13話 ボーイ・ミーツ・ガール? ―シンゴ・ヒラモト―
本日もよろしくお願いします。
ポーラが逃げてから少し後のこと。
一人になったシンゴが森を彷徨っていた。
「前よりも早く歩けるのは身長の差なのかな。」
時折、自分の手を握り締めることで力強くなったことを実感しているのだろう。
「何をしようかなー?取り敢えず泊まる場所があるといいなぁ。それにご飯もあると嬉しい。」
あれこれと考えて呟くシンゴの耳に若い女性の悲鳴が届いた。
「きゃー!?」
「どこ!?」
シンゴは急いで声のする方向へ走った。
「それにしても走るのも速い!」
シンゴは以前の少女の時を思い出しながら天然の障害物を気にせず駆け抜けた。
鬱蒼と茂る落葉低木の近くに狼のようなモンスターとそれに襲われている肌の露出が多い女性が腰を抜かしていた。
シンゴは即座にモンスターに駆け出した。
シンゴに気づいたモンスターもシンゴに気づいて襲い掛かる。
距離が縮まる中、シンゴは慌てつつもジャクバウンを抜いて構えた。
お互いがすれ違った瞬間。
シンゴは微動だにせず。
モンスターは静止したと思えばゆっくりと右に倒れて上下で真っ二つになった。
後ろを向いて確認したシンゴは女性へ向き直った。
「綺麗なお姉さん、怪我はしていませんか?」
「え、えぇ。大丈夫よ。あなたのお陰で助かったわ!」
ジャクバウンを鞘に納めたシンゴは右手を差し出して女性をゆっくり起こした。
「それにしてもフォレストウルフを一撃で仕留めるなんて凄いわね!」
「そうかな?」
「そうよ!あ、わたしはジェーン。冒険者をしてるの。あなたの名前は?」
「あた、いや俺はシンゴ。旅をしてる最中なの。」
「シンゴ。変わった名前ね。それに旅人・・・。何か目的があるの?」
「ううん、特には。何処へ行けばいいか分からないの。」
改めてジェーンを見ると背丈はシンゴよりも少し低い、肉付きは悪くなさそうだ。
縮れたダークブラウンのショートボブに褐色の肌。
革の胸当てに洋紅色の肌着、左側にスリットの入った紺碧色のミニスカート、腰には汚れた背嚢を巻いて右腰に短剣を吊るしていた。
ジェーンはシンゴの胸から顔を見て、足元に向かって視線を動かしていた。
そして、微笑むジェーンの顔にシンゴは顔を赤くして照れ始めた。
それからジェーンは距離を縮めてシンゴに色々聞き始めた。
顔を赤くしたままシンゴは分かる範囲で答えていた。
「あ、そこのフォレストウルフの牙を取るから待っててね?」
「うん。」
話に一区切りついたところでジェーンがフォレストウルフの牙を何本か抜いて腰に巻いた背嚢に入れた。
その間はシンゴがジェーンの作業について興味を持ち、ジェーンが実演しながらシンゴにも手取り足取り教えていた。
「どうして牙を取るの?」
「牙を持ち帰らないとお金を貰えなくて。」
「へぇ。」
「実はフォレストウルフの定期的な討伐があってね。放置すると群れを増やして村や町を襲っちゃうから。それで私も参加しているんだけど、一人じゃ全然倒せなくて。」
「友達はいないの?」
「友達じゃないけど。最近解散しちゃってね・・・。」
「そっか・・・。」
寂しそうな顔をするジェーンにシンゴは同情したようだ。
「そうだ!シンゴは旅人なんだよね。どうせなら冒険者をやってみない!?腕も立つみたいだし!」
「冒険者・・・。俺もできるかな!?」
「シンゴなら出来るわよ!フォレストウルフを一撃で倒したんだもの!」
「わかった!やってみる!」
「そう!よかった!それならわたしが所属するギルドへ案内するから一緒に来て!」
「うん!」
笑顔のジェーンにシンゴも笑顔で答えて歩き出した。
森を抜けると整地した街道へ出た。
「こっちへ行くと町に着くよ。」
ジェーンは右側を指して街道に沿って歩き出した。
初めて見る光景にシンゴは顔を輝かせていた。
「こんな大きな道、初めて見た!」
「えっ?そうなの?旅人だからてっきり。」
「あ、えっとね。いつも森の中を歩いてて。こういう道は全然通らないの。」
慌てて言い繕ったシンゴに疑問を持つことなくジェーンは納得したようだ。
町へ着くまでジェーンの話を聞き続けるシンゴは終始笑顔でしゃべり続けるジェーンも満更でもないようだ。
