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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
収束の始まり、夢も希望もない先へ
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128話 獣

本日もよろしくお願いします。

 西の森から北の森へ移動する途中でもモンスターを見かけることがあったけど距離を取りながら息を殺して過ぎ去るのを待った。

 そうしてゆっくりと、冒険者達にも遭遇しないように進んでいたけど都合よくはいかなかった。


 「glllllllll……。」


 低い唸り声が聞こえた。

 ゆっくりと振り返ると茶色の顔に緑の体毛で覆われた、首周りに赤い触手が多く生えているモンスターが距離を取っていた。

 冒険者達から聞いた特徴と合致する、確かロフォラティグと言うモンスター。

 単体で行動する場合と数匹のグループで行動するらしいけど、今回は単体らしい。

 相手の方が地の利と俊敏さがあるからここから逃走するのはできない。

 であれば戦うしかない。

 背嚢を近くの大木へ放り出し、ショートソードを構えた。

 ロフォラティグは左へ回りながら少しずつ近づいてきた。

 気を緩めたら一気に襲い掛かって来るかも。

 緊張と警戒。

 お互いに出だしを見極めようとしている。

 出来るだけ呼吸を整えないと。

 それなりの時間が経ったかもしれないしほんの少しかもしれない。

 時間の流れが曖昧に感じたそのとき。

 何処かで鳥の鳴き声が聞こえた。

 鳥のようなモンスターもいるらしい。

 頭に過った情報が浮かんだ瞬間。

 ロフォラティグが一気に駆け出した。

 ほんの数歩で私の間合いに入ってきた!

 低姿勢から喉元へ噛み付こうと襲い掛かってきた。

 私は左足に力を込めて上に跳んだ。

 すれ違いざまにショートソードで斬ろうとしたけど、

 赤い触手たちが振り下ろそうとしたショートソードに絡んできた。


 「なっ!?」


 上手く勢いを受け流したのか赤い触手たちは斬れることなくショートソードを固定してしまった。

 赤い触手はロフォラティグの全長の半分近くまで伸びるみたいでその射程距離を見誤ってしまった。

 冒険者達からは伸びるとしか聞いてなかったけどこれは痛恨のミス。

 このままショートソードを掴み続けたら顔の前まで引き付けられて殺されるのが必定。

 跳んだ勢いが殺されない内にショートソードを手放してロフォラティグの背後へ着地した。

 勿論相手も反射的に後ろへ体を回した。

 着地と同時に太腿に固定したナイフを一本抜いて何度かバックステップをした。

 その間にロフォラティグはショートソードを放り出しながら私に詰め寄った。

 この森は樹木が密集している場所は大体根っこが地表へ出ている。

 場合によっては大樹の根っこが大きく顔を出している、なんてこともあった。

 ロフォラティグに飛び掛かられる直前、私の足元には大きな大樹の根っこが見えていた。

 地面より少しだけ高い程度だから足を大きく上げたりする必要はなく少し飛ぶ程度でも問題なく着地できた。

 そしてロフォラティグは今までよりも大きく飛び掛かってきた。

 同時に私も後ろへ跳んだ。

 着地できる地面は私の背丈の三倍近く差があり、中空でロフォラティグと取っ組み合いになった。


 「glaaaaaaa!」


 相手は私の喉を咬み切ることしか考えていないらしい。

 相手の爪が私の腕に食い込む。

 痛い!

 それでも上下を無理やり変えてナイフで相手の喉元へ先に刺したつもりだった。


 「ああああああ!」


 左肩に噛み付かれた!

 早く速く!?

