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恨みに焦がれる弱き者  作者: 領家銑十郎
収束の始まり、夢も希望もない先へ
118/131

118話 出会い

毎度遅くなっていますが、お待たせしました。

新しい章へ入ります。

どうぞ、よろしくお願いします。


前回までのあらすじ

・ポーラ編

異界の勇者の一人だった平本慎吾ひらもとしんごはサンデル王国から追放されて復讐を誓うも村娘によって魂を交換させられた。そして非力な少女ポーラとして生き抜いてフレイメス帝国内で因縁のある者達に復讐を果たした。そして次の行き先は北上してムンドラ王国だった。


・中園利香編

中園利香、近野樹梨、船戸玄の三人は死んだと思われる平本慎吾が実は生きていると信じて探し続けた。魔王や邪神を退けた彼らと仲間達。フレイメス帝国との戦争も休戦に入ってから彼らは使者としてムンドラ王国へ向かった。


・シンゴ編

平本慎吾と魂と入れ替え、シンゴ・ヒラモトとして新しい人生を歩む中で冒険者の少女ジェーンを始め様々な仲間達と冒険者の活動で一躍有名になった。彼はムンドラ王国の最北端に連なる山脈を開通させる事業に参加するもモンスターの出現によって進捗は後退。それでも手助けや護衛の任務を果たして無事に帰還した。

