125話 世間知らず ―橘川明之―
本日もよろしくお願いします。
前日も投稿しているのでまだ読んでいない方はそちらも見ていただけると嬉しいです。
話の時系列が進んだり戻ったりしていることご容赦ください。
話はポーラがミールドへ辿り着く前まで遡る。
フレイメス帝国からムンドラ王国の王都へ向かっている橘川明之とアメディ。
検問所を越えるまでの待機時間で彼らはフレイメス帝国の帝都に関する情報が耳に入っていた。
橘川明之にとって衝撃的だったのはクラスメイトで同じようにフレイメス帝国に捕縛されていた大官寺亮典と小田切翼の二人が死亡した話だった。
二人との仲は別に良くなかったが知らない仲でもないだけにあまり気分は良くなかっただろう。
「異界の勇者と言えど帝国の最高戦力には敵わなかったのかな。」
橘川明之を含めてフレイメス帝国に囚われた勇者達はいずれもAランク以下の判定を受けていたが、
特別な存在だと思っていただけにアメディにしても橘川明之にしても感じてしまった。
彼等の末路を考えると橘川明之としては無事に脱出できただけでも幸運と言えるだろう。
「俺はあなたに助けて貰ってよかったと思います。」
「そう言って貰えると助けた甲斐があるかな?」
「それにあいつらは自業自得ですから……。」
「流石に帝国のお膝元で暴れたら良くないのは分かっていたのに勇気があるのかな。」
「ただ調子に乗っていたバカですよ。」
「君達の中は良くなかったのかな?」
「まぁ…あいつらと仲の良い奴なんていないですよ。」
「そうなんだ……」
当人達の死を目の当たりにしていないことや関係性が希薄であったことが橘川明之の中ではテレビで報道された内容と大差ないものだと認識していた。
これが友人や好きな人であれば違った感慨や反応だったかもしれない。
ただ、他の人達も自身と関係のない人の訃報を知っても身近な人を失った気持ちになるとは限らずこの世界の住人も同様であると言うのは言うまでもないのかもしれない。
橘川明之は彼らについてこれ以上語ることはないと言わんばかりに話題を変えた。
「そう言えばこの道は結構整備されていますね。揺れは感じますけど。」
「この街道はミールドと言う街まで繋いでいるかな。重要な街道だから領主としても国に援助を頼んで結構力を入れた場所の一つと聞いているかな。」
「へぇ。」
周辺の風景は時に森だったり平原だったりとまちまちだった。
平原と言っても距離が離れた場所には森や小高い山が見えるし、左側の更に向こう側はサンデル王国とフレイメス帝国を隔てる山脈の端も見える。
街道から外れた場所には所々に集落や村があったりもするが橘川明之がそう言った場所を見かけることはないかもしれない。
陽が沈む前に街道沿いの町に辿り着いた二人は宿を取って一泊することになった。
「お疲れさま、かな?」
「お疲れ様です。お金、出してもらってありがとうございます。」
「これくらいなら大丈夫かな。今日は疲れたと思うから早めに寝よう。」
「そう…ですね。」
フレイメス帝国に捕まる前の橘川明之は他の町や国へ何度か足を運んだ時はそれなりのもてなしを受けていたが今は肩書も通じない旅人だろう。
今回の宿はお世辞にも綺麗ではないが雨風を凌げることや寝心地は今一だが掛布団もあること、何より宿泊費を出して貰っている立場なので内心不満はあっても文句を口に出さずに素直に寝ることにしたようだ。
宿から近い場所の飲食店ではまだ商人達や冒険者が飲食を楽しんでいるが全員が同じように飲んで騒げる訳ではないことを橘川明之は知ることになった。
翌朝、二人は宿から生で食べられる根菜類を二つ買い取って町を後にした。
「朝ご飯ってこれなんですか?」
「悪いね、持ち合わせの都合もあるから許して欲しいかな。」
「いえ……。」
橘川明之は受け取った土色で太めの根菜類を躊躇ったがアメディが平気な顔をしているので彼に倣って齧った。
「おいしい…のか?」
「悪くはないかな、調理をすればもっと美味しくなると思うかな。」
「どうして宿で買ったんですか?」
「節約のため、かな。街道沿いの町は早い時間だと開店している飲食店がないことや宿の料理は少し高いことが挙げられるかな。この根菜類は腹持ちが良いからね。」
「そうなんですね……。」
水分は感じるが繊維が多いため咀嚼が他よりも多くなる食材らしい。
