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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
収束の始まり、夢も希望もない先へ
130/131

130話 見えない殺意に踊らされ

本日もよろしくお願いします。

前日にも投稿していますのでそちらも読んでいただけたら嬉しい限りです。

 雲が多く流れる空だが森の真上は晴れているため見通しは良い方だろう。

 ミールドの西から北東までを囲う森。

 もし西側の王都へ向かうのであれば森の中を整備した街道を通るか東回りで別の街や村を経由するのが良いとされている。

 勿論安全面で言えば東回りなのが大体の人達の常識だ。

 一方、人の行き来が殆どない森の北側。

 高く成長した木々によって光が遮られているが暗いと言うほどではない。

 ミールドでは勿論王都でも有名になったシンゴ達のパーティーが討伐依頼の為に行進していた。

 隊列は先頭にシンゴ、その後ろにローディー、真ん中にメイディス、グレアム、ジェーン、後ろにエディックとキャロルであった。

 彼らが歩いている道は整地されているため割と幅が広くて見通しが良い方なため、前方からの敵に対して斬り込める二人が先頭になっているようだ。

 何時ものようにジェーンを中心に楽しく会話が弾んでいた。


 「そう言えばパーティー名って決めてないよね、いい加減決めない?」


 「確かにそうよね、最高等級になって何もないなんてこのパーティーくらいじゃない?」


 「そうだな、シンゴが言わないから気にしていないのかと思ったぞ。」


 「暫く前まで忙しかったからな、それ以前にそういうのを自分達が名乗るってことを全然考えつかなかったな。」


 「そう言うのはノリと勢いで十分だろう!」


 「後世まで語り継がれる名称であれば慎重になったほうがいいかもしれませんね。」


 「少なくとも僕が皆さんの事を伝える役目になりそうです。」


 冒険者にとって自身の所属するパーティーの名前が良い意味で知られるのは誉であると言う。

 彼等もまたそれを知っているだけに心を躍らせていた。

 彼等の喧騒だけが森を賑わせた。

 周辺には冒険者や商人は勿論、モンスターも見当たらないから気にしていないのだろう。

 モンスターが接近すればローディーが察知する。

 それだけシンゴ達はローディーの索敵能力を信頼していた。

 だからこそ。

 七人が歩いている場所がいきなり沈み始めた。


 (は!?)


 シンゴは【フォーチュンダイアグラム】を使った。


 >>駆け出す

 >>地面が沈んで踏ん張りが効かない

 >>体が前傾に倒れる

 >>そのまま地面の壁を眺めながら落下

 >>下を見て着地に受け身をするも体に痛みが走る

 >>そこは枝葉と水が溜まっていた


 (落とし穴だと!?)


 シンゴは焦るが穴の底に落ちた直後でから見直した。


 >>全員が負傷しているが命に別状はない


 ただこの光景を見たことで全員が一緒に落ちたことになる。

 全員が助かる方法を模索する。

 数秒後に巨大な落とし穴に落とされる。

 不意の出来事にシンゴは脱出の手段を持っていない。

 それ以前に仲間全員が落ちている途中。

 落ち始めから何度も自身の行動を変えて自分が助かる可能性や誰かを助ける可能性を見たが変えられず。

 それでも何度も何度も見て。


 (落ちない選択肢がない!?)