「ここが町・・・。」
「ようこそ、カンデラへ!」
ジェーンは門番達に話してシンゴを通した。
初めて町を見るシンゴはかなり燥いでいるようだ。
「凄いね!こんなに人がいるなんて!」
「本当に自然の中を旅してたんだね。」
「うん。それでどこへ行くの?」
「あぁ、先に冒険者ギルドへ行くから付いてきて。」
ジェーンの後を付いていき、目的の建物に付けばジェーンが外で待つように言った。
待っている間、シンゴは周辺をキョロキョロと見渡していた。
「これが町。村と違って人が多いしお店もたくさんある。」
目を輝かせるシンゴに近くを通る人は物珍しそうに見ていたがそのまま過ぎ去る。
暫くすると建物からジェーンが出てきた。
「じゃあ、依頼も達成したしご飯でも食べに行こう!」
「ご飯!食べる!」
「なんだか子供みたいだね。」
「えへへ。」
二人が来た店は木造二階建ての大きな飲食店だ。
冒険者御用達のお店でメニューも様々。
二人は一階のキッチン近くのカウンターへ座った。
「あっ!こういうところってお金が欲しいんだよね?あ、実はお金持ってないの。」
「やっぱり、そうだと思った。だから今日はわたしの奢り。あんまり高いものは頼めないけど一食分ならいいよ。」
「ありがとう!」
ジェーンが奢るということでシンゴは笑みを浮かべて答えた。
「こちらこそ、今日は助けてくれたしそのお礼だよ。」
そうして二人はロールパン二つとフレンドリィボアの切り身にエールを頼んだ。
「黒パンじゃないんだ!それにこのお肉いい匂い!」
「まぁ、お店で黒パンは滅多に出ないよ。それとその肉はフレンドリィボアって言う品種改良した肉なんだ。」
「へぇ~。それじゃあ!」
「どうぞどうぞ、って。わたしも食べようかな。」
ジェーンが食べ始めた時、シンゴは祈りを捧げていた。
「祈りを捧げるなんて珍しいね?」
「いつも食べるときは捧げてたよ?」
「そっか。まぁ、こういうところなら祈りを捧げなくてもバチは当たらないから。」
「うん、わかった。じゃあ食べるね!」
シンゴはロールパンを千切って口にした。
「美味しい!このパン美味しいよ!」
「そう?安いパンだけど。」
次にシンゴはフォークを持って火の通った肉の切り身を刺して豪快に口に入れた。
「何これ!?お肉の味ってこんな感じなんだ!凄く美味しい!」
「肉は初めて食べたんだ。意外だね。」
「そう?いつも野菜とかパンしか食べないから。」
「森でパン?シンゴは不思議な人だねぇ。」
そう言いながらもジェーンは美味しそうに食べるシンゴの笑顔を眺めていた。
「この飲み物は・・・苦いね。」
「そうだね、それは苦いかも。まぁ大人になったら誰もが飲むやつだよ。この国ならシンゴの年齢も大人だから飲んでも大丈夫だよ。」
「そっか、俺も大人なんだ・・・。」
そう言ってシンゴはグビグビと木製のジョッキを呷った。
「肉と言いエールと言い豪快だね、シンゴは。」
「えへへ、そうかな?なんだか気分が良いねこれ。」
「まぁエールとかはそうだね。個人差もあるけど。喉を癒しながら自分への頑張ったご褒美として飲むことが多いんだ。」
「そうなんだぁ。まだ、パンと肉も残ってる!ジェーンも食べて食べて!」
「急かさなくてもわたしもちゃんと食べるよ。」
ジェーンもエールを呷りながらシンゴと一緒に夕食を楽しんだようだ。
店の中は冒険者たちを中心に賑わい始め、その雰囲気に二人は終始笑っていた。
「今日は楽しかったね!」
「そうだね、久しぶりだよ。」
「そうだ。あたし、家がないんだ。どうしよう?」
不安になったシンゴにジェーンが手を握った。
「だったらわたしの泊っている部屋へ来なよ!」
「いいの?」
「いいよいいよ!お金はあるから泊めてくれるよ!」
シンゴの顔はいつもより赤らんで一人称が『あたし』になっているがそれに気づかないジェーンの顔の顔も赤らんでおり大胆にもシンゴの右腕にしがみ付いて歩き出した。
(ジェーンの体、温かくて柔らかい。気持ち良くて安らぐ・・・。それに汗に交じっていい匂いもする。)
シンゴは内心そんなことを思いながらジェーンに案内されるままだった。
