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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
収束の始まり、夢も希望もない先へ
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129話 愛し合うこと ―シンゴ・ヒラモト―

本日もよろしくお願いします。

 ムンドラ王国、ミールドの街。

 冒険者として活躍するシンゴは先日まで何度か討伐依頼を受けていたが、現在は休暇にしているようだ。

 彼の周囲に仲間達は居ない様子から各々自由に過ごしているだろう。

 シンゴもまた一人で街を出歩いていた。


 「偶にはのんびりするのも良いよなぁ。」


 シンゴは冒険者稼業は天職だと感じているが、無尽蔵に体力があるわけではないし仲間達と足並みを揃えないといけないことは重々承知している。

 表通りは各店舗に人の出入りが見られ、全体的に活気がある。

 ある飲食店は大きな庇を取り付けているため立ったままであるが飲食が出来るようになっていた。

 そこには大きな荷車が停められており、中年の男二人が店の壁に取り付けられたカウンターに体を預けながら話していた。


 「ここで休憩できるのは良いことだよな。」


 「俺達みたいな運び屋は荷物を見張りながら飯を食うとかしなきゃいけないから大変だぜ。」


 「盗まれたらクビだもんな。」


 「だからこういう場所のお陰で荷物を見ながら飯とか食えるってもんだ。」


 「その飯もここ暫く値上がっているよな。」


 「そうなんだよな、別に不作ってわけじゃないってのによ。」


 「どうしてなのか聞いているのか?」


 「詳しくは知らないが国が食料品を多く買い取っているらしいぜ。」


 「何か大きな宴でもあるのか?」


 「それは知らないが…ただ。」


 「だた…なんだ?」


 「噂じゃ保存食を大量に作っているとか。」


 「保存食?冒険者とかにでも売りつけようってのか?」


 「最近じゃモンスターも増えているから案外そうかも知れないぜ。」


 「俺も今から始めたら一儲けできそうだな。」


 「簡単に行くなら苦労はしないぜ。少し前に小麦粉を買いに来た奴を見かけたが初めて買ったらしくて値段に驚いていたぜ。」


 「どれだけ買ったんだよ。」


 「そこまでは知らないなぁ。」


 近年のムンドラ王国では小麦粉の価格が上昇しているらしい。

 シンゴにとっても食事事情は生活における重要な物であり、他人ごとではないだろう。


 「だから数年前に比べて高いのか。」


 ここ暫くの飲食店での食事など同じ料理でも値上がっていることには誰もが気づくが仕入れ値から利益を考えなければ店も存続できない。

 荒くれ者が多いとされる冒険者達でも大半の者達はそういう事情は分かっているつもりだ。

 そんな話が耳に入りつつもシンゴはその場を去った。

 表通りから外れた場所に雑貨屋があり、冒険者向けの商品が揃えられている。

 シンゴは次の冒険の為に消耗品を求めにドアを開けた。


 「店主、買いに来た。」


 「おう、シンゴ。今日はお前なんだな。」


 「そうだな、うちは当番制なんだ。」


 ここは雑貨屋であり店主は30代後半の男性だ。

 気前が良さそうで初心者冒険者も安心して買い物ができそうな明るい雰囲気。

 暫く前にシンゴは個人の報奨金の大半を叩いてしまっていたため遊ぶ金はあまりない。

 一方でパーティー用の資金はメイディスが管理しているのでそこから引き出して今回の買い物に来たらしい。

 シンゴは非常食や解体用のナイフ、戦利品用のずた袋を買った。

 戦利品用のずた袋は途中で穴が開いてしまうこともあり度々買うことがあるみたいだ。


 「そう言えば食料品が値上がっているが影響はないのか?」


 「大ありだな。非常食は勿論俺達が普段から食べる物だって少し高くなっているんだ。もっと買って貰わないと俺の生活費もなくなっちまうぜ。」


 「今回はそんなに必要ないからこれ以上は買えないな。」


 「つれないぜ、まぁロープを大量に買っていく珍しい客もいるがお前みたいに定期的に買ってくれる客の方が重宝するぜ。」


 「それなら俺達の無事を祈ってくれよな。」