 シンゴ達がムンドラ王国の依頼で北の大山脈で護衛任務を終えて帰還した頃。

 彼らは無事にムンドラ王国の王都に到着後、事業の担当官に報告を終えて依頼達成となった。

 報酬は何回かに分けられ、今回貰った分でシンゴ達は懐が温かくなっていた。

 王城を出たパーティー一行は賑わる城下町へ向かうことにしたようだ。


 彼らは英雄で国の事業にも参加したパーティーだが城下町に繰り出しても直ぐに人々の注目の的になることはないらしい。

 当の彼らも自分達の功績に鼻を掛けることもないようだ。


 「ねぇ、せっかくだから今日は休息日にしない?」


 ジェーンの提案に全員が賛同してその日は全員が自由に行動することになった。


 「ねぇ二人とも一緒に回ろう!」


 ジェーンが誘ったのはキャロルとメイディスだった。


 「良いわよ」


 「私で良ければ」


 キャロルもメイディスはジェーンに誘われてそのまま市場に向かった。

 彼女達を見送る男四人は顔を見合わせた。


 「俺達はどうする?」


 グレアムがシンゴ達に聞くが直ぐに返答はない。

 そこへ黒い毛並みでガタイの良い狼獣人の男が声を掛けてきた。


 「おい!お前はローディーじゃないか!」


 「お前は…あぁ、ダランじゃないか!久しぶりじゃないか!こんなところでどうしたんだ?」


 「俺は前からここを中心に冒険者をやっているんだ!お前の噂は良く聞いたが全然会うことがなくてなぁ!」


 「そうか!ここであったのもせっかくだ!今から飲もうぜ!」


 「俺はいいが、お前の仲間はどうするんだ?」


 ダランに聞かれたがシンゴは即答した。


 「ローディー、せっかくだから羽を伸ばして良いぞ。」


 「悪いな、まぁ俺達には羽はないがな!」


 「ばーか、そういうことじゃねーだろう!ダハハハ!」


 ダランがローディーの背中を叩きながら彼らは何処かの飲み屋へ向かった。


 「あの人に知り合いがいたんですね。」


 呆気に取られたエディックにグレアムは突っ込んだ。


 「流石に居るだろう、お隣の国からここで仕事をする人は少なくないだろうし。」


 そこへ更に人が話しかけてきた。


 「ねぇあなたは噂のエディックって人かしら?」


 シンゴ達が振り返ると何人かの冒険者のパーティーの先頭にいるエルフの女性が話しかけてきた。


 「えっと、そうですが。」


 「やっぱり!私はエルフのリューフェンよ、王都を中心に冒険者をやっているんだけど、以前からあなたの噂を聞いていたら是非とも会ってみたくてね!」


 「僕はハーフエルフですが……。」


 「私はそんなこと気にしないわよ!気にするのは外に出たことがない堅物な年寄だけよ!せっかくだから時間をいただけないかしら?」


 エディックはシンゴ達に向き直り


 「えっと。」


 と言葉を続ける前にシンゴが口を開いた。


 「別にいいんじゃないか?せっかくの機会だし今日は自由行動だからな。」


 「だけど引き抜かれるようなことにはなるなよ?うちの大事な射手様がいないと俺達は困るぜ。」


 「それは勿論、せっかくなので彼女の誘いに乗りますね。」


 「やった!嬉しいわ!さっそく行きましょう!」


 リューフェンの喜びように彼女の仲間達は微笑ましく見ておりその内の壮年の男性がシンゴ達の前に出てきた。


 「うちのリューフェンが申し訳ないことをしたな。」


 「いや、話すだけなら。今日はうちのパーティーは休息日だから大丈夫だ。それにエディックにとっては良い縁だと。」


 「そうか、助かる。オタクらの大事な仲間には手を出さないから安心してくれ。」


 リューフェンはエディックの手を引っ張って何処かへ行き、彼女の仲間達も後を追った。


 「俺達二人になったな。」


 「そうだな。」


 「シンゴ、防具屋でも見に行かないか?」


 「ああ、構わんぞ。」


 人混みへ紛れるように男二人で王都の防具屋へ向かった。

 幾つかある防具屋を回った中、グレアムは店の奥に飾ってあるグレードの高い盾を見て悩んでいた。

 それらの盾はどれも大小だけでなく表や裏の装飾を含めたデザインが異なっている。


 「そろそろ新調したいんだがなぁ。」


 「いいんじゃないか?命を預ける大事なパートナーだからな。」


 「分かってるじゃないか!ただどれも良さそうなのがな……。」


 「悩んでいるなら俺は別の場所へ行くぞ?」


 「すまないな、そうしてくれ。暫く時間が掛かりそうだ。」


 悩むグレアムを置いてシンゴは一人防具屋を後にした。


 「何処へ行こうか……。」


 それから冒険者御用達の店を幾つか冷やかしながら多くの露店が並ぶ市場へ足を運んだ。

 多くの人々が行きかう中、シンゴはゆっくりと歩きながら露店に並ぶ様々な物品を流し見ていた。

 その中であるアクセサリー店に目が留まった。

 他にも何人か立ち止まってその露店の商品を眺めていた。


 「おう、お客さん何か気になる物でもあったかい?」


 中年の男性が露店の店主らしく、にこやかにシンゴへ話しかけてきた。


 「ちょっと気になって、これとか。」


 麻布を敷いた台座に広げてある数々のアクセサリーの中でシンゴが気に掛けたのは赤と青が半分ずつ彩られたハート形のガラス細工に銀で囲い糸を通したネックレスだった。


 「これですかい、並べといてなんですが職人曰く真ん中が中途半端に入り混じって納得いかなかったって品だそうで。俺はこれでも十分凄いと思って並べているんですがね、お客さんも同じように良い物と感じているなら並べて良かったと思うけど自分用に買うのかい?」