ジェーンの泊っている宿は冒険者御用達の宿のようで強面の店主がドアを閉じようとしたところでジェーンたちが現れた。
「店主ー!今日はこの人も泊めてー!」
「おい、お前酔ってるだろ?」
「わたしはそんなに酔ってないよ?それよりもこの人、宿がなくて困ってるの。」
酔っているジェーンに困り顔の店主はどうしようか悩んでいる様だ。
「そいつは初めて見る顔だな?名前はなんていうんだ?」
「あたし?シンゴだよ。」
「シンゴ?聞いたことがないな。それで。お前はこいつとどういう関係だ?」
「今日、森の中でフォレストウルフに襲われそうになったところを助けてくれたの。謂わば命の恩人!」
「お前、よく冒険者を続けられるな・・・。」
「部屋がないならわたしの部屋に泊めるから、いいでしょ!?」
「確かに空きはないが。お前はいいのか?初めてあった男と一緒で。」
「いいの!シンゴは問題ないわ!」
「・・・そうか。言質は取ったからな。今回は特別だ。金は明日貰う、さっさと部屋に戻れ!」
「ありがとう店主!」
「ありがとう!」
店主の許可が下りてジェーンとシンゴはお礼を言って二階へ上がった。
「どうなっても知らないからな。」
店主はドアを閉めた。
二階の一室へ入るとジェーンはシンゴと一緒にベッドへ倒れ込んだ。
「今日はありがとう。いつも以上に幸せな気分だよ。」
「あたしこそありがとう!ご飯を食べさせてもらったし、今も部屋へ泊めてくれたし。」
頬が緩んだジェーンの笑顔にシンゴは更に顔を赤くした。
(なんだかジェーンが綺麗に見える。でもジェーンだって立派な女性だよね。お姉ちゃん達と同じくらいかな?それにしてもお姉ちゃん達を見ても綺麗としか思わなかったけど今のジェーンを見ていると胸がドキドキするし抱きしめたくなる!)
「あ、あのね。ジェーン。ジェーンに、抱き着いてもいい・・・?」
恐る恐る聞くシンゴに数秒だけ沈黙が訪れた。
(やっぱりだめだよね。)
シンゴが内心そう思ったところへ。
ジェーンが上体を起こし胸当て、腰のナイフや背嚢を外して床に置いた。
「・・・いいよ。シンゴなら。こっちにおいで。」
ジェーンが両手を広げた。
シンゴも腰の二振りの剣を外してジェーンを抱きしめた。
「温かくていい匂い。それに柔らかい。なんだかいい気分・・・。」
「そう?わたしもシンゴを抱きしめると落ち着くなぁ。」
そうして二人は暫く抱き合った後、ゆっくりとベッドへ倒れ込んだ。
翌朝。
ジェーンの泊っている一室でシンゴがベッドから起き上がった。
外の光が差し込んでいた。
「なんか頭がすっきりしたな。それに色々と分かってきたな。」
顔がにやけるシンゴの横でジェーンも目を覚ましたようだ。
「おはよう、シンゴ。どうしたの?」
「ううん、なんでもない。ジェーン、今日も美しいよ。」
「えっ!朝からいきなり何言ってるの!?でも、ありがとう・・・。」
顔を赤くしながらもジェーンは素直に返事した。
「今日はどうする?俺達の予定は?」
「そうだね・・・。シンゴは冒険者に興味あるんだよね?」
「そうだな、興味はある。」
「そうと決まればシンゴの冒険者の登録手続きしなくちゃね!」
「あぁ、よろしくな。ジェーン。」
「わたしこそよろしく!」
今日から二人の冒険が始まろうとするのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが暇つぶしに読んでいただければ幸いです。
今回は嘗ては村の少女だったシンゴの話しでした。
話を幾つも展開させていますがご容赦を。
平本慎吾になったポーラを『シンゴ・ヒラモト』にしたのは当初の平本慎吾と区別するためです。
序盤での言動について、一人称が『俺』なのは自分が男になったことを意識しているため。
一方で、今までの平本慎吾が言わなさそうな口調はまだ少女の部分が残っていることの現れとしています。
そして終盤に関して、翌朝のシンゴは昨日に比べて男に近づいたため細かい口調も変動したと言うわけです。
ジェーンはそんなシンゴの事を変わった人間と思いながらも言動については深く考えずに自分を助けてくれたことや見た目も悪くない、強い人と思っていました。
その二人を中心にしたサイドストーリーを偶に挟む予定です。




