を許可した以上、鈴木達も邪魔にならないように距離を置いた。

 木剣を強く握って大官寺を見据えた。


 「俺は新種のAランクだ、つまりお前とは格が違うってことだ」


 「俺を指名する理由にならないだろ」


 「いいじゃねーか。寂しいお前に俺様が付き合ってやるって話だ、光栄に思え」


 図々しい態度の相手に嬉しいとは抱けない。

 確かにランクは俺の方が下だろうが能力でひっくり返せる可能性もある。

 大官寺の能力は分からないがどうにか攻略してやる。


 「両者、位置について」


 兵士の言葉に俺達は適当に距離を置いた。

 鈴木達が息を呑む中、兵士の手が下へ振り下ろされた。


 「はじめ!」


 俺は誰からも説明を受けないまま自力で使い方を知った【フォーチュンダイアグラム】を使った。

 脳に意識を集中すると自然と目の前の光景がセピア色に変わり、視界の縁を残して元の色に戻る。

 この状態が能力を使っているらしい。


 >>剣を振る

 >>大官寺の左腕に防がれる


 これから俺がしたい行動とその結果が見えた。

 それ以降の展開を見ようと意識するが頭が痛い!?

 この能力ってこれっぽっちしか見えないのかよ。

 あまりの痛みに能力を解除するともう一度セピア色に染まってから全てが元の色になった。

 停まっていた時間が動き出したかのように大官寺が動き出す。

 能力で見ている時間は一瞬らしい。

 無防備な状態を晒すことがなくて助かったが、そのまま攻撃して防がれると言うなら。


 「サンドバッグになってくれるのか!」


 大官寺は正面から右ストレートを放った。

 想像以上に速いがまだ見切れる。

 体を左へ動かしてギリギリで避ける。

 ギャラリーがどよめくが見る余裕はない。

 がら空きの右脇へ木剣を叩きこんだ。

 だけど。

 人間の体を叩いたにしては堅すぎる。

 いくら勇者による肉体の補正があるとしてもあまりにも堅い。

 まるで金属を叩いたような感触が跳ね返った。

 手が痺れて木剣を手放しそうになる。


 「残念だったな!」


 余裕の笑みを浮かべる大官寺、こいつの体をよく見ると鋼色の何かに覆われている。

 木剣は大官寺の体に触れていない、この何かに阻まれていた。


 「俺の能力は【メタルガン】ってやつで全身を鋼で覆えるって能力だ!つまりお前が幾ら攻撃しても俺には通用しないって訳だ!」


 「はぁ!?」


 なんだそれ?


 「おっ、なんだその顔は?卑怯だと思うなよ、これも才能って奴だ。俺は選ばれた、お前は選ばれなかった。ただそれだけの話だ」


 どうしたらいいんだ?

 俺は剣を振る以外に能力で先を見るしか出来ない。

 冷静じゃない気持ちの片隅で再び能力を使った。

 だけど見える景色が変わっていた。

 何故か俺は空を見上げている。

 なんで?

 能力を使った直後の光景じゃないのか?

 空を見上げているなら地面に横たわっていると言うことなのか?


 >>体を起こす

 >>大官寺に蹴り飛ばされる


 意味が分からなかった。

 もう一度見ようと思ったが頭痛に襲われ能力を解除せざるを得なかった。

 能力で見えた光景から大官寺に剣を当てている現実に戻った。

 その瞬間。

 視線を動かす前に顔に衝撃が走った。

 体ごと吹っ飛んで地面を何度も転がった。


 「!?」


 俺は青い空を見ていた。

 右頬が焼け付くように痛い。

 俺は殴られたのか?

 顔を殴られたのに体が言うことを聞かない。

 それでも体を起こす。

 すると、大官寺がサッカーボールを蹴り飛ばすように俺の顎を蹴り飛ばした。

 顎が壊れそうな衝撃。

 俺は宙を浮いているのか?

