124話 英雄の帰還 ―シンゴ・ヒラモト―
本日もよろしくお願いします。
ミールドの街がいつもより賑やかになったある日。
天候も良く街の中は朝から活気づいていたが午後になると更に喧騒が大きくなっていた。
「おい、我らが英雄様が帰って来たってよ!」
「お、あいつらか!」
「あのひよっこだった奴がなぁ。」
「お前は何様だよ!」
「ちげーねぇ!」
などと冒険者を中心に話が広がる中、冒険者ギルドを訪れた一団がいた。
「ここも騒がしいなぁ。」
その一団はシンゴ達のパーティーでありローディーは鬱陶しそうに呟いた。
「でも、こうして快く迎え入れられている分にはいいじゃないですか。」
エディックは微笑みながら周囲を見てそう言った。
冒険者ギルド内の冒険者達は誰もがシンゴ達に注目して話しかけてきた。
「お前ら国の依頼はどうだったんだ?」
「結構貰ったんだろ?」
「今日はお前らの帰還祝いだな!」
「美味い酒を飲ませてくれよ!」
ジェーン達女性陣は苦笑いをしていたが誰もそんなことは気にしてはいない。
「そうだな、飲むのは良いな。」
シンゴは受付で念のために報告しに来ただけらしい。
以来のやり取りは王都で既に済ませてあるためミールドの街でわざわざ報告する必要はない。
ただ、シンゴ達のパーティーに指名依頼などがあって緊急性があれば話を聞くくらいのスタンスのようだ。
「わざわざありがとうございます、本日までに皆様への指名依頼はありませんのでご安心して休息をお取りください。」
有名人である冒険者は顔が知られており冒険者ギルドの受付嬢や職員もシンゴ達を知っているため等級の低い冒険者よりも
大分柔らかい対応をしている。
「わかった、今日は休ませてもらおう。」
シンゴ達はそのまま冒険者ギルドをあとにした。
「このあとどうする?」
「まぁ夕方までは自由に過ごして夜は大衆食堂で食べるか。」
「今日はお前の奢りか?」
「あんたも出すんだよ。」
キャロルが聞き出すとシンゴの方針に全員納得して一時解散となった。
そして夕方になると全員が同じ大衆食堂へ集まった。
勿論こういう時に嗅覚が鋭くなる中堅やベテランの冒険者達もいた。
そのためシンゴ達が訪れた時には殆ど満席だったが彼らはシンゴ達が座れる席をちゃんと確保していた。
「お前らここが空いてるぞ!」
「せっかく守ってやったんだから分かっているよな?」
呆れる一同だが冒険者を始めとした客たちはガハハハハと笑っていた。
「先ずは飲むものがないと始まらないな!」
ローディーが女性店員にあれこれと注文を始め、キャロルやジェーンも自分達の分も追加で注文した。
そして全員に飲み物が行き渡るとベテラン冒険者が一人、大柄で肌を焼いたちょび髭が特徴のゲインが音頭を取った。
「お前ら!英雄パーティーの帰還を祝して!」
「「「「「「「「「「乾杯!!」」」」」」」」」」
全ての席から豪勢な声が上がり食堂内は一気に熱が上がった。
しかも食堂の外にも客がいて店員が酒を振舞っていた。
「お前らの奢りで飲める酒は美味いなぁ!」
「ケチな事は言わないのが英雄様方だよなぁ!」
「気前が良くて助かるぜ!」
という声が響き渡った。
シンゴは呼びつけた女性店員に懐から硬貨の入った袋を渡した。
「一応数えてくれ。」
「あ、はい。」
女性店員は厨房の奥へ入り店主達に硬化を見せていたが全員が驚いていた。
その光景を見ていたグレアムはシンゴに向き直った。
「大丈夫か?」
「俺の報酬の大部分は消えたな。」
「お前なぁ……。」
「楽しい方が良いだろう?」
「それはそうなんだが……。」
二人はエールを一気に仰いで追加注文した。
そしてこの日はシンゴ達が国の依頼でどんな経験をしたのかで話が持ち切りになり夜明けまで騒ぐことになった……。
翌日。
この日はジェーン達女性三人で日用品を揃えに午後から街の店を見て回っていた。
「やっぱり王都は凄かったんだねぇ。」
「それはそうでしょ、国で一番栄えている場所よ。」
「賑やかでしたね。」
ジェーンの首には赤と青のハート型のネックレスが掛けられている。