ただ、橘川明之としては食べ慣れない物なため抵抗を感じざるを得なかったようだ。
それから幾つもの町を経由して漸くミールドへ辿り着いた。
「ここがミールド……。」
「国内三番目に大きいと言われる街かな。フレイメス帝国の帝都ほどじゃないけど。」
「帝都はちゃんと見ていないんで比べようがないのですが……。」
「そう言えばそうだったかな。」
「なんて言うか…結構活気がありますね。」
辿り着いた時間帯は夕方だったが表通りなどは人の行き来があり、店によっては閉店時間でもあるがこれから開店する店もあった。
また、冒険者も依頼から帰還した者達もいるため人が多く感じるのかもしれない。
「この場所は二つの国との交易もあるから色々な人や物が集まるからかな。王都まではまだ道のりはあるけど今日のご飯は美味しい物でも食べようかな?」
「え、良いんですか!?」
橘川明之は驚きのあまり食いついた。
「まぁ、ずっと似たような物を食べても飽きるかな。と言っても。」
「と言っても?」
「ここで数日は働くことになるから手伝ってもらおうかな。」
「?」
ここまでの橘川明之は料理と言う料理を食べず、生の野菜を食べるだけの食生活だっただけに疲労とストレスによって食欲が増して食べる事しか頭になかった。
そして適当な飲食店に入ると一般人は勿論冒険者達も一緒の空間にいた。
お店は二階もあるようで店員に聞けば彼らは二階へ案内された。
二階には何人か既に客はいるが疎らだった。
そしてアメディは店員に断ると迷わず一人客の元へ向かった。
橘川明之は不思議そうに思っていたので思わず口にした。
「えっと知合いですか?」
「まぁそうかな。」
アメディは一人客に声を掛けた。
「お嬢さん、同席してもよろしいでしょうか?」
「あんたねぇ、する気満々でしょ?」
「よくお分かりで。」
お道化るアメディは橘川明之と一緒に空いている席に座らせた。
「彼女はレイラ、これでも仲間かな。」
レイラと呼ばれた女性は冒険者のような恰好をしていた。
傷んでいるくすんだ金髪で肩や腕は素肌を見せており皮の胸当てや麻製のホットパンツと腰に革製のウエストポーチ、太腿にはナイフを一本ずつ固定していた。
「こいつは誰?」
警戒しているのが分かるほど橘川明之を睨みつけていた。
睨まれている当人としては居心地は悪いだろう。
「彼はアキユキ。今後を左右する重要人物かな。」
「あんたの部下に居なかったよね?」
「部下じゃないかな、どちらかと言えば客人。」
「あとで聞かせなさい。」
「勿論。」
話が一区切りついたところでアメディが店員を呼んで適当に料理を注文した。
それからそこそこの時間が経ったところで料理が配膳されたと同時に我慢が出来なかったのか橘川明之は直ぐに食べ始めた。
「美味い!なんだこれ!?」
ガツガツ食べ始めた彼を見たレイラは戸惑いながらアメディに聞いた。
「あんた達、今まで何を食べていたの?」
「野菜かな。」
「あぁ、仕方がないと言えばそうかも知れないけど…それにしたって。」
まるで初めて美味しい物を食べたかのような反応を見せる橘川明之に言葉が見つからないようだ。
「取り敢えず食べさせてもらおうかな。」
アメディも食べ始めたのでレイラも中断していた食事を再開した。
白いパン、野菜サラダ、スープ、鳥のソテー、獣の焼肉、蒸かしたポテト、果実酒などテーブルに並べられた料理は全て空になった。
「もうないんですか?」
「今日はこれでお終いかな。流石にお金がなくなっちゃうからね。」
「そ、そうですよね…。」
食べ足りないと顔に書いてある橘川明之にレイラは内心呆れていたが彼女から奢ることはなかった。
全員のお腹が満たされたが直ぐに席を立つこともなかった。
「一応聞くけど任期は終わっていないのよね?」
「そうかな。これでも急を要していたから。」
レイラとアメディが声のトーンを落として話始めた。
「で、彼は何者なの?」
「サンデル王国の異界の勇者。」
「!?」
レイラは驚いて席を立とうとしたが寸でのところで思い留まった。
勿論声も出そうになっても出さなかった。
「どういうこと?あんた寝返ったの?」
「まさか、寝返ったなら君と会わないかな。」
「それもそうねって言いたいけどそいつに操られているなら話が変わるわよ。」
「その場合は君も運命共同体ってことかな?」