 脳内の処理は現実では一秒にも満たない。

 それでも幾つもの可能性を見たことで体や脳に負荷が掛かり強制的に能力が打ち切られる。

 その現実にシンゴは頭痛と共に頭が真っ白になった。

 しかし

 シンゴの首根っこが掴まれた。


 「オラッ!!」


 ローディーの一声と共にシンゴが宙に浮いた。

 投げ飛ばされたシンゴが下方を見ると仲間達が何もできずに落ちる姿。

 地面に投げ出されたシンゴは受け身を取りながら落とし穴の傍へ行こうとした。

 その最中に、シンゴは【フォーチュンダイアグラム】を使った。

 使った理由は恐らく背後からの奇襲に備えてだろう。

 その光景で見たのはウォータボールの直撃を受けてシンゴもまた落とし穴に落ちる可能性だった。

 そうならないように動いた可能性を見てから身構える。


 「ウォーターボール!」


 能力で視た通り、シンゴの背後からウォーターボールが飛んで来た。

 地面を削って濡れた軌跡を残しながらシンゴへ襲い掛かるがシンゴは振り返らずに左へ飛んで回避。

 標的を見失ったウォーターボールは穴の縁で破裂して穴の壁面を伝ってただの水として流れた。


 「杜撰(ずさん)な魔法だな!」


 シンゴはジャクバウンを抜剣して構えた。

 ウォーターボールを放った相手は…目の前には居なかった。


 「ウォーターボール!」


 シンゴから見て正面左側の茂み、そこから再びウォーターボールが放たれた。

 シンゴは見てからでも反応して斬り裂いた。

 霧散した水の玉を気にすることなく襲撃者を追いかけるために茂みへ走る。

 シンゴはギリギリで飛来する物を認識して首を捻って避けた。

 通過したのは小石。

 何発ものウォーターボールや小石が放たれた。

 シンゴは斬ることをせずその全てを回避した。

 彼にとっては斬る価値もないと判断したのだろう。

 茂みへ入ったシンゴに向かってまた小石が投げられたが反射的に避けた。


 「そんなものじゃ俺は倒せないぞ!」


 すると前方の濡れた茂みが次々と凍り始めた。

 その異変に気付いたシンゴはジャクバウンにオーラを纏わせた。


 「そこか!」


 凍り始めた箇所へジャクバウンから伸びた青いオーラが突き刺さった。


 「ちっ!?」


 だが凍結の進行が止まらないことに舌打ちしたシンゴは一度茂みから脱した。

 凍結は茂みを通り越して道まで浸食し始めていた。

 その一帯はウォーターボールによって地面が濡れていたため即座に凍ることになった。

 シンゴは濡れていない場所まで急いで避難した。


 「足止めの水玉かよ!」


 氷結の圏外へ出たシンゴだが襲撃者の猛攻は続いた。

 またも小石が投げられるが直撃するコースではないためシンゴは放置して襲撃者の位置を見極めようとした。

 茂みの中からウォーターボールに加えてウィンドカッターも混ざって飛んで来た。

 風の攻撃は空気の歪みによって視認できるために視認は出来るようでシンゴはこの猛攻も掻い潜った。

 襲撃者は茂みの中を移動しながら魔法を放っているためか時折見当違いな方向へ飛んでいた。


 (大したことがない襲撃者だな。)


 シンゴはそう結論づけた。


 バサッ


 上方から何か音がした。

 正確に言えば落とし穴の上あたり。

 シンゴは振り返って確認しようとしたが相手の猛攻から目を離せずにいたため三回目の【フォーチュンダイアグラム】を発動した。

 能力で視ることで命を危険にさらさず振り返った時の選択肢による結果として周辺の光景を確認できる。

 それによってシンゴが見た光景は落とし穴の上に伸びている背の高い木の枝に吊るされていた袋。

 見えるだけで四袋だが枝もまた太かったために折れてはいなかった。

 その袋がウィンドカッターによって下半分くらいが斬られていた。

 結果、中に詰まっていた大量の粉が落とし穴へ広がるように降り注がれた。

 シンゴが見た光景はここまで。

 再び飛んで来た小石を避けるために能力を打ち切った。

 止む無く切り上げたシンゴだが目の前の猛攻を掻い潜って襲撃者を仕留めることに集中した。


 「お前を倒せばいいだけだろ!」


 ジャクバウンの青いオーラで斬り払おうと右に構えたタイミングで左側から石礫が飛んで来た。


 「ちっ!?」


 ギリギリで気づいたシンゴは前方へ飛びながら体を左へ捻った。

 着地と同時にジャクバウンで斬り払う。

 その足に何かが引っ掛かった。


 「!?」


 恐らく細い蔦。

 目を凝らしてみれば分かるが茂みに隠れて見えづらい。

 その蔦は切れたが既にシンゴは斬り払った直後。

 何十本の木々が一瞬にして切断され、腰の高さまでの茂みも真っ平に払われた。

 次々に崩れる木々の中には人為的に取り付けれた丸太や袋が見えた。

 そんな光景を見るシンゴの背後から鈍い痛みが走った。


 「ぐはっ!?」


 背後を見れば人間の子供くらいの大きさの丸太。

 ロープに括りつけられたそれがシンゴを襲ったのだろう。


 「猪口才な!」


 シンゴが振り返った先。

 黒い小石が飛来していたがシンゴの所へ向かうどころか放物線を描いていたのでシンゴは無視した。

 更に二発のファイアボールが襲い掛かってきたのでジャクバウンを構えた。

 一発はシンゴに直撃するコースだったため、ジャクバウンで斬り払いに成功した。

 もう一発は大きく逸れていたためそのまま無視した。


 「焦って狙いが狂ったみたいだな。」


 シンゴはそう判断して発射したと思われる地点へ駆ける。

 その途中。

 空気を震わせて体中に響くような大きな爆発が起きた。

 爆音を聞いたシンゴは能力を使って背後を振り返った選択肢で確認した。


 「!?」


 爆発が起きた場所は仲間達が落ちた落とし穴。

 その穴から巨大な火柱が上がっていた。

 何があったんだ?

