127話 耐え忍ぶ
本日もよろしくお願いします。
ムンドラ王国、ミールドの街。
フレイメス帝国の帝都に比べたら朝から動き出す人々は少ないけれど、ムンドラ王国内で訪れた町村に比べると人の出入りが多かった。
ムンドラ王国の第三都市と言われるだけの事はあった。
わたしも周辺を確認しながら路地裏から起き上がってゆっくり歩いた。
今は浮浪者や貧困者達が中心に住んでいる区域内を野宿で過ごしている。
正直な理由としてはお金の節約。
稼がなければ増やせないため仕事には出かけている。
ここ暫くは街の傍で経営している農場主の元で畑仕事でお金を稼いでいる。
ショートソードは目立つから人目を盗んで適当なところに埋めていた。
着ている服に関しては目立たないようにローブを羽織っているけれど、周りに同じような格好の人達はいないから逆に目立っているのことにあとから気づいた。
ただ街中で噂にされるようなことではないから農場内で働いている人達の間で言われる程度だった。
フレイメス帝国でも日雇いの畑仕事はあったけど、作業者の数は多い。
その理由はあとから知ったけど、数年前から農業の日雇いに力を入れているらしく賃金が少し高くなったらしい。
何でも国で保存食を製造しているとかなんとか。
そのため路地裏で寝ているだけだった人達も意欲的に来て働くようになったとか。
勿論全員と言うわけではなく、一部は稼ぎに出た人達から巻き上げているようでわたしも三人組の男達に話しかけられたけど撃退して毎日違う場所で寝ていたら関わってこなくなった。
閑話休題。
外に出る体力や技量もなくお店で雇って貰えない人々は人手が多く欲しい仕事であればある程度集まるみたい。
冒険者として依頼を受ける方がまだ稼ぎは良いのかもしれないけど、わたしが冒険者ギルドを訪れて冒険者稼業をしないのはシンゴ達と鉢合わせたくないため。
実際に見ている訳ではないけれど、一番警戒しているのはシンゴ達のパーティーに所属するローディー。
狼獣人は匂いは覚えて警戒するらしい。
基本的にパーティーで行動している相手だから人数もそうだが警戒されることが目的の遂行の妨げになる。
まだ外で冒険者達と話す分には残り香は風で流されるからあとから通りがかっても人物と匂いを結び付けられにくいと踏んでいるけれど直接すれ違うのすら憚られた。
そうして最初の数日を掛けて冒険者ギルドから離れたところでシンゴ達のパーティーや街のこと、森の事を聞いて回った。
聞けば冒険者を始めたい素人と思ってくれるベテランの冒険者達はやめるように勧めつつも自身を守るための知識としてモンスターのことを教えてくれた。
暫く前から西から北東へ広がる森からモンスターが多く徘徊しているらしい。
数年前よりも数が多く大半の冒険者達は森へ探索へ入っていると言う。
そう言う面も含めて弱そうな新人にはお勧めしないと言う意味もあるみたい。
主だったモンスターの情報も知りつつ街中では人目につかないように行動し続けた。
それから数月が経った頃。
シンゴ達のパーティーが戻って来るらしい話が街中で話題になっていた。
王都から戻ってきた冒険者や商人達の話が出所みたい。
そろそろ次を考えよう。
稼いだ硬貨を抱え続けると前みたいな奴らに取られてしまう可能性がある。
冒険者の少ない時間帯に食料品店や雑貨屋を回って必要なものを揃えた。
それから土に埋めて隠したショートソードを取り出して、街の検問所を通って一人森へ向かった。
目的地は北に広がっている森。
最初は西側へ向かった。
通常、ミールドの冒険者の殆どは三人以上のパーティーを組んで森へ探索する。
それなりの人数がいれば集団戦でも生き延びやすく無事に帰還しやすいから。
ただ今回の目的は討伐して日銭を稼ぐことではなく、
目的を達成するのに適している場所かどうか。
ある意味一番良い場所であるが故に邪魔も入りやすい。
街中での暗殺も考えたけどシンゴは夜中に一人で出歩くタイプではないらしい。
それに街の構造としてシンゴを脅威的な存在たらしめている広範囲攻撃を封じることは出来るけどそれだけ。
路地裏へ誘い込もうとしても警戒されるのがオチ。
次に候補で考えたのが森。
広くてパーティー単位で動かれるから単独で奇襲するのは出来ない。
それ以前に土地勘がないわたしでは土地の利を生かしきれない可能性もある。
飽くまで直接攻める場合の話だけれど。
遠くに見えた森が目の前を覆うほどまで近づき早速入った。
静かな森だが樹木の根っこは地上へ顔を出している状態が殆ど、場所によっては小川が流れているからと言っても大小様々な石ころが森の中に広がっている。
小川は石や砂利が敷かれておりそれらが戦闘や移動で少しずつ外へ出されて散乱している。
足場が悪い場所だけどあまり問題にならなかった。
寧ろ長期間こういった場所で過ごしたことがあるから歩きづらいとは思わなかった。
上流へ向かうと途中から険しくなり始めていた。
それに水の流れに勢いもある。
偶に地面が抉れたままの箇所や雨風で荒れている箇所が見えた。
ここら辺も冒険者達が探索することがあるのかもしれない。
幸い、近くには誰もいない。
周囲を警戒しつつも自然の澄み切った空気の美味しさを感じた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