「あんたと共同体なんて気味が悪いわ。」
「つれないことを言うかな。」
蚊帳の外になっている橘川明之はアメディが冗談を言って楽しんでいることを意外だと感じていた。
「まぁ、あんたが正気だと言う前提で話を聞くしかなさそうだけど。」
「簡単に言えば向こうで捕まっていた彼を助けて王都で保護してもらうって話。」
「彼が捕まっていた勇者ってこと?」
「その通りかな。」
「最近勇者が死んだって聞いたけど彼以外にはいないの?」
「彼の話を聞く限りじゃ捕縛されたのは三人かな。彼らが閉じ込められた場所を確認したけど他の勇者は確認できなかったし。」
「どっちにしても今更確認出来なさそうだけど、それと彼が勇者だって証拠は?」
「見た目、魔法が使えること、サンデル王国の情報を持っていること。」
「根拠としては強くないけど、サンデル王国の情報って?」
「異界の勇者達の名前や能力かな?」
「流石に王族達や貴族の内部情報までは知らなさそうね。」
「それは期待し過ぎかな。」
「それで、彼を王都まで送るとして私に話した理由は?」
「分かっているくせに。」
「ちゃんと言わないと分からないわよ?」
「つれないかな、一緒に来てほしい。」
「口説き文句としては三流ね。」
「君との仲じゃないかな?」
「そこまで仲良くないわよ。」
「寂しいかな。」
「はぁ…明日の朝まで待って。」
「分かった、それと一応国内の情勢を教えて欲しいんだけどいいかな?」
「良くある話で良ければ。」
物価が少し上がった、野菜や畜産などの生産品は以前よりも領主や国の買取量が多くなったこと、シンゴのパーティーが北の大山脈へ出向していること、灰色の血のモンスターが良く出現するようになったことなど。
レイラの話題の中に橘川明之が一つ引っ掛かった。
「あの、シンゴってどういう人ですか?」
何となく聞いていただけど彼が初めて興味を持った話題。
「ムンドラ王国では有名だけど青の等級者よ。この街を拠点に活動しているんだけど、暫く前から留守にしているの。」
「噂で聞いたことがあるんですけどその人って邪神の徒を倒したんですよね。」
「そうよ、それが最も有名な話。勿論彼のパーティー自体がそうなんだけど。」
他にもシンゴの特徴や戦い方、彼らのパーティーについて橘川明之は根掘り葉掘り聞きだした。
「男って冒険者に憧れる物なのね。」
「ロマンがあるしカッコいいからかな。」
「青みがかった黒髪と青い瞳に剣で戦う……。」
橘川明之は頭の中で情報を整理している様だ。
「彼について何か知っているのかな?」
アメディも気になったようだ。
「いえ、俺の知っている奴とは特徴が違うので……。」
少なくとも橘川明之が知る人は青みがかった黒髪や青い瞳はしていないのだろう。
名前だけで連想しているようだ。
話は終わったようでレイラと解散したアメディと橘川明之は本日泊まる宿を探して眠りにつくのだった。
翌日、彼らは冒険者ギルドから少し離れた場所でレイラと合流した。
「昨日の件、引き受けるわ。」
「それは嬉しいかな!」
「あんたと一緒に行動するなんて。それで今日はどうするんだっけ?」
「数日は路銀稼ぎをしたいかな。と言ってもまず彼の冒険者登録を済ませないとかな。」
「俺も冒険者とやるのですか?」
橘川明之は驚いたようだ、思わず聞いてしまった。
「そうだね、申し訳ないけど協力してくれると助かるかな。」
「いえ、冒険者をやれるなんて思いもよらなかったので。」
「珍しいかな、嫌がるかと思ったけど。」
「冒険者ってカッコいいじゃないですか。」
「そうかな?」
「この子は夢見る少年なの?」
アメディとレイラは橘川明之の理由に今一共感できないようだ。
「まぁやる気があるのはいいかな。少しでも路銀を稼いで美味しい物を食べたいから良いことかな。」
「目的が違っているわよ。大丈夫なのこいつら……。」
溜息を吐いて心配になるレイラに橘川明之は今一つ理解できないでいた。
彼らは人が少なくなった時間に冒険者ギルドの門を潜り、直ぐに橘川明之の冒険者証を手に入れた。
「これが冒険者の証……。」
橘川明之の瞳には白い宝石のようなものが嵌っている冒険者証が映っていた。
彼はクラスメイトの武田康太達ほど表立ってオタク趣味を見せていた訳ではないが異世界ファンタジー物を始めとした娯楽にはある程度興味があり楽しんでいた。