 先程シンゴが能力を使った時、見えていたのは白い粉が落とし穴に降り注いでいたところまで。

 そのあとは見ていなかった。

 いや見ることができなかった。

 だから分からなかった。

 直ぐに思いついたのは仲間の一人に火の魔法を使えるキャロルがいる。

 だが仲間を危険に晒してあんなことをするのだろうか?

 シンゴの頭の中で疑問が湧くも現実に起きたこと。

 それと火と言えば先程も見た火の魔法。

 能力を行使して相手の攻撃を受けない選択肢を見たシンゴはその通りに動いた。

 相手は尚も茂みの中を移動していた。


 「お前、何をしたんだー!?」


 怒りを感じたシンゴは叫んだが相手からの反応はなく。

 走る度に足元の糸を切っては丸太や何かが詰まった袋が空中から襲い掛かってきた。

 そんな罠に対してシンゴは無視してそのまま駆けた。

 既にこの光景は見ており今の行動をすることでそれらを容易に回避出来ていた。

 その間にも襲撃者は茂みに隠れながら素早く距離を取り続けた。

 シンゴが時折能力を使って最短で追っているはずなのに追い詰めることが出来ない。

 変わらない現状にシンゴは更にイラついた。


 (なんだこの襲撃者は?こんなに罠を掻い潜れば同様の一つでもするはずなのに。)


 仲間の安否も気にしつつ攻撃の手を緩めない襲撃者を追いかけても追いつけない。

 前方は茂みと木々。

 第三者がいることがないと考え、シンゴは腰をかなり落として再びジャクバウンの青いオーラを伸ばして斬り払った。


 「これでどうだー!!」


 相手の一瞬の隙をついて襲撃者がいるであろう範囲を薙ぎ払った。

 しかも距離は一度目よりも三倍近く長い。

 斬り払った木々が次々に落ちていくことで土ぼこりが盛大に舞った。

 茂み自体は高さが変わった程度で膝までの高さは残っていた。

 シンゴは警戒して能力を使った。

 その場で立ち続けても変化のない光景。

 何か所か向かって足元を確認した光景。

 別の選択肢を観ようとしたところでシンゴに変化が起きた。


 「ぐっ!?」


 激しい頭痛。

 体中に感じる疲労。

 激しい動悸。

 今までで一番感じた代償。

 頭を押さえて苦痛を耐えるシンゴ。

 静かな時間。

 こんな状態のシンゴに襲撃者の攻撃はない。


 「た、倒したのか?」


 もしかしたら薙ぎ倒した木々の下敷きになっているかもしれない。

 楽観視することでシンゴの心労が和らぐ。

 それなら仲間達の安否を確認しなければそう思ってシンゴは頭痛を伴いながら立ち去ろうとした。

 しかし。

 シンゴの背後から茂みが動く音が聞こえた。

 未だに舞っている土煙が突き破られた。


 「!?」


 シンゴは右手に持ったジャクバウンで咄嗟に庇った。

 ジャクバウンで遮られたことで黒いショートソードとの衝撃音が響き渡った。

 数秒の鍔迫り合い。

 両手で持ち直したシンゴが押すと黒いショートソードは素直に押し返され…ることはなく勢いを利用されていなされた。

 黒いショートソードの持ち主はローブを全身に纏っていた。

 背丈はシンゴよりは低い。

 恐らく襲撃者だろう。

 その襲撃者は黒いショートソードから右手を離して、その拳でシンゴの顔面をぶん殴った。


 「!?」


 正面から殴られ疲弊しているシンゴは足の踏ん張りが効かず後方へ倒された。

 襲撃者もまたその一撃の為に体重を乗せたために追撃が出来ずに少しの硬直を起こしてしまった。

 受け身を取って体勢を直したシンゴもまた頭痛と疲労によって動くのが遅い。


 「お前はなんだ?お前は誰だ?何が目的なんだ!?」


 ジャクバウンを構え直したシンゴに襲撃者もまた黒いショートソードを構え直した。


 「誰かって…お前が一番知っているんじゃないのか?」


 襲撃者が踏み込んで斬りかかった。

 シンゴは能力を行使しようとしたが頭痛がより激しくなり映像が見えなかった。


 「な、なんで」


 それでも真っ直ぐな斬り込みにシンゴはそのまま防いだ。

 さっきよりも重い一撃。

 剣戟による衝撃が、襲撃者のローブを捲った。

 青いスカーフで後ろを纏めた長い赤毛の髪。

 憎しみの籠った赤い瞳。


 ポーラ


 それがシンゴを襲った存在。

 この世で一番シンゴを憎んでいる女。


 笑っているような

 怒っているような

 喜んでいるような


 今も全てを燃やしてしまいそうな赤い眼光にシンゴを映していた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

基本的に不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。


明日(2023年12月23日)の午前6時に次の話を投稿予定です。

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