 地面に背中を預ける前に闇の中に意識が沈んでしまった。

 次に目を覚ました時はベッドの上だった。

 後から聞いた話、殴ろうとする大官寺を鈴木達が止めてくれたらしい。

 未だに治らない打撲痕を残して俺は一命を取り留めたと自覚してホッとした。

 俺の頭はよく無事に体と繋がっていたな。

 それほどの衝撃だった。

 あれ以来、サンデル王国側は大官寺と俺を訓練で接触させないようにしていた。

 というより俺だけ端っこに移動させられた。

 行き過ぎた行為だとしても片や大官寺はAランク、俺はFランク。

 特に咎められることもなくあいつはのうのうと生活している。

 これが日本だったら教育委員会にでも訴えられるんだけどなぁ。

 最悪だ。











 あの訓練だけで終わったと思っていた。

 だけどそうじゃなかった。

 日中の訓練で一人でひたすら素振りをして過ごしている。

 周囲へ目を向けるとそれぞれ能力に合わせて鍛錬をしていた。

 鈴木は木盾を構えての素振り、武田はナイフの構え方や立ち回り方のバリュエーションが増えているな。

 桑原を見ると何もない空間から水が発生している。

 それがある程度大きくなると前方へ勢いよく飛んでいた。

 羨ましい光景を見るだけならまだマシだった。

 だけど訓練を終えて夕食までの自由な時間ができると俺は大官寺達に捕まる。


 「ちょっと面を借りるぜ」


 武田達に助けを求めようと視線を向けるもあいつらは俺がいなかったかのように三人だけで去ってしまう。

 クラスメイトの何人かは見てきたが兵士達が彼らに話しかけることで俺は大官寺の威圧に負けて人気のない場所に行くしかなかった。

 風化で崩れた家屋。


 「がはっ!?」


 殴られた衝撃が全身に行き渡る。

 体を支えるのに気力を振り絞るけど、膝蹴りが入った。


 「俺が直々に対人訓練を請け負ったんだ、ちゃんと反撃しろよな?」


 上から大官寺の笑う声。

 こいつは自分が殴られないと思っている。

 いや、殴られても痛みが伝わらないと確信している。

 能力で守られているから。

 大官寺から視線を外して奥を見ればもう一人。

 小田切翼、大官寺とよくつるんでいる静かな奴。

 召喚前でも二人が楽しく話している姿を見たことはないから仲が良いのか分からない。

 もしかしたら助けてくれると思い、陰に覆われている小田切に助けを求めようとした。


 「何処見ているんだ、あぁ!?」


 大官寺の左フックが顔面に入り、石壁が崩れるように受け止めた。


 「思ったよりも頑丈じゃねーか!これは良いサンドバッグになれるぞ!」


 奴の高笑いが響く。

 悔しい。

 なんで俺はこんなに弱いんだ?

 瓦礫の重さ以上に絶望が圧し掛かっている。


 「今日はこの辺にしてやるか、チクっても無駄だからな」


 大官寺は小田切を連れて城に戻った。

 人の気配を感じなくなったところで瓦礫を除けた。

 なんで俺が殴られなきゃいけないんだ?






 大官寺に殴られる日々が約2週間以上続いたある日。

 あいつらが去った後に立ち上がったらストレスを露わにした女子がやってきた。


 「あいつらがあんたを好きにしているならあたしも良いよね!」


 「谷川、どういうことだ?」


 「キモオタに名前を呼ばれるなんてキモイんだけど!」


 一方的に近づいてきてから蹴りを入れられた。


 「がはっ!?」


 谷川麻紀、ボブロングをカールさせた女子。

 俺と彼女の関係はクラスメイトでそれ以上はない。

 今まで会話すらしたことがないのになんで蹴られるんだ?

 日に日に強くなる大官寺の暴行に耐えた直後に女子からも受けるなんて。

 全身が痛くて最優先で考えることが分からない。


 「抵抗したら言いつけるんだから、いやらしいことをしてきたってね!」


 「な…んで……?」


 彼女の顔を見るが暗がりで分かりづらい。

 だけど最初に感じた苛立ちは幾分か収まっている?


 「こっちはストレス溜まってんの!異世界とか戦えとか、なんであたしがそんなことをしなきゃいけないのよ!?勝手に呼んでおいて住む場所とか食べ物とか大したことがないし!さっさと家に帰せってーの!」


 何度も腹を蹴られて体勢を崩されると今度は顔面狙い。

 咄嗟に手で防ぐが勢いのまま瓦礫の中へ飛ばされた。


 「男なんだから顔なんてどうでもいいでしょ!?Dランクのあたしに逆らわないでよ!」


 仰向けになった腹へ体重を乗せた踏みつけが俺の内臓を押しつぶそうとする。


 「あああぁ!?」


 「見上げてんじゃないわよ、キモイ!」


 理不尽な蹴りが俺の顎を蹴り飛ばし、俺の意識は暗闇に落ちた。

 この日を境に俺は大官寺と谷川から暴行を受け続けることになった。

 兵士達に報告しても取り合って貰えず、訓練中に声を上げて訴えようとしたら兵士から躾と称して遮られた。

 疎外感と暴力で何を考えたらいいのか分からない。

 希望が見えないある日の夜、部屋で寝ようとしたらドアがノックされた。


 「はい?」


 もしかしてこの時間もあいつらが来たのか?