そのため冒険者への憧れや夢はある程度あったのだろう。
それからアメディ達は幾つか討伐依頼を受けて街の外へ出た。
「いやぁこんなに討伐依頼があるなんてビックリかな。」
「モンスターの数が多いから余っているくらいよ。」
「冒険者ギルドのお金って大丈夫なんですかね?モンスターを倒しまくっても払うお金がないと潰れちゃうんじゃ……。」
橘川明之の疑問も尤もだろう。
冒険者ギルドも無尽蔵にお金を持っている訳じゃないのだから当然の話だろう。
「基本的に冒険者ギルドは依頼主からお金を貰ってマージンを引いた残りを冒険者達の報酬にしているし、あとは領主や国が直接出しているから冒険者がそう言う心配何てすることは普通無いんだけどね。」
レイラが意外そうに思いながらも説明した。
「ムンドラ王国って金持ちなんですね。」
「国で一番偉いんだから当然よ。まぁ冒険者達が討伐して得た部位とかはステア王国とかに買い取ってもらうからお金が回っていると言うのもあるんだけど。」
「へぇ……。」
「これでアキユキも一つ賢くなったかな。」
不思議な話だが国交が断たれている国々があるも共通の硬貨を使い、同じ価値を共有している。
これが各国独自で作られた貨幣を国家間で基準になる価値を元に交換しているなら分かるがこの世界のこの大陸では異なるようだ。
ミールドの東回りは王都まで続く街道が開設されている。
その街道の向こう側は、村や町も点々とある。
それ故に西から北まで広がっている森からモンスター達が街道を横断して村町を襲うことも多々ある。
アメディ達は街道を横断して繁殖するモンスター達の討伐に向かった。
最初に辿り着いた町はミールドから結構離れていてあまり大きくはないが建物はそれなりにあり人の営みも感じられた。
町長に挨拶してから現状を共有して町の近くの小高い山を目指した。
「ゴブリンって緑の体に子供くらいの大きさの奴ですよね?」
「そうよ、個体は弱い奴ばかりだけど集団で行動されると厄介な奴ら。」
レイラはゲンナリしながらも説明した。
「環境への適応力はそれなりにあるから山でも森でも土の中でも巣を作って繁殖するわよ。」
「ボスとかそう言うのもいるんですよね?」
「そうね、群れの規模とかにも因ると思うけど力の強い個体は身体が大きくなっていたり知恵を付けていたりするわね。」
「アキユキは知っているのかな?」
「サンデル王国のダンジョンで何度か見ました。」
「そう言えばサンデル王国はダンジョンを一つ管理しているんだよね。」
「ムンドラ王国も探せばありそうだけどね。」
「この国にはないんですか?」
「少なくとも認定されているのはないわね。」
「ダンジョンらしい存在はそもそも確認されていないと思うかな。」
小高い山の麓は木々で生い茂っているが樹木以外に身を隠せる場所はなさそうだ。
アメディやレイラは警戒し始めたが橘川明之は呑気にしていた。
「ゴブリンなんて直ぐに片付くからそこまで警戒しなくても大丈夫じゃないんですか?」
「バカね、ゴブリンもそうだけど視界の悪い場所じゃ他のモンスターや動物が襲い掛かることだってあるんだからある程度緊張感や警戒心はないと避けられないわよ。」
呆れながらも答えるレイラの瞳は鋭くなっていた。
「そうだ、アキユキ。一応お願いなんだけど火の魔法は範囲を絞って使ってほしいかな。」
「何故ですか?」
「それは」
アメディが言いかけたとき、彼とレイラは何かを感じ取った。
すぐさま二人はナイフを抜く。
反応が遅れている橘川明之はまだ戦闘態勢に入っていなかった。
周辺は静かなだけに四足歩行の走る音が段々と大きく聞こえる。
アメディとレイラが背後を向けば一匹のモンスターが疾走していた。
ウルサク。
体長は二メートルを超えている、緑と茶の斑色の体毛を纏った熊のようなモンスター。
距離は既に50メートルを切っていた。
橘川明之が二人の後ろにいたから一番近い立ち位置だ。
アメディは橘川明之の脇から前へ出ようとした。
「アキユキ!先ずは」
「フレイムボール!」
彼の指示を聞かずに炎の魔法を繰り出した。
ファイアボールよりも高温で大きい炎球がウルサクへ襲い掛かった。
直撃…したが表面に火が燃え移りながら失速しつつも敵意と戦意は失っていなかった。
そのまま想像した結果と違ったことに呆けている橘川明之へ接近。
