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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
収束の始まり、夢も希望もない先へ
119/131

119話 あなたは―中園利香―

本日もよろしくお願いします。

前日に118話を投稿したのでまだ読んでいない方はそちらも読んでください。

 少し前のこと。

 ムンドラ王国への視察で来訪している中園利香達三人は王都へ着ていた。


 「本日の夕暮れには戻って来てくださいね?」


 「融通を利かせていただきありがとうございます。」


 三人は護衛二人を伴って城下町を見学することにした。

 サンデル王国の王都の城下町を見たことがある三人はこの場所で感じる物があったようだ。


 「この国の方がファンタジーって感じがするね。」


 「やっぱり異種族が多く感じるから。」


 「そうだな、向こうは現実の西洋ってイメージが強いから猶更な。」


 やはり獣人を中心にした存在が大きいようだ。

 街並み自体は似ているようだがそれでも行きかう人々によってその印象が大きく変わる。

 彼らはそんな街並みをゆっくりと歩いていた。

 そして昼間から開店している飲み屋に入ると護衛の兵士二人にお酒を奢った。


 「いやぁ、護衛に対して奢ってくれる勇者様はなんとお優しい事か!」


 「基本的に護衛対象から奢っていただくことはありませんから嬉しい限りですね!」


 「それでしたらもう一杯ずつ奢りますのでお二方は暫くここで休息を取ってください。このあとも職務で息をつく暇もなくなるかもしれませんし。」


 「い、いや流石にそれは!?」


 「大丈夫じゃないか?お優しい勇者様方の言葉に逆らうわけにはいかないじゃないか?」


 「私達は大丈夫です、それに何かあればお呼びしますので。」


 「無理はしないようにしてくださいね。」


 「はい、気を付けますね。」


 護衛の兵士達は旅の疲れや緊張にアルコールが回りやすくなって本来の仕事に対する責任感が薄れたり思考力が失われてしまったようだ。

 それを知ってから中園利香達は護衛の兵士達と別れて賑やかな街並みを散策し始めた。


 「ここに居ればいるんだっけ?」


 「前の町でそう聞いたよね。」


 近野樹梨は数日前に訪れた時に聞いた冒険者シンゴに関する噂を聞いたのを思い出していた。

 厳密に言えば大仕事から王都へ帰って来るらしい、という程度。

 それでも中園利香達は一縷の望みを以て王都で聞き込みを行った。

 そして、彼らは幾人もの人達に聞いたことで冒険者シンゴとその一行は王都に滞在しているということが改めて分かった。

 それから冒険者が行きそうな武器屋、防具屋、雑貨屋、飲食店と点々と回りシンゴが市場の方へ向かったことが分かった。


 「使ってみるね。」


 「無理はしないで。」


 「うん。」


 心配する近野樹梨を他所に中園利香は能力を使った。


 (沢山の人達がいるけど、平本君の姿や魂の形姿は覚えている!)


 彼女の能力は『みる』ことに特化されている。

 それは相手の魔力の量や個人で微妙に違うとされる色などの特徴から体を透過したように見て体内の

血液の流れや内臓の動きを感知出来るらしい。

 また、従来の肉体を見ている状態で相手の頭に魔力やオーラとは異なる独自の存在も見えるらしく

過去の文献を含めて敢えて言語するのであれば魂と称している。

 ただ本当にそれが魂であるのかは能力で視認している中園利香ですら分かってはいない。

 それ故に個人ごとに形姿が異なるその『魂』を以て姿が違えど個人を特定できる情報として

中園利香はそれを見て既に知っている人物を特定しようとしていた。

 多くの人々が行きかう中、かなりの集中力と体力を消費して見極めようとしていた。

 普通に歩いて探してもすれ違ったときに瞬時に判断するのが難しいからだろうか。


 (あの人の魂……だけ歪…なのにあの姿は!?)


 言語化するのであれば四方の角から小さな滴が出ている赤い立方体の上からドロドロの青が侵食している状態。

 その持ち主は…シンゴ・ヒラモト。

 容姿は中園利香達が知る平本慎吾と殆ど同じだが黒い髪は青みがかっている。

 その後姿でも彼と同じ姿だと断定した中園利香は急いで走り出した。


 「利香!?」


 一人で走り出した中園利香に慌てながら追いかける近野樹梨と船戸玄。


 「見つけたのか?」


 「多分そうだと思う。」


 三人は雑踏を掻き分けながら前へ進んだ。

 先にシンゴ・ヒラモトへ辿り着いた中園利香は息も切れ切れに彼のローブの裾を掴んで呼んだ。

 その声に振り向いてくれた彼だが中園利香の印象は違った。


 (誰?)


 中園利香が見つけた男は中園利香達が知っている男の姿と言ってもいい物だった。

 だからこそ少しだけ違う外観に加えて中園利香を見るその眼、その表情、何よりもダンジョンで行方不明になる

前に知った平本慎吾の魂の形姿も違うことから中園利香は彼らしき存在を見つけた喜びよりも疑問が先に生まれてしまった。


 そして彼との問答。


 彼が自分達を知らないと言ったこと。

 クラスメイトやサンデル王国を恨んでいるとか憎んでいるとか。

 そう言う事以前に。

 何も知らない。

 彼は遠回しに言った。

 そのことが中園利香にとっては心が痛んだ。

 シンゴがその場を離れた後、三人はその場に佇んでいた。


 「何あれ……?」


 近野樹梨が抱いた感想。

 彼女も親しくはなかったが少なからず心配した人間の一人。

 そして再会したはずの相手との少しのやり取り。

 彼女はそのやり取りを正しく呑み込めていなかったのかもしれない。


 「見た感じは平本だったな、髪の色や瞳の色はちょっと違うが…他人の空似だったのか?」


 船戸玄は自分の理解の範疇に収めようとしていた。


 「あれは平本君の体…だったと思うけど、以前は流れていなかった魔力じゃない何かが流れていたの。

それも穢れのない青い蒼い何か…それに、魂は明らかに違っていたの…どうして……。」


 独り言のように呟いた彼女の言葉に答えられる者はここには居なかった。

 それこそ本人以外は。

 これが彼女にとって正しく平本慎吾の再会と言えるのか、誰にも分からなかった。

 悲痛な顔で泣きそうになる中園利香の肩をそっと抱き寄せて近野樹梨はただ静かにするだけだった……。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

全体的に不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

明日も投稿予定です。


また、今回の章は他に比べて不規則に1話単位でスポットを当てる人物が変わるのでご了承ください。

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