 「いや、渡したい人がいて。その人に似合いそうだなって。」


 「そうかい、恋人にあげるんだな!ガラス細工や銀は高いがお客さんの素直な気持ちに免じてこれくらいにまけるがどうだい?」


 店主に提示された金額にシンゴは手持ちの金銭を確認してから頷いた。


 「買おう。」


 「毎度あり!」


 シンゴは硬貨を払ってから赤と青のハート形のネックレスを受け取った。


 「お客さんの恋が続くといいな。」


 「俺もそう願うばかりだ。」


 笑顔で見送った店主の元から去ったシンゴは購入したネックレスを懐に仕舞うと再び人込みに紛れ込んで歩き出した。


 ムンドラ王国には人間以外にも多くの獣人達もいて傍から見てもその光景に飽きることがないかもしれない。

 そんな雑踏を歩くシンゴだったが不意に背後からシンゴに向けた声が聞こえた。


 「待ってください!」


 シンゴが纏っていたローブを掴む女性の手。

 ゆっくり振り返ったシンゴはその女性を見た。


 「平本君、だよね?」


 その女性はセミロングの黒髪でシンゴに近い民族の顔つきだった。

 彼女はシンゴよりも背は低いが見た目の年齢は近い。

 慌てて走って来たのか息も荒い。


 「誰だ?」


 シンゴは今までの記憶を出そうとするがその女性を思い出せなかった。


 「え、えっと……。」


 シンゴの言葉に戸惑う女性は言い淀みつつ答えた。


 「私は…中園利香、あなたと同じ異世界から召喚されたクラスメイト。」


 真っ直ぐに見つめる中園利香の瞳にシンゴは引っ掛かるものがあった。


 「異世界…あぁ、あんたがサンデル王国が擁する異世界の勇者様か。」


 「平本君、あなたは」


 中園利香の背後に新しい人物達が駆けつけてきた。

 近野樹梨と船戸玄だ。

 二人とも中園利香の目の前にいる人物に驚いた。


 「平本……なのか……?」


 「なんか雰囲気が違う…?」


 そんな二人の反応を他所にシンゴは中園利香にローブの裾を放すように言った。


 「そこの二人も異世界の勇者様か?」


 「平本、お前は何を言っているんだ?」


 船戸玄が困惑しながら訊いた。


 「俺は…お前達の名前や異世界から来たことは知識として思い出せた。だけど俺の中にお前達や異世界の思い出はない…つまり赤の他人だな。」


 飄々と言うシンゴに三人は唖然とした。


 「えっと、あなたは平本慎吾だけど記憶喪失をしているってこと?」


 中園利香が絞り出した言葉にシンゴは否定した。


 「記憶喪失じゃないな、俺は生まれて今日までの思い出はちゃんと覚えている。だけどそれはここでの生活だけだ。それに俺はシンゴ・ヒラモトとして歩んでいる。この体の出自はどうであれ俺は異世界の勇者として生きることはない。俺をサンデル王国へ引き込もうなんて考えないでくれよ?逆に俺がお前達をこの国へ勧誘しようか?」


 シンゴの言葉に三人は唖然としたまま。


 「冗談だ、そんなことを公にしたら国の問題になるからな。まぁ俺がそっちの国へ行くことも問題になるが。とにかく俺はお前達が知っている人間じゃないし俺もお前達を知らない、用件はそれだけか?」


 本当に他人事の様に言ったその様に近野樹梨の表情は険しくなった。


 「あんたねぇ!?」


 中園利香は前に出ようとした近野樹梨を制止して口にした。


 「私達は…あなたを…探しに来たの…。あなたの行方を知りたくて、あなたが生きていることを信じて……。」


 それでも中園利香は辛うじて口にした。


 「理由を口にしてくれたのは良いが、さっきと返答は変わらない。俺から話せることは何もない、じゃあな。」


 これで話は終わりだ、と言わんばかりにシンゴは彼らに背中を見せて雑踏に紛れ込んだ。

 取り残された三人がどのように感じているのか、シンゴには分からないが知りたいと思っていなかった。

 そしてシンゴが市場を通り抜けるとある飲食店へ入店しようとするジェーン達を見かけた。


 「あ、シンゴ!」


 気づいたジェーンが元気よくシンゴを手招きした。


 「今からお茶でもするのか?」


 「うん!シンゴも一緒にどう?」


 「それならあなた達二人でゆっくりしなさいよ。」


 「そうですね、私達は別の場所に行きます。」


 キャロルとメイディスが気を聞かして別の場所へ向かった。


 「悪いな、三人の時間を邪魔して。」


 「ううん、大丈夫だよ。それよりもせっかくだから一緒に入ろ?」


 「ああ。」


 シンゴはジェーンに手を引かれながら入店した。

 懐に仕舞ったネックレスを意識しながら。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

不定期更新ですが時間のある時に読んでいただけると幸いです。

明日以降も順次投稿する予定です。

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