 心臓の音が大きい。

 開けずにやり過ごすか?

 迷っているとドアの向こうから声が聞こえた。


 「私、近野だけどちょっといい?」


 「近野?」


 恐る恐るドアを開けると一人の女子がいた。

 綺麗な黒髪ロングに何を考えているのか分からない少し吊り上がった目元、身長は俺よりも低いのに威圧感を感じる。

 仮に彼女に何かしようものなら殺される、そんな恐怖を抱くほど彼女の視線は冷たかった。


 「ちょっと付き合って」


 「え?」


 召喚前の日常で彼女との関係なんて殆どない。

 彼女もまた会話をしたことがないクラスメイトの一人。

 まさか彼女もあいつらと同じように?


 「時間は有限、誰にも見られたくない。さっさと行くよ」


 彼女は俺の返事を待たずに廊下を歩きだした。

 逆らうな。

 頭で考える前に彼女のあとを追った。

 誰にも見られずに宿舎から離れて外を歩くが他の施設で見張りをしている兵士の目を掻い潜る。

 もしサンドバックにされるならついていくべきではない。

 そう思っていたが人気のない場所まで来ると月明かりに照らされた女子が見えた。

 中園利香。

 近野よりも少し背の高い、凛とした佇まい。


 「利香、連れてきたよ」


 「ありがとう樹梨ちゃん」


 近野は俺を睨みつけながら中園に寄った。


 「えっと、中園。どういうことなんだ?」


 「平本君、ちょっと静かにして」


 「は、はい」


 中園は正面から俺を見るだけ。

 のはずなのに何かを見透かされるような感覚だった。


 「あのね平本君、いつも助けられなくてごめん」


 「え?」


 頭を下げる中園。

 隣にいる近野はそれを見て驚き、再び俺を睨みつけた。

 内から恐怖を感じて身体が震えてしまう。


 「樹梨ちゃん、怒らないで」


 「別に怒ってない」


 近野が中園に諭されることで先程の威圧感が消えた、気がした。


 「あなたにされている仕打ちを止められないこと、私が止められなくて……」


 謝られた理由。

 今の俺の境遇のこと。

 目の前の女子は自分の事のように暗く俯いている。

 彼女は悪くないのは頭で理解できているけど、謝られても俺の状況は変わらない。


 「謝られても困るんだけど…それなら直ぐにでもどうにかしてほしい!」


 「それは」


 「あんたねぇ!?」


 思わず本音を漏らしたら近野から圧力を感じた。

 殺される。

 一歩下がっても逃げられない。

 そう思うほど彼女の顔が鬼気迫っている。


 「ごめん」


 「私も、ごめんなさい」


 少なくとも中園は俺を気に掛けてくれた。

 それが嬉しくもあり、それでもどうにもならない現状が辛い。


 「それで私…平本君を見て感じたんだけど」


 「?」


 「私は相手を見ることで色々な情報を知ることができて、平本君の能力の全部が分かった訳じゃないんだけど」


 これが本題なのかもしれない。

 さっきまでの悲痛な表情は引きずったまま、それでも真剣な眼差しは感じられる。


 「多分、アニーさん達が思っている以上のことができると思う」


 「それってどういう」


 「具体的な事は分からないけど、能力は使うほどに拡張されたり発展したりするって聞いて。だから平本君も今まで以上に使えばきっと」


 要領を得ない説明だった。

 だけど、彼女の視線は揺らいでいない。


 「今の俺は能力を使いこなせていないってことか」


 「私が見た感覚としては」


 正直大官寺の暴力から解放されるかもと途中で期待したけど、変わらない。

 明日以降もあいつらに殴られるし王国側は解決をしないのかもしれない。

 それ自体は憂鬱だけど。


 「教えてくれてありがとう、少し希望を持てたよ」


 さっきまでの彼女達への八つ当たりを恥じた。

 彼女達は多分悪くない、悪いのはあいつらだ。

 それに兵士達も怪しい。

 だからと言って何も変わらないなら、俺がどうにかするしかない。

 中園のおかげで心が少し軽くなった。

 

 

 

 翌日以降、俺の状況は変わらず。

 中園に言われてから時間の限り能力を使い続けたが大きく進展することはなかった……。  

本日もありがとうございます。

至らぬ点が多々ありますが暇つぶし程度に見てもらえたら幸いです。


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