アメディはウルサクとの距離が五メートルくらいに縮まったタイミングで橘川明之を押し出した。
その彼を引っ張ったのはレイラ。
ウルサクの対象はアメディに移った。
金属と爪がぶつかり合った。
飛び掛かってきたウルサクの爪を受け流しながら脇へ避けたアメディはそのまま相手を挑発した。
「こっちだ!」
ウルサクもアメディの方へ体を向けて襲い掛かった。
アメディがウルサクの気を引いている間に倒れ込んだ橘川明之の下敷きになってしまったレイラが怒っていた。
「邪魔よ!」
無理やり体を退かしてレイラは直ぐに立ち上がって指示を出した。
「周囲を警戒しながらファイアピラーかフレイムピラーを出す準備!規模は身の丈三人分に抑えて!」
彼女は橘川明之の護衛として近くでナイフを構えてアメディとウルサクの様子を窺った。
アメディはナイフでちょっかいを掛けながらウルサクの攻撃を避けつつ注意を引き続けていた。
業を煮やしたウルサクは一瞬溜めて飛び掛かった。
それに合わせてアメディも大きく退いた。
「今だ!」
レイラの言葉に橘川明之は炎の魔法を使った。
「フレイムピラー!」
着地したウルサクの真下から赤い円陣が現れて炎の柱が一気に天へと燃え伸びた。
「glllllllllllllllrrrrr!?」
ウルサクを覆うほど直径は広く、またかなりの高温の炎が襲い掛かっていた。
しかも直撃した時、炎の風圧が強かったのか体が浮かされたことで足が地面についておらず直ぐに脱出できなかったようだ。
ほんの数秒と言えど宙に少し浮いて焼かれたことで筋肉までダメージが届いたのか体が着地しても動けずにいた。
炎の柱が静まった後のウルサクは燃え続けていたが倒れ込んでいたことから息を引き取っているのは言うまでもなかった。
「お疲れ様。」
「いやぁ、焦ったかな。」
「あの、怪我は…」
「あんたねぇ!流石にあれはないわよ!どうにかならないの!?」
レイラは先程の橘川明之の行動を咎めた。
「えっと…」
「それに前に出たままフレイムボール打ち込むってどういうことよ!?この森を燃やす気なの!?」
「あ」
橘川明之は彼女の言いたいことが分かった…のかもしれない。
「ちょっと落ち着こう、レイラ。」
アメディの手がレイラの肩に置かれて彼女は少し冷静になった。
「なんでフレイムボールを撃ったの?」
「…倒せると思ったから…です。」
橘川明之は弱弱しい声で理由を伝えた。
レイラは溜息を吐いて次を言おうとしたがアメディが引き継いだ。
「アキユキ、一応森も大事な資源だから戦闘中と言え燃やされると困るかな。後は仲間ともども火事で巻き添えになる可能性もあるかな。あとは魔法使いは後ろにいて援護を中心に考えてくれると嬉しいかな。」
「はい……。」
「まぁ、事前にと教えなかったのも悪いからおあいこなんだけどね。次からは気を付けてくれると嬉しいかな。」
「気を付けます。」
燃え尽きたウルサクは骨まで砕ける状態になっていたので三人で砕いて地表に広げて処理を終えた。
「こいつって腹が弱点何ですか?」
橘川明之の質問にレイラは応えた。
「弱点と言うよりはお腹が一番ダメージが入りやすいってだけ。あとは口の中とか。フレイムピラーは地面から噴き出す炎の攻撃だから体の部位では体毛が薄いから通りやすいって言う考えの元。」
「さっきはフレイムボールでも燃えたじゃないですか?」
「さっきのフレイムボールで表面が燃えていたのは体毛の脂に燃え移った分だと思う。そこら辺のファイアボールじゃ燃えることはないし、あそこまで火力が強いとは思わなかったけど。」
「高火力なら良いんじゃないですか?」
「確かに倒すだけならそれでもいいけど、全員が一撃で倒せる威力を出せるとは限らない。頭や背中や腕の体毛は脂で覆われていることやウルサクの魔力によって魔法攻撃でも分散しやすいのよ。」
「出来れば躱されたときに燃え広がることは防ぎたいかな。」
「なるほど……。」
橘川明之であればウルサクを倒せる威力のフレイムボールを作りだせただろう。
しかし、アメディ達はそれを知っていたとしても進めることはなかった。
橘川明之は悔しそうな顔をしながら二人についていくのであった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