「向こうの雰囲気に当てられてあいつがこれを渡すなんてねぇ。」
ニヤつくキャロルにジェーンは照れながらもネックレスを少し持ち上げた。
「別に貰えなくても良かったんだけどねぇ、でも…ふふふ!」
「本当に嬉しそうでシンゴも喜んだでしょうね。」
メイディスは相変わらず微笑んでいた。
「メイディス、ローディーから気の利いたものは貰ったの?」
「いえ、私は。」
「あいつはダメね、ちゃんと考えないと。」
「大丈夫です、あの人はあのままでも。」
自身の胸にそっと手を当てて何かを想うメイディスにキャロルが天を仰いだ。
「あんたもぞっこんね、私はそう言う人がいないから羨ましいわぁ。」
「キャロルは好きな人はいないの?」
「いない、グレアムやエディックのどちらかも選べないし。」
「別に二人とも嫌いじゃないんでしょ?」
「当たり前じゃない、大事な仲間だからこそ大事にしたいのよ。そもそも身内で揉め事は懲り懲りよ。」
それから彼女達は楽しく会話をしながら一日を過ごした。
一月後。
シンゴ達はミールドから北西の森でモンスター討伐をしていた。
ロフォラティグの大群が行動していたため、シンゴや他のパーティーが請け負って各々行動していた。
キャロルのような火の魔法は森を火災で焼失させるため飛ばすようなことはせず、近接攻撃や味方の援護などを中心に動いていた。
森の中をしなやかに動き回って相手をかく乱するロフォラティグにエディックとジェーンは次々に矢を放った。
それらの矢の内、エディックの放った分は全て標的の眉間を貫いて絶命させていた。
その彼らの近くにいるメイディスは周囲を見回して彼らに注意を促していた。
勿論彼女を襲おうと迫りくるロフォラティグはグレアムが新調した盾で攻撃をいなして片手剣で牽制していた。
「ありがとうございます。」
「守るのが俺の役目だからな。」
そして少し離れたところでシンゴとローディーが敵を引きつけながら一撃で獲物を仕留めていた。
「正直薙ぎ倒して終わらせたいな。」
「あんな大技を食らうほどこいつらの俊敏性は低くないぞ!」
「分かってるって。」
冗談交じりの会話をするくらいには二人は猛攻を凌ぐには問題ないらしい。
シンゴが最初にロフォラティグを相手にしていたころとは比べ物にならないのは頼れる仲間が多くいるほかないだろう。
何十体と襲い来るロフォラティグだったが半透明なオーラを纏ったローディーが加速しながら十数体を短時間で捌いたことで群れの勢いは収まった。
後に残るは冒険者達と赤や灰色の血を流すロフォラティグの亡骸だけ。
グレアムは当たりを見回しながらボヤいた。
「ここから討伐部位とかを取り出すのは骨が折れるな。」
「これも冒険者の務めですよ。」
メイディスとグレアム、エディックは周囲を警戒したまま残りのメンバーで討伐したモンスターの処理を行った。
森とミールドの街の距離は遠くても一日以内で行き来可能だが亡骸を残しておくとアンデッド化や他のモンスターを寄り付かせて街へ近づけさせる要因にもなるためシンゴ達は全ての処理を終えるまでその場で野営をすることになった。
彼らが作業に一息つく頃、ローディーとエディックは同じ方向を見ていた。
「二人ともどうしたんだ?」
動かない二人を見てシンゴが声を掛けた。
「いえ、何でもありません。」
エディックはそれ以上気にすることもなくグレアム達と食事を摂り始めた。
一方のローディーも鼻を動かしていたが表情は変わらなかった。
「気のせいか…こんなに奴らの死骸が多いと臭いがきついな。」
ローディーはそのまま見張りに徹してシンゴに食事を促した。
作業が一段落した頃には暗く静かな時間となった。
全員が交代で処理と見張りと仮眠を取りながら過ごすも新手のモンスターが襲ってくることはなかった。
勿論、場合によっては意図しないタイミングで襲ってくることもあるため常に警戒する必要があるのが彼らの常であろう。
その甲斐もあり、夜は過ぎて無事に彼らは帰路に着くことになった……。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。