 刺したナイフに力を込めてねじ切った。

 そこから血が流れているけどそれどころじゃない。

 ナイフを手放して無理やり相手の顎を開けた。


 「はぁ…はぁ…はぁ…。」


 灰色の血を流しながら絶命したロフォラティグ。

 血が噴き出る中、苦労してナイフを引き抜いた。


 「前途多難…。」


 別に舐めていたわけじゃないけど、予想以上に厄介だ。

 従来であればモンスターを解体して出来るだけ土に埋めたいところだけどその余裕がない。

 他のモンスターを引き付けるかもしれないけどさっさと立ち去らないと。

 少し遠回りしてから背嚢を回収、血止め薬を塗ってから再出発。

 ロフォラティグを引き付ける匂い袋とその匂いを消す薬を持っているけど使いどころじゃない。

 引き付ける匂い袋は厳重に閉じてあるから匂いが漏れているとは考えない。

 さっきの奴は偶々。

 そう思って暫く歩いていたら不意に上から何かが落ちてきた。

 落ちてきたのは木の枝、無理やりへし折った跡がある。

 上を見れば木々の太い枝に赤い顔で琥珀色の体毛の人型がいた。

 確か…フォレドリヤスだっけ。

 さっきのロフォラティグよりも知性があるらしい。

 けれどモンスター。

 それなりに距離があるから表情までは分からないけど、枝を揺らしながら何処かへ飛び去った。

 仲間を呼ばれて襲われるのは危険しかないよね。

 左肩の痛みに耐えながら森を彷徨い続けた。





 あれから何日、何週間も森を歩いた。

 冒険者がいそうな道や場所は身を隠しながら様子を窺って実際に冒険者達が通るのを確認した。

 鬱蒼とした森になっている、手つかずの場所が多いとはいえ最低限の道というか人が通りやすい場所はあるもので

 自然と冒険者達はそこを通っているみたい。

 他方である場所は人々が整備した道もあってモンスターや動物が通って結果的に荒れているとはいえ、

 通りやすい場所もあった。

 そんな場所場所を観察する中で幸か不幸かモンスターと遭遇することはあれから何度もあったけど

 単体での行動が多いため、襲われてもギリギリで対処できた。

 森の中で野草や木の実を見つけながら食い繋ぐ中である場所で身を潜めて観察し続けたある日のこと。

 その場所は地表に出ている根っこはなく、人が通りやすい程地面がなだらかで木々が左右へ別れている。

 その左右は茂みも多くて身を潜めやすい。

 その割に木々の枝葉で陽光が半分以上は防がれている。

 息を潜めてひたすら待った。

 ここは北の森で途中までは通りやすい道になっていた。

 その先の北側は一気に生い茂っておりモンスターの巣窟にもなっていた。

 この道を街道として切り開くことはしていないようで以前にも聞いた通り、東側に切り開いた街道が唯一のある程度安全に渡れる人道らしい。

 そんな安全な場所とは無縁の場所に今まで冒険者達のグループが何度か往復していた。

 見た限り割と上位の冒険者達のように思える。

 ただ冒険者自体の通る頻度は思っていたほど高くなく、そろそろ切り上げようと思ったタイミング。

 ミールドの街の方から一組の冒険者達が歩いてきた。

 会話は上手く聞こえない。

 だけど辛うじて彼らの姿は捕えられた。

 全員で七人。

 狼獣人やエルフを含めた男が四人、女は二人、ローブ姿は多分女。

 全員武装が異なる。


 「……!」


 青みがかった黒髪の男がいた!

 噂に聞いた集団。

 全員特徴が合致した。

 つまり、この集団が、あの男が。

 シンゴ!

 記憶に焼き付いているあの時の姿と殆ど違わない。

 今も仲間と楽しそうに談笑しているあの男。

 腸が煮えくり返りそうだ。

 外に出そうになった怒りを一瞬で押さえつけた。

 息を殺した。

 狼獣人が振り返った。

 ローブ姿の人が狼獣人に声を掛けているけど二、三言話してから彼らは前方を振り向いた。

 気づかれていない。

 良かった。

 同時に危険だった。

 狼獣人はかなりの手練れ。

 恐らく総合的に見たらシンゴよりも驚異的な存在。

 あいつが健在ならわたしは絶対に殺される。

 昔読んだ文献によるとエルフは小さい音も聞き取れるらしい。

 距離が離れていても物音を立てればエルフに聞きとられるかもしれない。

 偶々気づかれなかったけど、近づくことも憚られる。

 他の仲間も連携すれば邪魔な存在になるのは言うまでもない。

 あいつらに奇襲は通じない。

 森に住むロフォラティグ達を誘導してそのドサクサに紛れたら?

 多分直ぐに気づかれて誰かがフォローに回るはず。

 あとは纏めて片づける方法……。

 ここを何度も通るのであれば可能性がある。

 それが失敗した時のことも考えないと

 いや、そんなことを考えるな。

 絶対にあいつは仕留めるんだ。

 空腹でも頭を回しながら息を潜み続ける日々を送った……。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




補足・蛇足

今回の章の時系列を大まかに表すと

1)118話と119話 シンゴや中園利香

2)125話と126話 橘川明之とアメディ

3)122話と123話 ジョエルとシュゼット

4)120話と121話 ポーラ

5)127話前半→124話前半→127話後半→128話→124話後半

ポーラやシンゴ

になっているはずです。

また5)はポーラの視点とシンゴ達の視点による物語の場面はそれぞれ別々です

ごちゃごちゃして本当に申し訳ありません。

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