 「当たり前だろう!」


 店主の笑顔に見送られたシンゴは店を後にした。

 そこから暫く歩いて薄暗い路地の通りに向かう。

 人通りはそこそこで、古びた建物にシンゴは入った。

 店の中は改修もされていない様相で中に火が差し込まれていないため不気味さも感じる。

 店もそこまで大きくなく、手前の三分の一のスペースは何もなく奥では誰かが作業をしていた。

 50代の女性が頭に布を巻いて薬草をすりつぶしている様だ。

 テーブルの上に幾つもの木鉢や薬草や容器などがあった。


 「ポーションはあるか?」


 「あるよ。」


 シンゴは店の仕切りになっているカウンターに懐から硬貨を二十枚ほど出して置いた。

 それからカウンターの左端は人が通れる道にがあり、カウンター裏を見るとポーションが幾つも置いてあった。

 シンゴは十四本取り出して懐から畳んだ袋を広げてそこにポーションを全て納めた。


 「マジックポーションも貰っていいか?」


 「二本なら良いよ。」


 女性は顔も上げずに作業を続ける。

 シンゴも気にすることなく色の違うポーションを二本掴んで先程の袋へ入れた。


 「マジックポーションの分も置いておくぞ。」


 シンゴは再び硬貨八枚をカウンターに置いた。


 「毎度あり。」


 ここは薬屋であり店主は女性のようだ。

 ある程度の信頼があるから大雑把なやり取りでも問題はないのだろう。


 「ロフォラティグ避けのお香とかは良いのかい?」


 女性は作業をしながらも視線はシンゴに向けていた。


 「まだあるから大丈夫だな。」


 「そうかい。最近じゃ大量にモンスターが発生しているらしいから気を付けなよ。」


 「心配どうも、まぁ薬屋にとっては書き入れ時だな。」


 「確かにそうかもね、お得意さんも大量に欲しがっているからね。」


 「俺達にとっては他の冒険者にもここを利用されると困るな。」


 「最近じゃ新規は断っているから安心しな。」


 「それなら今後も買いやすくなるな、ここのポーションは品質が良いからないと困る。」


 「材料も取って来てくれると助かるけどね。」


 「分かっているって、じゃあまた。」


 シンゴは荷物を抱えながら店を後にした。




 その日の夜。

 月明かりが部屋に差していた。

 シンゴは普段から泊っている部屋にジェーンを呼んで談笑していた。

 雑談をしながらも今までの事を二人は思い出している。


 「あれから八年くらいは経っているんだよな。」


 「そうだね、シンゴに出会わなかったら今もこうして冒険者を続けられなかったよ。」


「俺もジェーンがいなかったらここまで活躍できなかったかもな。」


「シンゴはそういう心配はないと思うけどなぁ。」


 「ジェーンが支えてくれるから今がある。それは絶対だ。」


 「そう言って貰えると嬉しいな。」


 ジェーンの頬が少し赤らんだ。


 「それでさ、ジェーン。これからのことなんだけどさ。」


 「これから?」


 「直ぐって訳じゃないが…俺は…ジェーンと家庭を築きたいと思っている。」


 「!!」


 シンゴの真剣な眼差しにジェーンの心臓は高鳴った。


 「それってつまり。」


 「俺は本気でジェーンの事が好きで、結婚したいって思っている。」


 シンゴのストレートな想いにジェーンは顔を覆った。


 「本当?」


 「本当だ。」


 ジェーンを真っ直ぐ見つめるシンゴにジェーンはうっすらと涙を流した。


 「私でいいの?」


 「ジェーンだから良いんだよ。俺の傍にはジェーンに居て欲しい。」


 「私も…シンゴの傍にいたいっていつも思っているよ。」


 「ありがとう。ジェーン、愛している。」


 「私も愛しているよ、シンゴ。」


 二人は口づけを交わした。

 長い長い口づけ。

 ゆっくりと顔を離した。


 「昔もこれからも俺がジェーンを守るから。」


 「私はこれからもずっとシンゴを支えるよ。」


 二人とも笑みを見せながら抱き合って互いの温もりを感じ合った。

 二人の間には…切れない絆と愛情が確かに存在した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

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